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クレイフィッシュの誘惑
旬の味とガストンの報告
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「じゃあ、そろそろクレイフィッシュを食べさせてもらいます」
「はい、どうぞ。おかわりは遠慮なく」
ガストンはこちらへの気遣いを見せた後、漁師たちの集いに移動した。
今、目の前の皿に焼き上がったクレイフィッシュが乗っている。
「では、いただきますっと」
食器は用意されているが、アデルを真似てかぶりついてみる。
ほくほくしたエビの味がして、ほどよい塩加減を感じた。
殻は頑丈なため、身だけを吸い出すように食べる。
「これはすごく美味しい」
「いやー、来た甲斐があったぜ」
俺とハンクの口からは感嘆の響きが漏れていたが、アデルは静かだった。
カニを食べるのに夢中で無言の人みたいになっている。
「おかわりは頂けるかしら」
「はい、すぐに用意します」
細身の身体のどこに吸収されているのだろうか。
もしや、魔力に変換されているのではと考えてしまいそうなほど、彼女は体格に見合わない量を平らげることがある。
「マルク、お前も身体を張ったんだから、遠慮せずに食べようぜ」
「そうですね。今が旬みたいですし、もう少し」
キンキンとまではいかないが、冷えたエールとクレイフィッシュの網焼きはいい組み合わせだった。
舌鼓を打つことに満たされるような感覚がある。
しかも、目の前がデール湖というロケーションも最高だった。
一匹分のクレイフィッシュを完食したところで、漁師たちの焼き台に向かった。
クレイフィッシュは美味しいのだが、食べているうちに飽きそうになった。
「マルクさん、どうしました?」
「焼き魚を少し分けてもらえますか」
「もちろんです。クロダイが焼き上がったところなので、よかったらどうぞ」
「ありがとうございます」
ガストンはザ・焼き魚といった見た目のクロダイを皿に乗せてくれた。
箸でもあれば食べやすいのだが、ここではフォークで身をほぐして食べる。
「これもいいですね。脂が乗っていて、ほとんど臭みがない」
「デール湖は水がいいので、魚の味も最高なんですよ」
「すぐ近くに湖があって、好きな時に食べられるのはいいですね」
こちらがそう伝えると、誇らしげにガストンは微笑んだ。
「お三方とも楽しんで頂けているようで何よりです」
「地元の町はこんなに水産は盛んではないですし、きれいな湖もないので、今回は来れてよかったと思います」
「そうですか。何もないところですが、そんなふうに言って頂けるのはうれしいもんです」
海の男――ここの場合は湖の男になるかもしれないが、ガストンは漁師頭という立場もあってか、接しやすい人柄で好感の持てる人だと思った。
その後もエールとデール湖の地魚を味わいつつ、楽しい時間をすごした。
夕方になる前に集まりは解散になり、ガストンが改まって声をかけてきた。
「お三方、今回は本当にありがとうございました。聞いて頂きたいことがありまして、少しよろしいですか?」
「俺は大丈夫ですけど」
「おれも問題ねえよ」
「私も聞かせてもらうわ」
俺たちの承諾が取れると、ガストンはホッとしたような仕草を見せた。
「ありがとうございます。では、こちらへ」
漁師小屋のような場所から、最初に話を聞くことになった部屋に案内された。
「あまり他の者たちに聞かれると、余計な心配をかけてしまうので……」
全員が腰を下ろしたところで、ガストンは申し開きするように言った。
「そんで、話ってのはどんなことだ」
「エリクとシーマンティスの残骸を処分した際、尾の辺りに卵が見つかったのですが……やつは増えるんでしょうか」
ハンクの問いかけにガストンは不安げに言葉を返した。
「そっか、それならアデルの方が詳しいだろ」
「うーん、どうなのかしら。魔物は厳密には生物ではないのよね。野生の生物なら二対――つまり、オスとメスということになるけれど、シーマンティスに必ずしも対になる存在がいるとは限らないわ」
