異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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ベナード商会と新たな遺構

サクラギからの帰り道

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 フレヤたちとバラムへ戻るのならば、ミズキとアカネには伝えておかなければならない。
 さすがに急にいなくなれば、二人を驚かせてしまう。

「もう一つ伝えたいことがあって、こちらの二人とバラムへ戻ります」

「そっか、寂しくなるね。あたしはもうしばらくサクラギでやることがあるから」

「そうですか。またいつか会えるといいですね」

 ミズキは接しやすい性格で、アカネは頼りになる忍者だった。
 旅仲間との別れはいつでも切ないものだ。

「マルク殿、お元気で」

「アカネさんも。色々と助かりました」

 サクラギの二人と別れを済ませて、城内から外へと出た。
 他にやり残したことはなく、これからバラムへ向かうことになる。

「アデルとミズキさんはさっぱりしたお別れでしたね」

「何度かこんなことがあったから。それにまた会えるでしょう」

「たしかにそうですね。サクラギはまた来たいですし」

 和風の国は自分自身が日本からの転生者であることを思い出させてくれる。
 この土地が日本ではなくても、特別な場所であることは変わりない。

「婿殿、わしら親子は十分に散策したから、そろそろ竜車に乗るかい」

「はい、そうしましょう」

 四人で城下町を抜けて、町の外に向かった。
 普段は馬をつないでおく場所の近くに目を引く爬虫類もどきがいた。
 ブラスコが竜車と呼んだので、いわゆる地竜の一種なのだろうか。

「見た目に反して、おとなしいですね」

 しつけの行き届いた犬のように地面に伏して待機している。
 見た目は翼のないドラゴンといった感じなのだが。
  
「わしが小さい頃から育ててるから、しっかり懐いているよ」

 ブラスコは愛犬を撫でるように地竜の頭を撫でる。
 とても真似できないが、飼い主的には問題ないらしい。

「お父さん、すぐに出発できるよね」

「うんうん、婿殿とアデル様は後ろの座席に座って」

 俺とアデルは順番に客車へと乗りこんだ。
 大商会の社長がオーナーだけあって座り心地がいい。
 次にフレヤたちが前の席に腰を下ろすと、出番を察知したように地竜が起き上がった。

「お二人とも、馬車よりも早いから酔わないように気をつけてくださいまし」

 ブラスコは御者台に腰かけると、俺とアデルに呼びかけた。
 社長ということは理解しているものの、行商人のような面影もあるせいで御者姿がしっくりくる。

「はい」

「ちょっと緊張するわね」

 俺もアデルも馬車で酔うことはないが、初めての乗りものでドキドキする。
 彼女にしては珍しく、弱気な言葉が出ていた。 
   
「さあて、ランス王国まで出発よーん」

 独特なかけ声を出して、ブラスコが竜車を発進させた。
 出だしはゆっくりだったが、徐々に加速がついて体感速度が上がっていく。
 客車の性能が高いおかげで大丈夫なだけで、標準的な性能では揺れがダイレクトに伝わって乗れたものではないだろう。

「これは旅慣れてないと酔いそうですね」

「そばを食べてから時間が空いてよかったわ」

 フレヤ親子は平気そうだが、俺とアデルは必死に耐えるような状況だ。
 速度の面では申し分なく、地竜は人とぶつからないようにする知性もあるようで、街道の移動手段としては最強に近い。
 ランス王国で見かけたことがないのは、そもそも地竜自体がいないからだと思う。

 まだ城下町からほど近い距離のため、すれ違う通行人は多い。
 誰もが地竜を見たことがないようで、口をあんぐりと開けて見ていた。
 そんな光景が気に入ったのか、ブラスコは鼻歌交じりで手綱を握る。

 この調子ならランス王国領に入るまで、想像以上に短い時間で着くだろう。

 ランス王国から見た時、モルネア王国、次いでサクラギという順番になっている。
 そして、二国の間にはアンデッドがうようよする湿地があった。
 しばらくぶりですっかり忘れていたが、通るには水牛の加護が必要なのだ。

 すでにフレヤ親子はここを通ったはずなので、何かしらの対策を講じているはずなのだが。
 念のため湿地に入る前にブラスコに声をかけた。  

「ブラスコさん、湿地の辺りにアンデッドがいませんでした?」

「ちょっと薄気味悪いところだけど、それっぽいことはなかったよ」

「そうですか、それならいいです」

 必要以上に不安にさせても意味がない。
 様子を見て問題があれば進言することにした。

 やがて乾いた砂利道から湿った地面へと変化が始まった。
 さほど寒さを感じなかったのに、少しずつ寒気が強まっている。

「いやだもう、ここはあれじゃない」

 完全に忘れていたようで、アデルは思い出したように嘆いた。
 寒さに凍える人みたいに両腕を抱えている。

「ブラスコさんの話では大丈夫みたいですよ」

「何が大丈夫……って、今までよりもアンデッドの気配がしないわ」

 アデルが拍子抜けしたように言った。
 俺も彼女と同じような感想を抱いている。
 粘着質な存在感が薄らいでいる気がする。

「地竜だって竜の仲間だからねえ。アンデッドからしてみれば、とんでもない猛獣みたいに見えるんじゃないかなぁ」

 ブラスコは今の状況などお構いなしといった様子だった。 
 彼の自信を裏づけるように、どれだけ進んでも行く手を阻む存在は見えてこない。
 遠巻きに覗かれるような気配あれど、何かを目視することはなかった。
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