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ダークエルフの帰還

リリアの気遣い

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 ダイモンが先導するかたちで調理場を離れた。
 さらに奥の方へ進んでいくと室内を抜けて渡り廊下のようなところを通過する。
 その先に大きな民家のような建物があった。
 
「我々の食料の大半はここにある」

 ダイモンは説明を加えて、入り口の扉を横に引いて中に入った。
 彼に続いてその中に入ると空気がひんやりとしていた。
 なかなかの寒さに思わず両腕をさすってしまう。

「がはは、この中は調理場と違って煮炊きせんからな」

「ご、ご心配なく。案内を続けてください」

 どこか楽しげなダイモンは保管庫の中を歩きながら口を開く。

「寒いのも悪いことばかりではなくて、害虫や害獣が出んのはいいことだ」

「サクラギは温暖な地域なので、色々と苦心しているようでしたね」

「この辺りは暖かくなっても知れたもの。ネズミどもを気にせんで済むのは気が楽だ」

 ダイモンはやれやれといった具合で両手をひらひらと仰いだ。
 ちなみに保管庫の中を歩いているのだが、食材についての細かい説明はほとんどない。
 彼が料理人ではなく戦闘担当である以上、それは仕方がないことだと思った。
 料理に明るい自分が内容を把握して、この後の買い出しに反映させれば問題ないだろう。

「――さて、こんなところか。おぬしの参考になりそうか?」

「はい、大丈夫です。俺の得意な肉料理を作ろうと思うので、足りなそうな食材はカルンの街で揃えるつもりです」

「ほほう、承知した。街までの移動は大丈夫か?」

 仲間と馬車で来たことを伝えると、ダイモンは納得した様子で頷いた。
 こちらの料理の腕前をその目で確かめたわけではないのだが、彼は尊重してくれるような態度だった。
 おそらく、料理云々というよりもミズキやアカネと面識があることが信用につながっているのだと推測した。
 調理場と保管庫の確認を終えて、二人でモモカの居室へと引き返した。

「戻ってきたわね」

「お待たせしました。これから食材を調達するためにカルンの街へ行くつもりです」

「そういえば、あなたたちはどうやって来たの?」

 先ほどダイモンにしたばかりの話をモモカにもした。
 複雑な説明ではないので、そこまで苦になるようなことでもない。

「ええそれで、俺は馬車の扱いは慣れていないので、リリアかクリストフさんのどちらかに御者をお願いしたいです」

 俺がそう投げかけると二人は互いに顔を見合わせた。
 わずかに間があった後、リリアが率先するように立ち上がる。

「クリストフが担うことが多かったので、私が街までご一緒します」

「助かります。早速、出発してもいいですか?」

「はい、参りましょう」

 リリアは小脇に抱えていた上着を羽織り、出入り口の近くにいるこちらへと歩いてきた。
 俺はラーニャとクリストフに声をかけてから、リリアと二人で部屋を後にした。
 やがて玄関に至りブーツを履きかけたところで、後方に人の気配を感じた。

「マルク殿、少しよろしいか」

 気配の正体はダイモンだった。
 話しにくいことなのか声を潜めている。

「何かありました?」

 この状況を不思議に思いながら問いかけた。
 
「ミズキ様に負けず劣らず、モモカ様も舌が肥えてらっしゃる。おそらく不手際はないと思うが、念のため伝えておく」 

「まあ、こちらの料理を食べたことがないわけですし、全幅の信頼を置くというのも難しいと思います」

 俺の返事を聞いて安心したのか、ダイモンは表情を緩めた。
 彼は穏やかな様子で言葉を並べる。

「それと我々が用意しておいた方がいいものはあるか?」

「さっきの調理が済んだら、かまどは使いたいです。火が使えないことにはどうにもならないので」

「調理場の兵士たちには拙者から伝えておく。買い出しから戻ってくる頃には空いているはずだ」

「では、行ってきます」

 リリアと俺はダイモンに見送られるかたちで玄関を出た。
 エスタンブルクに来てから寒い日が続いているが、今は昼に近い時間帯で太陽の位置が高くなっている。 
 そのため比較的寒さが緩まったように感じた。

「私の記憶が確かならば、焼肉をやるのに専用の設備がいるようですが、ヒイラギの調理場にそのようなものがあるのでしょうか?」

 リリアが気遣うような声で言った。
 少しでも知識があれば、こんなところにそんな設備があるのかとなるだろう。
 彼女の気持ちに感謝しつつ応じる。

「それなら大丈夫です。最初から焼肉は計算に入れたなかったので、あえて肉料理と答えました。どうやら専業の料理人がいないようで、料理のレパートリーが一辺倒になることが問題みたいで」 

「なるほどそうであれば、彼らが口にしたことのない料理を作ればいいということですね」

「まさにその通りです」

 リリアは腕の立つ兵士だが、脳筋というわけではなく聡明なところがある。
 おまけに外見も整っているため、才色兼備とはこのことだと思う。
 リリアに感心しながら歩いていると馬車の近くに到着した。
 幌の部分にわずかな積雪が見られるが、馬の状態を含めて出発できそうだった。

「御者はお任せください」

「いつもすみません。お願いします」

 リリアはイヤそうな顔を微塵も見せず、御者台に乗りこんだ。
 それと同じタイミングで客車に上がる。
 椅子に腰を下ろして少しすると馬車がゆっくりと動き出した。
 俺は窓の外に目を向けつつ、おぼろげに考えている料理のことを整理した。


 あとがき
 いつも読んで頂き、ありがとうございます。
 引き続き更新を続けていきますので、今後も楽しんで頂けたら幸いです。
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