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ベナード商会と新たな遺構
フレヤ親子とミズキの邂逅
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フレヤとブラスコが団子を食べ終わった後、茶店を後にした。
二人とも団子が気に入ったようで満足そうな様子だった。
「せっかくサクラギまで来たのなら、少しは散策していきませんか?」
「うれしい提案。フレヤちゃんも寄ってみたいでしょ」
「いいんじゃないかな。遺構が急に消えてなくなるわけでもないから」
「では婿殿、寄り道してくからよろしくね」
ブラスコは喜びを表すように小さく飛び跳ねた。
砂原の広がる国で生活している人に、この国はどう映るのだろう。
そんなことを思いつつ、親子二人を案内することにした。
「ブラスコさんは大商人ですし、この国のお姫様に会うのはどうでしょう? 本当は当主に会えるのが理想的ですが、アポなしで会えるか分からないので」
「うんうん、いいね。ぜひ会ってみたいよ」
「じゃあ、まずはサクラギの城に向かいます」
四人で通りを歩いて城へと歩き出す。
アデルは目くじらを立てるような性格ではないので、不平を述べずについてきている。
何かあればすぐに言ってくれるので、何も言わない時は気を遣いすぎなくてもいいと分かるのは付き合いが長くなったおかげなのかもしれない。
フレヤとブラスコは道沿いの色んなものに興味を持ち、途中途中で立ち止まった。
時折、アデルの解説を交えながら、ガイドつきの町歩きのような感じで進む。
やがて城の前までたどり着くと、フレヤとブラスコは驚きを露わにした。
「この外壁と石垣はうちにほしいわー。難攻不落で盗賊を怖がらずに済みそう」
「いやいや、お父さん。うちの国にあんなに石材はないから、技師の人を連れていって、別のものを作ってもらう方がいいんじゃない?」
「そうだよねー。さすがはフレヤちゃん」
見た目が違いすぎて気づかなかったが、二人の話し方はどことなく似ている。
やはり親子といったところだろうか。
フレヤたちの気が済んだところで、城門から城内へと続く道を歩く。
見張りの兵士はいるものの、俺やアデルの顔を見てお辞儀をした。
「二人とも顔パスなの?」
「アデルは以前からお姫様と面識があって、俺も何度か出入りしているので」
「それはすごいね。サクラギのお姫様どんな人なのかな」
フレヤは期待に胸を膨らませているようだ。
とりあえず、城内にいるはずのミズキを探してみよう。
アカネと二人でキイチを連行していたはずなので、きっとどこかにいるだろう。
フレヤたちに城内を見学してもらいつつ、ミズキがいないか探し回った。
しばらくして、面識のある奉公人から彼女の居場所を聞くことができた。
城内の中庭の一角。
そこでミズキとアカネ、それに家臣と思われる数人が草むしりをしていた。
俺はミズキに近づいて声をかける。
「作業中にすみません。知り合いを紹介したいんですけど」
「ちょっと待って。この草の根っこがなかなか抜けなくて」
ミズキは細い腕に力をこめて、雑草を掴んでいる。
彼女がぐいっと引っ張ると勢いよく草が抜けた。
その拍子で地面の土が飛び出て、ミズキの服にかかる。
「姫様。失礼します」
近くにいたアカネが素早い動きで土を払った。
何だかんだでミズキはお姫様のようで、土がかかったことなどなかったかのように話を続ける。
「お待たせ。紹介したいのはあそこの人たち?」
「はい、そうです」
ミズキはゆっくりと立ち上がり、ズボンのような袴を手で払った。
草むしりのために着物ではなく、動きやそうな衣服を身につけている。
彼女が数歩進んだところで、ブラスコが軽やかな動きでやってきた。
「お初にお目にかかります。べナード商会のブラスコと申します」
「へえ、ブラスコさん」
ブラスコは手にした名刺をミズキに差し出た。
彼女はそれを受け取り、じっと眺めた。
「リブラには行ったことないけど、べナード商会の名前は聞いたことあるよ」
「何とありがたいお言葉。それでは、以後お見知りおきを」
ブラスコはほどほどなあいさつで身を引いて、こちらに引き継いだ。
「あと、彼女はうちの店を手伝ってくれているフレヤです」
ブラスコと入れ替えるようにフレヤが歩いてきた。
「お姫様、はじめまして」
「やだもう、ミズキって呼んでくれていいよ」
フレヤがこちらに顔を向けて、そんなフランクでいいのと視線を送った。
その合図に小さく頷いて返す。
「じゃあ、ミズキって呼ばせてもらいますね」
「よろしくね、フレヤ」
二人が笑顔で言葉を交わした後、フレヤはあいさつが済んだという感じでブラスコのところに戻った。
「そういえば、キイチはどうなりました?」
「投獄はやりすぎかもってことになって、城内で反省文を書かされてる。あたしもおしおきでやったことあるけど、あれがけっこうしんどいんだよね。これでキイチも義賊めいたことはやめるはずだよ」
天真爛漫なミズキを苦しめるほどのおしおきがいかなるものか気になったが、根掘り葉掘りたずねたらアカネが怖そうだ。
ひとまずフレヤたちを城に案内できたので、肩の荷が下りたような気がした。
あとがき
女性キャラの身長順
アカネ>アデルとミズキ>フレヤといった感じです
フレヤは背が低いわけでなく、平均的な背丈です。
