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発展を遂げた国フェルトライン
レイランドに到着
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ギュンターの話を聞き終えてから、何を話すべきか浮かばなかった。
カールさんがしていたことが事実であるならば、俺たちはだまされたことになる。
モリウッド氏に正当性があるのなら、非のない人を攻撃する可能性さえあった。
俺は牛車の後ろ側を見つめながら、レイランドへの道を歩いている。
移動再開後に会話があったのは最初だけで、ギュンターとの間に距離を感じる。
カールさんにだまされたとしても、彼の味方をしようとしていた俺たちを敵視しているのかもしれない。
しばらく無言のまま歩いたところで、ギュンターに質問をしてみることにした。
「……あなたはいかにもならず者といった雰囲気ですけど、モリウッド氏が悪人でないのなら、荒くれ者を雇ったりしませんよね」
そう問いかけると、ギュンターは少し驚いたような反応を見せた。
「何だって? 盗賊や強盗にでも見えるのか?」
「――えっ、違うんですか?」
再度質問を投げかけると、ギュンターはため息を吐いた。
「オレはモリウッドさんの店で働く料理人だ。それでさっき、黒髪の女にのされたのは部下だが……盗賊団に見えていたのなら心外だな」
「……料理人、なるほど」
思いがけない言葉に取ってつけたような返事をした。
盗賊団の方がしっくりくるとは言わない方がよさそうだ。
「レイランドには、モリウッドさんの系列店以外にも色んな店がある。競争は激しくなっていて、そこで料理を作る料理人も同じように競争にさらされているんだ」
つまり、荒波にも揉まれるうちに、ならず者のような荒っぽい感じになったということらしい。
それが冒険者なら説得があるわけだが、料理人をそこまで厳しい状況に追いやるとは過酷な競争が強いられるということなのだろうか。
あるいは同じ背景からカールが悪事に手を染めたことも考えられる。
「だいたいの事情は分かりました、百聞は一見に如かずらしいので、レイランドの街を目にすれば詳しい情報が手に入りそうです」
「なんだそれは、偉人の名言か?」
「百回聞くよりも実物を見た方が早いって意味です」
「そいつはそうだな。分かりきったことだ」
ギュンターに地球のことわざだと話しても混乱させるだけなので、適当にはぐらかしておいた。
彼はオレンジ色の短髪に鋭い眼差しと屈強な身体つきという、いかつそうな風貌だが、意外と物分かりがよい一面もあるようだ。
やがて道の先が下り坂になっており、牛車の下半分が見えなくなった。
そのままギュンターと並んで歩いていくと、坂を下りた平坦な道の先に街の入り口が目に入った。
「あの向こうがレイランド。入場許可は必要ないが他国から初めて訪れる場合、大抵は荷物や身柄を調べられる。だが、オレがいるから今回は顔パスだ」
「それは助かります」
前方にレイランドの外壁を捉えた状態で前へと進んでいく。
坂を下り終えてしばらくすると、門番のように二人組の衛兵がいた。
「ちょっと待ってろ」
「あっ、はい」
衛兵は牛車を見慣れないようで、訝しげな眼差しを向けていた。
しかし、ギュンターが声をかけると警戒を解いたように見えた。
「話をつけてきた。これで中に入れる」
「ありがとうございます」
先を行く牛車が街の中に入り、俺とギュンターも衛兵の前を通過して外壁の下を通った。
通行人の量は王都とそこまで大差ないといったふうだが、この世界では見たことがないような高さの建物がいくつか建っている。
「……ここまですごいとは」
「レイランドは国内有数の都市だ。よその国から来たなら驚くだろうな」
「まあ、そうですね」
俺はギュンターに答えつつ、この後のことを考えていた。
彼の話ではカールさんが悪者でモリウッド氏が被害者とのことだ。
それが本当ならば、当初のモリウッド氏を懲らしめるという目的は変更しなければならない。
むしろ、罰を受けるのはカールさんであるべきということになるのだ。
「まだ半信半疑のままですけど、モリウッド氏には会ってみたいと思います。もう少し情報があれば、カールさんが過ちを犯したのか判断できますから」
「はっ、過ちを犯したとは遠回しだな。あいつはお世話になったモリウッドさんに恩を仇で返した。本来なら何をされても仕方がない立場だ」
ここまでギュンターは落ちついていたのだが、今の彼からは怒りを感じる。
カールさんの行いに憤っていることは明らかだった。
作戦をそのままにするのなら、モリウッド氏にカールさんへの嫌がらせを翻意させなければならない。
しかし、カールさんがしたことが本当であれば、彼を連れていくことで危険が伴うのではないか。
これまでの旅でこんなふうにややこしい状況はなかったので、どのような立場を取るべきか決めかねている。
重たい気持ちになりながら街中を歩き始めたところで、ミズキが牛車を下りて近づいてきた。
「モリウッドって人、そんなにヤバいの? カールさんが牛車の隅で固まって、外を見ようともしないんだけど」
彼女はギュンターが話した内容を知らないため、不思議そうに思っているようだ。
このまま隠し続ける必要もないので、意を決して話してみることにした。
あとがき
お読み頂きありがとうございます。
エールも励みになっています。
長らく続いた本作も作者の中でエピローグを意識する段階に入りました。
ラストまで書き上げたいと思いますので、引き続きお付き合い頂けましたら幸いです。
カールさんがしていたことが事実であるならば、俺たちはだまされたことになる。
モリウッド氏に正当性があるのなら、非のない人を攻撃する可能性さえあった。
俺は牛車の後ろ側を見つめながら、レイランドへの道を歩いている。
移動再開後に会話があったのは最初だけで、ギュンターとの間に距離を感じる。
カールさんにだまされたとしても、彼の味方をしようとしていた俺たちを敵視しているのかもしれない。
しばらく無言のまま歩いたところで、ギュンターに質問をしてみることにした。
「……あなたはいかにもならず者といった雰囲気ですけど、モリウッド氏が悪人でないのなら、荒くれ者を雇ったりしませんよね」
そう問いかけると、ギュンターは少し驚いたような反応を見せた。
「何だって? 盗賊や強盗にでも見えるのか?」
「――えっ、違うんですか?」
再度質問を投げかけると、ギュンターはため息を吐いた。
「オレはモリウッドさんの店で働く料理人だ。それでさっき、黒髪の女にのされたのは部下だが……盗賊団に見えていたのなら心外だな」
「……料理人、なるほど」
思いがけない言葉に取ってつけたような返事をした。
盗賊団の方がしっくりくるとは言わない方がよさそうだ。
「レイランドには、モリウッドさんの系列店以外にも色んな店がある。競争は激しくなっていて、そこで料理を作る料理人も同じように競争にさらされているんだ」
つまり、荒波にも揉まれるうちに、ならず者のような荒っぽい感じになったということらしい。
それが冒険者なら説得があるわけだが、料理人をそこまで厳しい状況に追いやるとは過酷な競争が強いられるということなのだろうか。
あるいは同じ背景からカールが悪事に手を染めたことも考えられる。
「だいたいの事情は分かりました、百聞は一見に如かずらしいので、レイランドの街を目にすれば詳しい情報が手に入りそうです」
「なんだそれは、偉人の名言か?」
「百回聞くよりも実物を見た方が早いって意味です」
「そいつはそうだな。分かりきったことだ」
ギュンターに地球のことわざだと話しても混乱させるだけなので、適当にはぐらかしておいた。
彼はオレンジ色の短髪に鋭い眼差しと屈強な身体つきという、いかつそうな風貌だが、意外と物分かりがよい一面もあるようだ。
やがて道の先が下り坂になっており、牛車の下半分が見えなくなった。
そのままギュンターと並んで歩いていくと、坂を下りた平坦な道の先に街の入り口が目に入った。
「あの向こうがレイランド。入場許可は必要ないが他国から初めて訪れる場合、大抵は荷物や身柄を調べられる。だが、オレがいるから今回は顔パスだ」
「それは助かります」
前方にレイランドの外壁を捉えた状態で前へと進んでいく。
坂を下り終えてしばらくすると、門番のように二人組の衛兵がいた。
「ちょっと待ってろ」
「あっ、はい」
衛兵は牛車を見慣れないようで、訝しげな眼差しを向けていた。
しかし、ギュンターが声をかけると警戒を解いたように見えた。
「話をつけてきた。これで中に入れる」
「ありがとうございます」
先を行く牛車が街の中に入り、俺とギュンターも衛兵の前を通過して外壁の下を通った。
通行人の量は王都とそこまで大差ないといったふうだが、この世界では見たことがないような高さの建物がいくつか建っている。
「……ここまですごいとは」
「レイランドは国内有数の都市だ。よその国から来たなら驚くだろうな」
「まあ、そうですね」
俺はギュンターに答えつつ、この後のことを考えていた。
彼の話ではカールさんが悪者でモリウッド氏が被害者とのことだ。
それが本当ならば、当初のモリウッド氏を懲らしめるという目的は変更しなければならない。
むしろ、罰を受けるのはカールさんであるべきということになるのだ。
「まだ半信半疑のままですけど、モリウッド氏には会ってみたいと思います。もう少し情報があれば、カールさんが過ちを犯したのか判断できますから」
「はっ、過ちを犯したとは遠回しだな。あいつはお世話になったモリウッドさんに恩を仇で返した。本来なら何をされても仕方がない立場だ」
ここまでギュンターは落ちついていたのだが、今の彼からは怒りを感じる。
カールさんの行いに憤っていることは明らかだった。
作戦をそのままにするのなら、モリウッド氏にカールさんへの嫌がらせを翻意させなければならない。
しかし、カールさんがしたことが本当であれば、彼を連れていくことで危険が伴うのではないか。
これまでの旅でこんなふうにややこしい状況はなかったので、どのような立場を取るべきか決めかねている。
重たい気持ちになりながら街中を歩き始めたところで、ミズキが牛車を下りて近づいてきた。
「モリウッドって人、そんなにヤバいの? カールさんが牛車の隅で固まって、外を見ようともしないんだけど」
彼女はギュンターが話した内容を知らないため、不思議そうに思っているようだ。
このまま隠し続ける必要もないので、意を決して話してみることにした。
あとがき
お読み頂きありがとうございます。
エールも励みになっています。
長らく続いた本作も作者の中でエピローグを意識する段階に入りました。
ラストまで書き上げたいと思いますので、引き続きお付き合い頂けましたら幸いです。
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