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ダンジョンのフォアグラを求めて
モルネア王国の大都市
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崩壊寸前のベルンと異なり、モルネアの街道はある程度整備されていた。
ところどころに粗さが見られるので、作業の手が行き届かないのかもしれない。
関所を越えて街道沿いに移動を続けていると、少しずつ通行人が増えていた。
気温はランスよりも少し高く感じられて、簡素な服を着る人の姿が目につく。
馬に乗る者や馬車は少なく、俺たちのことを珍しそうに見てくる者もいる。
「最寄りの町はどんなところなんですか?」
「ムルカという大きな都市よ」
馬の速度は緩やかで、アデルと会話をできる距離で走っていた。
「モルネアにはムルカと別に王都があるけれど、ずいぶん遠くにあるから、今回は行く用事はないと思うわ」
「王都ってことは、モルネアは王国なんですね」
「あら、知らなかったの? 知名度の低い国だから、無理もないことかしらね」
三人の馬は群れのように、パカパカと同じ歩調で歩いている。
道の状態が多少改善されたと気づいた後、前方に城壁のような壁が目に入った。
物見の塔までついており、それなりにしっかりした造りのようだ。
「ほら、ムルカが見えてきたわ」
「おおっ、あの中が」
ランスの王都ほどではないが、外壁に囲まれた様子に迫力を感じる。
治安がいまいちな側面はあるとしても、それなりに発展しているようだ。
三人で道なりに進むと、街中への入り口が見えてきた。
通常の関所ほど厳重ではないようだが、見張りの衛兵が目を光らせている。
「許可証とかないですけど、自由に通れるもんですか?」
「怪しい人間が入らないか監視しているだけで、そういうものはいらないわね」
俺たちは街の手前で馬を下りて、手綱を引くかたちで歩いた。
通行人が多いので、馬の様子に注意しながら先へと進む。
「――おやっ、アデル殿ではないですか」
通用門に差しかかったところで、若い女の声が聞こえた。
アデルに一人の衛兵が近づいて、彼女に話しかけようとしている。
「ローサ、久しぶりね」
「今日はムルカに用事でしょうか?」
どうやら、衛兵の女はアデルと顔見知りのようだ。
鋭かった眼光はどこかへ消えて、親しい友人のような素振りを見せている。
「そこの二人とボードルア探しにね」
「それはそれは」
ローサがこちらに顔を向けたので、とりあえず会釈を返した。
「平和は保たれていますが、一部治安の悪い地区もあります。よろしければ、こちらで馬を預かります。街中の有料で預かるところでは、法外な価格を要求される懸念がありますので」
「それなら、お願いしようかしら」
「お二人もご遠慮なく」
ローサは人当たりがよく、快活な性格のようだ。
親しみを感じさせる表情を見せた後、近くの兵と協力して馬を預かってくれた。
「ムルカは雑多なところもありますが、人口が多く魅力的な街です。どうぞ、街の様子をお楽しみください」
「馬のことは助かったわ。それじゃあ、行くわね」
俺たちは通用門を通りすぎて、街の方へと歩いた。
ランスの王都では色んな材質を組み合わせた建物が多く見られるのだが、ここでは石材一択のようで色合いも単調に見える。
経済的な要素が影響しているのか分からないが、見映えよりも実用性を優先しているような印象を受けた。
通用門を離れて歩いていると、徐々に色んな店が増えてきた。
軒先で香辛料を売る店、見たことがない食材が並ぶ店。
中にはこれはどうやって料理するのか、そもそも食べられるのかと疑問に思うようなものが置いてある店まである。
「――あそこにボードルアが売っているわ」
「えっ、どれですか?」
アデルの言葉に視線を左右させた。
彼女が指差している先に気づいて、その方向をじっと見やる。
「あっ、あれが……」
小型のアンコウといった感じの魚が鮮魚を扱う露店に置かれている。
すでに締めてあるようで、動き出す様子は見られない。
「うーん、あの大きさだとフォアグラは取れないわね」
「へえ、もっと大きくなるんだ」
アデルは横目で眺めた後、店の前を通過した。
ムルカについて詳しくないため、まずは彼女について歩くつもりだった。
「あれ、あっちの方は何やら盛り上がってますね」
通りの向こうに何かの施設があり、人だかりができている。
「たしかあそこは……チキンレースの会場だったかしら」
「えっ、そんなものがあるんですか?」
「まだまだ時間はあるから、見に行ってもいいわよ」
俺たちは通りから横道に方向転換して移動した。
人だかりの向こうに屋外型のスタジアムみたいな建物があり、そこでレースが行われているようだ。
中の模様は人だかりで見ることができないが、疾走する鶏の絵が描かれた看板のおかげで、文字通りのことが行われていると分かる。
「ほう、こいつは面白そうだな」
ハンクが前に身を乗り出して言った。
少年のように目を輝かせているように見える。
「こういうのに興味があるんですね」
「この盛り上がりと、手に汗握る勝負なんて、男のロマンじゃねえか!」
「ま、まあ、そういう考え方も一理あると思います」
万能に近いSランク冒険者にも、意外な弱点があると知った。
この感じだと、実際に賭けると言い出しかねない雰囲気だ。
「ハンクが興味あるなら、しばらく覗いていけば? 適当に街を散策してるから」
「おう、そうだな。それで頼む」
「俺も街の様子を見たいので、別行動にします」
お金は持たない主義の彼でも、人たらしスキルを発動して軍資金を得るのだろう。
