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海産物を開拓する
食堂と不器用な料理人
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市場の鮮魚店巡りは順調に終わった。
新鮮で美味しそうなエビをいくつか見つけたので、今のところはエビの導入を考えている。
ロブスター、クルマエビ、イセエビ、アカエビ――夢は大きく広がる。
エビの鮮度管理については未知数だが、状況次第ではカニや貝の蒸し焼きなども視野に入れて考えた。
三人で市場の中を歩くうちに夕食時が近づいていた。
ほとんどの店は日没には閉店するようで、店じまいを始めるところがちらほらと目に入る。
途中で聞いたところによれば食堂は関係者が仕事帰りに立ち寄れるように、他の店よりも閉店は遅いらしい。時間的にこれから立ち寄ることも可能だろう。
「今日の夕食はどうしますか? 市場を出て町中のレストランに行ってもいいですし、市場の食堂もありだと思いますけど」
「わたしはどっちでもいいよ」
「せっかくだし、私は市場の食堂に行ってみたいわ。ここで仕入れをしているはずだから、新鮮で美味しい料理が出てきそうね」
「たしかにそうですね。ここの食材なら期待はできそうな気がします。それじゃあ、中の食堂に向かうということで」
俺たちは鮮魚店が集まる場所から、市場内の食堂に向かって移動を始めた。
事前情報を頼りに向かってみると、食堂があるのは一番奥の方だった。
騒がしいというほどではなく、適度に賑わっている様子だ。
「へえ、面白いわ。色んな料理店が合わさって、一つの食堂になっているのね」
「地元の家庭料理みたいな料理と肉料理、それ以外にも店があるみたいです」
「うーん、何だか迷っちゃいそう」
この場所は転生前の記憶にあるフードコートに似た雰囲気だった。
各店に料理を注文して受け取った後、自分の席に戻って食べる形式のようだ。
「各自好きなものを注文して、それからテーブルに集合にしますか」
「ええ、それで構わないわ」
「わたしもそれでいいよ」
「では、また後で」
食堂の入り口で分かれて、自由行動になった。
アデルとエステルはそれぞれの気になる店に向かったようだ。
自分の中では地元の料理を出す店、もしくは肉料理の店が候補になっている。
まず手始めに地元の料理を出す店を覗いてみる。
わりと定番みたいで数人の列ができていた。
メニューは昼に食べたピラフみたいなものと、一品料理が数種類ある。
「美味しそうだけど、昼と同じようなものはちょっと違うかも」
俺は一軒目の店を離れて、肉料理の店に向かった。
こちらは少しお客の人数が減って二人ほど並んでいるところだ。
カウンターの奥に焼き台があり、大きな肉を網の上で焼いている。
「……へえ、丸焼きだけじゃなくて、ステーキがあるのか」
先に購入したお客の皿には完成形が乗っており、食欲をそそる見た目だった。
興味深く調理風景を眺めていると、威勢のいい若い男が声をかけてきた。
「お客さん! うちの師匠が焼く牛肉の一枚焼きは最高だよ!」
「んっ、一枚焼き?」
店の設備などの雰囲気が転生者が用意したものにしては、ずいぶんとこちらの世界になじむような雰囲気だった。
自分の場合が顕著だが、日本の調理場を経験していると道具の配置がこの世界の基本と違いがある。
逆に転生と無関係のジェイクのやり方と比較すれば、両者の違いは明らかだった。
わざわざ、一枚焼きという言葉を選んでいることからも転生者ではなく、この世界に所縁(ゆかり)のある人間がたどり着いた境地なのだろう。
「お客さん、どうかしました? 師匠の腕前に感動しちゃったとか」
感心する思いで厨房を見たせいか、若い男が不思議そうにたずねてきた。
転生抜きでステーキを思いついたことへの称賛を伝えたいが、そんなことを言えば追い払われるだろう。
「いや、何でも……。たしかに美味しそうな匂いがしますね」
「匂いだけじゃない! 味も確かだからぜひ食べるしかないっしょ!」
俺と若い男が話していると、肉を焼いていた男がこちらにやってきた。
「おい、セリオ。客に押し売りするのはやめておけ」
