異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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和の国サクラギとミズキ姫

戦いの後の温泉

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「さっきの民家に荷物が置いてあるので、着替えを取りに行っていいです?」

「これは気が利かず申し訳ありません。まずはそちらに向かいましょう」

 俺とアデルはオウレンと共に民家へと向かった。
 それから先ほどの部屋に上がり、剣と装備を外して荷物にまとめた。
 汗をかいた服のままではすっきりしないので、着替え一式を手にして民家を出た。

「お待たせしました。それじゃあ、行きましょうか」

「いえいえ、お気になさらず」

 玄関の前で待つオウレンと合流して、温泉に案内してもらう。

「この村の規模で物資を要求されるのは大変だったわね」

 歩き出したところで、アデルが世間話のように切り出した。
 オウレンは彼女の言葉に二回ほど頷いた。

「手前どもに火山はどうしようもなく、猿人族に従うしかありませんでした。ゼントク様がお米や他の食料を支給してくださり、食いつなぐような状況で……。要求に応じた結果、村で収穫できた作物は半分以上が猿人族に奪われることになりました」

「そんなに要求されていたとは……。解決してよかったですね」

「はい、おかげさまで」

 オウレンは人がよさそうな男だが、その笑顔の裏に苦労が垣間見える気がした。

「それもミズキ様が解決されたので、今日からは枕を高くして眠れます」

「本当によかったです」

「ふふっ、気にかけて頂けて村の者たちも喜ぶでしょう」

 彼の自然な笑顔に和まされる。
 このように人の役に立つ方法もあるのだと実感した。

 村の中心を少し外れたところで、道の先に湯気が浮かぶのが見えた。
 どうやら、この方向に温泉があるようだ。

「手前味噌ですが、うちの温泉はなかなかのものでして。旅人からの評判がいいことは自慢できます。無事に温泉を運営できたのも、猿人族に攻めこまれなかったことが大きかったのですよ」

 温泉との距離が近づいてくると、特有の硫黄のような匂いが漂ってきた。
 バラム周辺ではくつろぎ温泉があるものの、あそこはスパリゾートのような印象が強い。
 ここは和風国家のサクラギなので、日本っぽい風情のある露天風呂に入れるのではないだろうか。

「評判がいいと聞いてしまうと期待が高まります」

「私も温泉は好きだから、早く入ってみたいわ」

「ちょうど今は空いている時間ですので、ゆるりとくつろいで頂けると思います」

「おおっ、それはありがたい!」

 わびさびのある温泉を独り占めできるなんて、なかなか体験できることではない。 
 時間をかけて遠くサクラギまで来た甲斐がある。
 
「温泉はあちらになります。手前はこの辺で失礼しますが、どうぞごゆっくり」

 オウレンはぺこりとお辞儀をして去っていった。 
 肝心の温泉だが、手前に小屋のようなものがあり、脱衣所になっているようだ。

「男女別みたいなので、入浴後に合流ということで」

「さっきのアイシクルで魔力を使ったはずだから、しっかり休むといいわ」

「そうですね、そうさせてもらいます」

 入り口のところから男女で分かれており、俺たちはそれぞれに足を踏み入れた。
 予想通り小屋の中は脱衣所で、地面にはすのこが敷かれている。
 着替えや衣服を入れられるように、竹を編んだカゴがいくつか用意されていた。

「……おっ、魔力灯の代わりは行灯か。なかなかに風情があるな」

 室内の片隅に設置されて、淡い明かりを放っている。
 真っ暗では服の脱ぎ着がおぼつかないので、ありがたい心遣いだ。
 それから入浴の準備が整ったところで、脱衣所から温泉へと移動した。 

 こちらはこちらでかがり火が焚かれて、十分な明るさがある。
 オウレンの話通りに男女別に分かれており、温泉の敷地を二分するように大きな仕切りが立っていた。

「これはいいな。この温泉を独り占めできる」

 俺は手桶でかけ湯をしてから、湯船へと足を伸ばした。
 白濁したお湯が温泉っぽさを感じさせて、何とも言えない気持ちになる。
 モルジュ村の温泉もよかったが、ここまで雰囲気のある温泉は初めてだ。 

 湯温はほどよい感じで、ゆっくりと肩まで浸かる。
 女湯の方は人の気配がなく、アデルはまだ浴場に来ていないようだ。 

「うーん、これはいいお湯だ」 

 彼女が教えてくれたが、溶岩を相殺するのに魔力の消費量が多くなった。
 魔法をたくさん行使するほど肉体疲労というかたちで現れるため、温泉に入るのは理想的なタイミングだろう。
 やがて、女湯の方にも人の気配がして、アデルも入浴を始めたようだった。

 彼女とは気の置けない仲ではあるはずだが、この状況で仕切り越しに声をかけるほど気軽な関係ではないと思う。
 それはどこか「日本人的な感覚」だと、もう一人の自分が告げている気もする。

「とりあえず、ゆっくり浸かるとしよう」

 アデルも同じことを考えたのか、湯船に入って浸かっているようだ。
 ふとそこで、女湯の方に意識を向けるのはどうなのかと気づき、注意を別のところに向けることにした。
 
 当然ながらここは露天風呂なので、屋根などはない。 
 頭上は開けていて夜空を見ることができた。
 ここからも星空を眺めることができ、満天の星が輝いている。

 最高の眺めで心が洗われるようだ。
 気持ちの問題かもしれないが、魔力の回復も早くなっているような。

 そんな調子で温泉を満喫していると、脱衣所の扉が開く音がした。
 村長は空いている時間だと言っていたが、誰か入浴に来たのだろう。

 あまり気に留めることはなかったが、少しして違和感に気づいた。
 風呂に入るのに服を着たままというのはどういうことか……。

「マルク様、お背中を流させてくださーい」

「ええっ!?」

 合計三名ほどの村の女子たちが近づいている。
 目的は言葉通りだと思うが、丸裸の俺は戸惑うばかりだった。
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