「俺もアデルの見解に同意です。あれだけ危険な魔物が封印されていたとはいえ、もう一体いるのなら、どこかで見つかっているはずです」
アデルと俺が話をすると、ガストンの緊張が和らいだように見えた。
「それを聞いて安心しました。どこかにもう一体いるのかと……」
「もちろん、絶対とは限らないわ。元々は海の魔物だし、ここは汽水湖。海のことはまだ知られていないことがたくさんあるもの」
「おっさん、そう辛気臭い顔すんなって。何かあれば、またおれたちを呼べばいいだけのことだろ」
ハンクはガストンを安心させるように柔らかい笑みを浮かべていた。
「ええ、その時はまた皆さんをお呼びします」
「私にも任せてちょうだい」
「俺も駆けつけますよ」
「あと、そん時はエールとクレイフィッシュも頼む」
「もちろん、ご用意します。クレイフィッシュは時期が限られますが」
ガストンが言い終えると、誰からというわけでもなく笑い声が上がった。
和やかな雰囲気に心が洗われるような気分だった。
「ささやかなお礼ではありますが、帰りは馬車を用意してあります。それに乗っていってください」
「帰りの船を予約してあるから、船頭に断りを入れてくるわ」
「左様ですか。先にお伝えした方がよかったですかね」
「貸し切りの先払いだから問題ないわ。私たちを乗せずにバラムに帰るだけから」
アデルはそう言って、一人で部屋を後にした。
俺とハンクは先に馬車のところに案内されて、アデルを待つかたちになった。
しばらく待っていると、彼女と合流することができた。
三人揃ったところで、俺たちは馬車の荷台に乗りこんだ。
そこまで高級ではないものの、バラムまでの距離を考えれば気にならない。
「よかったら、また遊びに来てください」
ガストンが見送りをしてくれていた。
いつの間にかエリクも一緒にいる。
「はい、また会いましょう!」
「何かあった時は助けを呼ぶんだぞ」
「クレイフィッシュ、美味しかったわ」
ガストンたちと別れのあいさつを済ませた後、馬車はバラムへと動き出した。
「はい、どうぞ。おかわりは遠慮なく」
ガストンはこちらへの気遣いを見せた後、漁師たちの集いに移動した。
今、目の前の皿に焼き上がったクレイフィッシュが乗っている。
「では、いただきますっと」
食器は用意されているが、アデルを真似てかぶりついてみる。
ほくほくしたエビの味がして、ほどよい塩加減を感じた。
殻は頑丈なため、身だけを吸い出すように食べる。
「これはすごく美味しい」
「いやー、来た甲斐があったぜ」
俺とハンクの口からは感嘆の響きが漏れていたが、アデルは静かだった。
カニを食べるのに夢中で無言の人みたいになっている。
「おかわりは頂けるかしら」
「はい、すぐに用意します」
細身の身体のどこに吸収されているのだろうか。
もしや、魔力に変換されているのではと考えてしまいそうなほど、彼女は体格に見合わない量を平らげることがある。
「マルク、お前も身体を張ったんだから、遠慮せずに食べようぜ」
「そうですね。今が旬みたいですし、もう少し」
キンキンとまではいかないが、冷えたエールとクレイフィッシュの網焼きはいい組み合わせだった。
舌鼓を打つことに満たされるような感覚がある。
しかも、目の前がデール湖というロケーションも最高だった。
一匹分のクレイフィッシュを完食したところで、漁師たちの焼き台に向かった。
クレイフィッシュは美味しいのだが、食べているうちに飽きそうになった。
「マルクさん、どうしました?」
「焼き魚を少し分けてもらえますか」
「もちろんです。クロダイが焼き上がったところなので、よかったらどうぞ」
「ありがとうございます」
ガストンはザ・焼き魚といった見た目のクロダイを皿に乗せてくれた。
箸でもあれば食べやすいのだが、ここではフォークで身をほぐして食べる。
「これもいいですね。脂が乗っていて、ほとんど臭みがない」
「デール湖は水がいいので、魚の味も最高なんですよ」
