418 / 473
ダークエルフの帰還
調理開始
しおりを挟む
荷車いっぱいにドラゴン肉を積んだところで、一部の村人たちやリリアたちと一緒に来た道を引き返す。
この後も回収作業をするため、作業を続ける人は戻らずに残るとのことだ。
現場に残っているドラゴンの残骸は多く、数回の往復が必要な量だった。
帰り道は緩やかな下りになるため、荷物を積んだ状態で移動するには好都合な傾斜だと思った。
リリアとクリストフが荷車近くにおり、ラーニャは後ろの方を歩いている。
俺の周りには村人が数人いる状態だった。
「お兄さん、ドラゴンの肉が食べたことがあるなんて、若いのに通だねえ」
村人のおばさんが話しかけてきた。
お世辞ではなく、本当に感心しているようだった。
バラムを含めたランス王国の辺境はだいたい同じ感じなのだが、純朴な人が多いことに好感を持っている。
「ドワーフの行商人から分けてもらったんですよ。味は鳥肉みたいでした」
「はあ、鳥肉ねえ。その辺の野草を入れたら臭み消しになるかも」
おばさんは道端の草を選びながら、何個か抜いた。
俺にはどれが適しているのか分からず、なかなかの知恵だと思った。
「いやー、それにしても助かったわ。ホワイトプラムが採れんくなったら、ホントに一大事だよ」
おばさんは野草をひとしきり摘んだ後、しみじみとした様子で言った。
こうして面と向かって感謝を伝えられるのはこそばゆい感じがする。
「どういたしまして」
「あたしらはおっかなくて、グレイエイプによう近づけんかったわ」
「俺も怖くないわけじゃないですよ。冒険者だったことがあるので平気なだけです」
「理由がどうだってすごいことだよ。あんたが息子だったら自慢しちゃうわ」
「ははっ、照れちゃいます」
初めて訪れる村での交流はいいものだと思った。
村長のジョエルも腰が低い人でよい印象を持っている。
復路は下り坂だったこともあり、少ない負荷で移動することができた。
それなりに緊迫する状況だったため、こうして村に戻ってこられるとホッとするような気持ちになる。
「皆さん、お疲れ様でした」
ジョエルがリリアとクリストフを引きつれて寄ってきた。
ラーニャも近くにいるため、四人集まった状態になっている。
「激しい戦いで汚れや汗を流して頂きたいと思っております。すぐに蒸し風呂の支度をしますので、少々お待ちください」
「おおっ、これはありがたい。レッドドラゴンを解体した汚れもあるからね」
「蒸し風呂に入れるなんてうれしいです」
兵士二人はずいぶんとうれしそうにしている。
彼らはレッドドラゴン解体の立役者のため、汗を流したいのも当然のことだと思う。
ちなみにラーニャは我関せずといった感じで表情を変えずに立っている。
ランス王国では温泉が湧く地域では入浴が一般的で、その他の地域でも湯船に入る習慣がある。
それ以外の入浴方法として、蒸し風呂も一般的だった。
日本に存在するサウナのように高温なわけではなく――そもそもこの世界の文化水準的に無理で――蒸気を浴びて汗をかいて、その後に全身を洗い流すというものである。
ちなみにバラムでは水資源が潤沢で住宅設備も整っているため、湯船に入る方が一般的だった。
「ここからは調理になるので、二人は蒸し風呂に入ってきてください」
「それじゃあお言葉に甘えて」
「マルク殿、ドラゴンをどう料理するか楽しみにしています」
「ははっ、俺もどうなるか分かりませんけど。とりあえず任せてもらって」
ちょうどそこへジョエルが戻ってきて、リリアとクリストフは蒸し風呂に行くために案内された。
一方、ラーニャはその場に立ったままでいる。
「どうしました? 蒸し風呂に行ってもらってもいいですけど」
「調理に立ち会わせてもらう。どんな味になるか気になるからな」
「まずは村の人たちと一緒に回収してきた分を運びましょうか」
村人たちは荷車からドラゴンの肉を運び出して、広場の一角に集めていた。
肉屋の卸商みたいな光景だが、全てレッドドラゴンというのは奇妙な光景だ。
荷車一杯にあったためそれなりの量があったものの、協力しながら作業したら短い時間で移すことができた。
第二便のために荷車は先ほどの場所へと戻っていった。
広場には大きな焼き台が運びこまれて、これから祭りを始めるような雰囲気になっているように感じた。
即席の調理台も用意されて、村人の一人から料理の仕方を教えてほしいと頼まれた。
「普段は肉料理の店をやってるんですけど、とりあえずやってみますね」
すでにブロック大に分解されているため、火の通りを計算しつつ切り分けていく。
筋肉質で刃が通りにくいものの、よく研いだ包丁のおかげでどうにか切れそうだ。
釣りたての魚は筋が張っていると聞くが、ドラゴンの肉はその比ではない。
「これで切り分けができました。塩や調味料を借りられますか?」
「そろそろかと思いまして、こちらにご用意しました」
「おおっ、ありがとうございます」
村人たちは協力的ですでに用意が整っていた。
調味料の中にはおばさんが摘んだ野草を細かくしたものもある。
ここは焼肉屋の店主として腕を振るう時なのではと思い、俄然やる気が出てくるのだった。
この後も回収作業をするため、作業を続ける人は戻らずに残るとのことだ。
