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ダークエルフの帰還

調理開始

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 荷車いっぱいにドラゴン肉を積んだところで、一部の村人たちやリリアたちと一緒に来た道を引き返す。
 この後も回収作業をするため、作業を続ける人は戻らずに残るとのことだ。
 現場に残っているドラゴンの残骸は多く、数回の往復が必要な量だった。

 帰り道は緩やかな下りになるため、荷物を積んだ状態で移動するには好都合な傾斜だと思った。
 リリアとクリストフが荷車近くにおり、ラーニャは後ろの方を歩いている。
 俺の周りには村人が数人いる状態だった。
 
「お兄さん、ドラゴンの肉が食べたことがあるなんて、若いのに通だねえ」

 村人のおばさんが話しかけてきた。
 お世辞ではなく、本当に感心しているようだった。
 バラムを含めたランス王国の辺境はだいたい同じ感じなのだが、純朴な人が多いことに好感を持っている。

「ドワーフの行商人から分けてもらったんですよ。味は鳥肉みたいでした」

「はあ、鳥肉ねえ。その辺の野草を入れたら臭み消しになるかも」

 おばさんは道端の草を選びながら、何個か抜いた。
 俺にはどれが適しているのか分からず、なかなかの知恵だと思った。

「いやー、それにしても助かったわ。ホワイトプラムが採れんくなったら、ホントに一大事だよ」

 おばさんは野草をひとしきり摘んだ後、しみじみとした様子で言った。
 こうして面と向かって感謝を伝えられるのはこそばゆい感じがする。

「どういたしまして」

「あたしらはおっかなくて、グレイエイプによう近づけんかったわ」

「俺も怖くないわけじゃないですよ。冒険者だったことがあるので平気なだけです」 

「理由がどうだってすごいことだよ。あんたが息子だったら自慢しちゃうわ」

「ははっ、照れちゃいます」

 初めて訪れる村での交流はいいものだと思った。
 村長のジョエルも腰が低い人でよい印象を持っている。 
 復路は下り坂だったこともあり、少ない負荷で移動することができた。
 それなりに緊迫する状況だったため、こうして村に戻ってこられるとホッとするような気持ちになる。

「皆さん、お疲れ様でした」

 ジョエルがリリアとクリストフを引きつれて寄ってきた。
 ラーニャも近くにいるため、四人集まった状態になっている。

「激しい戦いで汚れや汗を流して頂きたいと思っております。すぐに蒸し風呂の支度をしますので、少々お待ちください」

「おおっ、これはありがたい。レッドドラゴンを解体した汚れもあるからね」

「蒸し風呂に入れるなんてうれしいです」

 兵士二人はずいぶんとうれしそうにしている。
 彼らはレッドドラゴン解体の立役者のため、汗を流したいのも当然のことだと思う。
 ちなみにラーニャは我関せずといった感じで表情を変えずに立っている。

 ランス王国では温泉が湧く地域では入浴が一般的で、その他の地域でも湯船に入る習慣がある。
 それ以外の入浴方法として、蒸し風呂も一般的だった。
 日本に存在するサウナのように高温なわけではなく――そもそもこの世界の文化水準的に無理で――蒸気を浴びて汗をかいて、その後に全身を洗い流すというものである。
 ちなみにバラムでは水資源が潤沢で住宅設備も整っているため、湯船に入る方が一般的だった。

「ここからは調理になるので、二人は蒸し風呂に入ってきてください」

「それじゃあお言葉に甘えて」

「マルク殿、ドラゴンをどう料理するか楽しみにしています」

「ははっ、俺もどうなるか分かりませんけど。とりあえず任せてもらって」

 ちょうどそこへジョエルが戻ってきて、リリアとクリストフは蒸し風呂に行くために案内された。
 一方、ラーニャはその場に立ったままでいる。

「どうしました? 蒸し風呂に行ってもらってもいいですけど」

「調理に立ち会わせてもらう。どんな味になるか気になるからな」

「まずは村の人たちと一緒に回収してきた分を運びましょうか」 

 村人たちは荷車からドラゴンの肉を運び出して、広場の一角に集めていた。
 肉屋の卸商みたいな光景だが、全てレッドドラゴンというのは奇妙な光景だ。

 荷車一杯にあったためそれなりの量があったものの、協力しながら作業したら短い時間で移すことができた。
 第二便のために荷車は先ほどの場所へと戻っていった。
 
 広場には大きな焼き台が運びこまれて、これから祭りを始めるような雰囲気になっているように感じた。
 即席の調理台も用意されて、村人の一人から料理の仕方を教えてほしいと頼まれた。

「普段は肉料理の店をやってるんですけど、とりあえずやってみますね」

 すでにブロック大に分解されているため、火の通りを計算しつつ切り分けていく。
 筋肉質で刃が通りにくいものの、よく研いだ包丁のおかげでどうにか切れそうだ。
 釣りたての魚は筋が張っていると聞くが、ドラゴンの肉はその比ではない。

「これで切り分けができました。塩や調味料を借りられますか?」

「そろそろかと思いまして、こちらにご用意しました」
 
「おおっ、ありがとうございます」

 村人たちは協力的ですでに用意が整っていた。
 調味料の中にはおばさんが摘んだ野草を細かくしたものもある。
 ここは焼肉屋の店主として腕を振るう時なのではと思い、俄然やる気が出てくるのだった。
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