253 / 473
トリュフともふもふ
待望のトリュフ発見
しおりを挟む
ハンクが掘った穴がある程度の深さになったところで、再びエディが鼻を突っこんで何かを始めた。
「おっ、なんだ」
「トリュフが近いかもですね」
エディは首から先を入れた状態で、こちらからは匂いを嗅いでいるように見える。
それから、ハンクに対してこっちを掘れと言わんばかりに鼻先で示した。
まるで、助手というよりもトリュフ探しのリーダーのような態度だった。
「エディの中ではおれたちは子分みたいなものかもな」
「飼い主不在で、リーダーシップを発揮しようとしている気もします」
エディの指示が出た後、ハンクが掘る作業を再開した。
そして、すぐに彼の驚くような声が聞こえた。
「見つけた、これはトリュフじゃねえか」
「すごい!」
ハンクは上半身を起こすと、エディの鼻先に近づけた。
すると、尻尾を上下左右に振って、これがトリュフだと全身で示した。
目を見開いて、じっと見つめている。
「どうやら、これみたいだな」
「トリュフって、白いんですね」
転生前にテレビで見たことがある程度で、トリュフに関して詳しいわけではない。
知識が不足しているため、黒トリュフのイメージしかなかった。
「見た目はだいたいこんな感じだったぜ。エディの飼い主に見せてもらったからな」
ハンクにしては皮肉めいた言い方で、珍しいこともあるもんだと思った。
おそらく見せただけで、食べさせてはくれなかったのだろう。
「――ワンワン!」
「一つ目は掘れましたけど、どうかしたんですかね」
エディが何かを見つけたように吠えた。
先ほどに続いて、ここ掘れワンワンの気配がしている。
「次は掘ってみるか?」
「はい、やらせてください」
ハンクから道具を受け取り、エディが前足で掘り始めた地点に近づいた。
周りを落ち葉で覆われた木の根元――その下にトリュフがあるようだ。
エディは聡明な犬とはいえ、邪魔したら噛みつかれそうなので、気の済むまで掘らせることにした。
やがて一定の深さになったところで、「新入り、さっさと続きを掘りな」と言わんばかりに文字通り顎で使われた。
「完全に分業制ですね」
「犬とは思えない賢さだな」
俺とハンクは改めてエディの振る舞いに感心した。
地面に膝をついて掘り始めると、土が粘土質で思ったよりも手間がかかる。
ハンクはこれを手際よく行っていたので、手先が器用なのだと再認識した。
「ハンクが持ってきたのが小ぶりのスコップでよかったです。大きなシャベルだとトリュフごと削るところでした」
「それはエディの飼い主のアドバイスだ。最初はよく分からなくて、つるはしを持ってくるつもりだったんだ」
「それはそれでトリュフに刺さりそうですね」
俺自身、ハンクのことを笑えるわけではない。
トリュフを掘ることについて初めてで、右も左も分からないのだから。
粘っこい土に苦戦しながら掘り進めていると、途中からハンクが手伝ってくれた。
コツを教わりながら穴が深くなったところで、エディが突入してきた。
俺とハンクでは漠然と穴があるようにしか見えないが、エディはトリュフの位置を探り当てることができるようだ。
「そろそろ、トリュフが近そうなので慎重にいきます」
「ああっ、頼んだ」
スコップを持つ手に汗がにじむ。
転生前に山芋掘りをした時もこんな感じだったかもしれない。
時間をかけて土をどけていくと、うっすらと白いシルエットが見えてきた。
ハンクからナイフを受け取って、木の根との接続部を切断する。
「やった、トリュフが採れた!」
「おっ、さっきよりも少し大きいな」
きれいな球体というわけではないが、その形状から間違いないと思った。
エディに確認させるまでもなく、自分の鼻で匂いを確かめてみる。
「……スライスしないとそこまで匂いはしないんですね」
記憶にあるマツタケの香りとも違うが、上品な香りがすることだけは分かる。
転生する前も後も庶民なのだから、そこまでの判別はできかねることだった。
「マルク、穴が二つもできちまったから、まずは埋め直すか」
「そうですね。それがいいと思います」
俺とハンクはそれぞれが掘った穴を埋めることにした。
左右に盛られた土を両手で戻していく。
「こっちは終わったぜ」
「俺の方はあと少しです」
作業を進めていると、ハンクが声をかけてきた。
「なあ、エディは意味のない動きをするように思えないんだが」
彼の言葉を聞き流しつつ、手を動かし続けた。
エディの様子は気になるところだが、まずは埋め直すことを優先した。
「――お待たせしました。エディがどうかしましたか?」
「さっきからぐるぐる回ってる」
ハンクのバックパックを地面に下ろして、そこにリードを固定しているのだが、そこを中心として周りの木々の匂いを嗅いでいる。
「トリュフがありそうな雰囲気だから、少し様子を見るとするか」
「分かりました。気になる動きですね」
俺は近くの木に背中を預けて、立ったままエディの観察を続けた。
エディを見ていると匂いを嗅いでから、少しだけ地面を掘る場合と通過する場合の二択であることに気づいた。
今回がトリュフ掘り初挑戦のため、その動きが何を意味するか分からなかった。
――いや、正確には予想できたものの、想像したことがそうであると認めがたいため、意識から除外していた。
「……なあ、マルク」
「はい、何でしょう」
「エディが掘ってるところ、全部からトリュフが採れるなんてことはないよな」
「ははっ、そんなまさか……」
俺たちが話していると、もう何ヶ所目か分からないような穴を掘ったエディがこちらに歩いてきた。
どこか満足げに尻尾を大きく振っている。
「ワンッ!」
「……エディはおれの考えが分かるのか」
「……たぶん、俺も同じことを考えてます」
エディはトリュフの目印として、たくさんの穴を掘っていたのだと理解した。
