異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
上 下
298 / 473
和の国サクラギとミズキ姫

和風な町を散策する

しおりを挟む
 遠くには輝くような緑の溢れる小高い山々。
 その手前には殿様が住んでいそうな城がそびえる。
 城下町の入り口に仰々しい門はなく、木製の外壁と通用門があるだけだ。

 ミズキは我が家に帰ってきたような気軽さで、牛車を城下町の方へと進めた。

「入るのに許可とかいらないんですか?」

 質問してみたものの、この国の姫に対して愚門だと思った。
 先ほど復活したばかりで本調子ではないことに気づく。

「誰でも大歓迎だから、許可はいらないよ。一応、門の近くには兵の誰かがいるんだけど……」

 彼女は会話もそこそこに、何かを探すように視線を左右に向けている。

「姫様、お戻りになられたのですね!」
 
 牛車の近くに誰かが近づいてきた。

 声の主に目を向けると、さわやかな雰囲気の青年だった。
 軽装とはいえ武装しており、兵の一人であることが分かる。
 長めの髪型とすらりとした体型で、異性から好かれそうな雰囲気だ。

「おおっ、ユッキー! 久しぶりじゃん、元気だった?」

 ユッキーと呼ばれた青年は笑みを浮かべて、ミズキへと言葉を返す。
 
「小生は特に変わりありません。ゼントク様のご統治のおかげで、サクラギは今日も平和です。姫様も変わらずご息災のようで、安心しました」

「はぁっ、おとんはどうせ『ミズキがいないと寂しいー』とか言ってたんでしょ」

「あのその……、それについてはノーコメントでお願いします」

 ユッキーはミズキと言葉を交わした後、こちらの存在に気がついた。
 俺と目が合い、彼はペコリと頭を下げた。

「姫様のご友人とお見受けしました。小生は城下町の見回りを担っているユキマルと申します。どうぞ、お見知りおきを」

 丁寧な言い回しをするユキマルに好感を覚えた。
 どう返すべきか考えた後、俺はおもむろに口を開いた。

「はじめまして、ランス王国のバラム出身のマルクといいます。よろしく」

「おれはハンクだ。冒険者をやってる」

 会話を聞きつけたようで、アデルとハンクが御者台の近くに来ていた。
 アデルはユキマルと面識があるようで、特に自己紹介をしなかった。

「皆様、長旅でお疲れでしょう。小生が牛車を移動させておきます。高価な品や金品があるようでしたら、携帯するようにしてください」

「ユッキー、ありがとう。それじゃあ頼むね」

 ミズキは御者台を素早く下りた後、水牛を何度か撫でた。

 俺も彼女に続いて牛車を下りる。
 地面の上に両足が着くと、土と砂の感触に安心感を覚えた。

「よっしゃ、サクラギの町を散策しようぜ」

 牛車から軽やかに着地したハンクが、明るい様子で言った。
 来る前から楽しみにしていたので、実際に来ることができて喜んでいるようだ。   
  
 四人とも牛車を下りたところで、ユキマルが御者台に乗りこんだ。
 水牛は慣れているのか、彼が乗っても抵抗することなく動き出した。

「では姫様、失礼します」

「はいはいー、また後でね」

 ユキマルはミズキに頭を下げると、手綱を握って牛車を移動させた。

「お昼ご飯には少し早いけど、今から食べに行かない?」

 牛車が離れたところで、ミズキが俺たちに提案した。

「俺はいいですよ。わりと空腹ですし」 

 昨日の食事は量こそ十分だったが、内容に偏りがあった。

「おれもいいぜ」

「私も賛成。地元の星、ミズキ様に案内してもらいましょう」

「何それ、ちょっと悪意がある言い方だね」

 アデルはミズキに突っかかるような態度だった。
 何となく理由は想像できる。

「ううん、全然気にしてないのよ。アンデッドが出るのを隠して、伝えなかったことなんて、全然気にしてないんだから」

「すんごく気にしてるじゃん。ああもう、悪かったよ。アデルに言ったら本気で迂回しろとか言い出しそうだから、伝えにくいんだよ」

 ミズキはふてくされるように言って、アデルに背中を向けた。

「まあまあ、ミズキさんはアデルが怖がらないようにと気遣ったみたいなので、ここは怒りを収めてください」

 サクラギに着いたばかりで、険悪な空気になってほしくない。
 ここに来ることができるのも限られた数だと思うので、せっかくの機会を満喫したいのだ。  

「やれやれ、仕方がないわね。大人げないって思われるのも癪だから、なかったことにしてあげるわ」

「俺もアンデッドが得意なわけではないので、気持ちは分かります」

「ミズキとハンクが平気なのがおかしいのよね、まったくもう」

 アデルは渋々といった様子だが、これ以上は引っ張ることはないようだ。

 女子二人の小競り合いが収まり、ホッと胸をなで下ろした。
 ミズキは天真爛漫なところもありつつ、身分の高さからくるような鼻っ柱の強さが端々に感じられる。
 それに加えてアデルも自己主張が強い方なので、状況次第で意見のすれ違いが起きそうだ。

「……二人はどんなきっかけで知り合ったんだろう」

 俺は素朴な疑問を抱きつつ、城下町を歩き出した。

 転生前、昔の日本を遺したままの町を見たことがある。
 目に入る民家や商店はそういった建物に似た造りをしている。
 地元民と思われる通行人たちは一様にいきいきとした表情をしており、この町あるいはこの国の状態がよいことを示すようだ。
 
 表面的に見れば和風という言葉が当てはまるのだが、彼らの服装は着物ということはなく、紋つき袴姿で歩くような偉い人もいない。
 ミズキが着ているような洋装に近い質素な服を着ている人が大半だ。

 郷愁と違和感を同時に抱くという不思議な感覚ではあるが、いつかの故郷を想いながら町を歩く。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

報酬を踏み倒されたので、この国に用はありません。

白水緑
ファンタジー
魔王を倒して報酬をもらって冒険者を引退しようとしたところ、支払いを踏み倒されたリラたち。 国に見切りを付けて、当てつけのように今度は魔族の味方につくことにする。 そこで出会った魔王の右腕、シルヴェストロと交友を深めて、互いの価値観を知っていくうちに、惹かれ合っていく。 そんな中、追っ手が迫り、本当に魔族の味方につくのかの判断を迫られる。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

処理中です...