異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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発展を遂げた国フェルトライン

自警団とデックス捕縛

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 大まかに見た感じではどちらがギュンターの仲間で、どちらがデックスの手下なのか見分けるのが難しかった。
 建物の周りを守るように囲んでいるのが前者であり、そこを突破せんとしているのが後者であると判断した。
 おそらく、何人もいる手下はデックスの奪還を試みようとしているのだろう。

 こんなにもギラギラとした感情がぶつかり合う状況はバラムでは考えられない。
 都市部で人口が多い故に起こったことなのだろうか。

「おいこら、デックスさんを放せ!」

「クソが黙れ! レイランドに巣食うダニ共!」

 罵り合いは加熱して、一触即発の状態である。
 俺は剣術と魔法が扱えるだけで、荒事が得意な方ではない。
 
「お前ら落ちつけ。あいつらの煽りに乗るな」

「あっ、ギュンターさん……すいません、熱くなりすぎて」

 ギュンター側の一人が彼にたしなめられておとなしくなった。
 彼らの目的はデックスの追放であり、抗争を望んでいるわけではないようだ。
 料理人同士の集まりであれば当然のことであると言える。

「二人とも、こっちだ」

 血気盛んな者たちに目を奪われていると、ギュンターに呼びかけられた。
 ミズキと共に促された方へと向かう。

「中にいるデックスの様子を見に行く。今はアカネが見張っているところだ」

「分かりました。行きましょう」

 三人で建物の裏手に回った。一見すると何の変哲もない民家である。
 表側をギュンターの仲間が塞いでいるため、こちら側にデックスの手下は近づけないようだ。

 裏口から室内へと足を運ぶ。
 廊下を進んで奥へ行くと、一人の男が見張りのように立っていた。
 その男はギュンターが近づいた時にペコリと頭を下げた。

 やがて広間の隣に小さな部屋があり、椅子に縛られた状態のデックスが見えた。
 逃げようとする様子は見受けられず、トレードマークのテンガロンハットが床に転がっていた。

「アカネさん、すごいですね」

「おや、ミズキ様、マルク殿」

 部屋の一角に佇むアカネに声をかけると、あっさりした反応が返ってきた。
 それこそ鬼の首を取ったような態度を示してもいいものだが。

「お前さんたち、おれを殺さなくていいのか? 部下を引き連れて仕返しに来るかもしれないぞ」

 デックスはおとなしくしているように見えたが、挑発するように口を開いた。
 この状況が打開できるとは思えず、せめてもの抵抗を見せようとしているように感じられた。

「おう、そうか。望み通りにしてやろうか」

「ギュンター殿、安い挑発に乗らぬよう」

「……す、すまない。こいつの手はよく分かってるはずなんだが」

 アカネに諫められて、ギュンターは戸惑うように視線を左右させた。

「ちなみにこれからどうするつもりなんですか?」

 俺がたずねるとギュンターは何度か瞬きをした。
 彼なりにデックスへの怒りを鎮めようとしているように見える。

「それなんだが、仲間同士で決めたことがある。前回は離れた街で解放したのがよくなかったから、今度は人のほとんど住まないような土地へ追放する」

 ランス王国でも同じなのだが、処刑という発想に至ることは稀である。
 ましてや料理人であるギュンターたちが人を殺めることができないとしても、決しておかしなことではないだろう。

「フェルトライン王国にも辺境があるんですね」

「国内ではあるが、ここからとてつもなく遠い。顔見知りに腕っぷしもある行商人がいるから、そいつに頼んでそこまで運んでもらう」

 もはやデックスのことは荷物扱いのようになっている。
 あの男はギュンターたちから恨みを買っているらしいので、被害を受けた側として当然の対応なのかもしれない。

「これから、どうするんですか?」

 外に待ち構えるデックスの手下は易々と引き下がるように見えない。

「あいつらもそのうち諦めるだろう。周りをしっかり囲んでいるから、中に入ってくることはできない。それに互いに血を見ることになるような行動も取れない。デックスと同じで気の小さい連中ばかりだからな」 

 ギュンターはデックスを一瞥して言った。
 デックスに聞こえていたようで、彼は皮肉っぽい笑みを浮かべている。
 
「くくっ、ひどい言われようだ。おれがいなくなったら、街は荒れると思うがね。血気盛んで知恵の回らない奴ばかり。レイランドの治安は心配になるなー」

 ギュンターはデックスの言葉に耳を貸すことはなく、そのまま聞き流していた。
 さすがに苦し紛れだと分かってきたのだろう。

「――失礼する。デックスを捕らえたと聞いたが」

 三十代か四十代ぐらいに見える男がやってきた。
 兵士のような革鎧を身につけて、腰には剣を携えている。
 髪の毛はフェルトライン王国に多いオレンジで、鼻の下には立派なひげを生やしている。

「おっと団長。あんたの耳にも入ったのか」

「自警団として、この状況に気づかないわけにはいかんだろう」

「マルクたちにこの人を紹介しよう。自警団団長のアレクシスさんだ」

 そう紹介されたアレクシスは俺やミズキに一礼した。 
 人当たりのよさそうな人物に見える。

「どうも、はじめまして」

「君たちは旅の人だったかな。遠方からの来訪者がいると耳にした」

 調べるまでもなく、俺たちの存在は目立つのだろう。
 アレクシスが知っていたとしてもおかしいことではなかった。

「今回の件、自警団は大して活躍していない。せめて、外にいる連中だけでも追い払わせてもらう」

「そいつは助かる。オレたちが言ったところで聞くような連中じゃあないからな」

「賊どもを追い払う程度のこと、朝飯前だ」

 アレクシスは涼しげに言った後、颯爽と部屋を出ていった。

「団長に任せておけば安心だ」

 ギュンターはその後にぼそりと、借りを作っちまったと言った。
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