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発展を遂げた国フェルトライン
アカネの優れた才能
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ミズキ自身も腕が立つし、アデルに至っては赤髪のエルフということで目立つ。
デックスの手下が安易に攻撃を仕かけるとは考えにくく、もしそうなったとしても問題ないだけの強さがある。
彼女たちに同行するのもよいのだが、二人に守ってもらうのも気が引けるため、そのまま隠れ家に残っているかたちだ。
俺はロミーがいれてくれたお茶を口にした。
彼女がマグカップにおかわりを注いでくれて、すでに二杯目になっている。
「なあ、手持ち無沙汰みたいだな」
「ええまあ、夜までまだ時間もありますし、街を出歩くのもどうかと思って」
ギュンターはこちらに声をかけた後、立ち上がって壁際の木箱を開いた。
彼は正方形の厚みのある板、何かが入った容器を手にして戻ってきた。
「シャッハだ。そっちの国でも似たような遊びはあるだろ」
ギュンターは板をテーブルに置いて、その上に駒のようなものを並べ始めた。
見覚えのある配置にピンときた。
「あっ、エシェックのことですか」
エシェックとは地球で言うところのチェスに似たボードゲームだ。
ルールも似ていて、王に当たる駒を先に取った方が勝利する。
「名前は違うみたいだが、だいたいのところは同じじゃないか。駒を確認してくれ」
ギュンターに促されて種類を確かめる。
根幹の部分は似ているようで、微細な違いはあれどすぐに理解できた。
――冒険者、魔法使い、衛兵、王。
「きっと同じだと思います。並べ方や動かし方が違っていたら、教えてください」
「分かった。早速並べてくれ」
彼はこのゲームが好きなようで、乗り気なように見えた。
自分が知っているエシェックの並びに合わせて駒を配置する。
王――最も重要な駒で他の駒が王を詰みにできれば勝利。一手につき一マス動かすことができる。
衛兵―― 最も強力な駒で水平・垂直・斜めのいずれかの方向に、一手につき一マス動かすことができる。
魔法使い――水平または垂直方向の延長線にいる駒を倒すことができる。しかし、味方が前後のいずれかの延長線にいる場合は使用不可で、相手の王の駒には効かない。ちなみに動かせる範囲は自陣のみと限られている。強力な一方で使い方を選ぶという側面もある。
冒険者――王と同じく一手につき一マス動かすことができる。前方三方向に動かせる代わりに後ろへは動かせない。この駒でチェックメイトの状態にできると勝利が確定する。
「それじゃあ、始めるか。先攻はそっちに譲ろう」
「ありがとうございます」
あまり大きな差はないものの、どちらかといえば先攻の方が有利だ。
俺はまず、最前線に配置された冒険者の駒を前に進めた。
ギュンターの戦術を知らないため、様子見の一手を打った。
早いうちに魔法使いの射線を空ける戦術もあるが、その分だけ守りが手薄になる上に相手の魔法使いも攻めやすくなるため、向こうの手の内が読めない状況で行うのは悪手とされている。
「ここはそっちに合わせておこう」
ギュンターは俺とは違う位置の冒険者の駒を前に進めた。
こうして遊ぶのは久しぶりだが、徐々に楽しくなってきた。
時間のかかるゲームなので、夜まで退屈せずに済みそうだ。
「――ちっ、その手があったか」
「詰みでよかったですか?」
「普段見かけないような戦法で後手に回っちまった。甘く見て先手を譲ったのは失敗だったか」
最初の対戦は優位な状況で勝負を進めることができた。
お互いに熱の入った一戦となり、ほどよい緊張感があった。
「よしっ、もう一戦だ」
「もちろんいいですよ。次は先手を譲ります」
「まだまだこれからだ。油断するなよ」
ギュンターは楽しそうにしており、いくらか打ち解けることができた気がした。
とそこへ、資料とのにらめっこを終えたアカネが加わろうとした。
「貴殿ら面白そうなことをしているな」
彼女にしては珍しく、積極的に見える。
表情の変化が乏しいのはいつも通りだが。
「なんだ、興味あるのか?」
「ふむ、これは将棋の一種だな」
アカネは駒の一つを掴んで、じっくりと眺めている。
ギュンターは将棋という言葉の意味が分からないようだが、俺は日本から転生しているので理解できた。
「よかったらやってみるか?」
「では邪魔させてもらう」
アカネとギュンターは位置を入れ替わり、彼がルールの説明を始めた。
俺はすでに駒の配置が済んだが、二人は話が終わったところで並べていった。
「アカネさんは初めてみたいなので、先攻をどうぞ」
「そうか、かたじけない」
アカネはそう言った後、即決したように冒険者の駒を前に進めた。
「基本的に指し直しはなしですけど、それでいいです?」
「問題ない。そちらの番だ」
アカネは淡々と告げた。
一切の迷いがなく、確信めいたものを感じさせる態度だった。
俺は冒険者の駒を前に進めてから、戦術について考え始めた。
「――ま、参りました」
「いい経験ができた。二人とも礼を言う」
結果はこちらの完敗である。
基本的にはチートな駒である魔法使いをいかに活かすかがポイントなのだが、彼女はそれを使うことなく、一直線に王を狙ってきた。
「……おいおい、マルクだって弱くはないぞ。それなのにこの早さで決着か」
「マルク殿の守りは悪くなかった。しかし、こことここ、それからここ――こうなって時点で勝負は決していた」
「うぅっ、不甲斐ない。完全に敗北です」
アカネがあまりに強いせいか、ギュンターは彼女に勝負しようとは言わなかった。
デックスの手下が安易に攻撃を仕かけるとは考えにくく、もしそうなったとしても問題ないだけの強さがある。
彼女たちに同行するのもよいのだが、二人に守ってもらうのも気が引けるため、そのまま隠れ家に残っているかたちだ。
俺はロミーがいれてくれたお茶を口にした。
彼女がマグカップにおかわりを注いでくれて、すでに二杯目になっている。
「なあ、手持ち無沙汰みたいだな」
「ええまあ、夜までまだ時間もありますし、街を出歩くのもどうかと思って」
ギュンターはこちらに声をかけた後、立ち上がって壁際の木箱を開いた。
彼は正方形の厚みのある板、何かが入った容器を手にして戻ってきた。
「シャッハだ。そっちの国でも似たような遊びはあるだろ」
ギュンターは板をテーブルに置いて、その上に駒のようなものを並べ始めた。
見覚えのある配置にピンときた。
「あっ、エシェックのことですか」
エシェックとは地球で言うところのチェスに似たボードゲームだ。
ルールも似ていて、王に当たる駒を先に取った方が勝利する。
「名前は違うみたいだが、だいたいのところは同じじゃないか。駒を確認してくれ」
ギュンターに促されて種類を確かめる。
根幹の部分は似ているようで、微細な違いはあれどすぐに理解できた。
――冒険者、魔法使い、衛兵、王。
「きっと同じだと思います。並べ方や動かし方が違っていたら、教えてください」
「分かった。早速並べてくれ」
彼はこのゲームが好きなようで、乗り気なように見えた。
自分が知っているエシェックの並びに合わせて駒を配置する。
王――最も重要な駒で他の駒が王を詰みにできれば勝利。一手につき一マス動かすことができる。
衛兵―― 最も強力な駒で水平・垂直・斜めのいずれかの方向に、一手につき一マス動かすことができる。
魔法使い――水平または垂直方向の延長線にいる駒を倒すことができる。しかし、味方が前後のいずれかの延長線にいる場合は使用不可で、相手の王の駒には効かない。ちなみに動かせる範囲は自陣のみと限られている。強力な一方で使い方を選ぶという側面もある。
冒険者――王と同じく一手につき一マス動かすことができる。前方三方向に動かせる代わりに後ろへは動かせない。この駒でチェックメイトの状態にできると勝利が確定する。
「それじゃあ、始めるか。先攻はそっちに譲ろう」
「ありがとうございます」
あまり大きな差はないものの、どちらかといえば先攻の方が有利だ。
俺はまず、最前線に配置された冒険者の駒を前に進めた。
ギュンターの戦術を知らないため、様子見の一手を打った。
早いうちに魔法使いの射線を空ける戦術もあるが、その分だけ守りが手薄になる上に相手の魔法使いも攻めやすくなるため、向こうの手の内が読めない状況で行うのは悪手とされている。
「ここはそっちに合わせておこう」
ギュンターは俺とは違う位置の冒険者の駒を前に進めた。
こうして遊ぶのは久しぶりだが、徐々に楽しくなってきた。
時間のかかるゲームなので、夜まで退屈せずに済みそうだ。
「――ちっ、その手があったか」
「詰みでよかったですか?」
「普段見かけないような戦法で後手に回っちまった。甘く見て先手を譲ったのは失敗だったか」
最初の対戦は優位な状況で勝負を進めることができた。
お互いに熱の入った一戦となり、ほどよい緊張感があった。
「よしっ、もう一戦だ」
「もちろんいいですよ。次は先手を譲ります」
「まだまだこれからだ。油断するなよ」
ギュンターは楽しそうにしており、いくらか打ち解けることができた気がした。
とそこへ、資料とのにらめっこを終えたアカネが加わろうとした。
「貴殿ら面白そうなことをしているな」
彼女にしては珍しく、積極的に見える。
表情の変化が乏しいのはいつも通りだが。
「なんだ、興味あるのか?」
「ふむ、これは将棋の一種だな」
アカネは駒の一つを掴んで、じっくりと眺めている。
ギュンターは将棋という言葉の意味が分からないようだが、俺は日本から転生しているので理解できた。
「よかったらやってみるか?」
「では邪魔させてもらう」
アカネとギュンターは位置を入れ替わり、彼がルールの説明を始めた。
俺はすでに駒の配置が済んだが、二人は話が終わったところで並べていった。
「アカネさんは初めてみたいなので、先攻をどうぞ」
「そうか、かたじけない」
アカネはそう言った後、即決したように冒険者の駒を前に進めた。
「基本的に指し直しはなしですけど、それでいいです?」
「問題ない。そちらの番だ」
アカネは淡々と告げた。
一切の迷いがなく、確信めいたものを感じさせる態度だった。
俺は冒険者の駒を前に進めてから、戦術について考え始めた。
「――ま、参りました」
「いい経験ができた。二人とも礼を言う」
結果はこちらの完敗である。
基本的にはチートな駒である魔法使いをいかに活かすかがポイントなのだが、彼女はそれを使うことなく、一直線に王を狙ってきた。
「……おいおい、マルクだって弱くはないぞ。それなのにこの早さで決着か」
「マルク殿の守りは悪くなかった。しかし、こことここ、それからここ――こうなって時点で勝負は決していた」
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アカネがあまりに強いせいか、ギュンターは彼女に勝負しようとは言わなかった。
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