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異国の商人フレヤ
店の拡大について話し合う
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しばらくすると一人目のお客が食事を終えて、支払いを済ませて帰っていった。
カモ肉は多めに用意してあったこともあり、追加分の料金は控えめに請求しておいた。
牛肉に比べると原価が低いため、そこまで受け取るのも気が引けるというのもある。
その後はぽつりぽつりとお客が来る程度で、今日は普段よりも少ない来客数で店じまいとなった。
最終的に雨は降らなかったものの、いつ降り始めてもおかしくない空模様だった。
天気がどのように影響するかは把握しているつもりだが、今後のことを考えてフレヤと意見を交換しようと考えていた。
「はいはい、こっちは片づいたよー」
「ありがとうございます。手際がいいですね」
閉店後の片づけをフレヤが手伝ってくれている。
作業を細かく教えたわけではないのに、手慣れた様子で動いていた。
「家の手伝いはけっこうしてたからさ、これぐらいどうってことないんだよ」
「一人だと時間がかかるので、本当に助かります」
フレヤに感謝を伝えると、彼女は満面の笑みで応えてくれた。
的確な指摘にドキリとすることはあっても、気さくで接しやすい人柄なので、一緒に働くうえで理想的な人材だと思った。
「……これも巡り合わせの祝福の効果なのか」
「マルク、何か言った?」
「あっ、いや、何でもないです」
フレヤとは出身国が異なるため、彼女の信仰の有無や死生観を知らない。
折を見て確認できたらよいが、込み入った話なので慎重さを要する。
転生に関する話――特に偉大なる者に夢枕で顔を合わせたなどと告げてしまったら、信頼関係にひびが入る可能性が高い。
「だいたい片づいたので、食事にしましょうか」
「わーい、楽しみにしてたんだ」
「今から用意するので、あそこの席に座っててください」
「ありがと、よろしく頼むね」
俺は厨房に戻って、漬けてあるカモ肉を容器から皿に移した。
予定よりも多く残っているため、今は二人で食べられる分だけにしておいた。
濃いめの味つけで多少は日持ちするということもあり、今日の夕食か明日の昼食にでも食べるとしよう。
二人分の材料や食器をトレーに載せて、フレヤの待つテーブルに向かった。
彼女が待ち遠しそうな顔をしているのを見ると、和むような気持ちになった。
必要なものを順番にテーブルに乗せてから、焼き台に火を入れ直す。
入れ替えたばかりの鉄板の温度が徐々に上がっていった。
「お客さんが食べるところを見てたから、食べ方は分かりそうかな」
「じゃあ、どんどん焼いてください。おかわりもあるので遠慮なく」
フレヤは目を輝かせながらトングを手に取る。
そして、次々にカモ肉を鉄板へと乗せていった。
「焼き加減は適当でいいですけど、しっかり火が通ってから食べてください」
「はいはい、了解」
彼女はそう答えつつ、火の通り具合をじっと見つめていた。
これ以上の説明は必要なさそうなので、空いたスペースにカモ肉を乗せていく。
タレの焼ける香ばしい匂いが届くと、思わず目眩がしそうな気分だった。
町中で火を起こして焼いていたら、匂いにつられた人が集まってしまいそうだ。
「あっ、そろそろ焼けそう」
「先に食べてもらっていいですよ」
「じゃあお先に、いただきます!」
フレアはカモ肉を皿に乗せた後、少し冷ましてから口に運んだ。
「これ、おいひいー」
彼女は鉄板から下ろした後に間隔を空けたものの、焼きたては熱いようだ。
冷水の入ったグラスを持ってきて渡すと素早く口をつけた。
「カモ肉の味が口にあったみたいで何よりです」
俺がそう告げるとフレアは幸せそうな顔を見せた。
こちらのカモ肉も火が通ったようなので、早速食べ始める。
試食は済ませているが、誰かと一緒に食べるのは初めてだった。
「我ながらいい出来だ。やっぱり、素材がいいと味が引き立つな」
フレヤが黙々と食べていたので、彼女のペースに合わせてじっくりと味わう。
口の中に風味が広がっても臭みや癖が少なく、適度に脂が乗っている。
鳥肉の一種として安定した仕入れが可能ならば、メインの食材の一角を担う可能性が見えてくるような味だった。
食事を続けるうちに口を開かずに夢中になって食べていた。
ふとしたタイミングでお互いに気づいて、照れ笑いを浮かべた。