「でも、師匠っ、こうやって接客することも大事です」
「まあ、ほどほどに……」
セリオと会話を続けようとすると、師匠の方が険しい表情を見せた気がした。
面識があるわけでもないので、おそらく気のせいだろう。
「そちらの師匠。厳しそうですね」
「ああ見えて優しいんだな、これが」
「師弟関係、いいですね」
俺とセリオは料理と関係ない話題で盛り上がっていた。
するとそこへ、セリオの師匠が仏頂面でやってくると無言で皿を置いていった。
何やら彼から殺気めいたものを感じた気がするが、先ほどから何なのだろう。
「師匠、ボケるにはまだ若いと思いますよ」
「これは俺に食べろってことですかね……」
皿の上には肉汁のしたたる美味そうな焼きたてステーキが鎮座している。
食欲をそそる匂いと存在感を前にして、腹の虫が鳴きそうになった。
「いや、おいらもこんなことは初めてでよく分かんないなあ。ちょっと聞いてきます」
セリオは厨房に小走りで向かって、師匠に話しかけていた。
少しここから離れているが、こちらまで微妙に会話が聞こえてくる。
「えっ、お客さんにそんなこと言っちゃっていいんですか!?」
「……分かりました。おいらは責任持ちませんからね」
師匠の方は声を抑えたようで、セリオの声しか聞こえなかった。
気のせいだと思っていたが、何となく殺気の発生源は師匠のような気がした。
恨みを買うようなことをしたつもりはなく、彼の不自然な動きを怪訝に思った。
「お客さん、ごめんなさい! 師匠からの伝言で『コスタ産の牛をとくと味わうがいい。お代はいらん』だそうです」
「……あれ、肝心の師匠は?」
「えっ、ついさっきまでそこに……」
俺につられてセリオも厨房に目を向けた。
いつの間にか師匠はいなくなっていた。
「まあでも、本当は銀貨二枚かかるんで、儲けものと思って食べるのもありってことで。ここは一つ」
「うーん、冷めて味が落ちるのもお肉に悪いしなあ」
焼きたてのステーキもとい一枚焼きを眺める。
もしかして、わざわざここで買う必要はないと言ったのを耳にして、俺がコスタ周辺の肉を軽視していると誤解したのか。
果たして、そんなことがあるのか……。
新鮮で美味しそうなエビをいくつか見つけたので、今のところはエビの導入を考えている。
ロブスター、クルマエビ、イセエビ、アカエビ――夢は大きく広がる。
エビの鮮度管理については未知数だが、状況次第ではカニや貝の蒸し焼きなども視野に入れて考えた。
三人で市場の中を歩くうちに夕食時が近づいていた。
ほとんどの店は日没には閉店するようで、店じまいを始めるところがちらほらと目に入る。
途中で聞いたところによれば食堂は関係者が仕事帰りに立ち寄れるように、他の店よりも閉店は遅いらしい。時間的にこれから立ち寄ることも可能だろう。
「今日の夕食はどうしますか? 市場を出て町中のレストランに行ってもいいですし、市場の食堂もありだと思いますけど」
「わたしはどっちでもいいよ」
「せっかくだし、私は市場の食堂に行ってみたいわ。ここで仕入れをしているはずだから、新鮮で美味しい料理が出てきそうね」
「たしかにそうですね。ここの食材なら期待はできそうな気がします。それじゃあ、中の食堂に向かうということで」
俺たちは鮮魚店が集まる場所から、市場内の食堂に向かって移動を始めた。
事前情報を頼りに向かってみると、食堂があるのは一番奥の方だった。
騒がしいというほどではなく、適度に賑わっている様子だ。
「へえ、面白いわ。色んな料理店が合わさって、一つの食堂になっているのね」
「地元の家庭料理みたいな料理と肉料理、それ以外にも店があるみたいです」
「うーん、何だか迷っちゃいそう」
この場所は転生前の記憶にあるフードコートに似た雰囲気だった。
各店に料理を注文して受け取った後、自分の席に戻って食べる形式のようだ。
「各自好きなものを注文して、それからテーブルに集合にしますか」
「ええ、それで構わないわ」
「わたしもそれでいいよ」
「では、また後で」
食堂の入り口で分かれて、自由行動になった。
アデルとエステルはそれぞれの気になる店に向かったようだ。
