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和の国サクラギとミズキ姫
作戦前の夜空
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アカネの話が終わった後、村人たちが部屋に戻ってきた。
先ほどはリンドウとミズキの着替えを手伝った女たちだけだったが、男女共に人数が増えている。
「ミズキ様、ようこそお越しくださいました。村長のオウレンです」
「うん、久しぶり。今回は大変なことになったね」
「ヨツバの陳情を聞き入れてくださり、大変うれしゅうございます。立派に成長なされた姿を拝見できて……これならいつあの世に行っても悔いはありません」
「父さん、くたばるにはまだ早いだろう」
傍らに控えていたリンドウが苦笑気味に言った。
親子ということもあり、遠慮のない伝え方だった。
「こほん、失礼しました……ええ、こちらの部屋はご自由にお使いください。もう少し経ちましたら、夕食をご用意します」
「ありがとね。いつも猿人族に物資を納めないといけなかっただろうから、食事は簡単なものでいいから」
「お気遣い痛み入ります」
オウレンは徹頭徹尾、ミズキを敬う姿勢を崩さなかった。
息子のリンドウが同じような振る舞いだったことにも納得がいく。
「それでは、わたくしどもは失礼させて頂きます」
村人たちは俺たちに一礼してから、この場を後にした。
一気に十人近くの人数が去ったため、畳敷きの部屋が広く感じられた。
「そういえば、何か準備しておいた方がいいことはありますか?」
俺はミズキとアカネを交互に見てたずねた。
「うーん、あたしからは特にないけど。アカネは何かある?」
ミズキは首をかしげてから、アカネに話を振った。
「拙者は魔法について詳しくないが、現地で確実に魔法が使えるようにしてもらえればそれでけっこう。忘れることはないと思うが、マルク殿は護身用の剣を肌身離さぬように」
「それはもちろん。向こうで何があるか分かりませんからね。ちなみに、猿人族はどれぐらい危険なんですか?」
強い弱いは主観によると思い、危険という言い回しで問いかけた。
「非戦闘員もいるようだが、武装した者もそれなりにいる。現在は交渉を持ちかけるような状況ではあるものの、そうなる前は村を強襲して食料などを奪おうとした時代もあるそうだ」
「なるほど、それはちょっと凶暴ですね」
猿人族の脅威を想像できないままだったが、気を引き締めた方がいいだろう。
その後、アカネの提案で作戦を始めるまでにしっかりと休むことになった。
外に出歩くこともなく身体を休めていると、窓の外の様子で日暮れが近いことに気づいた。
するとそこへ、村人たちが食事を用意して訪れた。
「お身体が重たくならぬよう、質素な食事にさせて頂きました」
オウレンが一言前置きをして、順番に食事が配られた。
やはりミズキは別格の扱いのようで、最初に彼女の前に膳が置かれた。
この部屋の中央には囲炉裏があり、その四方には木製の枠が設置してある。
俺たちは四人でそこを囲むようなかたちで食べることになった。
食事を始める前に料理の内容を確かめる。
味つけのされた七草粥みたいなものと燻製にしたたくあん。
一人分ずつ用意された膳の上には箸とれんげがあり、それを手にして食べ始めた。
「うーん、美味しい。村のみんな、ありがとね」
こちらが粥を口に運んだところで、ミズキが明るい声を上げた。
もう少ししたら、戦いに赴く者とは思えないように元気がある。
「お口に合いましたか。おかわりもよかったら召し上がってください」
「――では、お願いしよう」
アカネがスパッと粥の入った容器を差し出した。
それをかしこまった様子の村人が手に取る。
なかなかの早さだが、ミズキに驚く様子は見られない。
おそらく、いつも通りのことなのだろう。
早食いないし大食いなことで、豊満な胸が維持されているのかもしれない。
そんなことを思いつつ、粥を二口目、三口目と味わう。
だしの利いた優しい口当たりで、熱すぎない温度に気遣いを感じた。
そば屋でも似たようなことを感じたが、しょうゆやだしの味はどこか落ちつく気分になることが印象に残る。
やがて全員が食事を終えて、食休みとなった。
もう少しすれば、火山への潜入が始まる。
アデルは戦闘専門ではないものの、くぐり抜けた場数が多いからなのか、あまり緊張しているようには見えなかった。
ミズキは気合いの入ったような充実した表情を見せつつ、気負っているようには見えない。
アカネは終始淡々とした様子で、いつ作戦が始まっても大丈夫そうな様子だ。
ちなみに俺はというと、いくらか緊張を覚えている。
魔法が苦手そうな相手となればこちらに大きな優位があり、アカネがいることも安心材料と言える。
その一方で猿人族という未知の亜人が相手であり、底知れぬ部分に気後れする部分もあった。
「……すいません。ちょっと外の風に当たってきます」
「マルク殿、もう少ししたらここを出る。気に留めておいてくれ」
アカネは腰を下ろしたまま、こちらを一瞥して言った。
「分かりました。そう長くはないと思うので」
彼女に言葉を返して、民家を出た。
日中はほどよい温かさだったが、日が沈むと気温が下がるようだ。
肌寒いほどではないものの、流れる空気が冷たく感じる。
城下町には魔力灯がなかったが、ここでも同じような状態だった。
等間隔でかがり火が焚かれて、夜間の照明代わりになっている。
待機していた民家の前を少しだけ歩いて、何げなく空を見上げる。
「おっ、こんなにきれいなのか」
バラム周辺も電光照明がないため、夜空の星はよく見える。
だが、ヨツバ村の上空はそれ以上に星々が輝いていた。
先ほどはリンドウとミズキの着替えを手伝った女たちだけだったが、男女共に人数が増えている。
「ミズキ様、ようこそお越しくださいました。村長のオウレンです」
「うん、久しぶり。今回は大変なことになったね」
「ヨツバの陳情を聞き入れてくださり、大変うれしゅうございます。立派に成長なされた姿を拝見できて……これならいつあの世に行っても悔いはありません」
「父さん、くたばるにはまだ早いだろう」
傍らに控えていたリンドウが苦笑気味に言った。
親子ということもあり、遠慮のない伝え方だった。
「こほん、失礼しました……ええ、こちらの部屋はご自由にお使いください。もう少し経ちましたら、夕食をご用意します」
「ありがとね。いつも猿人族に物資を納めないといけなかっただろうから、食事は簡単なものでいいから」
「お気遣い痛み入ります」
オウレンは徹頭徹尾、ミズキを敬う姿勢を崩さなかった。
息子のリンドウが同じような振る舞いだったことにも納得がいく。
「それでは、わたくしどもは失礼させて頂きます」
村人たちは俺たちに一礼してから、この場を後にした。
一気に十人近くの人数が去ったため、畳敷きの部屋が広く感じられた。
「そういえば、何か準備しておいた方がいいことはありますか?」
俺はミズキとアカネを交互に見てたずねた。
「うーん、あたしからは特にないけど。アカネは何かある?」
ミズキは首をかしげてから、アカネに話を振った。
「拙者は魔法について詳しくないが、現地で確実に魔法が使えるようにしてもらえればそれでけっこう。忘れることはないと思うが、マルク殿は護身用の剣を肌身離さぬように」
「それはもちろん。向こうで何があるか分かりませんからね。ちなみに、猿人族はどれぐらい危険なんですか?」
強い弱いは主観によると思い、危険という言い回しで問いかけた。
「非戦闘員もいるようだが、武装した者もそれなりにいる。現在は交渉を持ちかけるような状況ではあるものの、そうなる前は村を強襲して食料などを奪おうとした時代もあるそうだ」
「なるほど、それはちょっと凶暴ですね」
猿人族の脅威を想像できないままだったが、気を引き締めた方がいいだろう。
その後、アカネの提案で作戦を始めるまでにしっかりと休むことになった。
外に出歩くこともなく身体を休めていると、窓の外の様子で日暮れが近いことに気づいた。
するとそこへ、村人たちが食事を用意して訪れた。
「お身体が重たくならぬよう、質素な食事にさせて頂きました」
オウレンが一言前置きをして、順番に食事が配られた。
やはりミズキは別格の扱いのようで、最初に彼女の前に膳が置かれた。
この部屋の中央には囲炉裏があり、その四方には木製の枠が設置してある。
俺たちは四人でそこを囲むようなかたちで食べることになった。
食事を始める前に料理の内容を確かめる。
味つけのされた七草粥みたいなものと燻製にしたたくあん。
一人分ずつ用意された膳の上には箸とれんげがあり、それを手にして食べ始めた。
「うーん、美味しい。村のみんな、ありがとね」
こちらが粥を口に運んだところで、ミズキが明るい声を上げた。
もう少ししたら、戦いに赴く者とは思えないように元気がある。
「お口に合いましたか。おかわりもよかったら召し上がってください」
「――では、お願いしよう」
アカネがスパッと粥の入った容器を差し出した。
それをかしこまった様子の村人が手に取る。
なかなかの早さだが、ミズキに驚く様子は見られない。
おそらく、いつも通りのことなのだろう。
早食いないし大食いなことで、豊満な胸が維持されているのかもしれない。
そんなことを思いつつ、粥を二口目、三口目と味わう。
だしの利いた優しい口当たりで、熱すぎない温度に気遣いを感じた。
そば屋でも似たようなことを感じたが、しょうゆやだしの味はどこか落ちつく気分になることが印象に残る。
やがて全員が食事を終えて、食休みとなった。
もう少しすれば、火山への潜入が始まる。
アデルは戦闘専門ではないものの、くぐり抜けた場数が多いからなのか、あまり緊張しているようには見えなかった。
ミズキは気合いの入ったような充実した表情を見せつつ、気負っているようには見えない。
アカネは終始淡々とした様子で、いつ作戦が始まっても大丈夫そうな様子だ。
ちなみに俺はというと、いくらか緊張を覚えている。
魔法が苦手そうな相手となればこちらに大きな優位があり、アカネがいることも安心材料と言える。
その一方で猿人族という未知の亜人が相手であり、底知れぬ部分に気後れする部分もあった。
「……すいません。ちょっと外の風に当たってきます」
「マルク殿、もう少ししたらここを出る。気に留めておいてくれ」
アカネは腰を下ろしたまま、こちらを一瞥して言った。
「分かりました。そう長くはないと思うので」
彼女に言葉を返して、民家を出た。
日中はほどよい温かさだったが、日が沈むと気温が下がるようだ。
肌寒いほどではないものの、流れる空気が冷たく感じる。
城下町には魔力灯がなかったが、ここでも同じような状態だった。
等間隔でかがり火が焚かれて、夜間の照明代わりになっている。
待機していた民家の前を少しだけ歩いて、何げなく空を見上げる。
「おっ、こんなにきれいなのか」
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