369 / 465
発展を遂げた国フェルトライン
思い出の写真
しおりを挟む
アデルとミズキは店の前のベンチに腰かけており、俺とアカネは立っている状況だ。
ギュンターは撮影の順番が回ってこないか気になるようで、店の中と外を行き来している。
「そろそろ、オレたちの順番みたいだ。中に入ってくれ」
店の外観に周りの店と大きな違いはなかった。
開いたままのドアを通過して、店の奥へと足を運ぶ。
短い廊下を進んだ先に撮影するためのスペースがあった。
アンティーク家具のような椅子とカメラと思われる大きな機械。
部屋の雰囲気はレトロな日本という表現がしっくりくる。
偶然の一致でなければ、この部屋を用意したのは日本からの転生者である可能性が高いように感じた。
「さあさあ、予約がいっぱいなんだ。そこに並んでくれ」
部屋の様子を眺めていると、線の細い体系の青年が声を上げた。
髪色はフェルトライン王国に多いオレンジ色。
服装はサスペンダーのついたズボンと白シャツ、ハンチング帽といった具合だ。
「頼むぜトーマン。こいつらはデックスを捕まえた功労者なんだぞ。丁重にもてなしてくれよ」
「ボクには関係ない……と言いたいところだけど、悪名高いデックスがいなくなったのはいいことだよな、うん。それじゃあ君たち、そこの幕の前に並んで」
カメラの傍らに佇む青年はトーマンという名前のようだ。
ギュンターに諭されたことで、ぶっきらぼうな態度が少しマシになった。
俺はカメラの側に近づいて、トーマンに声をかける。
「この機械すごいですね」
「君いいね、見る目があるじゃん! これはボクが発明して、レイランドの技術者と協力して作ったんだ」
俺が記憶を活用して焼肉屋を始めたように、彼はカメラを作ったのだと推測した。
それを指摘するのは野暮に思えたので、伝えようという気にはならなかった。
日本から転生したのだとしても彼には彼の生活があるだろうし、レイランドで転生者であることが広まった時にどうなるか予想がつかないからだ。
トーマンと二人で話している間に、アデルたちは立ち位置を決めていた。
当然ながらポーズを取るという発想はないようで、とりあえず枠に収まっているという状態だった。
「はいはい、ギュンターさんも入りなよ」
「お前らいいのか、オレが入っても?」
「いいんじゃないですか」
「どうぞどうぞ」
俺とミズキに歓迎されて、ギュンターはおずおずと近づいてきた。
彼が枠に入ったところで、トーマンはカメラを調整しながら立ち位置についての指示を出し始めた。
「ギュンターさんはデカいから、中腰になってもらえる?」
「そうだな。これでいいか?」
「はい、オッケー。みんな表情が固いよ。もう少し笑って」
今、どんな顔になっているだろうかと思いつつ、できる限り表情を緩める。
「じゃあ、撮影します! サン、ニッ、イチ――」
トーマンの合図の後、パシャリと音がした。
フラッシュがたかれて光が瞬いて見えた。
「これから現像してくるから、外で待ってて」
トーマンは慌ただしい動きで撮影場所を離れた。
「撮影してから写真ができるまで、少し時間がかかるらしいな」
ギュンターはそう言って俺たちを外に出るように促した。
入り口から店の前に出ると、数人の順番待ちの列があった。
さっき座っていたベンチが埋まっており、全員が立った状態で待つことになった。
「街の人の間で、写真が流行ってるんですか?」
行列とまではいかないものの、列が絶えないことが不思議だった。
「みんな目新しいものに目がないんだ。カフェや食堂も老舗は定番として長く続いているが、新しい店は移り変わりが早い。人気が出たと思ったら、いつの間にか閑古鳥が鳴くこともある」
「なかなか難しいですね。地元では考えられない」
バラムにも色んな店があるが、閉店を目にする機会はほとんどなかった。
基本的に入れ替わりは少なく、その分だけ新しい店が開く機会も少ない。
それなりのクオリティがあれば客の入りはよく、俺が始めた焼肉屋であるとかパメラのアフタヌーンティーの店は繁盛している。
バラムとレイランドの違いについて考えていると、店の中からトーマンが姿を現した。
「お待たせ。ばっちり撮れてる」
トーマンの手には集合写真を現像したような大きな写真があった。
完成品を見ようとアデルたちが集まる。
「あははっ、白黒だとあたしの髪とアデルの髪に違いがないね」
「ウソっ、私はこんな顔してたの」
「うーむ、何とも面妖な。技術の発展とは恐ろしい」
写真を目にした彼らは三者三様の反応を見せている。
ちなみにギュンターは写真を撮ったことがあるのか、あるいは俺たちに気遣っているのか。この輪からは距離を置いている。
もちろん、転生前の経験を含めたら写真を撮ったことはあるのだが、「ランス王国のバラムに生まれたマルク」としては初めての写真撮影である。
俺も近づいていって、出来栄えを確かめることにした。
「へえ、こんなふうに仕上がるんですね」
鮮明とまではいかないものの、全員の姿がしっかりと写っている。
ミズキは自然体でアデルは緊張気味、アカネはそもそも表情の変化が乏しい。
ギュンターはカメラ慣れしているのか、肩の力が抜けているように見える。
肝心の俺自身はというと……。
「私も微妙な感じだけれど、マルクもいまいちだから気にしないことにするわ」
「まあ、アデルの気が済むのならそれで」
俺は曖昧に笑みを浮かべて、もう一度写真を眺める。
この世界でこんなふうに写真が撮れるとは意外だったし、こういったかたちで思い出が残せるのはいいことだと思った。
ギュンターは撮影の順番が回ってこないか気になるようで、店の中と外を行き来している。
「そろそろ、オレたちの順番みたいだ。中に入ってくれ」
店の外観に周りの店と大きな違いはなかった。
開いたままのドアを通過して、店の奥へと足を運ぶ。
短い廊下を進んだ先に撮影するためのスペースがあった。
アンティーク家具のような椅子とカメラと思われる大きな機械。
部屋の雰囲気はレトロな日本という表現がしっくりくる。
偶然の一致でなければ、この部屋を用意したのは日本からの転生者である可能性が高いように感じた。
「さあさあ、予約がいっぱいなんだ。そこに並んでくれ」
部屋の様子を眺めていると、線の細い体系の青年が声を上げた。
髪色はフェルトライン王国に多いオレンジ色。
服装はサスペンダーのついたズボンと白シャツ、ハンチング帽といった具合だ。
