上 下
361 / 449
発展を遂げた国フェルトライン

アカネの優れた才能

しおりを挟む
 ミズキ自身も腕が立つし、アデルに至っては赤髪のエルフということで目立つ。
 デックスの手下が安易に攻撃を仕かけるとは考えにくく、もしそうなったとしても問題ないだけの強さがある。
 彼女たちに同行するのもよいのだが、二人に守ってもらうのも気が引けるため、そのまま隠れ家に残っているかたちだ。

 俺はロミーがいれてくれたお茶を口にした。
 彼女がマグカップにおかわりを注いでくれて、すでに二杯目になっている。

「なあ、手持ち無沙汰みたいだな」

「ええまあ、夜までまだ時間もありますし、街を出歩くのもどうかと思って」

 ギュンターはこちらに声をかけた後、立ち上がって壁際の木箱を開いた。 
 彼は正方形の厚みのある板、何かが入った容器を手にして戻ってきた。

「シャッハだ。そっちの国でも似たような遊びはあるだろ」

 ギュンターは板をテーブルに置いて、その上に駒のようなものを並べ始めた。
 見覚えのある配置にピンときた。

「あっ、エシェックのことですか」

 エシェックとは地球で言うところのチェスに似たボードゲームだ。
 ルールも似ていて、王に当たる駒を先に取った方が勝利する。

「名前は違うみたいだが、だいたいのところは同じじゃないか。駒を確認してくれ」

 ギュンターに促されて種類を確かめる。
 根幹の部分は似ているようで、微細な違いはあれどすぐに理解できた。
 ――冒険者、魔法使い、衛兵、王。

「きっと同じだと思います。並べ方や動かし方が違っていたら、教えてください」

「分かった。早速並べてくれ」

 彼はこのゲームが好きなようで、乗り気なように見えた。
 自分が知っているエシェックの並びに合わせて駒を配置する。

 王――最も重要な駒で他の駒が王を詰みにできれば勝利。一手につき一マス動かすことができる。

 衛兵―― 最も強力な駒で水平・垂直・斜めのいずれかの方向に、一手につき一マス動かすことができる。

 魔法使い――水平または垂直方向の延長線にいる駒を倒すことができる。しかし、味方が前後のいずれかの延長線にいる場合は使用不可で、相手の王の駒には効かない。ちなみに動かせる範囲は自陣のみと限られている。強力な一方で使い方を選ぶという側面もある。

 冒険者――王と同じく一手につき一マス動かすことができる。前方三方向に動かせる代わりに後ろへは動かせない。この駒でチェックメイトの状態にできると勝利が確定する。
 
「それじゃあ、始めるか。先攻はそっちに譲ろう」

「ありがとうございます」

 あまり大きな差はないものの、どちらかといえば先攻の方が有利だ。

 俺はまず、最前線に配置された冒険者の駒を前に進めた。
 ギュンターの戦術を知らないため、様子見の一手を打った。
 早いうちに魔法使いの射線を空ける戦術もあるが、その分だけ守りが手薄になる上に相手の魔法使いも攻めやすくなるため、向こうの手の内が読めない状況で行うのは悪手とされている。

「ここはそっちに合わせておこう」

 ギュンターは俺とは違う位置の冒険者の駒を前に進めた。
 こうして遊ぶのは久しぶりだが、徐々に楽しくなってきた。
 時間のかかるゲームなので、夜まで退屈せずに済みそうだ。

「――ちっ、その手があったか」

「詰みでよかったですか?」

「普段見かけないような戦法で後手に回っちまった。甘く見て先手を譲ったのは失敗だったか」

 最初の対戦は優位な状況で勝負を進めることができた。
 お互いに熱の入った一戦となり、ほどよい緊張感があった。

「よしっ、もう一戦だ」 

「もちろんいいですよ。次は先手を譲ります」

「まだまだこれからだ。油断するなよ」

 ギュンターは楽しそうにしており、いくらか打ち解けることができた気がした。
 とそこへ、資料とのにらめっこを終えたアカネが加わろうとした。

「貴殿ら面白そうなことをしているな」

 彼女にしては珍しく、積極的に見える。
 表情の変化が乏しいのはいつも通りだが。

「なんだ、興味あるのか?」

「ふむ、これは将棋の一種だな」

 アカネは駒の一つを掴んで、じっくりと眺めている。
 ギュンターは将棋という言葉の意味が分からないようだが、俺は日本から転生しているので理解できた。

「よかったらやってみるか?」

「では邪魔させてもらう」

 アカネとギュンターは位置を入れ替わり、彼がルールの説明を始めた。
 俺はすでに駒の配置が済んだが、二人は話が終わったところで並べていった。

「アカネさんは初めてみたいなので、先攻をどうぞ」

「そうか、かたじけない」

 アカネはそう言った後、即決したように冒険者の駒を前に進めた。

「基本的に指し直しはなしですけど、それでいいです?」

「問題ない。そちらの番だ」

 アカネは淡々と告げた。
 一切の迷いがなく、確信めいたものを感じさせる態度だった。
 俺は冒険者の駒を前に進めてから、戦術について考え始めた。

「――ま、参りました」

「いい経験ができた。二人とも礼を言う」

 結果はこちらの完敗である。
 基本的にはチートな駒である魔法使いをいかに活かすかがポイントなのだが、彼女はそれを使うことなく、一直線に王を狙ってきた。

「……おいおい、マルクだって弱くはないぞ。それなのにこの早さで決着か」

「マルク殿の守りは悪くなかった。しかし、こことここ、それからここ――こうなって時点で勝負は決していた」

「うぅっ、不甲斐ない。完全に敗北です」

 アカネがあまりに強いせいか、ギュンターは彼女に勝負しようとは言わなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

【完結】『それ』って愛なのかしら?

月白ヤトヒコ
恋愛
「質問なのですが、お二人の言う『それ』って愛なのかしら?」  わたくしは、目の前で肩を寄せ合って寄り添う二人へと質問をする。 「な、なにを……そ、そんなことあなたに言われる筋合いは無い!」 「きっと彼女は、あなたに愛されなかった理由を聞きたいんですよ。最後ですから、答えてあげましょうよ」 「そ、そうなのか?」 「もちろんです! わたし達は愛し合っているから、こうなったんです!」  と、わたくしの目の前で宣うお花畑バカップル。  わたくしと彼との『婚約の約束』は、一応は政略でした。  わたくしより一つ年下の彼とは政略ではあれども……互いに恋情は持てなくても、穏やかな家庭を築いて行ければいい。そんな風に思っていたことも……あったがなっ!? 「申し訳ないが、あなたとの婚約を破棄したい」 「頼むっ、俺は彼女のことを愛してしまったんだ!」 「これが政略だというのは判っている! けど、俺は彼女という存在を知って、彼女に愛され、あなたとの愛情の無い結婚生活を送ることなんてもう考えられないんだ!」 「それに、彼女のお腹には俺の子がいる。だから、婚約を破棄してほしいんだ。頼む!」 「ご、ごめんなさい! わたしが彼を愛してしまったから!」  なんて茶番を繰り広げる憐れなバカップルに、わたくしは少しばかり現実を見せてあげることにした。 ※バカップル共に、冷や水どころかブリザードな現実を突き付けて、正論でぶん殴るスタイル。 ※一部、若年女性の妊娠出産についてのセンシティブな内容が含まれます。

シンデレラ。~あなたは、どの道を選びますか?~

月白ヤトヒコ
児童書・童話
シンデレラをゲームブック風にしてみました。 選択肢に拠って、ノーマルエンド、ハッピーエンド、バッドエンドに別れます。 また、選択肢と場面、エンディングに拠ってシンデレラの性格も変わります。 短い話なので、さほど複雑な選択肢ではないと思います。 読んでやってもいいと思った方はどうぞ~。

【完結】「妹の身代わりに殺戮の王子に嫁がされた王女。離宮の庭で妖精とじゃがいもを育ててたら、殿下の溺愛が始まりました」

まほりろ
恋愛
 国王の愛人の娘であるヒロインは、母親の死後、王宮内で放置されていた。  食事は一日に一回、カビたパンや腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。  しかしヒロインはそれでもなんとか暮らしていた。  ヒロインの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。  その妖精はヒロインに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。  ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたヒロインは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。 ※カクヨムにも投稿してます。カクヨム先行投稿。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」 ※2023年9月17日女性向けホットランキング1位まで上がりました。ありがとうございます。 ※2023年9月20日恋愛ジャンル1位まで上がりました。ありがとうございます。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

あなたが幸せになれるなら婚約破棄を受け入れます

神村結美
恋愛
貴族の子息令嬢が通うエスポワール学園の入学式。 アイリス・コルベール公爵令嬢は、前世の記憶を思い出した。 そして、前世で大好きだった乙女ゲーム『マ・シェリ〜運命の出逢い〜』に登場する悪役令嬢に転生している事に気付く。 エスポワール学園の生徒会長であり、ヴィクトール国第一王子であるジェラルド・アルベール・ヴィクトールはアイリスの婚約者であり、『マ・シェリ』でのメイン攻略対象。 ゲームのシナリオでは、一年後、ジェラルドが卒業する日の夜会にて、婚約破棄を言い渡され、ジェラルドが心惹かれたヒロインであるアンナ・バジュー男爵令嬢を虐めた罪で国外追放されるーーそんな未来は嫌だっ! でも、愛するジェラルド様の幸せのためなら……

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

処理中です...