異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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ダークエルフの帰還

すんなりと解決

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 ペンションの敷地で立ったまま仲間たちの到着を待つ。
 ほどよい陽気で温かいこともあり、全身にうっすらと汗が浮かんでいる。
 身体にはボルボラの強壮作用が残っている感じがして、まだまだ走れそうな勢いが残っていた。
 それに先ほどまでの高揚感に加えて、運動後のすっきりした感じもある。

 来た道に視線を向けていると、リリアたちがペンションに戻ってきた。
 ここまで走った時に自分の感覚よりも速かったようで、彼らが到着するまで想定よりも時間がかかった。

 少しずつ近づく仲間を見ていると、身体に違和感を覚えた。
 それに気づいた直後、ボルボラの強壮作用が弱まっていることに気づいた。
 体感の変化を伝えるべく、ラーニャに声をかける。
 すでに目と鼻の先の距離だった。

「効果が薄れた気がするんですけど、こんな短時間でなくなるものですか?」

「ボルボラの強壮作用を得たい場合、本来は花粉だけでなく花弁などを混ぜて加工したものを使う。花粉を吸っただけでは効果は限定的と言われている」

「そうなんですか? その口ぶりだとラーニャさんは吸ったことないんですね」

「近くに生えていれば匂いがするからな。ダークエルフの里では周知されていて、うっかり踏みつけるものなど皆無だ」

 ラーニャに悪意はなさそうと思いつつ、不注意で踏んづけた身としては耳が痛い。
 今回は何かのきっかけで生えてしまったようだが、ダークエルフの里周辺では普段から生えているらしい。
 あらかじめ知識を得ていなければ、散歩するのも危ないような気がした。

「この辺に生えたのは偶然ですかね?」

「運搬者自身が花粉を吸う可能性もあり、運ぶのに難儀するものだ。ダークエルフの里周辺でも自生したものしか存在しない。ペンションの店主には私から注意点を共有しておく。あらかじめ知っていれば、そこまで恐れる必要はない」

 彼女がダークエルフであることと、はっきりした物言いで説得力がある。
 ボルボラの件はラーニャに任せておけば問題なさそうだ。 

 転生前に興味を持った分野ではないため記憶が曖昧だが、種子が靴や衣服に付着したまま移動してしまい、別のところへ移植されるケースがあった気がする。
 強風の影響も可能性としてはあると思うし、その一方で誰かが意図せずに運んでしまったことも考えられる。
 科学的な調査ができない以上、全てが想像の範疇を出ることはない。

 それから俺たちは解決したことをマリオに伝えるため、外の敷地からペンションの中に入っていった。

 四人でロビーを進んでいくと、マリオが掃除をしているところだった。
 彼は下を向いて掃き掃除をしていたが、こちらに気づいて顔を上げた。
 心なしか結果の報告を期待するような様子が窺えた。

「皆さん、お戻りで。ツヌーク山の様子はいかがでした?」

 マリオはねぎらうように言った。
 形式的に依頼人であったとしても、彼にとって宿泊客であることは変わりない。
 彼のホスピタリティに感謝しつつ、結果を伝えるために話し始める。

「原因は分かったんですけど、ちょっと特殊な事情で……ラーニャさんに説明してもらいます」

 俺がラーニャに話を振ると、彼女は一歩前に出た。
 そして、一連の騒動の原因と見解を述べた。
 ツヌーク山に生えたことの仮説はいくつか考えられるものの、十分な根拠がない情報はマリオを惑わせてしまうため、自分の口を閉じておいた。

「――こういうわけだ。この花の花粉が起こした幻覚がきっかけと見て間違いない」

「自分も山に入ることはあるけど、そんな花は初めて見ました」

 ラーニャの話を聞いて、マリオは驚いた様子だった。
 彼女が摘んできた花に興味深げな視線を向けている。
 
「これは元冒険者としての感想ですけど、騒動が収まったことが広まるまで、解決から時間差があることがあります。旅人や行商人同士の口伝いの情報が信憑性が持たれる反面、どうしても行き渡るまで時間が必要ですから」

 マリオをがっかりさせるつもりはなかったが、ぬか喜びさせたくなかった。
 市街地ならともかく、ここのように人里離れた山間部では広報の役割を担うものは存在しない。
 ネットもスマートフォンもなければ、いわゆる口コミが情報源なのだ。

「ああそれなら、皆さんが調べに行った間に考えたんです。ずっと客足が戻らないのは困るけど、これを機にペンションの手入れをするのもありかなって」

「いや……そうですか」

 マリオの反応が予想外で驚いてしまった。
 ペンションのオーナーとして苦境に立たされていると思ったが、善処しようとする姿勢に感銘を受けた。

「そうだ。皆さん、食事にしませんか?」

「ちょうどいい。山歩きで空腹だったところだ」

「私も賛成です。マリオさんの料理は美味しいですから」

 ラーニャはいつものように上からな感じでリリアは朗らかな様子で申し出た。
 クリストフはそんな二人の様子を後ろで微笑ましそうに見ている。

「よかったら手伝いますよ」

「ツヌーク山から戻ったばかりで大丈夫ですか?」

「はい、元気があり余っているので」

 俺は冗談めかして言った。
 ボルボラの効果は薄れつつあるが、まだ残っている感覚がある。
 ただ待っているより、マリオの役に立つことで消化しようと思った。
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