現場に残っているドラゴンの残骸は多く、数回の往復が必要な量だった。
帰り道は緩やかな下りになるため、荷物を積んだ状態で移動するには好都合な傾斜だと思った。
リリアとクリストフが荷車近くにおり、ラーニャは後ろの方を歩いている。
俺の周りには村人が数人いる状態だった。
「お兄さん、ドラゴンの肉が食べたことがあるなんて、若いのに通だねえ」
村人のおばさんが話しかけてきた。
お世辞ではなく、本当に感心しているようだった。
バラムを含めたランス王国の辺境はだいたい同じ感じなのだが、純朴な人が多いことに好感を持っている。
「ドワーフの行商人から分けてもらったんですよ。味は鳥肉みたいでした」
「はあ、鳥肉ねえ。その辺の野草を入れたら臭み消しになるかも」
おばさんは道端の草を選びながら、何個か抜いた。
俺にはどれが適しているのか分からず、なかなかの知恵だと思った。
「いやー、それにしても助かったわ。ホワイトプラムが採れんくなったら、ホントに一大事だよ」
おばさんは野草をひとしきり摘んだ後、しみじみとした様子で言った。
こうして面と向かって感謝を伝えられるのはこそばゆい感じがする。
「どういたしまして」
「あたしらはおっかなくて、グレイエイプによう近づけんかったわ」
「俺も怖くないわけじゃないですよ。冒険者だったことがあるので平気なだけです」
「理由がどうだってすごいことだよ。あんたが息子だったら自慢しちゃうわ」
「ははっ、照れちゃいます」
初めて訪れる村での交流はいいものだと思った。
村長のジョエルも腰が低い人でよい印象を持っている。
復路は下り坂だったこともあり、少ない負荷で移動することができた。
それなりに緊迫する状況だったため、こうして村に戻ってこられるとホッとするような気持ちになる。
「皆さん、お疲れ様でした」
ジョエルがリリアとクリストフを引きつれて寄ってきた。
ラーニャも近くにいるため、四人集まった状態になっている。
「激しい戦いで汚れや汗を流して頂きたいと思っております。すぐに蒸し風呂の支度をしますので、少々お待ちください」
「おおっ、これはありがたい。レッドドラゴンを解体した汚れもあるからね」
「蒸し風呂に入れるなんてうれしいです」
兵士二人はずいぶんとうれしそうにしている。
彼らはレッドドラゴン解体の立役者のため、汗を流したいのも当然のことだと思う。
ちなみにラーニャは我関せずといった感じで表情を変えずに立っている。
ランス王国では温泉が湧く地域では入浴が一般的で、その他の地域でも湯船に入る習慣がある。
それ以外の入浴方法として、蒸し風呂も一般的だった。
日本に存在するサウナのように高温なわけではなく――そもそもこの世界の文化水準的に無理で――蒸気を浴びて汗をかいて、その後に全身を洗い流すというものである。
ちなみにバラムでは水資源が潤沢で住宅設備も整っているため、湯船に入る方が一般的だった。
「ここからは調理になるので、二人は蒸し風呂に入ってきてください」
「それじゃあお言葉に甘えて」
「マルク殿、ドラゴンをどう料理するか楽しみにしています」
「ははっ、俺もどうなるか分かりませんけど。とりあえず任せてもらって」
ちょうどそこへジョエルが戻ってきて、リリアとクリストフは蒸し風呂に行くために案内された。
一方、ラーニャはその場に立ったままでいる。
「どうしました? 蒸し風呂に行ってもらってもいいですけど」
「調理に立ち会わせてもらう。どんな味になるか気になるからな」
「まずは村の人たちと一緒に回収してきた分を運びましょうか」
村人たちは荷車からドラゴンの肉を運び出して、広場の一角に集めていた。
肉屋の卸商みたいな光景だが、全てレッドドラゴンというのは奇妙な光景だ。
荷車一杯にあったためそれなりの量があったものの、協力しながら作業したら短い時間で移すことができた。
第二便のために荷車は先ほどの場所へと戻っていった。
広場には大きな焼き台が運びこまれて、これから祭りを始めるような雰囲気になっているように感じた。
即席の調理台も用意されて、村人の一人から料理の仕方を教えてほしいと頼まれた。
「普段は肉料理の店をやってるんですけど、とりあえずやってみますね」
すでにブロック大に分解されているため、火の通りを計算しつつ切り分けていく。
筋肉質で刃が通りにくいものの、よく研いだ包丁のおかげでどうにか切れそうだ。
釣りたての魚は筋が張っていると聞くが、ドラゴンの肉はその比ではない。
「これで切り分けができました。塩や調味料を借りられますか?」
「そろそろかと思いまして、こちらにご用意しました」
「おおっ、ありがとうございます」
村人たちは協力的ですでに用意が整っていた。
調味料の中にはおばさんが摘んだ野草を細かくしたものもある。
ここは焼肉屋の店主として腕を振るう時なのではと思い、俄然やる気が出てくるのだった。
35
お気に入りに追加
3,383
あなたにおすすめの小説

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?


うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる