異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
上 下
262 / 473
トリュフともふもふ

マルクとパメラの真骨頂

しおりを挟む
 俺とパメラが経験を基に選ばれたように、ホールの給仕係も地元の経験者から二人が選ばれている。
 具体的には食堂で給仕を経験した人たちと説明を受けており、事前に町長とやりとりする際に顔合わせを済ませていた。

 調理の手順を再確認しつつ助手の人たちを気にかけていると、ホールから注文表を手にした給仕係がやってきた。
 位置的にパメラの方が近く、彼女が注文内容を聞きに行った。

「――パンとパスタ、それぞれ三つずつです。パスタの方が時間がかかるので、ソテーはマルクさんにお任せします」

「はい、了解です」

 注文が入った後、調理場の空気が一変するのを感じた。
 ほどよい緊張感が漂い、俺たちの意欲を反映するように活気が出てきた。

「すみません。指示をお願いします」

「クレマンさんは人数分の野菜のカットを、ベランさんは食器のセットをお願いします。ポタージュは直前に用意するので、まだ入れないでください」

 簡単な手順は説明してあったが、実際に動くとなると具体的に伝えなければならない。
 助手の二人に指示を出した後、自分の作業に取りかかった。

「まずはバゲットを切るか」

 包丁置き場から専用の包丁を手に取り、バゲットに刃を滑らせる。
 事前に切っておくと乾燥してしまうため、その都度切り分ける必要がある。

 人数分の枚数を用意できたところで、簡易冷蔵庫からペーストを取り出した。
 チーズを使っているため、冷えたことで少し固まっている。
 先の平らな木べらで混ぜ直して、柔らかくしてからバゲットに乗せていく。

 トリュフを使っているからといって、量をケチるわけにはいかない。
 今日はプレオープンだとしても、今後の稼働では高単価になるはずだ。
 お客の期待に応えるためには、適度なボリューム感を出す必要がある。

「よしっ、こんなところか」

 アフタヌーンティーに合いそうな上品な仕上がりになった。
 満足できる完成度に自然と表情が緩む。
  
「手が空いた方、ここの三皿は出せるのでお願いします」

「はい!」

 返事が聞こえたところで、ソテーを作るために少し移動する。
 まな板の近くには切り終えたホウレンソウがボールに入っていた。

「うん、すぐに使えるな」

 仕事ぶりを疑うわけではないが、自分で準備していない以上、確認は必要だった。
 砂や汚れは洗い流してあり、きれいに等間隔に切ってある。

 火力の保たれたかまどの上にフライパンを乗せて、オリーブオイルを引く。
 他の三つの料理で乳製品が入っているため、この料理にバターは使わない。

 先に火の通りにくい根の近くを軽く炒めてから、葉っぱの部分を投入する。
 今回のメニューの中で、ソテーは口休め的な位置づけにある。
 そのため、塩コショウのみのシンプルな味つけにすると決めていた。

「ソテー完成しました。先にパンの方、三名様分を出します」

「はい!」

 ソテーの盛りつけを始めたところで、手が空いていたベランさんがポタージュを容器に注いでくれている。
 こうして、俺が担当したパンの方はセットが完了した。

「こっちは揃ったので、出してください」

「はい、承知しました」

 給仕係の一人は調理場から見える位置に立っており、料理の完成を伝えるとすぐに近づいてきた。

「ポタージュが熱いので、出す時に一言添えてもらえますか」

「お任せください」

 運びやすいように一名分ずつトレー乗せてある。
 給仕係は慎重な動作で、それを手にしてホールに歩いていった。

「よしっ、こっちは完了だな」

 料理の提供はこちらの領分ではなく、係の人に任せるしかない。
 パメラが調理の途中のはずなので、彼女のフォローに入ることにした。

「パンの方は終わりましたけど、何か残ってますか?」

「パスタがもう少しで完成するので、トリュフの盛りつけをお願いします」

 作業が立てこんでおり、パメラはいつもより早口だった。
 それでも、感情の乱れは感じさせず、平常心で取り組んでいるようだ。
 調理台に用意された白トリュフと、試作の時にはなかった専用のカッターを手にしてパスタの完成を待つ。

 少しの時間が経過して、作りたてのパスタが次々と用意された。
 俺はそこにトリュフを削って盛りつけていく。
 
「――うん、いい香りだ」

 パスタからはバターのまろやかで濃厚な匂いが漂い、トリュフからは上品な香りが広がっている。
 俺がトリュフを削っていると、パメラがポタージュをよそって運んできた。
 同時にクレマンさんがソテーの皿をセットしてくれている。

「パスタ、完成しました。提供をお願いします」

 トレーに人数分の用意ができたところで、パメラがよく通る声で言った。
 すぐに給仕係がやってきて、トレーを一つずつ運んでいった。
 全てのトレーがホールに出て行くのを見送ると、言葉では言い表せないような達成感がこみ上げた。

「ふぅ、連携が上手くいって一安心です」

 最初に声を上げたのはパメラだった。
 助手の二人は彼女の言葉に頷いている。

「最大で三テーブル、各四人だとして、十二人までは連続で入る――今の倍ってことですね。さっきみたいに動ければ、何とかなりそうじゃないですか」

「クレマンさんとベランさんの動きもよかったですが、マルクさんが率先して動いてくれたおかげで順調でした。本番の営業でもお願いしますね」

「はい、もちろんです。あと俺も助手のお二人に助けてもらいました。ありがとうございます」

 二人とも助手という立場を考慮しているのか、あまり自己主張はせず、謙虚な姿勢で微笑みを浮かべている。
 俺はともかく、パメラは今やバラム屈指の名店のオーナーだ。
 一歩引いた接し方になったとしても、自然な反応だと思った。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

処理中です...