上 下
369 / 449
発展を遂げた国フェルトライン

思い出の写真

しおりを挟む
 アデルとミズキは店の前のベンチに腰かけており、俺とアカネは立っている状況だ。
 ギュンターは撮影の順番が回ってこないか気になるようで、店の中と外を行き来している。

「そろそろ、オレたちの順番みたいだ。中に入ってくれ」

 店の外観に周りの店と大きな違いはなかった。
 開いたままのドアを通過して、店の奥へと足を運ぶ。
 短い廊下を進んだ先に撮影するためのスペースがあった。

 アンティーク家具のような椅子とカメラと思われる大きな機械。
 部屋の雰囲気はレトロな日本という表現がしっくりくる。
 偶然の一致でなければ、この部屋を用意したのは日本からの転生者である可能性が高いように感じた。

「さあさあ、予約がいっぱいなんだ。そこに並んでくれ」

 部屋の様子を眺めていると、線の細い体系の青年が声を上げた。
 髪色はフェルトライン王国に多いオレンジ色。
 服装はサスペンダーのついたズボンと白シャツ、ハンチング帽といった具合だ。

「頼むぜトーマン。こいつらはデックスを捕まえた功労者なんだぞ。丁重にもてなしてくれよ」

「ボクには関係ない……と言いたいところだけど、悪名高いデックスがいなくなったのはいいことだよな、うん。それじゃあ君たち、そこの幕の前に並んで」

 カメラの傍らに佇む青年はトーマンという名前のようだ。
 ギュンターに諭されたことで、ぶっきらぼうな態度が少しマシになった。

 俺はカメラの側に近づいて、トーマンに声をかける。

「この機械すごいですね」

「君いいね、見る目があるじゃん! これはボクが発明して、レイランドの技術者と協力して作ったんだ」

 俺が記憶を活用して焼肉屋を始めたように、彼はカメラを作ったのだと推測した。
 それを指摘するのは野暮に思えたので、伝えようという気にはならなかった。
 日本から転生したのだとしても彼には彼の生活があるだろうし、レイランドで転生者であることが広まった時にどうなるか予想がつかないからだ。

 トーマンと二人で話している間に、アデルたちは立ち位置を決めていた。
 当然ながらポーズを取るという発想はないようで、とりあえず枠に収まっているという状態だった。

「はいはい、ギュンターさんも入りなよ」

「お前らいいのか、オレが入っても?」    
 
「いいんじゃないですか」

「どうぞどうぞ」

 俺とミズキに歓迎されて、ギュンターはおずおずと近づいてきた。
 彼が枠に入ったところで、トーマンはカメラを調整しながら立ち位置についての指示を出し始めた。

「ギュンターさんはデカいから、中腰になってもらえる?」

「そうだな。これでいいか?」

「はい、オッケー。みんな表情が固いよ。もう少し笑って」

 今、どんな顔になっているだろうかと思いつつ、できる限り表情を緩める。

「じゃあ、撮影します! サン、ニッ、イチ――」

 トーマンの合図の後、パシャリと音がした。
 フラッシュがたかれて光が瞬いて見えた。

「これから現像してくるから、外で待ってて」

 トーマンは慌ただしい動きで撮影場所を離れた。

「撮影してから写真ができるまで、少し時間がかかるらしいな」

 ギュンターはそう言って俺たちを外に出るように促した。
 入り口から店の前に出ると、数人の順番待ちの列があった。
 さっき座っていたベンチが埋まっており、全員が立った状態で待つことになった。

「街の人の間で、写真が流行ってるんですか?」
 
 行列とまではいかないものの、列が絶えないことが不思議だった。

「みんな目新しいものに目がないんだ。カフェや食堂も老舗は定番として長く続いているが、新しい店は移り変わりが早い。人気が出たと思ったら、いつの間にか閑古鳥が鳴くこともある」

「なかなか難しいですね。地元では考えられない」

 バラムにも色んな店があるが、閉店を目にする機会はほとんどなかった。
 基本的に入れ替わりは少なく、その分だけ新しい店が開く機会も少ない。
 それなりのクオリティがあれば客の入りはよく、俺が始めた焼肉屋であるとかパメラのアフタヌーンティーの店は繁盛している。

 バラムとレイランドの違いについて考えていると、店の中からトーマンが姿を現した。

「お待たせ。ばっちり撮れてる」

 トーマンの手には集合写真を現像したような大きな写真があった。
 完成品を見ようとアデルたちが集まる。

「あははっ、白黒だとあたしの髪とアデルの髪に違いがないね」

「ウソっ、私はこんな顔してたの」

「うーむ、何とも面妖な。技術の発展とは恐ろしい」

 写真を目にした彼らは三者三様の反応を見せている。
 ちなみにギュンターは写真を撮ったことがあるのか、あるいは俺たちに気遣っているのか。この輪からは距離を置いている。

