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発展を遂げた国フェルトライン

思い出の写真

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 アデルとミズキは店の前のベンチに腰かけており、俺とアカネは立っている状況だ。
 ギュンターは撮影の順番が回ってこないか気になるようで、店の中と外を行き来している。

「そろそろ、オレたちの順番みたいだ。中に入ってくれ」

 店の外観に周りの店と大きな違いはなかった。
 開いたままのドアを通過して、店の奥へと足を運ぶ。
 短い廊下を進んだ先に撮影するためのスペースがあった。

 アンティーク家具のような椅子とカメラと思われる大きな機械。
 部屋の雰囲気はレトロな日本という表現がしっくりくる。
 偶然の一致でなければ、この部屋を用意したのは日本からの転生者である可能性が高いように感じた。

「さあさあ、予約がいっぱいなんだ。そこに並んでくれ」

 部屋の様子を眺めていると、線の細い体系の青年が声を上げた。
 髪色はフェルトライン王国に多いオレンジ色。
 服装はサスペンダーのついたズボンと白シャツ、ハンチング帽といった具合だ。

「頼むぜトーマン。こいつらはデックスを捕まえた功労者なんだぞ。丁重にもてなしてくれよ」

「ボクには関係ない……と言いたいところだけど、悪名高いデックスがいなくなったのはいいことだよな、うん。それじゃあ君たち、そこの幕の前に並んで」

 カメラの傍らに佇む青年はトーマンという名前のようだ。
 ギュンターに諭されたことで、ぶっきらぼうな態度が少しマシになった。

 俺はカメラの側に近づいて、トーマンに声をかける。

「この機械すごいですね」

「君いいね、見る目があるじゃん! これはボクが発明して、レイランドの技術者と協力して作ったんだ」

 俺が記憶を活用して焼肉屋を始めたように、彼はカメラを作ったのだと推測した。
 それを指摘するのは野暮に思えたので、伝えようという気にはならなかった。
 日本から転生したのだとしても彼には彼の生活があるだろうし、レイランドで転生者であることが広まった時にどうなるか予想がつかないからだ。

 トーマンと二人で話している間に、アデルたちは立ち位置を決めていた。
 当然ながらポーズを取るという発想はないようで、とりあえず枠に収まっているという状態だった。

「はいはい、ギュンターさんも入りなよ」

「お前らいいのか、オレが入っても?」    
 
「いいんじゃないですか」

「どうぞどうぞ」

 俺とミズキに歓迎されて、ギュンターはおずおずと近づいてきた。
 彼が枠に入ったところで、トーマンはカメラを調整しながら立ち位置についての指示を出し始めた。

「ギュンターさんはデカいから、中腰になってもらえる?」

「そうだな。これでいいか?」

「はい、オッケー。みんな表情が固いよ。もう少し笑って」

 今、どんな顔になっているだろうかと思いつつ、できる限り表情を緩める。

「じゃあ、撮影します! サン、ニッ、イチ――」

 トーマンの合図の後、パシャリと音がした。
 フラッシュがたかれて光が瞬いて見えた。

「これから現像してくるから、外で待ってて」

 トーマンは慌ただしい動きで撮影場所を離れた。

「撮影してから写真ができるまで、少し時間がかかるらしいな」

 ギュンターはそう言って俺たちを外に出るように促した。
 入り口から店の前に出ると、数人の順番待ちの列があった。
 さっき座っていたベンチが埋まっており、全員が立った状態で待つことになった。

「街の人の間で、写真が流行ってるんですか?」
 
 行列とまではいかないものの、列が絶えないことが不思議だった。

「みんな目新しいものに目がないんだ。カフェや食堂も老舗は定番として長く続いているが、新しい店は移り変わりが早い。人気が出たと思ったら、いつの間にか閑古鳥が鳴くこともある」

「なかなか難しいですね。地元では考えられない」

 バラムにも色んな店があるが、閉店を目にする機会はほとんどなかった。
 基本的に入れ替わりは少なく、その分だけ新しい店が開く機会も少ない。
 それなりのクオリティがあれば客の入りはよく、俺が始めた焼肉屋であるとかパメラのアフタヌーンティーの店は繁盛している。

 バラムとレイランドの違いについて考えていると、店の中からトーマンが姿を現した。

「お待たせ。ばっちり撮れてる」

 トーマンの手には集合写真を現像したような大きな写真があった。
 完成品を見ようとアデルたちが集まる。

「あははっ、白黒だとあたしの髪とアデルの髪に違いがないね」

「ウソっ、私はこんな顔してたの」

「うーむ、何とも面妖な。技術の発展とは恐ろしい」

 写真を目にした彼らは三者三様の反応を見せている。
 ちなみにギュンターは写真を撮ったことがあるのか、あるいは俺たちに気遣っているのか。この輪からは距離を置いている。

 もちろん、転生前の経験を含めたら写真を撮ったことはあるのだが、「ランス王国のバラムに生まれたマルク」としては初めての写真撮影である。
 俺も近づいていって、出来栄えを確かめることにした。

「へえ、こんなふうに仕上がるんですね」

 鮮明とまではいかないものの、全員の姿がしっかりと写っている。
 ミズキは自然体でアデルは緊張気味、アカネはそもそも表情の変化が乏しい。
 ギュンターはカメラ慣れしているのか、肩の力が抜けているように見える。
 肝心の俺自身はというと……。

「私も微妙な感じだけれど、マルクもいまいちだから気にしないことにするわ」

「まあ、アデルの気が済むのならそれで」

 俺は曖昧に笑みを浮かべて、もう一度写真を眺める。
 この世界でこんなふうに写真が撮れるとは意外だったし、こういったかたちで思い出が残せるのはいいことだと思った。
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