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ダークエルフの帰還
アカネの妹が現れる
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兵士が戻るのを待つ間、そこまで寒くないのは幸いだった。
標高が多少低くなったとはいえ、この辺りでも日によっては風雪が強まることもあるらしい。
バラムに比べると日中でも日差しは控えめで寒冷地にいることを実感させられる。
待つように言われた以上立ち去るわけにもいかず、そのまま待機していると先ほどの兵士が一人の女性を伴って戻ってきた。
遠目に見えるその姿にどこか見覚えがある気がした。
「ひとまず、追い払われる可能性は低そうだ」
クリストフは控えめな声でよしっと言った。
剣を抜けるように準備していたようで、兵士長だけあって隙がない。
彼は腰の辺りに伸ばしていた手を正面にスライドさせるように移動させた。
俺も同じように門前払いになることも考えていた。
ヒイラギの人たちがサクラギに縁があるとはいえ、見知らぬ俺たちを無警戒に受け入れるはずがないだろう。
状況次第では複数の兵士を連れてきて、警告される可能性も考えていた。
「おぬしたち、ここがサクラギの領地と知ってやってきたのか?」
兵士に伴われてやってきた女性は開口一番、戸惑いがちな様子で質問を投げかけた。
少し面倒くさそうにも見えて、こんなところに何をしにきたのだと言いたそうにも見えた。
糾弾されることも考えていたため、そこまでの剣幕ではないことに安堵を覚える。
「はい、それはもちろん。実はお願いがあって来ました」
「……ふむ、お願いとは?」
女性は腕組みをして、困ったような表情を見せた。
そこでふと、彼女の顔に見覚えがあることが間違いではないと確信した。
寒冷地で厚着になっていて気づかなかったが、ミズキの従者で吸血忍者に憧れているアカネに似ているのだ。
「力を貸してほしいことがありまして……ところで、あなたはアカネさんの親戚ですか?」
俺がそう尋ねた瞬間、女性は驚いたように目を何度か瞬きした。
どこか力を感じさせるような眼差しからもアカネに似た気配が感じられた。
「おぬしたちの風貌はサクラギとつながりがないように見えるが、姉上と会ったことがあるのか?」
「ああ、俺だけ会ったことがあります。あと、ゼントク様の娘のミズキさんとも面識があります」
「何、それはまことか?」
「頼みごとがあるというのに、つまらない嘘で信用を損ねるような真似はしません」
無礼にならないようにと思いつつ苦笑交じりで応じた。
それにしても、「姉上」ということはこの女性はアカネの妹ということになる。
立ち振る舞いや顔つきがどことなく似ているため、二人が姉妹だとしても納得できると思った。
「名乗るのが遅くなりましたけど、ランス王国からやってきたマルクといいます」
「私はアンズ。姉上とは年の近い姉妹だ。姉上はミズキ様の護衛を任されているが、ヒイラギの領主であるモモカ様の護衛をしている」
「なるほど、モモカ様……」
名前の雰囲気からして女性のような印象を受ける。
援軍を頼むためにはモモカと接触しなければならないようだ。
まずは彼女に会わせてもらうことを優先すべきだろう。
「先ほどおぬしは親戚がどうとか話していたが、親戚同士なのはモモカ様とミズキ様だ」
アンズと話している途中で、ちょいちょいとラーニャが手招きするのが見えた。
何か用事だろうかと思い、アンズに一礼して中座する。
「どうしました?」
「立ち話を切り上げて、モモカとやらに会いに行くぞ」
ラーニャはじれったいと言わんばかりの様子だった。
カルンの街で情報を手に入れたこともあって表情には出さないものの、彼女が急くのも当然のことだと思った。
「分かりました。アンズさんに頼んでみます」
「よろしく頼む」
ぶっきらぼうなラーニャなりの誠意を感じた。
洞窟での隠遁生活を終えてから、時間の経過と共に態度が軟化している。
少しずつでも信頼関係が築けていればよいのだが。
「我らの本拠地で密談とは度胸がある」
「いやいや、そんな後ろめたい内容じゃありません」
俺は戸惑いながら苦笑いを浮かべた。
アンズは鷹揚としたところがあり、自信に満ち溢れているところもアカネに似ている。
もっとも、アカネはもう少し奥ゆかしいところがあったので、姉妹で年齢も違えば性格も異なるのだろう。
「このような辺境の領主だからといって、モモカ様はお暇というわけではない。私が用件を先に聞いておこう」
「実はこの人の故郷で人さらいがありまして、それに関わったならず者たちの拠点を攻略するために援軍が必要なんです」
俺がそう言った後、アンズは何かを考えるように少しの間をおいた。
彼女が何を考えているかは分からず、積極的あるいは消極的どちらなのかも分からなかった。
「……まさかおぬしたち、ヒイラギに間者を放っているのか?」
「間者? いやいや、そんな」
「ふむまあ間者がいれば、誰かしら気づいているか。ちょうど兵士の一部がおぬしの言うところのならず者たちの拠点を監視している」
「えっ、本当ですか?」
アンズの言葉に驚きを隠せなかった。
これはラーニャにとって朗報になることは間違いない。
「ここより離れた土地にならず者たちの拠点がある。我らにとっても捨て置けぬ連中でな。人さらいがあったとしてもおかしくはない」
アンズは合点がいったという様子で、モモカのところに案内すると告げた。
俺たちはアンズと護衛の兵士に連れられて、領内の土地を歩き始めた。
標高が多少低くなったとはいえ、この辺りでも日によっては風雪が強まることもあるらしい。
バラムに比べると日中でも日差しは控えめで寒冷地にいることを実感させられる。
待つように言われた以上立ち去るわけにもいかず、そのまま待機していると先ほどの兵士が一人の女性を伴って戻ってきた。
遠目に見えるその姿にどこか見覚えがある気がした。
「ひとまず、追い払われる可能性は低そうだ」
クリストフは控えめな声でよしっと言った。
剣を抜けるように準備していたようで、兵士長だけあって隙がない。
彼は腰の辺りに伸ばしていた手を正面にスライドさせるように移動させた。
俺も同じように門前払いになることも考えていた。
ヒイラギの人たちがサクラギに縁があるとはいえ、見知らぬ俺たちを無警戒に受け入れるはずがないだろう。
状況次第では複数の兵士を連れてきて、警告される可能性も考えていた。
「おぬしたち、ここがサクラギの領地と知ってやってきたのか?」
兵士に伴われてやってきた女性は開口一番、戸惑いがちな様子で質問を投げかけた。
少し面倒くさそうにも見えて、こんなところに何をしにきたのだと言いたそうにも見えた。
糾弾されることも考えていたため、そこまでの剣幕ではないことに安堵を覚える。
「はい、それはもちろん。実はお願いがあって来ました」
「……ふむ、お願いとは?」
女性は腕組みをして、困ったような表情を見せた。
そこでふと、彼女の顔に見覚えがあることが間違いではないと確信した。
寒冷地で厚着になっていて気づかなかったが、ミズキの従者で吸血忍者に憧れているアカネに似ているのだ。
「力を貸してほしいことがありまして……ところで、あなたはアカネさんの親戚ですか?」
俺がそう尋ねた瞬間、女性は驚いたように目を何度か瞬きした。
どこか力を感じさせるような眼差しからもアカネに似た気配が感じられた。
「おぬしたちの風貌はサクラギとつながりがないように見えるが、姉上と会ったことがあるのか?」
「ああ、俺だけ会ったことがあります。あと、ゼントク様の娘のミズキさんとも面識があります」
「何、それはまことか?」
「頼みごとがあるというのに、つまらない嘘で信用を損ねるような真似はしません」
無礼にならないようにと思いつつ苦笑交じりで応じた。
それにしても、「姉上」ということはこの女性はアカネの妹ということになる。
立ち振る舞いや顔つきがどことなく似ているため、二人が姉妹だとしても納得できると思った。
「名乗るのが遅くなりましたけど、ランス王国からやってきたマルクといいます」
「私はアンズ。姉上とは年の近い姉妹だ。姉上はミズキ様の護衛を任されているが、ヒイラギの領主であるモモカ様の護衛をしている」
「なるほど、モモカ様……」
名前の雰囲気からして女性のような印象を受ける。
援軍を頼むためにはモモカと接触しなければならないようだ。
まずは彼女に会わせてもらうことを優先すべきだろう。
「先ほどおぬしは親戚がどうとか話していたが、親戚同士なのはモモカ様とミズキ様だ」
アンズと話している途中で、ちょいちょいとラーニャが手招きするのが見えた。
何か用事だろうかと思い、アンズに一礼して中座する。
「どうしました?」
「立ち話を切り上げて、モモカとやらに会いに行くぞ」
ラーニャはじれったいと言わんばかりの様子だった。
カルンの街で情報を手に入れたこともあって表情には出さないものの、彼女が急くのも当然のことだと思った。
「分かりました。アンズさんに頼んでみます」
「よろしく頼む」
ぶっきらぼうなラーニャなりの誠意を感じた。
洞窟での隠遁生活を終えてから、時間の経過と共に態度が軟化している。
少しずつでも信頼関係が築けていればよいのだが。
「我らの本拠地で密談とは度胸がある」
「いやいや、そんな後ろめたい内容じゃありません」
俺は戸惑いながら苦笑いを浮かべた。
アンズは鷹揚としたところがあり、自信に満ち溢れているところもアカネに似ている。
もっとも、アカネはもう少し奥ゆかしいところがあったので、姉妹で年齢も違えば性格も異なるのだろう。
「このような辺境の領主だからといって、モモカ様はお暇というわけではない。私が用件を先に聞いておこう」
「実はこの人の故郷で人さらいがありまして、それに関わったならず者たちの拠点を攻略するために援軍が必要なんです」
俺がそう言った後、アンズは何かを考えるように少しの間をおいた。
彼女が何を考えているかは分からず、積極的あるいは消極的どちらなのかも分からなかった。
「……まさかおぬしたち、ヒイラギに間者を放っているのか?」
「間者? いやいや、そんな」
「ふむまあ間者がいれば、誰かしら気づいているか。ちょうど兵士の一部がおぬしの言うところのならず者たちの拠点を監視している」
「えっ、本当ですか?」
アンズの言葉に驚きを隠せなかった。
これはラーニャにとって朗報になることは間違いない。
「ここより離れた土地にならず者たちの拠点がある。我らにとっても捨て置けぬ連中でな。人さらいがあったとしてもおかしくはない」
アンズは合点がいったという様子で、モモカのところに案内すると告げた。
俺たちはアンズと護衛の兵士に連れられて、領内の土地を歩き始めた。
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