それから食事を終えて、二人でテーブル席で向かい合わせに座っていた。
頭上には曇り空が広がり、湿った空気が流れているが、雨が降り出すほどではなかた。
フレヤとの世間話に花が咲くような状況で、くつろげるような雰囲気だった。
楽しい時間ではあったものの、そろそろ店の話をしようと思った。
「今日の感じだと天候が崩れてもいいような設備にした方がよさそうですね」
「今もテーブルに傘みたいなものがあるんだけど、これだけでは少し心許ないかも」
フレヤは真上を指さして言った。
難燃性の素材でビーチパラソルのように伸びているのだが、鉄板周りは雨を防げても、風向き次第でお客に降雨がかかってしまう可能性がある。
「初期費用がそこまでなかったので、厨房のある店舗は屋根つきなんですけど、こっち側はここまでで精一杯で」
「そうだったんだ。色々言っちゃってごめん」
「いえ、店のことを考えての助言だと思うので、ちっとも気にならないですよ」
「そっか、それならよかった」
フレヤはわずかに表情を曇らせていたが、俺の言葉を聞いて明るい表情に戻った。
好き勝手言っているわけではないと理解していたので、彼女の意見は貴重なものだった。簡単に自重させてしまうのはもったいない。
「屋根は必要だと思うんですけど、室内で食べるようにすると難点がいくつかあるので、上だけ覆う感じがいいような気がします」
「やっぱり、そうなるよね。煙が充満しちゃうし、外で食べるような雰囲気もいいところだと思うんだ。私も屋根だけ設置するかたちでいいと思う」
「業者に当てはあるので、明日にでも話をしてみようと思います」
話が一区切りついたところで、フレヤは荷物の中を覗き始めた。
何かを確認しているように見える仕草だった。
「昨日と今日で二日だけなんだけどさ、マルクの一生懸命なところは伝わったんだ。だから、工事の費用は折半する」
「ええっ、そこまでしてもらうのはちょっと……」
「ううん、遠慮しないで。回収できると思うから、投資するんだ」
あくまで合理的にという理由のようだが、彼女がこちらに期待してくれていることがありがたいと思った。
「それでは、力を貸してください。二人でいい店を作り上げましょう」
「うん、もちろんだよ」
こちらを見据えるフレヤの瞳から決意と熱意が伝わってきた。
彼女が可能性を感じてくれたことに感謝して、店を拡大することへの意識が高まった。
カモ肉は多めに用意してあったこともあり、追加分の料金は控えめに請求しておいた。
牛肉に比べると原価が低いため、そこまで受け取るのも気が引けるというのもある。
その後はぽつりぽつりとお客が来る程度で、今日は普段よりも少ない来客数で店じまいとなった。
最終的に雨は降らなかったものの、いつ降り始めてもおかしくない空模様だった。
天気がどのように影響するかは把握しているつもりだが、今後のことを考えてフレヤと意見を交換しようと考えていた。
「はいはい、こっちは片づいたよー」
「ありがとうございます。手際がいいですね」
閉店後の片づけをフレヤが手伝ってくれている。
作業を細かく教えたわけではないのに、手慣れた様子で動いていた。
「家の手伝いはけっこうしてたからさ、これぐらいどうってことないんだよ」
「一人だと時間がかかるので、本当に助かります」
フレヤに感謝を伝えると、彼女は満面の笑みで応えてくれた。
的確な指摘にドキリとすることはあっても、気さくで接しやすい人柄なので、一緒に働くうえで理想的な人材だと思った。
「……これも巡り合わせの祝福の効果なのか」
「マルク、何か言った?」
「あっ、いや、何でもないです」
フレヤとは出身国が異なるため、彼女の信仰の有無や死生観を知らない。
折を見て確認できたらよいが、込み入った話なので慎重さを要する。
転生に関する話――特に偉大なる者に夢枕で顔を合わせたなどと告げてしまったら、信頼関係にひびが入る可能性が高い。
「だいたい片づいたので、食事にしましょうか」
「わーい、楽しみにしてたんだ」
「今から用意するので、あそこの席に座っててください」
「ありがと、よろしく頼むね」
俺は厨房に戻って、漬けてあるカモ肉を容器から皿に移した。
予定よりも多く残っているため、今は二人で食べられる分だけにしておいた。
濃いめの味つけで多少は日持ちするということもあり、今日の夕食か明日の昼食にでも食べるとしよう。
二人分の材料や食器をトレーに載せて、フレヤの待つテーブルに向かった。
彼女が待ち遠しそうな顔をしているのを見ると、和むような気持ちになった。
必要なものを順番にテーブルに乗せてから、焼き台に火を入れ直す。
入れ替えたばかりの鉄板の温度が徐々に上がっていった。
「お客さんが食べるところを見てたから、食べ方は分かりそうかな」
「じゃあ、どんどん焼いてください。おかわりもあるので遠慮なく」
フレヤは目を輝かせながらトングを手に取る。
そして、次々にカモ肉を鉄板へと乗せていった。
「焼き加減は適当でいいですけど、しっかり火が通ってから食べてください」
「はいはい、了解」
彼女はそう答えつつ、火の通り具合をじっと見つめていた。
これ以上の説明は必要なさそうなので、空いたスペースにカモ肉を乗せていく。
タレの焼ける香ばしい匂いが届くと、思わず目眩がしそうな気分だった。
町中で火を起こして焼いていたら、匂いにつられた人が集まってしまいそうだ。
「あっ、そろそろ焼けそう」
「先に食べてもらっていいですよ」
「じゃあお先に、いただきます!」
フレアはカモ肉を皿に乗せた後、少し冷ましてから口に運んだ。
「これ、おいひいー」
彼女は鉄板から下ろした後に間隔を空けたものの、焼きたては熱いようだ。
冷水の入ったグラスを持ってきて渡すと素早く口をつけた。
「カモ肉の味が口にあったみたいで何よりです」
俺がそう告げるとフレアは幸せそうな顔を見せた。
こちらのカモ肉も火が通ったようなので、早速食べ始める。
試食は済ませているが、誰かと一緒に食べるのは初めてだった。
「我ながらいい出来だ。やっぱり、素材がいいと味が引き立つな」
フレヤが黙々と食べていたので、彼女のペースに合わせてじっくりと味わう。
口の中に風味が広がっても臭みや癖が少なく、適度に脂が乗っている。
鳥肉の一種として安定した仕入れが可能ならば、メインの食材の一角を担う可能性が見えてくるような味だった。
食事を続けるうちに口を開かずに夢中になって食べていた。
ふとしたタイミングでお互いに気づいて、照れ笑いを浮かべた。
それから食事を終えて、二人でテーブル席で向かい合わせに座っていた。
頭上には曇り空が広がり、湿った空気が流れているが、雨が降り出すほどではなかた。
フレヤとの世間話に花が咲くような状況で、くつろげるような雰囲気だった。
楽しい時間ではあったものの、そろそろ店の話をしようと思った。
「今日の感じだと天候が崩れてもいいような設備にした方がよさそうですね」
「今もテーブルに傘みたいなものがあるんだけど、これだけでは少し心許ないかも」
フレヤは真上を指さして言った。
難燃性の素材でビーチパラソルのように伸びているのだが、鉄板周りは雨を防げても、風向き次第でお客に降雨がかかってしまう可能性がある。
「初期費用がそこまでなかったので、厨房のある店舗は屋根つきなんですけど、こっち側はここまでで精一杯で」
「そうだったんだ。色々言っちゃってごめん」
「いえ、店のことを考えての助言だと思うので、ちっとも気にならないですよ」
「そっか、それならよかった」
フレヤはわずかに表情を曇らせていたが、俺の言葉を聞いて明るい表情に戻った。
好き勝手言っているわけではないと理解していたので、彼女の意見は貴重なものだった。簡単に自重させてしまうのはもったいない。
「屋根は必要だと思うんですけど、室内で食べるようにすると難点がいくつかあるので、上だけ覆う感じがいいような気がします」
「やっぱり、そうなるよね。煙が充満しちゃうし、外で食べるような雰囲気もいいところだと思うんだ。私も屋根だけ設置するかたちでいいと思う」
「業者に当てはあるので、明日にでも話をしてみようと思います」
話が一区切りついたところで、フレヤは荷物の中を覗き始めた。
何かを確認しているように見える仕草だった。
「昨日と今日で二日だけなんだけどさ、マルクの一生懸命なところは伝わったんだ。だから、工事の費用は折半する」
「ええっ、そこまでしてもらうのはちょっと……」
「ううん、遠慮しないで。回収できると思うから、投資するんだ」
あくまで合理的にという理由のようだが、彼女がこちらに期待してくれていることがありがたいと思った。
「それでは、力を貸してください。二人でいい店を作り上げましょう」
「うん、もちろんだよ」
こちらを見据えるフレヤの瞳から決意と熱意が伝わってきた。
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