異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
上 下
393 / 473
ベナード商会と新たな遺構

希少素材の採取

しおりを挟む
 ルカから受け取ったルミナイトを眺めていると、彼がまだ面白いものがあると呼びかけた。
 再び案内されるままに洞窟の中を歩く。

「今度は何ですか?」

「ひひっ、これでですんで」

 ルカは立ち止まり、足元を指先で示した。
 洞窟の中だというのに、草が生えていることに驚く。

「その名もヒーリンググラス。傷口に当てておくと回復が早まるって代物なんでさ」

「初めて聞きました。そんな植物があるんですね」

「あっしもこれが初めてなもんで。解毒剤を用意して、小さな切り傷で試したら、ホントに効果があったんすわ」

 転生前の知識がある俺は魔法を学ぶ中で回復魔法が存在しないか調べたことがある。
 書物によっては存在を否定していたり、ある書物では幻の秘術のように書かれていたり。
 この目で実際に見ることができたのは、カタリナの師匠に当たる男が使った時だけだった。

「どうして、こんなところに群生してるんだろう」

「誰も来ないことで、採取されずに残ったんでしょうや。ヒーリンググラスを知る層が見つけていたら、ここにはなかったはずなもんで」

「なるほど」

 治癒促進の植物となれば、引く手あまたの商材である。
 しかし、まとめて採ればなくなるのも早い。
 売るよりも自分たちで使う方が賢明だろう。

「目新しいものはこんなもんでさ。あとは入り口周辺のエリアを歩いて戻りましょうや」

「はい、分かりました」

 ルカは移動を再開して、ガイドのように先導してくれている。
 彼に続いて洞窟の中を歩いていった。

 遺構と思われる部分は全体ではなく、入り口から途中まで残っている状態だった。
 少し離れた位置にも残骸が残り、本来はどれぐらいの規模だったか正確に把握するのは難しいと思われた。

「この辺はまだ問題なさそうなんすが、奥の方はモンスターの痕跡があるんで、装備が万端な時に行きやしょう」

「そういえば、この宮殿みたいなところはそういう気配がないですね」

「ここがモンスター侵入を防ぐ神殿だったかもしれないと考える仲間もいやすね。相当な年月が経過していて、ランス王国の歴史家でもないと荷が重いってのが正直なところっすわ」

 ルカはフランクな口ぶりだが、言葉の中身はまじめなものだった。
 この宮殿のような遺構は謎が多いということだろう。

「皆さんはしっかりキャンプを設営されてますし、これは長丁場になりそうですね」

「社長の力の入れようがハンパないんすわ。ベナード商会からすれば宝の山みたいなもんでさ」

 ルカに案内してもらいながら、手前の辺りを中心に歩かせてもらった。
 大まかに見ただけでは、古めかしい宮殿が良好な保存状態で残っていることが分かるのみだが、冒険心をくすぐられるような場所だった。

 二人で洞窟を出て、ルカにヘルメットを返した。
 外はまだまだ明るい時間で、視界に日光が差しこむとまばゆさを感じた。

「お疲れっした」

「いえいえ、こちらこそありがとうございました」

 ルカは自分がかぶっていたヘルメットを外して、指先でくるくると回し始めた。
 ひょうきんな性格で少しお調子者のように見える節がある。

「この後はキャラバン全体のミーティングなんすわ。マルクさんもよかったら、同席してみては?」

「いいんですか? ぜひお願いします」

 先ほどの探索では触りの部分しか体験できていないので、今後について共有しておきたいことがたくさんある。
 ベナード商会の人たちはもう少し先へも行っているみたいなので、彼らの話を聞いておきたかった。

 
 その後、ブラスコ専用のテントに関係者が集められた。
 彼のテントは他のテントに比べて広さがあり、会議をするのに適した空間が確保されている。
 当然ながら社長なので、待遇が他と違いがあってもおかしくはない。

「みんな、お疲れ様」

「「「お疲れ様です!」」」

 体育会系のノリであいさつを返すベナード商会の従業員たち。
 社長のブラスコが緩い感じなので、何とも不思議な感じがした。

「ルカやエンリちゃんはすでに面識があるんだけど、改めて紹介しておくよ。そちらは焼肉屋の店主のマルクくん」

「ど、どうも、はじめまして」

 ブラスコが俺を紹介すると、皆が拍手で迎えてくれた。
 何だか照れくさい気持ちになる。
  
「彼は元冒険者で魔法も使えるから、探索を同行させてあげるように」

「「「はい!」」」

 従業員たちは気合が入っている。
 自分の店の従業員が増えた時は社風とかノリを考えさせられる。
 やる気は素晴らしいのだが、男ばかりでこれだと暑苦しいのだ。

「マルクくんの紹介はこの辺にして。ルカから進捗を聞かせてもらおうか」

 ブラスコの口調が少し変化していた。
 さすがに会議ともなると真剣さが増すようだ。

「へい、あっしと先遣隊で踏破した範囲ではモンスターはいやせんでした。ただ、この遺構と洞窟は未知の部分が多いんで、これまで同様に非戦闘員は最小限にとどめることをおすすめしやす」

「はい、あんがと。素材はどうだった?」

「ルミナイト、ヒーリンググラス。それ以外に実用性のある鉱石がちらほらと。キャラバンに採掘の専門はいないんで、二次編成時はそれを踏まえた方がいいと進言しておきやす」

「よしよし、今のところは順調みたいだね。この後は明日の準備ができたら、自由時間にしていいよん」

 会議はそこで解散となり、ルカや従業員たちはテントを後にした。
 俺はそのまま残って、ブラスコと話すことにした。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...