 もちろん、転生前の経験を含めたら写真を撮ったことはあるのだが、「ランス王国のバラムに生まれたマルク」としては初めての写真撮影である。
 俺も近づいていって、出来栄えを確かめることにした。

「へえ、こんなふうに仕上がるんですね」

 鮮明とまではいかないものの、全員の姿がしっかりと写っている。
 ミズキは自然体でアデルは緊張気味、アカネはそもそも表情の変化が乏しい。
 ギュンターはカメラ慣れしているのか、肩の力が抜けているように見える。
 肝心の俺自身はというと……。

「私も微妙な感じだけれど、マルクもいまいちだから気にしないことにするわ」

「まあ、アデルの気が済むのならそれで」

 俺は曖昧に笑みを浮かべて、もう一度写真を眺める。
 この世界でこんなふうに写真が撮れるとは意外だったし、こういったかたちで思い出が残せるのはいいことだと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

【完結】『それ』って愛なのかしら?

月白ヤトヒコ
恋愛
「質問なのですが、お二人の言う『それ』って愛なのかしら?」  わたくしは、目の前で肩を寄せ合って寄り添う二人へと質問をする。 「な、なにを……そ、そんなことあなたに言われる筋合いは無い!」 「きっと彼女は、あなたに愛されなかった理由を聞きたいんですよ。最後ですから、答えてあげましょうよ」 「そ、そうなのか?」 「もちろんです! わたし達は愛し合っているから、こうなったんです!」  と、わたくしの目の前で宣うお花畑バカップル。  わたくしと彼との『婚約の約束』は、一応は政略でした。  わたくしより一つ年下の彼とは政略ではあれども……互いに恋情は持てなくても、穏やかな家庭を築いて行ければいい。そんな風に思っていたことも……あったがなっ!? 「申し訳ないが、あなたとの婚約を破棄したい」 「頼むっ、俺は彼女のことを愛してしまったんだ!」 「これが政略だというのは判っている! けど、俺は彼女という存在を知って、彼女に愛され、あなたとの愛情の無い結婚生活を送ることなんてもう考えられないんだ!」 「それに、彼女のお腹には俺の子がいる。だから、婚約を破棄してほしいんだ。頼む!」 「ご、ごめんなさい! わたしが彼を愛してしまったから!」  なんて茶番を繰り広げる憐れなバカップルに、わたくしは少しばかり現実を見せてあげることにした。 ※バカップル共に、冷や水どころかブリザードな現実を突き付けて、正論でぶん殴るスタイル。 ※一部、若年女性の妊娠出産についてのセンシティブな内容が含まれます。

シンデレラ。~あなたは、どの道を選びますか?~

月白ヤトヒコ
児童書・童話
シンデレラをゲームブック風にしてみました。 選択肢に拠って、ノーマルエンド、ハッピーエンド、バッドエンドに別れます。 また、選択肢と場面、エンディングに拠ってシンデレラの性格も変わります。 短い話なので、さほど複雑な選択肢ではないと思います。 読んでやってもいいと思った方はどうぞ~。

【完結】「妹の身代わりに殺戮の王子に嫁がされた王女。離宮の庭で妖精とじゃがいもを育ててたら、殿下の溺愛が始まりました」

まほりろ
恋愛
 国王の愛人の娘であるヒロインは、母親の死後、王宮内で放置されていた。  食事は一日に一回、カビたパンや腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。  しかしヒロインはそれでもなんとか暮らしていた。  ヒロインの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。  その妖精はヒロインに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。  ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたヒロインは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。 ※カクヨムにも投稿してます。カクヨム先行投稿。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」 ※2023年9月17日女性向けホットランキング1位まで上がりました。ありがとうございます。 ※2023年9月20日恋愛ジャンル1位まで上がりました。ありがとうございます。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

あなたが幸せになれるなら婚約破棄を受け入れます

神村結美
恋愛
貴族の子息令嬢が通うエスポワール学園の入学式。 アイリス・コルベール公爵令嬢は、前世の記憶を思い出した。 そして、前世で大好きだった乙女ゲーム『マ・シェリ〜運命の出逢い〜』に登場する悪役令嬢に転生している事に気付く。 エスポワール学園の生徒会長であり、ヴィクトール国第一王子であるジェラルド・アルベール・ヴィクトールはアイリスの婚約者であり、『マ・シェリ』でのメイン攻略対象。 ゲームのシナリオでは、一年後、ジェラルドが卒業する日の夜会にて、婚約破棄を言い渡され、ジェラルドが心惹かれたヒロインであるアンナ・バジュー男爵令嬢を虐めた罪で国外追放されるーーそんな未来は嫌だっ! でも、愛するジェラルド様の幸せのためなら……

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

処理中です...