Sランク冒険者を止めることは色んな意味で難しい。
会場近くを離れて振り返ると、真剣な眼差しでレースを見つめる姿があった。
ところどころに粗さが見られるので、作業の手が行き届かないのかもしれない。
関所を越えて街道沿いに移動を続けていると、少しずつ通行人が増えていた。
気温はランスよりも少し高く感じられて、簡素な服を着る人の姿が目につく。
馬に乗る者や馬車は少なく、俺たちのことを珍しそうに見てくる者もいる。
「最寄りの町はどんなところなんですか?」
「ムルカという大きな都市よ」
馬の速度は緩やかで、アデルと会話をできる距離で走っていた。
「モルネアにはムルカと別に王都があるけれど、ずいぶん遠くにあるから、今回は行く用事はないと思うわ」
「王都ってことは、モルネアは王国なんですね」
「あら、知らなかったの? 知名度の低い国だから、無理もないことかしらね」
三人の馬は群れのように、パカパカと同じ歩調で歩いている。
道の状態が多少改善されたと気づいた後、前方に城壁のような壁が目に入った。
物見の塔までついており、それなりにしっかりした造りのようだ。
「ほら、ムルカが見えてきたわ」
「おおっ、あの中が」
ランスの王都ほどではないが、外壁に囲まれた様子に迫力を感じる。
治安がいまいちな側面はあるとしても、それなりに発展しているようだ。
三人で道なりに進むと、街中への入り口が見えてきた。
通常の関所ほど厳重ではないようだが、見張りの衛兵が目を光らせている。
「許可証とかないですけど、自由に通れるもんですか?」
「怪しい人間が入らないか監視しているだけで、そういうものはいらないわね」
俺たちは街の手前で馬を下りて、手綱を引くかたちで歩いた。
通行人が多いので、馬の様子に注意しながら先へと進む。
「――おやっ、アデル殿ではないですか」
通用門に差しかかったところで、若い女の声が聞こえた。
アデルに一人の衛兵が近づいて、彼女に話しかけようとしている。
「ローサ、久しぶりね」
「今日はムルカに用事でしょうか?」
どうやら、衛兵の女はアデルと顔見知りのようだ。
鋭かった眼光はどこかへ消えて、親しい友人のような素振りを見せている。
「そこの二人とボードルア探しにね」
「それはそれは」
ローサがこちらに顔を向けたので、とりあえず会釈を返した。
「平和は保たれていますが、一部治安の悪い地区もあります。よろしければ、こちらで馬を預かります。街中の有料で預かるところでは、法外な価格を要求される懸念がありますので」
「それなら、お願いしようかしら」
「お二人もご遠慮なく」
ローサは人当たりがよく、快活な性格のようだ。
親しみを感じさせる表情を見せた後、近くの兵と協力して馬を預かってくれた。
「ムルカは雑多なところもありますが、人口が多く魅力的な街です。どうぞ、街の様子をお楽しみください」
「馬のことは助かったわ。それじゃあ、行くわね」
俺たちは通用門を通りすぎて、街の方へと歩いた。
ランスの王都では色んな材質を組み合わせた建物が多く見られるのだが、ここでは石材一択のようで色合いも単調に見える。
経済的な要素が影響しているのか分からないが、見映えよりも実用性を優先しているような印象を受けた。
通用門を離れて歩いていると、徐々に色んな店が増えてきた。
軒先で香辛料を売る店、見たことがない食材が並ぶ店。
中にはこれはどうやって料理するのか、そもそも食べられるのかと疑問に思うようなものが置いてある店まである。
「――あそこにボードルアが売っているわ」
「えっ、どれですか?」
アデルの言葉に視線を左右させた。
彼女が指差している先に気づいて、その方向をじっと見やる。
「あっ、あれが……」
小型のアンコウといった感じの魚が鮮魚を扱う露店に置かれている。
すでに締めてあるようで、動き出す様子は見られない。
「うーん、あの大きさだとフォアグラは取れないわね」
「へえ、もっと大きくなるんだ」
アデルは横目で眺めた後、店の前を通過した。
ムルカについて詳しくないため、まずは彼女について歩くつもりだった。
「あれ、あっちの方は何やら盛り上がってますね」
通りの向こうに何かの施設があり、人だかりができている。
「たしかあそこは……チキンレースの会場だったかしら」
「えっ、そんなものがあるんですか?」
「まだまだ時間はあるから、見に行ってもいいわよ」
俺たちは通りから横道に方向転換して移動した。
人だかりの向こうに屋外型のスタジアムみたいな建物があり、そこでレースが行われているようだ。
中の模様は人だかりで見ることができないが、疾走する鶏の絵が描かれた看板のおかげで、文字通りのことが行われていると分かる。
「ほう、こいつは面白そうだな」
ハンクが前に身を乗り出して言った。
少年のように目を輝かせているように見える。
「こういうのに興味があるんですね」
「この盛り上がりと、手に汗握る勝負なんて、男のロマンじゃねえか!」
「ま、まあ、そういう考え方も一理あると思います」
万能に近いSランク冒険者にも、意外な弱点があると知った。
この感じだと、実際に賭けると言い出しかねない雰囲気だ。
「ハンクが興味あるなら、しばらく覗いていけば? 適当に街を散策してるから」
「おう、そうだな。それで頼む」
「俺も街の様子を見たいので、別行動にします」
お金は持たない主義の彼でも、人たらしスキルを発動して軍資金を得るのだろう。
Sランク冒険者を止めることは色んな意味で難しい。
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