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トリュフともふもふ

プレオープンと慣れない調理場

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 町長の意識が高いこともあり、トリュフ料理の計画は着々と進んでいった。
 俺もパメラも自分の店があるため、頻繁に準備に顔を出すことはできず、あれよあれよという間にプレオープンの日を迎えた。

 現地の調理場に一通りの調理器具は用意されていると聞いたので、自分の店からは使い慣れた包丁だけ持参することにした。
 プレオープンの日はランチタイムということだったので、それに合わせて午前中に店へと向かった。

 正面の入り口から中に足を運ぶと、すでにテーブルと椅子の設置は済んでおり、いつでも営業できる状態だった。
 完成を祝うためなのか、村の関係者の姿がちらほらと目に入る。

「おはよう、マルクくん」

「おはようございます」

 町長に声をかけられて、思わずかしこまった態度であいさつをした。

「いよいよ、ここまでこぎ着けたよ。あとは料理人次第だ。よろしく頼む」

「はい」

 町長は笑顔でこちらの肩を叩いて去っていった。

 時間に余裕はあるものの、調理場を確認しておいた方がいいだろう。
 町の関係者の相手は町長に任せて、自分のやるべきことに備えておこう。

 ホールから調理場へ移動すると、白いシャツの上にエプロンを身につけた。
 作業の妨げにならない場所に荷物を置いて、持参した包丁を取り出す。
 
「お客の対応があるか読めないけど、清潔感はあった方がいいよな」

 近くに姿見はないので、目視で汚れやしわがないかを確認する。
 それが済んでから、調理器具の位置や食材の在庫を見て回った。

「ほとんど打ち合わせ通りに用意があるし、これなら数量に問題はないか」

 どうやら、俺が一番乗りだったようで、一人で確認するかたちになっている。
 来るのが早すぎたかと思いかけたところで、助手担当と思われる地元の人たちがやってきた。

 彼らと簡単なあいさつを終えると、今度はパメラがやってきた。
 彼女はそそくさと身なりを整えてから、まっすぐにこちらへ近づいた。
 
「お待たせしましたー。自分のお店に時間がかかってしまって」

 パメラは申し訳なさそうな表情を見せた。
 金色の長い髪を一つに束ねて、白いブラウスにエプロンを身につけている。 
 メイド服では動きにくそうなので、今日はいつもと異なる服装だった。

「在庫確認をしてただけなので、時間は大丈夫ですよ」

「そうでしたか。足りないものはなさそうですか?」

「大丈夫だと思います。こちらが事前に伝えた通りに用意してあります」

「お手伝いの皆さんとの顔合わせが初めてなのと、マルクさんと一緒に調理場で動くのも初めてですね」

 パメラは周囲を気遣う性格のため、不安を露わにしなかったが、緊張の色を読み取ることができた。

「できれば、もう少し下準備ができたらよかったですけど、この店の規模ならどうにかなりそうな気もします」

 俺の店もパメラの店も、普段はここよりも回転率が高い。
 幸いなことにトリュフ料理を出す高級志向であるため、質を求められることがあるとしても、数をこなすようになるとは考えにくい。

「マルクさんの落ちつきぶりを見ていたら、気持ちが落ちついてきました」

「そうですか? 大したことはしてませんよ」

「まあ、こんな時でも自然体なのですね」

 パメラは少し驚いた後、愉快そうに笑顔を見せた。
 それに影響されて、思わず笑ってしまった。
 俺と彼女の笑い声が調理場に響いた。
 
「あははっ、話を逸らしてしまいましたね。食事の下ごしらえを始めましょう」

「はい、そうですね」

 俺たちは二人で作業を分担して、それぞれに動き始めた。
 助手の人たちには調理器具や食器の配置を覚えてもらうのと、提供予定のメニューを把握する時間に充ててもらうようにした。

 ちなみにパメラとは息が合うようで、慣れない中でもやりづらい感じはなかった。

「――マルクさん、私の方は準備が完了しました」

「すいません、こっちはもう少しでペーストが出来上がるところです」

 注文ごとに作っていては時間がかかりすぎるため、ペーストは作り置きするかたちで準備をしている。
 先にジャガイモのポタージュを作ったことで、思ったよりも予定が押していた。

「時間はまだ大丈夫ですので、焦らないでくださいね」

「はい、ありがとうございます」

 パメラのさりげないフォローがありがたかった。
 ペーストはメインの一つなので、味つけをいい加減にはできない。

「……ちょっとだけコクが足りないか」

 完成形に近いのだが、味を確かめながらハチミツを少しずつ足していく。
 用意された材料はどれも質が高く、分量さえ上手くいけば完成度も高くなる。
 それと、トリュフを何度も味見できるのは役得であることに気がついた。

「……よしっ、これで十分だ。パメラさん、こっちもオッケーです」

「それでは、ホールの様子を見に行きますね」

「お願いします」

 今日は予行練習とお披露目を兼ねている。
 バラムを含めたランス王国の文化として、王都の式典でもない限りは時間を厳守するような傾向は見られない。
 この後の流れも何となく始まると予想していた。

「余裕を持って準備したし、よっぽど大丈夫だよな」

 最後にもう一度、ペーストの味を確かめたところでパメラが戻ってきた。

「今からホール担当の方が注文を取り始めるそうです」

「分かりました。もうすぐ始まるってことですね」

 助手の人たちは普通の町民なので、町長たちに料理を出すことに緊張を覚えているように見えた。

「複雑な手順はないですし、今日はそこまで数も出ないので、気楽にいきましょう」

「「はい!」」

 適度な緊張感と初顔合わせではあるものの、わりといい雰囲気に感じる。
 これならプレオープンはどうにかなりそうだと思った。
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