自分の中では地元の料理を出す店、もしくは肉料理の店が候補になっている。
まず手始めに地元の料理を出す店を覗いてみる。
わりと定番みたいで数人の列ができていた。
メニューは昼に食べたピラフみたいなものと、一品料理が数種類ある。
「美味しそうだけど、昼と同じようなものはちょっと違うかも」
俺は一軒目の店を離れて、肉料理の店に向かった。
こちらは少しお客の人数が減って二人ほど並んでいるところだ。
カウンターの奥に焼き台があり、大きな肉を網の上で焼いている。
「……へえ、丸焼きだけじゃなくて、ステーキがあるのか」
先に購入したお客の皿には完成形が乗っており、食欲をそそる見た目だった。
興味深く調理風景を眺めていると、威勢のいい若い男が声をかけてきた。
「お客さん! うちの師匠が焼く牛肉の一枚焼きは最高だよ!」
「んっ、一枚焼き?」
店の設備などの雰囲気が転生者が用意したものにしては、ずいぶんとこちらの世界になじむような雰囲気だった。
自分の場合が顕著だが、日本の調理場を経験していると道具の配置がこの世界の基本と違いがある。
逆に転生と無関係のジェイクのやり方と比較すれば、両者の違いは明らかだった。
わざわざ、一枚焼きという言葉を選んでいることからも転生者ではなく、この世界に所縁(ゆかり)のある人間がたどり着いた境地なのだろう。
「お客さん、どうかしました? 師匠の腕前に感動しちゃったとか」
感心する思いで厨房を見たせいか、若い男が不思議そうにたずねてきた。
転生抜きでステーキを思いついたことへの称賛を伝えたいが、そんなことを言えば追い払われるだろう。
「いや、何でも……。たしかに美味しそうな匂いがしますね」
「匂いだけじゃない! 味も確かだからぜひ食べるしかないっしょ!」
俺と若い男が話していると、肉を焼いていた男がこちらにやってきた。
「おい、セリオ。客に押し売りするのはやめておけ」
「でも、師匠っ、こうやって接客することも大事です」
「まあ、ほどほどに……」
セリオと会話を続けようとすると、師匠の方が険しい表情を見せた気がした。
面識があるわけでもないので、おそらく気のせいだろう。
「そちらの師匠。厳しそうですね」
「ああ見えて優しいんだな、これが」
「師弟関係、いいですね」
俺とセリオは料理と関係ない話題で盛り上がっていた。
するとそこへ、セリオの師匠が仏頂面でやってくると無言で皿を置いていった。
何やら彼から殺気めいたものを感じた気がするが、先ほどから何なのだろう。
「師匠、ボケるにはまだ若いと思いますよ」
「これは俺に食べろってことですかね……」
皿の上には肉汁のしたたる美味そうな焼きたてステーキが鎮座している。
食欲をそそる匂いと存在感を前にして、腹の虫が鳴きそうになった。
「いや、おいらもこんなことは初めてでよく分かんないなあ。ちょっと聞いてきます」
セリオは厨房に小走りで向かって、師匠に話しかけていた。
少しここから離れているが、こちらまで微妙に会話が聞こえてくる。
「えっ、お客さんにそんなこと言っちゃっていいんですか!?」
「……分かりました。おいらは責任持ちませんからね」
師匠の方は声を抑えたようで、セリオの声しか聞こえなかった。
気のせいだと思っていたが、何となく殺気の発生源は師匠のような気がした。
恨みを買うようなことをしたつもりはなく、彼の不自然な動きを怪訝に思った。
「お客さん、ごめんなさい! 師匠からの伝言で『コスタ産の牛をとくと味わうがいい。お代はいらん』だそうです」
「……あれ、肝心の師匠は?」
「えっ、ついさっきまでそこに……」
俺につられてセリオも厨房に目を向けた。
いつの間にか師匠はいなくなっていた。
「まあでも、本当は銀貨二枚かかるんで、儲けものと思って食べるのもありってことで。ここは一つ」
「うーん、冷めて味が落ちるのもお肉に悪いしなあ」
焼きたてのステーキもとい一枚焼きを眺める。
もしかして、わざわざここで買う必要はないと言ったのを耳にして、俺がコスタ周辺の肉を軽視していると誤解したのか。
果たして、そんなことがあるのか……。
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