「おっ、なんだ」
「トリュフが近いかもですね」
エディは首から先を入れた状態で、こちらからは匂いを嗅いでいるように見える。
それから、ハンクに対してこっちを掘れと言わんばかりに鼻先で示した。
まるで、助手というよりもトリュフ探しのリーダーのような態度だった。
「エディの中ではおれたちは子分みたいなものかもな」
「飼い主不在で、リーダーシップを発揮しようとしている気もします」
エディの指示が出た後、ハンクが掘る作業を再開した。
そして、すぐに彼の驚くような声が聞こえた。
「見つけた、これはトリュフじゃねえか」
「すごい!」
ハンクは上半身を起こすと、エディの鼻先に近づけた。
すると、尻尾を上下左右に振って、これがトリュフだと全身で示した。
目を見開いて、じっと見つめている。
「どうやら、これみたいだな」
「トリュフって、白いんですね」
転生前にテレビで見たことがある程度で、トリュフに関して詳しいわけではない。
知識が不足しているため、黒トリュフのイメージしかなかった。
「見た目はだいたいこんな感じだったぜ。エディの飼い主に見せてもらったからな」
ハンクにしては皮肉めいた言い方で、珍しいこともあるもんだと思った。
おそらく見せただけで、食べさせてはくれなかったのだろう。
「――ワンワン!」
「一つ目は掘れましたけど、どうかしたんですかね」
エディが何かを見つけたように吠えた。
先ほどに続いて、ここ掘れワンワンの気配がしている。
「次は掘ってみるか?」
「はい、やらせてください」
ハンクから道具を受け取り、エディが前足で掘り始めた地点に近づいた。
周りを落ち葉で覆われた木の根元――その下にトリュフがあるようだ。
エディは聡明な犬とはいえ、邪魔したら噛みつかれそうなので、気の済むまで掘らせることにした。
やがて一定の深さになったところで、「新入り、さっさと続きを掘りな」と言わんばかりに文字通り顎で使われた。
「完全に分業制ですね」
「犬とは思えない賢さだな」
俺とハンクは改めてエディの振る舞いに感心した。
地面に膝をついて掘り始めると、土が粘土質で思ったよりも手間がかかる。
ハンクはこれを手際よく行っていたので、手先が器用なのだと再認識した。
「ハンクが持ってきたのが小ぶりのスコップでよかったです。大きなシャベルだとトリュフごと削るところでした」
「それはエディの飼い主のアドバイスだ。最初はよく分からなくて、つるはしを持ってくるつもりだったんだ」
「それはそれでトリュフに刺さりそうですね」
俺自身、ハンクのことを笑えるわけではない。
トリュフを掘ることについて初めてで、右も左も分からないのだから。
粘っこい土に苦戦しながら掘り進めていると、途中からハンクが手伝ってくれた。
コツを教わりながら穴が深くなったところで、エディが突入してきた。
俺とハンクでは漠然と穴があるようにしか見えないが、エディはトリュフの位置を探り当てることができるようだ。
「そろそろ、トリュフが近そうなので慎重にいきます」
「ああっ、頼んだ」
スコップを持つ手に汗がにじむ。
転生前に山芋掘りをした時もこんな感じだったかもしれない。
時間をかけて土をどけていくと、うっすらと白いシルエットが見えてきた。
ハンクからナイフを受け取って、木の根との接続部を切断する。
「やった、トリュフが採れた!」
「おっ、さっきよりも少し大きいな」
きれいな球体というわけではないが、その形状から間違いないと思った。
エディに確認させるまでもなく、自分の鼻で匂いを確かめてみる。
「……スライスしないとそこまで匂いはしないんですね」
記憶にあるマツタケの香りとも違うが、上品な香りがすることだけは分かる。
転生する前も後も庶民なのだから、そこまでの判別はできかねることだった。
「マルク、穴が二つもできちまったから、まずは埋め直すか」
「そうですね。それがいいと思います」
俺とハンクはそれぞれが掘った穴を埋めることにした。
左右に盛られた土を両手で戻していく。
「こっちは終わったぜ」
「俺の方はあと少しです」
作業を進めていると、ハンクが声をかけてきた。
「なあ、エディは意味のない動きをするように思えないんだが」
彼の言葉を聞き流しつつ、手を動かし続けた。
エディの様子は気になるところだが、まずは埋め直すことを優先した。
「――お待たせしました。エディがどうかしましたか?」
「さっきからぐるぐる回ってる」
ハンクのバックパックを地面に下ろして、そこにリードを固定しているのだが、そこを中心として周りの木々の匂いを嗅いでいる。
「トリュフがありそうな雰囲気だから、少し様子を見るとするか」
「分かりました。気になる動きですね」
俺は近くの木に背中を預けて、立ったままエディの観察を続けた。
エディを見ていると匂いを嗅いでから、少しだけ地面を掘る場合と通過する場合の二択であることに気づいた。
今回がトリュフ掘り初挑戦のため、その動きが何を意味するか分からなかった。
――いや、正確には予想できたものの、想像したことがそうであると認めがたいため、意識から除外していた。
「……なあ、マルク」
「はい、何でしょう」
「エディが掘ってるところ、全部からトリュフが採れるなんてことはないよな」
「ははっ、そんなまさか……」
俺たちが話していると、もう何ヶ所目か分からないような穴を掘ったエディがこちらに歩いてきた。
どこか満足げに尻尾を大きく振っている。
「ワンッ!」
「……エディはおれの考えが分かるのか」
「……たぶん、俺も同じことを考えてます」
エディはトリュフの目印として、たくさんの穴を掘っていたのだと理解した。
14
お気に入りに追加
3,381
あなたにおすすめの小説

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる