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和の国サクラギとミズキ姫
ヨツバ村の平和?な夜
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女子たちに半ば囲まれるような状態になりながら、先ほどの民家に戻ってきた。
特に集合場所を決めておらず、村内で分かりやすい場所はここだけだった。
俺が玄関に入って靴を脱ごうとすると、彼女たちも続けて中に入ってきた。
この調子ではちょっとやそっとのことでは、離れそうにない。
邪険にしないように注意しつつ、身ぶり手ぶりで離れるように伝える。
しかし、敵もさるもの。
その程度のことでは引き下がる様子はない。
ひとまず諦めて、先ほどの部屋へと向かう。
広間に入るとアデルやオウレン、リンドウたちの姿が見えた。
数人の村人はこちらに気づくと、丁寧にお辞儀をした。
「温泉はいかがでしたか?」
「あ、ああっ、とてもよかったです」
「うんっ? お前たち、本当にお客人に迫ったのか……やれやれ困ったもんだ」
オウレンは女子たちの存在に目をやり、呆れたような声を出した。
どうやら、彼が仕向けたわけではないようだ。
「だってだって、ヨツバ村みたいな田舎にいたら、こんな素敵な殿方に出会うなんてありえないもん」
「村長、もっと村を発展させてー」
彼女たちは居直るように声を上げた。
切実な内容にこちらの胸も詰まってしまう。
「まあまあ、お前たちの言い分も分からんでもないが、ここはわしの顔を立てておとなしくしてくれんか」
「そんなに婿が欲しいなら、城下町に行けって。父さん、下手に出る必要ないよ」
オウレンの言葉で丸く収まりそうだったが、リンドウが火に油を注ぐ発言をした。
女子たちは表情を一変させて、彼に食ってかかりそうな勢いになっている。
「ドラ息子、おめえ、もういっぺん言ってみろ!」
「村長に比べて影が薄いって言われてんの、知ってっか?」
俺は戸惑うばかりで、離れたところにいるアデルは面白いものを見るような目をしている。
村長は手をこまねくような様子になり、発端となったリンドウは平然としていた。
「こっちはな、そんなの慣れてるんだ。それよりいいのか、マルク様にお前らの本性を知ってもらえたんじゃないか」
痛烈な皮肉で返すんだなと思ったが、女子たちには効果的だったようだ。
彼女たちはもじもじとした態度になり、急におとなしくなった。
「これはその……冗談ですってばー」
「ドラむす……この男は村長の後継者なのに、礼儀知らずで困っちゃいますね」
ここが締め時と言わんばかりに、オウレンがすっと前に出た。
「もうその辺にしておけ。リンドウよ、村を治めるつもりがあるのなら、同じ村の人間への言葉は弁えろ。それとお前たち、火山の件が解決したことで、今後は村を出入りする者は増えるはずだ。そうなってから、好きなだけ婿候補を探すがいい」
「よっ、さすが村長!」
「村を治めてきた男は違うねー」
父の言葉にリンドウはおとなしく従った。
女子たちは婿候補という言葉に反応して、俺への照準を緩めたように見える。
「……これでいいのかな」
場の空気が落ちついたところで、広間に誰かの足音が近づいてきた。
「いやー、ヨツバ村の温泉は最高だね」
「姫様のお肌、いつもの数割増しでうつくしゅうございます」
「それにしても、お腹空いたなー。あっ、みんな集まってるね」
温泉帰りのミズキはのんきなことを言っている。
先ほどの光景を見てほしいものだ。
「ミズキ様、おかえりなさいませ。これから夕食をご用意しますので」
村長は機敏な動きで広間を出ていった。
彼に続くようにリンドウが後を追った。
「ふふっ、面白いものを見せてもらったわ」
休憩がてらアデルの近くで座布団に腰を下ろすと、彼女がニヤニヤしながら話しかけてきた。
彼女の言葉を借りるなら見せ物ではないのだが、一連の出来事がお気に召したようだ。
「いやまあ、悪気はないみたいなので……」
「ミズキはああ見えてまじめだから、あの子には見せられないわね」
「はあっ、そうなんですか」
ミズキのことはよく分からないが、女子たちのことは本人たちがいるため、言及するのは控えておいた。
それからアデルと世間話をするうちに、村人たちによって夕食が用意された。
今回は定食のような膳で玄米ご飯にみそ汁、シンプルな浅漬けに始まり、豆腐などの小鉢に加えて、主菜は何かの肉を漬け汁に浸して焼いたものだった。
俺たちが食べ始めようとしたところで、村長が料理の説明を始めた。
「本日はお疲れ様でした。村では祝いごとの席で振る舞われる、猪肉を焼いたものをご用意しました。ぜひ召し上がってください」
俺たちのために大事な肉を使ってくれたことに感無量だった。
この村にとってタンパク質は貴重なはずなのに。
俺は提供された料理をじっくり味わって食べた。
仲間たちもこの食事の重みに感じ入ったように、じっくりと味わっていた。
夕食が済んでからは村長や村人たちと酒を酌み交わし、夜も更けたところでお開きとなった。
村長は重圧から解放されたように羽を伸ばしており、ずいぶんとご機嫌になっている。
「これから、今晩の宿にご案内します。それにしても、こんなにいい気分でお酒を飲んだのはいつぐらいぶりか」
「楽しかったみたいでよかったです」
星がきらきらと輝く夜空の下、村長と俺たちは村の中を歩いていた。
旅先で心地いい酒席に出会えたような感じで、俺自身もいい気分になっている。
「ああもう、アカネは飲みすぎだよ。お酒は強くないのに」
「姫様、申し訳ありません……ぐふふっ」
アカネはミズキの肩を借りて歩いている。
何やら聞き捨てならない声が届いた気がするが、面倒なので放っておこう。
特に集合場所を決めておらず、村内で分かりやすい場所はここだけだった。
俺が玄関に入って靴を脱ごうとすると、彼女たちも続けて中に入ってきた。
この調子ではちょっとやそっとのことでは、離れそうにない。
邪険にしないように注意しつつ、身ぶり手ぶりで離れるように伝える。
しかし、敵もさるもの。
その程度のことでは引き下がる様子はない。
ひとまず諦めて、先ほどの部屋へと向かう。
広間に入るとアデルやオウレン、リンドウたちの姿が見えた。
数人の村人はこちらに気づくと、丁寧にお辞儀をした。
「温泉はいかがでしたか?」
「あ、ああっ、とてもよかったです」
「うんっ? お前たち、本当にお客人に迫ったのか……やれやれ困ったもんだ」
オウレンは女子たちの存在に目をやり、呆れたような声を出した。
どうやら、彼が仕向けたわけではないようだ。
「だってだって、ヨツバ村みたいな田舎にいたら、こんな素敵な殿方に出会うなんてありえないもん」
「村長、もっと村を発展させてー」
彼女たちは居直るように声を上げた。
切実な内容にこちらの胸も詰まってしまう。
「まあまあ、お前たちの言い分も分からんでもないが、ここはわしの顔を立てておとなしくしてくれんか」
「そんなに婿が欲しいなら、城下町に行けって。父さん、下手に出る必要ないよ」
オウレンの言葉で丸く収まりそうだったが、リンドウが火に油を注ぐ発言をした。
女子たちは表情を一変させて、彼に食ってかかりそうな勢いになっている。
「ドラ息子、おめえ、もういっぺん言ってみろ!」
「村長に比べて影が薄いって言われてんの、知ってっか?」
俺は戸惑うばかりで、離れたところにいるアデルは面白いものを見るような目をしている。
村長は手をこまねくような様子になり、発端となったリンドウは平然としていた。
「こっちはな、そんなの慣れてるんだ。それよりいいのか、マルク様にお前らの本性を知ってもらえたんじゃないか」
痛烈な皮肉で返すんだなと思ったが、女子たちには効果的だったようだ。
彼女たちはもじもじとした態度になり、急におとなしくなった。
「これはその……冗談ですってばー」
「ドラむす……この男は村長の後継者なのに、礼儀知らずで困っちゃいますね」
ここが締め時と言わんばかりに、オウレンがすっと前に出た。
「もうその辺にしておけ。リンドウよ、村を治めるつもりがあるのなら、同じ村の人間への言葉は弁えろ。それとお前たち、火山の件が解決したことで、今後は村を出入りする者は増えるはずだ。そうなってから、好きなだけ婿候補を探すがいい」
「よっ、さすが村長!」
「村を治めてきた男は違うねー」
父の言葉にリンドウはおとなしく従った。
女子たちは婿候補という言葉に反応して、俺への照準を緩めたように見える。
「……これでいいのかな」
場の空気が落ちついたところで、広間に誰かの足音が近づいてきた。
「いやー、ヨツバ村の温泉は最高だね」
「姫様のお肌、いつもの数割増しでうつくしゅうございます」
「それにしても、お腹空いたなー。あっ、みんな集まってるね」
温泉帰りのミズキはのんきなことを言っている。
先ほどの光景を見てほしいものだ。
「ミズキ様、おかえりなさいませ。これから夕食をご用意しますので」
村長は機敏な動きで広間を出ていった。
彼に続くようにリンドウが後を追った。
「ふふっ、面白いものを見せてもらったわ」
休憩がてらアデルの近くで座布団に腰を下ろすと、彼女がニヤニヤしながら話しかけてきた。
彼女の言葉を借りるなら見せ物ではないのだが、一連の出来事がお気に召したようだ。
「いやまあ、悪気はないみたいなので……」
「ミズキはああ見えてまじめだから、あの子には見せられないわね」
「はあっ、そうなんですか」
ミズキのことはよく分からないが、女子たちのことは本人たちがいるため、言及するのは控えておいた。
それからアデルと世間話をするうちに、村人たちによって夕食が用意された。
今回は定食のような膳で玄米ご飯にみそ汁、シンプルな浅漬けに始まり、豆腐などの小鉢に加えて、主菜は何かの肉を漬け汁に浸して焼いたものだった。
俺たちが食べ始めようとしたところで、村長が料理の説明を始めた。
「本日はお疲れ様でした。村では祝いごとの席で振る舞われる、猪肉を焼いたものをご用意しました。ぜひ召し上がってください」
俺たちのために大事な肉を使ってくれたことに感無量だった。
この村にとってタンパク質は貴重なはずなのに。
俺は提供された料理をじっくり味わって食べた。
仲間たちもこの食事の重みに感じ入ったように、じっくりと味わっていた。
夕食が済んでからは村長や村人たちと酒を酌み交わし、夜も更けたところでお開きとなった。
村長は重圧から解放されたように羽を伸ばしており、ずいぶんとご機嫌になっている。
「これから、今晩の宿にご案内します。それにしても、こんなにいい気分でお酒を飲んだのはいつぐらいぶりか」
「楽しかったみたいでよかったです」
星がきらきらと輝く夜空の下、村長と俺たちは村の中を歩いていた。
旅先で心地いい酒席に出会えたような感じで、俺自身もいい気分になっている。
「ああもう、アカネは飲みすぎだよ。お酒は強くないのに」
「姫様、申し訳ありません……ぐふふっ」
アカネはミズキの肩を借りて歩いている。
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