「頼むぜトーマン。こいつらはデックスを捕まえた功労者なんだぞ。丁重にもてなしてくれよ」
「ボクには関係ない……と言いたいところだけど、悪名高いデックスがいなくなったのはいいことだよな、うん。それじゃあ君たち、そこの幕の前に並んで」
カメラの傍らに佇む青年はトーマンという名前のようだ。
ギュンターに諭されたことで、ぶっきらぼうな態度が少しマシになった。
俺はカメラの側に近づいて、トーマンに声をかける。
「この機械すごいですね」
「君いいね、見る目があるじゃん! これはボクが発明して、レイランドの技術者と協力して作ったんだ」
俺が記憶を活用して焼肉屋を始めたように、彼はカメラを作ったのだと推測した。
それを指摘するのは野暮に思えたので、伝えようという気にはならなかった。
日本から転生したのだとしても彼には彼の生活があるだろうし、レイランドで転生者であることが広まった時にどうなるか予想がつかないからだ。
トーマンと二人で話している間に、アデルたちは立ち位置を決めていた。
当然ながらポーズを取るという発想はないようで、とりあえず枠に収まっているという状態だった。
「はいはい、ギュンターさんも入りなよ」
「お前らいいのか、オレが入っても?」
「いいんじゃないですか」
「どうぞどうぞ」
俺とミズキに歓迎されて、ギュンターはおずおずと近づいてきた。
彼が枠に入ったところで、トーマンはカメラを調整しながら立ち位置についての指示を出し始めた。
「ギュンターさんはデカいから、中腰になってもらえる?」
「そうだな。これでいいか?」
「はい、オッケー。みんな表情が固いよ。もう少し笑って」
今、どんな顔になっているだろうかと思いつつ、できる限り表情を緩める。
「じゃあ、撮影します! サン、ニッ、イチ――」
トーマンの合図の後、パシャリと音がした。
フラッシュがたかれて光が瞬いて見えた。
「これから現像してくるから、外で待ってて」
トーマンは慌ただしい動きで撮影場所を離れた。
「撮影してから写真ができるまで、少し時間がかかるらしいな」
ギュンターはそう言って俺たちを外に出るように促した。
入り口から店の前に出ると、数人の順番待ちの列があった。
さっき座っていたベンチが埋まっており、全員が立った状態で待つことになった。
「街の人の間で、写真が流行ってるんですか?」
行列とまではいかないものの、列が絶えないことが不思議だった。
「みんな目新しいものに目がないんだ。カフェや食堂も老舗は定番として長く続いているが、新しい店は移り変わりが早い。人気が出たと思ったら、いつの間にか閑古鳥が鳴くこともある」
「なかなか難しいですね。地元では考えられない」
バラムにも色んな店があるが、閉店を目にする機会はほとんどなかった。
基本的に入れ替わりは少なく、その分だけ新しい店が開く機会も少ない。
それなりのクオリティがあれば客の入りはよく、俺が始めた焼肉屋であるとかパメラのアフタヌーンティーの店は繁盛している。
バラムとレイランドの違いについて考えていると、店の中からトーマンが姿を現した。
「お待たせ。ばっちり撮れてる」
トーマンの手には集合写真を現像したような大きな写真があった。
完成品を見ようとアデルたちが集まる。
「あははっ、白黒だとあたしの髪とアデルの髪に違いがないね」
「ウソっ、私はこんな顔してたの」
「うーむ、何とも面妖な。技術の発展とは恐ろしい」
写真を目にした彼らは三者三様の反応を見せている。
ちなみにギュンターは写真を撮ったことがあるのか、あるいは俺たちに気遣っているのか。この輪からは距離を置いている。
もちろん、転生前の経験を含めたら写真を撮ったことはあるのだが、「ランス王国のバラムに生まれたマルク」としては初めての写真撮影である。
俺も近づいていって、出来栄えを確かめることにした。
「へえ、こんなふうに仕上がるんですね」
鮮明とまではいかないものの、全員の姿がしっかりと写っている。
ミズキは自然体でアデルは緊張気味、アカネはそもそも表情の変化が乏しい。
ギュンターはカメラ慣れしているのか、肩の力が抜けているように見える。
肝心の俺自身はというと……。
「私も微妙な感じだけれど、マルクもいまいちだから気にしないことにするわ」
「まあ、アデルの気が済むのならそれで」
俺は曖昧に笑みを浮かべて、もう一度写真を眺める。
この世界でこんなふうに写真が撮れるとは意外だったし、こういったかたちで思い出が残せるのはいいことだと思った。
4
お気に入りに追加
3,290
あなたにおすすめの小説
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。
運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。
憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。
異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。
異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ
トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!?
自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。
果たして雅は独りで生きていけるのか!?
実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!
明衣令央
ファンタジー
糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。
一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。
だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。
そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。
この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。
2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる