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ダークエルフの帰還

ツヌーク山の謎

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 今回の騒動への見解が一致したところで、再びツヌーク山に向けて出発した。
 俺を含めた四人とも体力に余裕があるようで、足並みはしっかりとしている。
 人があまり立ち寄らなくなった影響が関係するのか、ネズミなどの小動物が顔を覗かせて、遠くの方にはシカの気配が感じられた。
 ゴブリンなどのモンスターはいないようで、マリオからもそういった話は聞かなかった。
 
 引き続き地図を元にして現在地に注意していると、ツヌーク山の麓に近づいた。
 ちょうど近くに看板が立っており、分岐点の先が山頂であることが分かる。 
 標高があまり高くないからなのか、登山口の先は緩やかな勾配が続いていた。

「山の麓に到着しましたけど、特に気になる点は見当たらないですね」

「たしかに至って普通の山って感じかな。登山客がいないのは噂が浸透しているってことだよ」

 クリストフと言葉を交わしながら、周囲の様子に注意を向ける。
 麓から山頂に向けて登山道が延びており、この辺りも自然が豊かだった。
 危険なモンスターという存在に結びつかない印象を受ける。

「どうします? とりあえず山頂を目指しますか?」

「それでいいと思います。見る限り脅威となりそうなものはありません」

「僕もマルクくんに賛成。まずは実際に確認しておこう」

 リリアとクリストフは同意を示してくれた。
 一方、ラーニャは難しそうな顔をしている。
 基本的な似たような表情でいることが多いのだが、ちょっとした違いが見極められるようになっていた。

「もしかして、何か気になることがありますか?」

「……いや、大したことではない。私も山頂に行こう」

 ラーニャは何かを気にかけている様子だが、無理に聞き出すわけにはいかない。
 四人の意見が一致したので、ひとまず山頂まで行って調べるところから始めよう。

 麓から続く登山道は緩やかな傾斜になっている。
 とはいえ、平坦な遊歩道よりも歩くのに体力が必要だろう。
 この辺りの気温は低めのため、暑さに困ることはないはずだ。
 頭上に木々が覆いかぶさり、日陰になることで涼しく感じる。
 
 時折、小鳥の鳴き声や聞いたことのない虫の音が届いて、豊かな自然を満喫するような心地になる。
 やはり、危険なモンスターが出るというのは誤った情報が広まっただけで、実はそんなものは存在しないというのが事実なのではないか。
 楽観的な考えかもしれないが、その可能性が妥当な気がしてきた。

 ラーニャはどこか違和感を抱かせる表情だが、リリアとクリストフは元気な様子で歩いている。
 王都で暮らす二人にとって、緑が豊かな環境はリフレッシュできるのだろう。
 異変が見当たらないとはいえ気を緩めるわけにもいかず、周囲を警戒しながら歩を進めた。

 やがて道の先に山頂が見えた。
 途中までは緩やかな勾配だったが、その手前には傾斜がついていた。
 手を借りなければいけないほどではなく、順番に上がることで山頂に到着した。

「ここは見晴らしがいいなあ」

 澄んだ青空と大きく開けた視界に広がる緑。
 素晴らしい景色に思わず声が出ていた。

 いくらか標高が高いため、周りを見下ろすかたちになっていた。
 遠くにはさらに大きな山がそびえて、下方には森林が広がっている。
 これだけ眺めがいい場所ならば、デュラスの人たちから人気があってもおかしくないように思われた。

 引き続きラーニャは難しい顔をしており、リリアとクリストフは心の洗濯をしているようなすっきりした顔つきだった。
 俺も鼻から空気を吸いこんで、ぐっと両腕を上げて背伸びをした。

 今のところ、マリオが懸念していることが掴めたわけではない。
 ここまで何もないと手がかりが見つからない気さえしてきた。
 ランス王国ならともかく、ここの土地勘がないことも大きいだろう。 
 気分転換が目的ではないため、山頂付近を調べてから下山することにした。

「結局、何も見つからなかったね」

 山頂を離れるところで、クリストフが声をかけてきた。
 兵士長として責任感があるからなのか、手がかりがないことを残念がっている。
 当然ながら彼ほどの男ならば、気分転換は二次的なものだと考えているはずだ。  

「冒険者として考えるなら何もない時も報告して、次にできることを考えます。マリオさんはお客が戻ることを望んでいるので、できる限りのことで協力するのも大事じゃないですか」

「その通りだね。兵士の僕に何ができるか分からないけれど、もう少し考えてみるよ」

 クリストフはさわやかな受け答えをした。
 どんな時でも感じがいいところは尊敬に値する。

 会話が途切れたところで移動を再開する。
 山頂に広がる平らな場所から下りの傾斜に近づいたところで、唐突に突き刺すような寒さを感じた。

「……あれ、何が起きたんだ?」

 段差があるところを下りるのに、何かに注意が逸れていては危険が伴う。
 俺は足を止めて状況を観察した。
 するとそこで、信じられない光景が目に入った。

 ついさっきまで抜けるような晴天が広がっていたのに、急激に空が曇って吹雪が舞い始めた。
 吹きつける風は強く、傾斜の下に落ちないように山頂側に引き返した。
 ここまでの寒さは予想していなかったため、今着ている衣服では雪と寒さをしのげそうにない。

「クリストフさん? ……誰かいませんか?」

 ほんの少しの前に会話をしていた相手がどこにも見当たらない。
 彼だけでなく、リリアやラーニャの姿も見失った。

「……これはまずいな」

 吹雪で視界が悪く、山頂を離れることもままならない。
 そんな状況で孤立してしまったようだ。
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