異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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発展を遂げた国フェルトライン

レイランドを発つ日

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 昨晩は遅くまで同じ店ですごした後、ロミーの待つ拠点に戻った。
 彼女は街で起きた騒動を心配していたようだが、アカネたちならばやり遂げると信じていたと話した。

 すでに夜は明けており、移動のために水牛を取りに来たところだ。
 来た時と同じように牛車に乗って移動する。
 バラムに戻るまで時間はかかるが、徒歩ではないだけで気が楽になる。

 いつでも別れは寂しいものだが、ギュンターとロミー、それにアレクシスが見送りのために一緒にいる。
 牛車が用意できれば彼らとはお別れだ。
 バラムとの距離を考えれば、気軽に会うのは難しい。

「マルクさん、複雑な顔をしていますね。大丈夫ですか?」

「オレたちと離れるのが寂しいんだろう」

 気遣うようなロミーとは対照的に、ギュンターはからかうような言い方だった。
 彼の言葉は合っていて、それを見抜かれたことが少し恥ずかしい。

「当たりです。皆さんとすごした時間は大切ですから」

「殊勝なことを言ってくれるね。我々自警団は君たちを歓迎するから、いつでもレイランドにおいで。時にアカネさんをスカウトしたいんだが」

 今度はアレクシスが冗談めいた口調で話した。
 もちろんミズキは本気ではないと分かったようで、主(あるじ)として丁寧に断っていた。
 
「アレクシスさん、この街にギルドはないんですね?」

「実は昔は冒険者がいた頃もあったんだ。ただ、冒険者崩れが治安悪化を招くことのデメリットの方が大きくてね。デックス自身は冒険者ではないけれど、あの男の親分は元冒険者だった」

「すみません、そんな経緯があったなんて」

「いいよ、気にしなくて」

 ランス王国でそんな話を聞いたことはほとんどない。
 稀に冒険者がやらかすこともあるが、冒険者同士の規範意識が高いことで自浄作用が働く。
 レイランドほどの規模になれば、人数の多さから管理が行き届かないことになってもおかしくないのかもしれない。

 皆で談笑するうちにミズキの水牛が連れてこられた。
 状態は良好なようで、いつも通りのんびりした顔をしている。

「ありがとう。牛車もつけてくれたんだね」

「皆さんがデックスを捕縛したと聞きまして、これぐらいのことはさせて頂かないと」

 水牛を引いてきたのは街の人のようで、デックスの件の感謝を示している。
 牛車が取りつけられているため、すぐに乗りこむことができそうだ。

「ありがとうございました。レイランドは発展した街で得るものがたくさんありました」

「マルクさん、また来てくださいね」

 ロミーは別れの言葉と共にバスケットを手渡してくれた。  
 受け取ると重みを感じ、中に何が入っているか気になった。

「あの、これは?」

「サンドイッチです。よかったら、移動の時に召し上がってください」

「ありがたく頂きます」

 彼女は素朴な笑みを浮かべて、こちらに優しい眼差しを送った。

「じゃあなマルク。お互い料理人として腕を磨き続けようぜ」

「はい。ギュンターさんもお元気で」

 厳密には俺は料理人ではない気もするが、野暮なことは言わずに応じる。
 いかつい雰囲気のギュンターの目尻に涙が浮かんでいるように見えた。

「おっ、渡しそびれるところだった」

 俺が牛車へ乗りこもうとしたところで、アレクシスが慌ててこちらに駆け寄る。
 彼の手には複数の指輪のようなものが握られていた。
 
「これは自警団の証なんだ。デックスの件で協力してくれたことへのお礼だよ」

「ありがとうございます」

「故郷までは長旅になるんだろう。どうか気をつけて」

「はい、アレクシスさんもお元気で」

 俺は指輪を受け取ってから、牛車に乗りこんだ。
 
「マルク殿、出発してもよろしいか?」

「どうぞ、出してください」

 アカネの問いかけに答えると、ゆっくりと牛車が動きが出した。
 左右に取りつけられた窓を覗くと、見送りに来てくれた人たちが手を振っている。
 顔を合わせている時は平気だったが、じわりと涙が浮かんできた。
  
 やがて牛車はレイランドの街を出ると、来た道を戻るように進んだ。
 
 都市部を離れて田舎道に入ったところで、カールの店がある町に近づいた。
 彼はデックスほどではないものの、何らかの罰が下される可能性が高い。
 今はレイランドのどこかで捕らえられているらしい。

「そういえば、カールにはだまされそうでしたね」

 俺は御者台で手綱を握るアカネに話を振った。
 彼女は進行方向に目を向けたまま、こちらに応じる。

「拙者もまさかと思った。人のよさそうな奥方もいらしたのに」

「ギュンターの方がいかにもな感じでしたし、モリウッドさんは裏社会のドンというよりも、気のいい小柄なおじさんでしたから、見た目も当てにならないもんですね」

「ふむ、面白いものだ」

 アデルやミズキは会話が続くのだが、アカネとはそこまで続かない。
 無理に引き延ばすことはせず、牛車から見える景色に目を向ける。

 フェルトライン王国――それとレイランド――は発展していても、山を切り崩したり、森林を伐採したりはしていない。
 そのため、遠くの山々にはたくさんの木が生えていて、美しい風景を作っている。

 景色を眺めるうちに牛車は町を通過した。
 レイランドを出てからそこまで時間は経っておらず、牛車を停めるほどの用事もないためである。
 まだ、バラムへの帰郷は始まったばかりだ。
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