ちなみにアカネは細身で長身の美形とあって、姫と間違われそうな雰囲気です。
ただ、愛想がいい方ではないので、少し話せばミズキとの主従関係が分かります。
二人とも団子が気に入ったようで満足そうな様子だった。
「せっかくサクラギまで来たのなら、少しは散策していきませんか?」
「うれしい提案。フレヤちゃんも寄ってみたいでしょ」
「いいんじゃないかな。遺構が急に消えてなくなるわけでもないから」
「では婿殿、寄り道してくからよろしくね」
ブラスコは喜びを表すように小さく飛び跳ねた。
砂原の広がる国で生活している人に、この国はどう映るのだろう。
そんなことを思いつつ、親子二人を案内することにした。
「ブラスコさんは大商人ですし、この国のお姫様に会うのはどうでしょう? 本当は当主に会えるのが理想的ですが、アポなしで会えるか分からないので」
「うんうん、いいね。ぜひ会ってみたいよ」
「じゃあ、まずはサクラギの城に向かいます」
四人で通りを歩いて城へと歩き出す。
アデルは目くじらを立てるような性格ではないので、不平を述べずについてきている。
何かあればすぐに言ってくれるので、何も言わない時は気を遣いすぎなくてもいいと分かるのは付き合いが長くなったおかげなのかもしれない。
フレヤとブラスコは道沿いの色んなものに興味を持ち、途中途中で立ち止まった。
時折、アデルの解説を交えながら、ガイドつきの町歩きのような感じで進む。
やがて城の前までたどり着くと、フレヤとブラスコは驚きを露わにした。
「この外壁と石垣はうちにほしいわー。難攻不落で盗賊を怖がらずに済みそう」
「いやいや、お父さん。うちの国にあんなに石材はないから、技師の人を連れていって、別のものを作ってもらう方がいいんじゃない?」
「そうだよねー。さすがはフレヤちゃん」
見た目が違いすぎて気づかなかったが、二人の話し方はどことなく似ている。
やはり親子といったところだろうか。
フレヤたちの気が済んだところで、城門から城内へと続く道を歩く。
見張りの兵士はいるものの、俺やアデルの顔を見てお辞儀をした。
「二人とも顔パスなの?」
「アデルは以前からお姫様と面識があって、俺も何度か出入りしているので」
「それはすごいね。サクラギのお姫様どんな人なのかな」
フレヤは期待に胸を膨らませているようだ。
とりあえず、城内にいるはずのミズキを探してみよう。
アカネと二人でキイチを連行していたはずなので、きっとどこかにいるだろう。
フレヤたちに城内を見学してもらいつつ、ミズキがいないか探し回った。
しばらくして、面識のある奉公人から彼女の居場所を聞くことができた。
城内の中庭の一角。
そこでミズキとアカネ、それに家臣と思われる数人が草むしりをしていた。
俺はミズキに近づいて声をかける。
「作業中にすみません。知り合いを紹介したいんですけど」
「ちょっと待って。この草の根っこがなかなか抜けなくて」
ミズキは細い腕に力をこめて、雑草を掴んでいる。
彼女がぐいっと引っ張ると勢いよく草が抜けた。
その拍子で地面の土が飛び出て、ミズキの服にかかる。
「姫様。失礼します」
近くにいたアカネが素早い動きで土を払った。
何だかんだでミズキはお姫様のようで、土がかかったことなどなかったかのように話を続ける。
「お待たせ。紹介したいのはあそこの人たち?」
「はい、そうです」
ミズキはゆっくりと立ち上がり、ズボンのような袴を手で払った。
草むしりのために着物ではなく、動きやそうな衣服を身につけている。
彼女が数歩進んだところで、ブラスコが軽やかな動きでやってきた。
「お初にお目にかかります。べナード商会のブラスコと申します」
「へえ、ブラスコさん」
ブラスコは手にした名刺をミズキに差し出た。
彼女はそれを受け取り、じっと眺めた。
「リブラには行ったことないけど、べナード商会の名前は聞いたことあるよ」
「何とありがたいお言葉。それでは、以後お見知りおきを」
ブラスコはほどほどなあいさつで身を引いて、こちらに引き継いだ。
「あと、彼女はうちの店を手伝ってくれているフレヤです」
ブラスコと入れ替えるようにフレヤが歩いてきた。
「お姫様、はじめまして」
「やだもう、ミズキって呼んでくれていいよ」
フレヤがこちらに顔を向けて、そんなフランクでいいのと視線を送った。
その合図に小さく頷いて返す。
「じゃあ、ミズキって呼ばせてもらいますね」
「よろしくね、フレヤ」
二人が笑顔で言葉を交わした後、フレヤはあいさつが済んだという感じでブラスコのところに戻った。
「そういえば、キイチはどうなりました?」
「投獄はやりすぎかもってことになって、城内で反省文を書かされてる。あたしもおしおきでやったことあるけど、あれがけっこうしんどいんだよね。これでキイチも義賊めいたことはやめるはずだよ」
天真爛漫なミズキを苦しめるほどのおしおきがいかなるものか気になったが、根掘り葉掘りたずねたらアカネが怖そうだ。
ひとまずフレヤたちを城に案内できたので、肩の荷が下りたような気がした。
あとがき
女性キャラの身長順
アカネ>アデルとミズキ>フレヤといった感じです
フレヤは背が低いわけでなく、平均的な背丈です。
ちなみにアカネは細身で長身の美形とあって、姫と間違われそうな雰囲気です。
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