「すぐ近くに湖があって、好きな時に食べられるのはいいですね」
こちらがそう伝えると、誇らしげにガストンは微笑んだ。
「お三方とも楽しんで頂けているようで何よりです」
「地元の町はこんなに水産は盛んではないですし、きれいな湖もないので、今回は来れてよかったと思います」
「そうですか。何もないところですが、そんなふうに言って頂けるのはうれしいもんです」
海の男――ここの場合は湖の男になるかもしれないが、ガストンは漁師頭という立場もあってか、接しやすい人柄で好感の持てる人だと思った。
その後もエールとデール湖の地魚を味わいつつ、楽しい時間をすごした。
夕方になる前に集まりは解散になり、ガストンが改まって声をかけてきた。
「お三方、今回は本当にありがとうございました。聞いて頂きたいことがありまして、少しよろしいですか?」
「俺は大丈夫ですけど」
「おれも問題ねえよ」
「私も聞かせてもらうわ」
俺たちの承諾が取れると、ガストンはホッとしたような仕草を見せた。
「ありがとうございます。では、こちらへ」
漁師小屋のような場所から、最初に話を聞くことになった部屋に案内された。
「あまり他の者たちに聞かれると、余計な心配をかけてしまうので……」
全員が腰を下ろしたところで、ガストンは申し開きするように言った。
「そんで、話ってのはどんなことだ」
「エリクとシーマンティスの残骸を処分した際、尾の辺りに卵が見つかったのですが……やつは増えるんでしょうか」
ハンクの問いかけにガストンは不安げに言葉を返した。
「そっか、それならアデルの方が詳しいだろ」
「うーん、どうなのかしら。魔物は厳密には生物ではないのよね。野生の生物なら二対――つまり、オスとメスということになるけれど、シーマンティスに必ずしも対になる存在がいるとは限らないわ」
「俺もアデルの見解に同意です。あれだけ危険な魔物が封印されていたとはいえ、もう一体いるのなら、どこかで見つかっているはずです」
アデルと俺が話をすると、ガストンの緊張が和らいだように見えた。
「それを聞いて安心しました。どこかにもう一体いるのかと……」
「もちろん、絶対とは限らないわ。元々は海の魔物だし、ここは汽水湖。海のことはまだ知られていないことがたくさんあるもの」
「おっさん、そう辛気臭い顔すんなって。何かあれば、またおれたちを呼べばいいだけのことだろ」
ハンクはガストンを安心させるように柔らかい笑みを浮かべていた。
「ええ、その時はまた皆さんをお呼びします」
「私にも任せてちょうだい」
「俺も駆けつけますよ」
「あと、そん時はエールとクレイフィッシュも頼む」
「もちろん、ご用意します。クレイフィッシュは時期が限られますが」
ガストンが言い終えると、誰からというわけでもなく笑い声が上がった。
和やかな雰囲気に心が洗われるような気分だった。
「ささやかなお礼ではありますが、帰りは馬車を用意してあります。それに乗っていってください」
「帰りの船を予約してあるから、船頭に断りを入れてくるわ」
「左様ですか。先にお伝えした方がよかったですかね」
「貸し切りの先払いだから問題ないわ。私たちを乗せずにバラムに帰るだけから」
アデルはそう言って、一人で部屋を後にした。
俺とハンクは先に馬車のところに案内されて、アデルを待つかたちになった。
しばらく待っていると、彼女と合流することができた。
三人揃ったところで、俺たちは馬車の荷台に乗りこんだ。
そこまで高級ではないものの、バラムまでの距離を考えれば気にならない。
「よかったら、また遊びに来てください」
ガストンが見送りをしてくれていた。
いつの間にかエリクも一緒にいる。
「はい、また会いましょう!」
「何かあった時は助けを呼ぶんだぞ」
「クレイフィッシュ、美味しかったわ」
ガストンたちと別れのあいさつを済ませた後、馬車はバラムへと動き出した。
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