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異世界の南国ヤルマ
南東の小国ヤルマに到着
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「いやー、お腹いっぱい」
南国そばの食堂を出たところで、ミズキがご機嫌に言った。
四人で食べた角煮の量はなかなかのものだった。
脂身もあるのでもたれそうなはずだが、この食堂の角煮は食べやすくて、ついつい箸が進んだわけである。
俺たちは食堂を離れて、道の脇に停まる牛車へと戻った。
水牛は地面にしゃがみこんで眠たそうにしていた。
「姫様、今から出発して、夕方にはヤルマへ着くと予定です」
「了解、出発していいよ」
「それでは、参ります」
御者台からアカネの声がして、牛車が動き出した。
いよいよヤルマが近づき、外の日差しは強くなっていた。
客車の幕を上げて風通しをよくしていても、中の温度は上昇している。
ミズキは平気なようだが、俺は暑さに慣れていなかった。
全身にじんわりと汗が浮かぶ。
「こんなこともあろうかと――はい!」
「ありがとうございます」
ミズキがうちわを取り出して、渡してくれた。
エアコンや扇風機の存在を知っていると高望みしそうなところだが、この状況で贅沢を言ってはいられない。
受け取ったうちわで風を送り、暑さが和らぐ感じがした。
「ミズキさん、魔王って本当にいるんですかね」
「それなんだけど、あたしも初耳でさ。サクラギ以外の国に行ったことがあるから、何となく伝承は聞いたことあるんだよね。まあでも、大半の人は昔話としか思ってないし、そんな存在が実在するなら、この世界を治めようとしそうじゃん」
あははっといった具合で、ミズキは魔王のことが半信半疑のようだ。
もしかしたら、ゼントクの与太話にすら思っている節もある。
「アデルはどうですか? 俺たちよりも詳しいように思います」
「うーん、どうかしら。魔王がいたとされるのは何百年も前な上に、どれも寓話めいた内容ばかりなのよ」
当然ながら魔王が信仰の対象だったことがあるわけもなく、必要がなければ忘れ去られているといったことなのだろうか。
俺自身、魔王が出てくる昔話はほとんど聞いたことがない。
「例えば、どんな内容ですか?」
「そうね、魔王の魔法で巨大な岩が削られて、それが一つの山になったとか」
「わあっ、スケールが大きい話だ」
ミズキが楽しそうに笑い声を上げた。
「だいたい民話はこんなものじゃない? ランスにもサクラギにも、魔王に限らず似たような話はあるはずよ」
アデルはミズキの反応を気にすることなく、平然とした様子で言った。
「サクラギの事情は知りませんけど、バラムでもそんな感じです。天を翔ける馬が空に輝く石ころをばら撒いて、それが星になったとか」
「へえ、ロマンがある話じゃん」
「えっ、さすがにありえないわよね」
ミズキが現実的なコメントをしたアデルをじっと見た。
「いやいや、それじゃあ夢がないよ」
「そう? ペガサスが実在すると思う?」
気心知れた仲ということもあり、二人は言い争うことはない。
じゃれ合う程度のノリで話している。
「数ある寓話や伝承の中で、たまたま魔王が実在したってことだと思います。ゼントクさんのとっておきみたいでもあるようですし」
「あたしは断片的に聞いたことはあるけど、具体的にヤルマにいるとは知らなかったな」
「それが本当に魔王なら隠居生活をしていて、目立たないようにしているはずよ。ゼントクが知っている理由までは分からないけれど」
「あたしも謎なんだよねー。お父さんが魔王と知り合いとかあるわけないし」
「「「うーん」」」
魔王に関する謎は深まるばかりだった。
ヤルマで現地調査を行えば、手がかりは掴めるだろうか。
窓から外を見れば、街道沿いには南国を思わせる植物が生えており、ヤルマが近づいていることを実感した。
水牛は復活したようで順調に進んでいる。
やがてどこからか波の音が聞こえて、遠くの方に砂浜が見えた。
夕方に差しかかる時間帯で、夕日の橙色が海面に広がっている。
「うわぁ、海だ―!」
ミズキも同じように気づいて、はしゃぐように声を上げた。
「なかなか海は見れないので、こうして波の音が聞こえると気分も変わりますね」
「みんなでガルフールのブルークラブを食べたのを思い出すわ」
「ははっ、トマトジュースとカニの姿蒸しでしたか。あれは予想外に美味しくて驚かされました」
アデルが楽しそうに話しているのを見て、うれしい気持ちになる。
彼女にはお世話になっているので、少しでも喜んでほしいものだ。
それからさらに進んだところで牛車が停まった。
「地図通りなら、ここがヤルマの入り口です」
御者台からアカネの声が聞こえた。
それに反応して、俺たちは客車から外に出た。
周囲には丸石を積み上げた石垣が続き、ところどころにハイビスカスの花が咲いている。
日が傾いて気温は下がっているものの、じっとりと湿った空気が肌に触れた。
「なるほど、ここがヤルマか」
発展を遂げているという雰囲気はないが、それなりに規模はあるようだ。
あちらこちらに南国そばの食堂と同じような構造の民家が建っている。
「今日の宿や夕食の店を探した方がいいわね」
「はい、そうですね」
アデルは楽しそうに見えるが、いつも通りに落ちついている。
彼女の言うように暗くなる前に見つけておいた方がいい。
「アカネさん、牛車で町中を移動できそうですか?」
「うむ、道幅も広い故、問題なかろう」
「それじゃあ、今日の宿と食事のできる店を探しましょう」
「承知した」
もう一度、牛車で移動をすることにした。
日没までにもう少し時間はありそうなので、明るいうちに見つけられるはずだ。
南国そばの食堂を出たところで、ミズキがご機嫌に言った。
四人で食べた角煮の量はなかなかのものだった。
脂身もあるのでもたれそうなはずだが、この食堂の角煮は食べやすくて、ついつい箸が進んだわけである。
俺たちは食堂を離れて、道の脇に停まる牛車へと戻った。
水牛は地面にしゃがみこんで眠たそうにしていた。
「姫様、今から出発して、夕方にはヤルマへ着くと予定です」
「了解、出発していいよ」
「それでは、参ります」
御者台からアカネの声がして、牛車が動き出した。
いよいよヤルマが近づき、外の日差しは強くなっていた。
客車の幕を上げて風通しをよくしていても、中の温度は上昇している。
ミズキは平気なようだが、俺は暑さに慣れていなかった。
全身にじんわりと汗が浮かぶ。
「こんなこともあろうかと――はい!」
「ありがとうございます」
ミズキがうちわを取り出して、渡してくれた。
エアコンや扇風機の存在を知っていると高望みしそうなところだが、この状況で贅沢を言ってはいられない。
受け取ったうちわで風を送り、暑さが和らぐ感じがした。
「ミズキさん、魔王って本当にいるんですかね」
「それなんだけど、あたしも初耳でさ。サクラギ以外の国に行ったことがあるから、何となく伝承は聞いたことあるんだよね。まあでも、大半の人は昔話としか思ってないし、そんな存在が実在するなら、この世界を治めようとしそうじゃん」
あははっといった具合で、ミズキは魔王のことが半信半疑のようだ。
もしかしたら、ゼントクの与太話にすら思っている節もある。
「アデルはどうですか? 俺たちよりも詳しいように思います」
「うーん、どうかしら。魔王がいたとされるのは何百年も前な上に、どれも寓話めいた内容ばかりなのよ」
当然ながら魔王が信仰の対象だったことがあるわけもなく、必要がなければ忘れ去られているといったことなのだろうか。
俺自身、魔王が出てくる昔話はほとんど聞いたことがない。
「例えば、どんな内容ですか?」
「そうね、魔王の魔法で巨大な岩が削られて、それが一つの山になったとか」
「わあっ、スケールが大きい話だ」
ミズキが楽しそうに笑い声を上げた。
「だいたい民話はこんなものじゃない? ランスにもサクラギにも、魔王に限らず似たような話はあるはずよ」
アデルはミズキの反応を気にすることなく、平然とした様子で言った。
「サクラギの事情は知りませんけど、バラムでもそんな感じです。天を翔ける馬が空に輝く石ころをばら撒いて、それが星になったとか」
「へえ、ロマンがある話じゃん」
「えっ、さすがにありえないわよね」
ミズキが現実的なコメントをしたアデルをじっと見た。
「いやいや、それじゃあ夢がないよ」
「そう? ペガサスが実在すると思う?」
気心知れた仲ということもあり、二人は言い争うことはない。
じゃれ合う程度のノリで話している。
「数ある寓話や伝承の中で、たまたま魔王が実在したってことだと思います。ゼントクさんのとっておきみたいでもあるようですし」
「あたしは断片的に聞いたことはあるけど、具体的にヤルマにいるとは知らなかったな」
「それが本当に魔王なら隠居生活をしていて、目立たないようにしているはずよ。ゼントクが知っている理由までは分からないけれど」
「あたしも謎なんだよねー。お父さんが魔王と知り合いとかあるわけないし」
「「「うーん」」」
魔王に関する謎は深まるばかりだった。
ヤルマで現地調査を行えば、手がかりは掴めるだろうか。
窓から外を見れば、街道沿いには南国を思わせる植物が生えており、ヤルマが近づいていることを実感した。
水牛は復活したようで順調に進んでいる。
やがてどこからか波の音が聞こえて、遠くの方に砂浜が見えた。
夕方に差しかかる時間帯で、夕日の橙色が海面に広がっている。
「うわぁ、海だ―!」
ミズキも同じように気づいて、はしゃぐように声を上げた。
「なかなか海は見れないので、こうして波の音が聞こえると気分も変わりますね」
「みんなでガルフールのブルークラブを食べたのを思い出すわ」
「ははっ、トマトジュースとカニの姿蒸しでしたか。あれは予想外に美味しくて驚かされました」
アデルが楽しそうに話しているのを見て、うれしい気持ちになる。
彼女にはお世話になっているので、少しでも喜んでほしいものだ。
それからさらに進んだところで牛車が停まった。
「地図通りなら、ここがヤルマの入り口です」
御者台からアカネの声が聞こえた。
それに反応して、俺たちは客車から外に出た。
周囲には丸石を積み上げた石垣が続き、ところどころにハイビスカスの花が咲いている。
日が傾いて気温は下がっているものの、じっとりと湿った空気が肌に触れた。
「なるほど、ここがヤルマか」
発展を遂げているという雰囲気はないが、それなりに規模はあるようだ。
あちらこちらに南国そばの食堂と同じような構造の民家が建っている。
「今日の宿や夕食の店を探した方がいいわね」
「はい、そうですね」
アデルは楽しそうに見えるが、いつも通りに落ちついている。
彼女の言うように暗くなる前に見つけておいた方がいい。
「アカネさん、牛車で町中を移動できそうですか?」
「うむ、道幅も広い故、問題なかろう」
「それじゃあ、今日の宿と食事のできる店を探しましょう」
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