異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
上 下
245 / 473
クレイフィッシュの誘惑

湖に隠された秘密

しおりを挟む
 自前の船が沈んだこともあり、ガストンはへたりこんで動けないままだった。
 キングクレイフィッシュとは何であるか問いかけたかったが、彼が平静を取り戻すまで待つことにした。

「……すみません、お見苦しいところを」

 俺とハンクが見守っていると、少ししてガストンは立ち上がった。

「とんでもないです。ガストンさんの操船技術のおかげで事なきを得ましたから」

「そんな、とんでもない。がむしゃらに漕いだら、どうにか逃げ切れました」

 俺も一定の動揺が残っているのだが、ガストンの顔は青ざめていた。
 湖の漁ならばそこまでの危険は伴わないはずなので、あんな場面に遭遇すれば当然の反応だろう。

「ところで、聞こえてしまったんですけど、キングクレイフィッシュって何ですか?」

「あっ、わしとしたことが……。我を忘れて口にしていましたか」

 ガストンはバツの悪そうな顔を見せた後、開き直るように吐露した。

「さっき見た通り、調査と討伐には危険が伴います。あのクレイフィッシュについて、知っていることがあれば教えてください」

「今更になってしまいましたが、お話ししましょう。昔からの言い伝えで、湖周辺のどこかにクレイフィッシュの王が潜む洞穴があると言われていました」

「それは伝承みたいなものですか?」

 こちらがたずねると、ガストンはしっかりと頷いた。

「よくある昔話だと、地元の人間で真に受ける者はほとんどいないようなものでした。ただ、レストルを訪れた旅人の一人が、湖に浮かぶ小島に空いた穴を訪れてから、次第に状況が怪しくなりました」

 ここからもそれしき島は見えるが、そんな穴があるようには見えない。
 デール湖は汽水湖なので、潮の満ち引きで入れる場所なのだろう。

「おそらく、封印されていたか、眠りについていたキングクレイフィッシュを起こしてしまったのでしょう。地元の人間はあそこに入ろうという発想がないので、対応が後手に回ってしまいました」

 後悔するような漁師頭の様子にいたたまれない気持ちになる。

「ガストンさん、起きてしまったことはどうしようもないので、これからどうするか考えましょう」

「そうだ、まだ何とかなるかもしれねえ。もう少し対策を考えようぜ」

「お二人とも……ありがとうございます」

 ガストンは深々と頭を下げた。
 俺やハンクの存在で少しでも気が楽になればと思った。

 それから、俺たちは陸で待機しているアデルのところに向かった。

「おう、バカでかいクレイフィッシュが見えたぜ」

「おかえりなさい。それで、退治できたの?」

「いや、船が沈められて、命からがら逃げてきたってところだ」

 ハンクの答えを聞いて、アデルは小さく首を傾けた。

「あなたが一緒にいて、そんなこともあるのね」

「ただのクレイフィッシュとは思えないほど狡猾でしたよ。捕まえるにしろ、退治するにしろ、もう少し話し合った方がよさそうです」

 ハンクの話に補足するように伝えると、アデルが納得したような表情を見せた。

「なかなか厳しい相手みたいね。マルクの言う通り、作戦が必要なのかしら」

「お三方、エリクに報告したいので、さっきの建物に戻ってもよいですか?」

「はい、もちろん」

 俺たちは来た道を引き返して、エリクを待たせている建物に戻った。

「ガスさん、どうだった?」

 室内に足を運ぶと、エリクが椅子から立ち上がって近づいてきた。
 期待と不安が入り混じるような表情をしている。

「……いや、見つけることはできたんだが」

「うん、そうなんだ」

 俯き加減のガストンを見て、エリクは何があったかを悟ったようだった。

「あんたらも大変だと思うが、あんなクレイフィッシュを放置するわけにはいかねえ。何とかした方がいいだろ」

「俺も同じ意見です。今は水中から出ないですけど、陸に上がる可能性もゼロじゃない。非常に危険なモンスターだと思います」

 俺とハンクが順番に発言すると、ガストンとエリクは互いの顔を見合わせた。

「……この方たちの力を借りて、何としてでもやつを退治しよう。それでもダメだった時は湖が封鎖になることも覚悟しなければいけないな」 
 
 少しの間を置いて、ガストンが渋い表情で口を開いた。
 漁業が生活の糧である以上、そんなことは考えたくないはずだ。
 それでも、現実を直視して向き合おうとしている。

「できればそうしてくれ。おれが関わった件で犠牲が出るのは胸くそが悪い」

「もしもの時は王都の力を借りるようにします」

 ガストンの言葉は重たく、大きな意味を持つように感じられた。

「とりあえず、それは最終手段ということで、俺たちで何とかできないか話し合いましょう」

「私も賛成よ。モンスターの知恵に人やエルフが負けるなんておかしいもの」

「皆さんに来て頂けて、とても心強いです」

 エリクは感極まるように涙ぐんでいた。

「おいおい、泣くのは成功してからでいいんじゃねえか」

「はい、すいません」

 ハンクは言葉とは裏腹に優しい言い方をしていた。

「それで質問なんですけど、あのクレイフィッシュが出没する場所に規則性はありませんか?」

 俺はガストンとエリクに問いかけた。

「例の小島に空いた穴が巣みたいで、あそこから出入りしている可能性が高いです」   

「その近くまで行くことはできそうですか?」

「潮の満ち引きに合わせる必要はありますが、時間が合えば中に入れます」

 ガストンがしっかりした声で言った。

「回遊していたら見つけるのは難しくなるので、今度は待ち伏せするかたちでいきましょう」

「マルクの意見に賛成だ。不意打ち食らうのはまずいが、待ち伏せできるなら、状況が変わってくる」

 次の方針が決まってくると、ガストンの顔に生気が戻るのが感じられた。
 キングクレイフィッシュの存在が未知数だからこそ、できるだけのことは試してみたいと思った。


 あとがき
 漁師頭の名前がビクトル→ガストンに変更になっています。
 読む際に違和感などございましたら、申し訳ありません。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

報酬を踏み倒されたので、この国に用はありません。

白水緑
ファンタジー
魔王を倒して報酬をもらって冒険者を引退しようとしたところ、支払いを踏み倒されたリラたち。 国に見切りを付けて、当てつけのように今度は魔族の味方につくことにする。 そこで出会った魔王の右腕、シルヴェストロと交友を深めて、互いの価値観を知っていくうちに、惹かれ合っていく。 そんな中、追っ手が迫り、本当に魔族の味方につくのかの判断を迫られる。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

雑魚キャラ転生 おっさんの冒険

明かりの元
ファンタジー
どこにでも居るような冴えないおっさん、山田 太郎(独身)は、かつてやり込んでいたファンタジーシミュレーションRPGの世界に転生する運びとなった。しかし、ゲーム序盤で倒される山賊の下っ端キャラだった。女神様から貰ったスキルと、かつてやり込んでいたゲーム知識を使って、生き延びようと決心するおっさん。はたして、モンスター蔓延る異世界で生き延びられるだろうか?ザコキャラ奮闘ファンタジーここに開幕。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

処理中です...