異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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ダークエルフの帰還

カルンの街と昼市

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 行きは四人乗りだったのに対して今度は二人乗りだったため、来た時よりもカルンの街への移動時間は短く感じた。
 俺は馬車に揺られながらこの時間を有効活用すべくメニューを考えていた。

 買い出しで手に入る材料が確定していないこともあり、自分の知っている肉料理がいくつか候補になっていた。
 ヒイラギの保管庫にある食材は和食を作るには十分なのだが、洋食を作るとなると限られたものしかない。
 そのためメインとなる肉さえ手に入れば、あとは応用が利くような料理にするつもりだ。

 リリアが街外れに馬車を停めて、二人で市街地への道を歩き始めた。
 そこまで寒さを感じないため、二人とも上着は客車の中に置いてきた。
 カルンの街に滞在したり、酒場で情報収集したりしたものの、それ以外のことは知らないことが多い。
 二人とも出身がここから遠く離れているので、分からないことばかりである。

「買い出しの行き先は決まっているのでしょうか」

 リリアが自然な様子で切り出した。
 彼女の吐く息は白く、気温がそう高くはないことを実感する。

「実は目星がついているわけではなくて、散策しながら探すつもりです」

 調理場で彼らの食事が用意されていたので、こちらが急いで用意する必要はないと考えていた。
 いくらか歩み寄りが見られたとはいえ、街で何が売っているか詳しく教えてもらうほど打ち解けたとは言えない。
 それに保管庫にあった食材のほとんどはサクラギから持ちこまれたと思われるものが大半だった。
 それを踏まえるとヒイラギにいる人たちはカルンで買い出しをしていると考えにくかった。

「私自身、ラーニャ殿のことで頭がいっぱいでしたから。あまりお役に立てず申し訳ありません」

「いえいえ、そんな御者をしてもらっただけで十分ですよ」

 リリアがまじめぶりを発揮したので、咄嗟にフォローした。
 誠実なところは素晴らしいのだが、必要以上に責任感を発揮することがある。

「あははっ、マルク殿は優しいですね」 

「いや、リリアの方が親切で人柄もいいと思います」

「前方に見えるのは市場でしょうか」

「たしかに市場だ。あそこなら使えそうなものが見つかるかも」

 二人でそんなやりとりを続けていると、リリアが正面に向けて指先を伸ばした。
 その動きに釣られるように視線を向ける。
 寒空の下で露店のようなものがいくつか出店していた。
 今朝までにこの辺りを通ることはなかったので、こんなふうになっているとは知らなかった。

「使えそうなものがないか、ちょっと覗いてみます」

「承知しました。行ってみましょう」

 リリアの同意を受けつつ、市場の方へと向かう。
 ここ数日の中では寒さがマシとはいえ、地元のバラムと比べたら十分に寒い。
 手足の指先にひんやりとした空気を感じる。
 そうはいっても、周辺にはそれなりに人の行き来がある。
 地元の人たちは寒さを気にする様子はなく、買いものを楽しんでいる。

「エスタンブルク有数の街とは知ってますけど、わりとにぎわってますね」

「こうして人々の活気を見ていると王都のことを思い出します」

 俺たちは露店の活気を目にしながら、口々に感想をを言った。
 リリアはあまり外に出すことはなかったものの、ランス王国の王都を思い返している様子だった。
 今回の旅を始めてしばらく経つので、そんな気持ちになるのも分からなくはない。
 俺自身ラーニャのことが最優先と考えているだけで、店のことが気になることがある。

「……やっぱり、肉料理だよな」

「どうされましたか?」

「いえいえ、ただの独り言です」

 自分の店のことを思い返して、肉を使うことへの意識が高まったわけだが……。
 あえて説明するほどでもないと思った。
 リリアは一介の兵士であり、料理を生業にしているわけではない。  

 二人で歩いていると、青果店、服飾店、パンなどの食品店などがあった。
 もちろん精肉店が目当てなわけだが、リリアが楽しそうなので街歩きを楽しむようなかたちになっている。
 モモカを必要以上に待たせるつもりはなく、市場を散策するぐらいのゆとりは持ちたいと思った。
 美味い料理を作るのに焦りや差し迫った状態はよろしくない。

「さすがに雪が多い時期なので、野菜や果物は種類が限られるか」

「あまり料理は詳しくないのですが、ヒイラギの保管庫は充実しているのでしょうか?」

「日持ちするようなものが中心だったので、鮮度が重視されるようなものは少なかったです。ネギとジャガイモ、あとはニンジン辺りを備蓄してました」

 リリアはこちらの答えを聞いて、何度か頷いた。
 彼女なりに理解しようとする姿勢に好感が持てる。

「調理場を見た感じでは栄養が偏っているわけではなさそうですし、いっそのこと塊肉のステーキなんかもありかなと思ったり」

 何の気なしのつぶやきだったが、リリアが目を輝かせている。

「素晴らしい。それは美味しそうです」

「ステーキはいいですよね。俺も好きな料理の一つなんです」
 
 容姿端麗な美女でありながら、隠れ食いしん坊の彼女にも肉料理を振る舞った方がよいだろうか。
 そんなやりとりを続けるうちに精肉店が数軒並ぶところに出た。
 エスタンブルクへの旅の途中で肉を吟味するような場面はなかったが、こうして肉を売る店がいくつもあると高揚感が湧き上がってくる。


 あとがき
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