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トリュフともふもふ

試作品のトリュフペースト

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「材料を選びたいので、ここの冷蔵庫を開けても大丈夫ですか?」

「はい、どうぞ」

「では、失礼します」

 パメラの店も焼肉屋と同じように氷で冷やすかたちの簡易冷蔵庫を使っている。
 取っ手を引いて中を見ると、色々な食材が目に入った。

「さっき作ってもらったのはパスタなので、何か違うものを作りたいんですよね」

「私は構いませんので、ゆっくり考えてください」

「あっ、すいません。ありがとうございます」

 パメラに返事を返しつつ、食材の組み合わせを考える。
 次第に少しずつアイデアが固まるような感じがした。

 先に食べたパスタはバターベースなので、バター以外を使いたいところだ。
 そうなると、チーズを合わせてみるといいかもしれない。
  
 俺はチーズの入った容器を手に取り、簡易冷蔵庫のドアを閉めた。

「塩と黒コショウ、それにハチミツを借りれますか?」

「はい、お待ちください」

 パメラは素早い動きで用意してくれた。

「ありがとうございます。材料は決まったので、今から作ってみます」

「完成が楽しみです」

「あと、調理場の道具を借りますね」

 彼女に声をかけてから、調理を開始した。

 まずは包丁で可能な限り、白トリュフを刻んでいく。
 細かく砕けたホワイトチョコのようなそれを容器に移した。
 同じようにチーズも刻んで、同じ容器に入れる。 

 続いてその中に少量の塩と黒コショウを振りかける。
 それを容器の中で和えた後、適量のハチミツを垂らす。
 最後にハチミツが行き渡るように混ぜたところで完成だ。

 ――名づけて、トリュフのチーズペースト。

 調理の途中で確認したいことがあり、パメラに声をかける。

「ここのバゲットを使って大丈夫です?」 

「今日の余りで明日使う予定ですが、お好きにどうぞ」

「助かります」

 今度はバゲットを一枚ずつ切り分ける。
 ペーストの味がぼやけてしまわないように、厚さは控えめにしておいた。
 丸型の白い皿にバゲットを並べて、その上にペーストを盛りつける。
 
「まあ、素敵なお料理ですね」

「パン、チーズ、ハチミツは定番の組み合わせなので、そこに主役のトリュフを混ぜることを思いつきました。さあ、食べてみてください」

「では、いただきます」

 パメラが一つ目を口に運んでから、こちらも完成したものを食べてみた。
 普段の食事よりも口の中の感覚に注意して顎を動かす。

 バゲットの食感としっとりしたペーストの相性は狙い通りだった。
 トリュフの香りと他の素材が組み合わさり、まろやかな味わいになっている。
 黒コショウが適度なアクセントになり、甘みや香りを引き立てていた。

「これ、すごいです! お店で出したいほどです」

「そこまで褒めてもらえると思いませんでした。自分でも納得のいく味に仕上がったので、この料理も合格ということでいいですか?」

「ええ、採用してもいいでしょう」

 パメラの言葉を聞いて、思わず両手を握りしめた。
 焼肉以外のことで評価されるのはうれしいものだ。

「これで、パスタとパンは決まりましたけど、もう少し脇を固めたいところです。仲間に高級な料理に詳しい人がいるので、あとは彼女の力を借りようと思います」

「お気遣いありがとうございます。時間に余裕がある時でしたら、今日のようにお手伝いできるので、遠慮なく声をかけてください」

「バターベースのパスタ、本当に美味しかったです。パメラさんのセンスなら、お店が繁盛するのも分かる気がします」

 賞賛の言葉を向けると、パメラは照れくさそうな顔を見せた。
 彼女の経営や料理に対するひたむきな姿を見ていると、同業者として尊敬する気持ちが自然と芽生えていた。
 
「一つ、お願いしてもよいでしょうか?」

「ここまで協力してもらったので、何でも聞きますよ」

「正式に料理が決まったら、食後のお茶を選ばせてください。トリュフの料理に合うものをご用意します」

 パメラは遠慮がちに言った。
 彼女の自己主張は珍しく感じられて、微笑ましい気持ちになる。

「そこまでしてもらえると、すごく助かります。ワインぐらいは考えてましたけど、アルコールが苦手な人もいるはずですし、パメラさんが手伝ってくれるなら、きっといいお茶が用意できると思います」

「マルクさんは褒め上手なのですね。自分の存在が認められているようで、あなたといると幸せな気持ちになります」

「ははっ、そうですか」

 真面目な性格ならではの言い回しだと思うが、こちらの方が恥ずかしくなった。
 彼女と顔を合わせたのはわずかなので、恋愛的な意味ではないとは思う。 

「あっ、食器を洗っちゃいますね」

 さりげない感じで、今の話題から離脱した。
 俺は使い終わった食器や調理器具をまとめて、洗い場に移していった。
 
 二人で試食用に作っただけなので、食器洗いはすぐに済んだ。
 それから、俺とパメラは店内のテーブル席の椅子に腰を下ろした。

「今日は新鮮な経験ができました。誰かと一緒に料理を作るのは楽しいものですね」

「それならよかったです。俺も有意義な時間になって助かりました」

 俺は椅子から立ち上がり、店の入り口に歩いていった。
  
「いつでもいらしてくださいね。歓迎します」 

「今度はお茶を飲みに来るかもしれません」

 にこやかな表情のパメラに見送られながら、彼女の店を後にした。
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