259 / 465
トリュフともふもふ
美食家直伝のポタージュ
しおりを挟む
アデルから材料の説明があったところでジャガイモがないことが分かり、近くの青果店まで足を運ぶことになった。
買い出しから調理場に戻ると、彼女はすぐに下ごしらえを始めた。
大きめの鍋が火にかけられて、沸騰する前にジャガイモが投入された。
「ジャガイモが茹で上がるまで待機なので、俺の出番はなさそうですね」
「実際に提供する時はどうなるか分からないけれど、今回は私が完成させるわよ」
「エルフの村の時もそうでしたけど、料理をしないわけじゃないんですね」
半ば冗談交じりでアデルに伝えると、彼女は驚いたような顔を見せた。
「美味しい料理が好きなだけで、自分で作らないわけではないのよ」
「ちょっと失礼な言い方でしたね。すいません」
「いいわ、気にしてないから」
実年齢がそこそこ上だからなのか、アデルは妹のエステルほど怒りを露わにすることは少ない。
ちなみに年齢については禁句のようで、逆鱗に触れる要素の一つである。
「そろそろ、お湯から出すわね」
アデルはお玉のような調理器具を使って、鍋の中から別の容器にジャガイモを移した。
煮立ったお湯に浸かっていたので、ジャガイモからは湯気が上がっている。
「その鍋を次の工程で使うから、使えるようにしておいて」
「了解です」
俺は洗い場を借りて、熱々の鍋を使えるように洗浄した。
アデルの方に目を向けると、すりこぎ棒のようなものでジャガイモを潰している。
「さあ、できたわ。そっちの鍋はいいわよね」
「はい、使えます」
アデルはこちらの返事を聞いた後、パメラに何かを確認して戻ってきた。
「牛乳を加熱して、そこに潰したジャガイモを入れるわ」
彼女は鍋に牛乳を入れた後、かまどの火で温め始めた。
続けて先ほどのジャガイモを投入して、順番に調味料を加えていく。
「すでに牛乳は入れましたけど、その白いのは何ですか?」
「これは生クリームよ。パメラの店みたいにケーキを作る店じゃないと置いてなかったでしょうね」
「なるほど、ポタージュにコクを出すってことか」
「これでほぼ完成よ。手持ち無沙汰なら、使用済みの道具を片づけておいて」
「はい、分かりました」
アデルの言うように料理は完成が近づいている。
パメラの負担を減らすためにも、早めに片づけておいた方がいい。
残りの作業はアデルに任せて、食器洗いをすることにした。
テーブルに並んだ食器をまとめて、洗い場へと移動する。
ちょうど、パメラの店の従業員が何かを洗っているところだった。
「あっ、こっちで洗っちゃうので、そこに置いといてください!」
「すいません、いいんですか?」
「その量なら大したことないので。それにわたし、焼肉屋によく行くんですよ。あそこの店主さんの役に立ちたいんです」
若い女の従業員はそう言って、はつらつとした笑顔を見せた。
「本当に助かります。それじゃあ、お願いしますね」
「はい! 任せてください」
彼女の明るさに元気をもらった気がした。
経営者のパメラだけでなく、気持ちのいい従業員もいるのなら、この店はこれからも繁盛するだろうと思った。
洗い場の脇に食器を置いて戻ると、アデルが仕上げの作業に入っていた。
「作業は順調でしたし、手際がいいですね」
「まあね。もうすぐ完成するわよ」
生クリームの入っていたカップは空になっており、彼女は味見を始めている。
味を確かめる時の真剣な表情に、美食家としての気配が垣間見えた。
「これで完成だと思うけれど、マルクも味見してくれる?」
「もちろんです」
アデルに渡された小皿は彼女も使ったもので、普通に間接キスな気がした。
あまり動揺してしまっても気を悪くさせかねないので、何ごともない態度を装って、ポタージュの味見を始めた。
「……あれ、バラムのジャガイモって、こんな味になるんですね」
牛乳と生クリームの濃さはあるのだが、味つけはあっさりとして飲みやすい。
その中に芋の風味も残っていて、素材を活かした味だと実感させられる。
「うんうん、その顔は合格点ってところね。素材がいいから、まずく作る方が難しいけれど、上手くいってよかったわ」
「当たり前に使ってたんですけど、バラムの乳製品や野菜って質がいいんですね」
「水がいいのはもちろんのこと、丁寧な仕事ぶりの人が多いから、自然と品質がよくなるんじゃないかしら」
「いつも肉のことばかり考えていたので、新しい発見でした」
本音を吐露したところで、アデルは楽しそうに笑い声を上げた。
ポタージュの味見を終えて話していると、調理場にパメラがやってきた。
「仕事にキリがついたので、覗きに来ちゃいました。何だかいい匂いがします」
「場所と材料を提供してもらったから、あなたには味見程度じゃ失礼よね」
アデルはスープカップを用意して、完成したポタージュを注いだ。
彼女が手渡そうとすると、パメラはうれしそうに微笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。美食家様の料理が食べられるなんて夢のようです」
「そんなよしてよ。そこまで手がかかる料理じゃないんだから」
「うふふっ、ではいただきますね」
パメラはスープカップを傾けて、ポタージュを口に含んだ。
「うんっ、美味しいです」
「二人の感想を聞く限り、これでよさそうね」
「大丈夫だと思いますよ」
アデルは無事に完成したことに満足そうな様子だった。
「複雑な料理ではないけれど、レシピを書いておくわね」
彼女はパメラに筆記具を借りて、ポタージュの調理法を書き始めた。
買い出しから調理場に戻ると、彼女はすぐに下ごしらえを始めた。
大きめの鍋が火にかけられて、沸騰する前にジャガイモが投入された。
「ジャガイモが茹で上がるまで待機なので、俺の出番はなさそうですね」
「実際に提供する時はどうなるか分からないけれど、今回は私が完成させるわよ」
「エルフの村の時もそうでしたけど、料理をしないわけじゃないんですね」
半ば冗談交じりでアデルに伝えると、彼女は驚いたような顔を見せた。
「美味しい料理が好きなだけで、自分で作らないわけではないのよ」
「ちょっと失礼な言い方でしたね。すいません」
「いいわ、気にしてないから」
実年齢がそこそこ上だからなのか、アデルは妹のエステルほど怒りを露わにすることは少ない。
ちなみに年齢については禁句のようで、逆鱗に触れる要素の一つである。
「そろそろ、お湯から出すわね」
アデルはお玉のような調理器具を使って、鍋の中から別の容器にジャガイモを移した。
煮立ったお湯に浸かっていたので、ジャガイモからは湯気が上がっている。
「その鍋を次の工程で使うから、使えるようにしておいて」
「了解です」
俺は洗い場を借りて、熱々の鍋を使えるように洗浄した。
アデルの方に目を向けると、すりこぎ棒のようなものでジャガイモを潰している。
「さあ、できたわ。そっちの鍋はいいわよね」
「はい、使えます」
アデルはこちらの返事を聞いた後、パメラに何かを確認して戻ってきた。
「牛乳を加熱して、そこに潰したジャガイモを入れるわ」
彼女は鍋に牛乳を入れた後、かまどの火で温め始めた。
続けて先ほどのジャガイモを投入して、順番に調味料を加えていく。
「すでに牛乳は入れましたけど、その白いのは何ですか?」
「これは生クリームよ。パメラの店みたいにケーキを作る店じゃないと置いてなかったでしょうね」
「なるほど、ポタージュにコクを出すってことか」
「これでほぼ完成よ。手持ち無沙汰なら、使用済みの道具を片づけておいて」
「はい、分かりました」
アデルの言うように料理は完成が近づいている。
パメラの負担を減らすためにも、早めに片づけておいた方がいい。
残りの作業はアデルに任せて、食器洗いをすることにした。
テーブルに並んだ食器をまとめて、洗い場へと移動する。
ちょうど、パメラの店の従業員が何かを洗っているところだった。
「あっ、こっちで洗っちゃうので、そこに置いといてください!」
「すいません、いいんですか?」
「その量なら大したことないので。それにわたし、焼肉屋によく行くんですよ。あそこの店主さんの役に立ちたいんです」
若い女の従業員はそう言って、はつらつとした笑顔を見せた。
「本当に助かります。それじゃあ、お願いしますね」
「はい! 任せてください」
彼女の明るさに元気をもらった気がした。
経営者のパメラだけでなく、気持ちのいい従業員もいるのなら、この店はこれからも繁盛するだろうと思った。
洗い場の脇に食器を置いて戻ると、アデルが仕上げの作業に入っていた。
「作業は順調でしたし、手際がいいですね」
「まあね。もうすぐ完成するわよ」
生クリームの入っていたカップは空になっており、彼女は味見を始めている。
味を確かめる時の真剣な表情に、美食家としての気配が垣間見えた。
「これで完成だと思うけれど、マルクも味見してくれる?」
「もちろんです」
アデルに渡された小皿は彼女も使ったもので、普通に間接キスな気がした。
あまり動揺してしまっても気を悪くさせかねないので、何ごともない態度を装って、ポタージュの味見を始めた。
「……あれ、バラムのジャガイモって、こんな味になるんですね」
牛乳と生クリームの濃さはあるのだが、味つけはあっさりとして飲みやすい。
その中に芋の風味も残っていて、素材を活かした味だと実感させられる。
「うんうん、その顔は合格点ってところね。素材がいいから、まずく作る方が難しいけれど、上手くいってよかったわ」
「当たり前に使ってたんですけど、バラムの乳製品や野菜って質がいいんですね」
「水がいいのはもちろんのこと、丁寧な仕事ぶりの人が多いから、自然と品質がよくなるんじゃないかしら」
「いつも肉のことばかり考えていたので、新しい発見でした」
本音を吐露したところで、アデルは楽しそうに笑い声を上げた。
ポタージュの味見を終えて話していると、調理場にパメラがやってきた。
「仕事にキリがついたので、覗きに来ちゃいました。何だかいい匂いがします」
「場所と材料を提供してもらったから、あなたには味見程度じゃ失礼よね」
アデルはスープカップを用意して、完成したポタージュを注いだ。
彼女が手渡そうとすると、パメラはうれしそうに微笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。美食家様の料理が食べられるなんて夢のようです」
「そんなよしてよ。そこまで手がかかる料理じゃないんだから」
「うふふっ、ではいただきますね」
パメラはスープカップを傾けて、ポタージュを口に含んだ。
「うんっ、美味しいです」
「二人の感想を聞く限り、これでよさそうね」
「大丈夫だと思いますよ」
アデルは無事に完成したことに満足そうな様子だった。
「複雑な料理ではないけれど、レシピを書いておくわね」
彼女はパメラに筆記具を借りて、ポタージュの調理法を書き始めた。
3
お気に入りに追加
3,290
あなたにおすすめの小説
底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。
運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。
憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。
異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ
トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!?
自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。
果たして雅は独りで生きていけるのか!?
実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています
~まるまる 町ごと ほのぼの 異世界生活~
クラゲ散歩
ファンタジー
よく 1人か2人で 異世界に召喚や転生者とか 本やゲームにあるけど、実際どうなのよ・・・
それに 町ごとってあり?
みんな仲良く 町ごと クリーン国に転移してきた話。
夢の中 白猫?の人物も出てきます。
。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる