異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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異世界の南国ヤルマ

謎の扉と少女の幻影

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「さてさて、どんな部屋だろ」

 主人が去った後、ミズキは一番手前の部屋に入った。
 アカネがミズキに続き、俺とアデルも足を踏み入れた。

「姫様、いかがですか?」

 自分が見つけてきた旅籠ということもあり、アカネはミズキが満足するのか気になるようだ。
 こういった場面を目の当たりにすると、二人が主従関係にあるのだと実感する。

「他の部屋も同じようなもんじゃない? あたしはここでいいよ」

「では、マルク殿、アデル殿。残りの三部屋から選びましょう」

 俺たちの意見は聞かれなかった気もするが、他の部屋が泊まれるような部屋ならば問題ないだろう。
 アデルはどこか心ここにあらずといった様子で、後回しになったことに抗議の意思を示していない。

「……大丈夫ですか?」

「え、ええ、清潔感はあるけれど、ひなびたところだなと思って」

 アデルはこちらの問いかけに答えつつも、適当に合わせたような返事だった。
 何かありそうな気もしつつ、その理由が思い当たらない。
 あまり問いただすようなことはすべきではないので、彼女が打ち明けるまでは待つことにしよう。

 それ以降はアカネも含めて部屋を確かめてみたが、ミズキの選んだ部屋と大差なかった。
 アカネの希望で彼女はミズキの隣の部屋になり、俺とアデルはその二部屋の向かいになった。
 
 その後は流れで各自休憩となり、部屋に荷物を置いて座椅子に腰かけた。
 座った状態のまま、部屋の様子に目を向ける。

「うーん、特に違和感はないよな」

 アデルの様子は気にかかるが、不審なものは目にしていない。
 この部屋も問題があるようには思えなかった。
 
「それにしても、立地は何とかならなかったのか」

 窓の外の少し先には竹林が広がっており、日光が少ない状況だと不気味な暗さがある。
 すぐ近くにミズキとアカネもいるので、そうそう危険なことはないはずだが。

 ――コンコン。

「うわっ!?」

 ぼんやりと考えをまとめているところで、扉をノックする音が聞こえた。
 急な出来事に心臓が止まるかと思った。

「はい、どうぞ」

「失礼します。夕食ができたらお呼びしますので、もうしばらくお待ちください」

「分かりました。お願いします」

 旅籠の主人はそれだけ伝えると部屋を出ていった。
 彼にも気になるようなところは見当たらない。

「……この旅籠に何かあるのか?」

 自問自答してみても、明確な答えは得られなかった。
 食事まで時間があるようなので、旅籠の中を散策することを思い立つ。

 俺は部屋を出て扉を閉めた。
 内側から施錠できるものの、外側に鍵穴はついていなかった。
 近くの部屋に仲間がいる状況で盗人が入るとは思えず、貴重品だけ身につけた状態で廊下を歩き始めた。

 帳場のある玄関とは反対方向に進む。
 俺の部屋の先も等間隔で扉があり、他の客室が続いている。
 客室が途切れたところで行き止まりではなく、通路が右に曲がっていた。

 ここも薄暗いせいか、何だか不気味に感じられた。
 しかし、短い距離では何も分からないので、もう少し奥へ進むことにする。
 
 角を曲がって少し歩いたところで、奥に扉が見えた。
 客室の扉とは異なり、金属製で重たそうなものだ。

「……こんな頑丈な扉が必要なのか」

 俺は訝しく思いつつも、扉の取っ手に手を伸ばす。

「――その先は立ち入り禁止」

「ひっ!?」

 後ろからどこか冷たさを感じる声が聞こえた。
 恐る恐る声のした方に顔を向けると、一人の少女が立っていた。
 
「あっ、ごめん。風呂場はどこか探してて」

「……そっちじゃない」

「うん、そうか。ありがとう」 
 
 こちらが感謝を伝えて少女を見た瞬間、声にならない悲鳴が漏れた。

「えっ、どこに消えた……」

 隠れる場所などないのに、彼女の姿が見当たらなかった。
 通路を引き返してみるが、どこにもそれらしき姿は見られない。
 寒気を感じて両腕をさすると、鳥肌が立っていることに気づく。 

「うん、とりあえず戻ろう」

 気のせいだと自分に言い聞かせて廊下を引き返す。
 あるいは薄暗くて見失っただけかもしれない。

 そのまま自分の部屋の前に戻った。
 中に入ろうと思いかけるが、一人は心細いことに気づく。
 
 ――さて、誰の部屋を訪ねよう?

 アデルは何か違和感を覚えていたこともあり、彼女のところに行くと今以上の恐怖に苛まれそうな気がする。
 ミズキならいつも明るいので、こんな時は彼女と話すのが無難だろう。

「……アカネの部屋を訪ねるのは違う意味で勇気がいるな」

 思わず、そんな独り言が口をついた。 
 
「――拙者が何か?」

「うわっ!?」

 俺は思わず後ろにのけぞり、勢い余って床に尻もちをついた。
 なかなかの衝撃で腰と背中に刺激を感じた。

「……あっ、痛てて」

「ふむ、手を貸そう」
 
 アカネがこちらに手を伸ばした。
 半袖の衣服を身につけているため、白く透明感のある素肌に目を奪われる。

「……これはどうも」

 彼女の手を取って立ち上がった。
 美しいその手からひんやりした冷たさを感じた。

「マルク殿、どこか様子が変だが?」

「いやその、さっき妙なものを見てしまって……」

 そこまで打ち解けているわけではないため、アカネに打ち明けることはためらわれた。
 しかし、彼女が頼りになりそうな気がして、何となく勢いで話してしまった。 

「むむっ、妙なものとは? 何かあるようならば姫様が夜を明かす場所にふさわしくない。その場所へ案内を頼みたい」

「ああっ、分かりました。こっちです」

 アカネは予想に反して反応がよく、積極的に関わろうとしている。
 俺は彼女を伴って、先ほどの扉へと向かった。
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