358 / 473
発展を遂げた国フェルトライン
カールの策略
しおりを挟む
アカネという戦力がある以上、易々とやられることはない。
しかし、ギュンターがデックスと呼んだ男の不敵な様子から、侮るべきではないと判断した。
この場にいる全員――ギュンターさえも――が動けない状態だったが、カールさんは何ごともないようにデックスへと歩み寄っていった。
「――カールさん、ちょっと」
彼はこちらの制止に応じることなく、そのまま足を進めた。
「んっ? 何が起きてる?」
「姫様、あの男は何か企んでいるようです。ご注意を」
「ふんふん、そういうこと」
ミズキとアカネは刀が抜けるように構えており、アデルはちゃっかり安全圏に待避している。
そして、デックスのところに移動したカールさんがこちらを振り向いた。
「モリウッドに会うまでは隠し通そうと思いましたが、仲間と合流できたので、それもおしまいにしましょう」
彼はこの場にそぐわないような笑みを浮かべていた。
俺たちを侮辱しているように見えるが、途中までの様子から一変している。
「その男から聞いたでしょうが、モリウッドからお金を盗んだというのは事実です」
「おい若造、オレの言った通りだろ」
「……カールさんの方が悪者だったんですね」
俺はギュンターと短く言葉を交わした。
カールさんに裏切られたことが分かり、胸の中がモヤモヤする感じになった。
己の見る目のなさに意気消沈しかけたところで、ギュンターが前に出て口を開く。
「デックス! カールにいくら掴まされたかは知らないが、これ以上モリウッドさんに損害を与えて、タダで済むと思うな!」
具体的なことは分からないが、デックスという男は危険なようだ。
ギュンターは怒りとも懇願とも取れる声を上げて、モリウッド氏への攻撃を防ごうとしている。
「はっ、知れたことを。街から追放された側が言うことを聞くと思うのかねー」
「お前は手下と共謀して、レイランド中のレストランにドブネズミをばら撒こうとしたんだぞ! あの時に殺しておくべきだった」
ギュンターはカールさんに対してもそうだったが、デックスという人物とも何らかの確執があるようだ。
それにしても、ギュンターの言ったことが本当であるならば、とんでもないことを計画したものだと思う。
こうなってしまってはカールさんの側につくことは難しい。
「カールさん、俺たちをだましたんですか?」
こちらからの問いかけにわずかな間が空いた。
「モリウッドが私腹を肥やしているのは事実ですよ。気に入らない店があれば、買収することもあるでしょう」
その言葉に戸惑いが生じた。
カールさんとデックス、ギュンターとモリウッド氏。
どちらかに大義があり、どちらかが不正を働いているという単純な構図ではないのだろうか。
「ちょっと待て。あいつの話に耳を貸すな。モリウッドさんは見こみのある店を傘下に引き入れることはある。だが、あくまで友好的にだ」
「もしかしたら、うちの店にしたようなことを他の店にしているかもしれませんよ」
ギュンターは険しい表情を浮かべていたが、カールさんの一言で堪忍袋の緒が切れたようだ。
勢いよく地面を蹴って、前へと突進した。
「――危ないっ」
一瞬の出来事で何が起きたか理解するのに時間を要した。
ギュンターに向けて矢が放たれて、それをアカネが刀で払いのけたのだ。
「す、すまない。撃たれるところだった」
「礼には及ばない」
ギュンターは地面に膝をついていたが、すぐに立ち上がった。
周囲に目を向けるが、伏兵の姿は見当たらない。
矢の飛んできた方向に隠れているか、すでに逃げてしまったか。
「もういいだろう。カールが持ち出したモリウッドの金は諦めたらどうだ。この街のことは料理人のお前より、おれたちの方が詳しいのだから」
デックスはくくくっと不敵な笑みを浮かべている。
彼は勝利を確信しているようだ。
門外漢である自分にできそうなことは思いつかなかった。
「それでは皆さん、ここまでありがとうございました。デックスと合流するまでは生きた心地がしませんでしたが、彼がいれば怖いものなしです」
「カール、このまま終わると思うなよ!」
「ああっ怖い怖い。そういうのを負け犬の遠吠えというらしいですよ」
「くそっ、なめやがって……」
ギュンターは悔しそうに拳を地面に打ちつけた。
やがてカールさんとデックスはどこかへいなくなった。
二人の姿が見えなくなってから、俺はギュンターにたずねることにした。
「……デックスという男は危険なんですか?」
「本人が言ったように街のことに精通している。手下の数が多い上に、大半は街の中に潜んでやがる。見つけ出すのは無理だろう」
「そう……ですか」
俺はギュンターの言葉を耳にして愕然とした。
地球では市民に紛れて攻撃を仕かける勢力がいたが、この世界では聞いたことがなかった。
レイランドの規模でそんなことをされては手の打ちようがない。
これからどうすべきか考えていると、アカネが俺とギュンターの近くにやってきた。
「話は聞かせてもらった。拙者なら、デックスなる者の手下を吊し上げて無力化することは可能だ」
「えっ、そんなことが!?」
「ふざけてんのか? それにお前はよそ者だろう。レイランドの街は複雑に入り組んでいる」
ギュンターは半信半疑といった様子だった。
アカネの実力を目の当たりにしているため、無謀に思えることでも可能性があると感じたのだろう。
「とりあえず、『お前』呼ばわりはやめてもらおう」
アカネは表情を変えないまま、足を一歩踏み出した。
「ちっ、分かったよ。あんた、名前は?」
「アカネだ」
「すでに知っていると思うが、ギュンターだ。よろしく頼む」
ギュンターはアカネに根負けしたように、強気な姿勢を崩した。
しかし、ギュンターがデックスと呼んだ男の不敵な様子から、侮るべきではないと判断した。
この場にいる全員――ギュンターさえも――が動けない状態だったが、カールさんは何ごともないようにデックスへと歩み寄っていった。
「――カールさん、ちょっと」
彼はこちらの制止に応じることなく、そのまま足を進めた。
「んっ? 何が起きてる?」
「姫様、あの男は何か企んでいるようです。ご注意を」
「ふんふん、そういうこと」
ミズキとアカネは刀が抜けるように構えており、アデルはちゃっかり安全圏に待避している。
そして、デックスのところに移動したカールさんがこちらを振り向いた。
「モリウッドに会うまでは隠し通そうと思いましたが、仲間と合流できたので、それもおしまいにしましょう」
彼はこの場にそぐわないような笑みを浮かべていた。
俺たちを侮辱しているように見えるが、途中までの様子から一変している。
「その男から聞いたでしょうが、モリウッドからお金を盗んだというのは事実です」
「おい若造、オレの言った通りだろ」
「……カールさんの方が悪者だったんですね」
俺はギュンターと短く言葉を交わした。
カールさんに裏切られたことが分かり、胸の中がモヤモヤする感じになった。
己の見る目のなさに意気消沈しかけたところで、ギュンターが前に出て口を開く。
「デックス! カールにいくら掴まされたかは知らないが、これ以上モリウッドさんに損害を与えて、タダで済むと思うな!」
具体的なことは分からないが、デックスという男は危険なようだ。
ギュンターは怒りとも懇願とも取れる声を上げて、モリウッド氏への攻撃を防ごうとしている。
「はっ、知れたことを。街から追放された側が言うことを聞くと思うのかねー」
「お前は手下と共謀して、レイランド中のレストランにドブネズミをばら撒こうとしたんだぞ! あの時に殺しておくべきだった」
ギュンターはカールさんに対してもそうだったが、デックスという人物とも何らかの確執があるようだ。
それにしても、ギュンターの言ったことが本当であるならば、とんでもないことを計画したものだと思う。
こうなってしまってはカールさんの側につくことは難しい。
「カールさん、俺たちをだましたんですか?」
こちらからの問いかけにわずかな間が空いた。
「モリウッドが私腹を肥やしているのは事実ですよ。気に入らない店があれば、買収することもあるでしょう」
その言葉に戸惑いが生じた。
カールさんとデックス、ギュンターとモリウッド氏。
どちらかに大義があり、どちらかが不正を働いているという単純な構図ではないのだろうか。
「ちょっと待て。あいつの話に耳を貸すな。モリウッドさんは見こみのある店を傘下に引き入れることはある。だが、あくまで友好的にだ」
「もしかしたら、うちの店にしたようなことを他の店にしているかもしれませんよ」
ギュンターは険しい表情を浮かべていたが、カールさんの一言で堪忍袋の緒が切れたようだ。
勢いよく地面を蹴って、前へと突進した。
「――危ないっ」
一瞬の出来事で何が起きたか理解するのに時間を要した。
ギュンターに向けて矢が放たれて、それをアカネが刀で払いのけたのだ。
「す、すまない。撃たれるところだった」
「礼には及ばない」
ギュンターは地面に膝をついていたが、すぐに立ち上がった。
周囲に目を向けるが、伏兵の姿は見当たらない。
矢の飛んできた方向に隠れているか、すでに逃げてしまったか。
「もういいだろう。カールが持ち出したモリウッドの金は諦めたらどうだ。この街のことは料理人のお前より、おれたちの方が詳しいのだから」
デックスはくくくっと不敵な笑みを浮かべている。
彼は勝利を確信しているようだ。
門外漢である自分にできそうなことは思いつかなかった。
「それでは皆さん、ここまでありがとうございました。デックスと合流するまでは生きた心地がしませんでしたが、彼がいれば怖いものなしです」
「カール、このまま終わると思うなよ!」
「ああっ怖い怖い。そういうのを負け犬の遠吠えというらしいですよ」
「くそっ、なめやがって……」
ギュンターは悔しそうに拳を地面に打ちつけた。
やがてカールさんとデックスはどこかへいなくなった。
二人の姿が見えなくなってから、俺はギュンターにたずねることにした。
「……デックスという男は危険なんですか?」
「本人が言ったように街のことに精通している。手下の数が多い上に、大半は街の中に潜んでやがる。見つけ出すのは無理だろう」
「そう……ですか」
俺はギュンターの言葉を耳にして愕然とした。
地球では市民に紛れて攻撃を仕かける勢力がいたが、この世界では聞いたことがなかった。
レイランドの規模でそんなことをされては手の打ちようがない。
これからどうすべきか考えていると、アカネが俺とギュンターの近くにやってきた。
「話は聞かせてもらった。拙者なら、デックスなる者の手下を吊し上げて無力化することは可能だ」
「えっ、そんなことが!?」
「ふざけてんのか? それにお前はよそ者だろう。レイランドの街は複雑に入り組んでいる」
ギュンターは半信半疑といった様子だった。
アカネの実力を目の当たりにしているため、無謀に思えることでも可能性があると感じたのだろう。
「とりあえず、『お前』呼ばわりはやめてもらおう」
アカネは表情を変えないまま、足を一歩踏み出した。
「ちっ、分かったよ。あんた、名前は?」
「アカネだ」
「すでに知っていると思うが、ギュンターだ。よろしく頼む」
ギュンターはアカネに根負けしたように、強気な姿勢を崩した。
15
お気に入りに追加
3,381
あなたにおすすめの小説

異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる