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海産物を開拓する
市場を散策する
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俺たちはサンドロと別れてから、市場を見に行くことにした。
日の入りまでもうしばらく時間があり、中の店は開いているそうだ。
サンドロと話した場所は管理組合の事務所だったようで、市場まではそこから少し歩く必要があった。
ロゼル領内の港町ということもあり、異国情緒を感じる町の中を移動して三人で市場に向かった。
「おおっ、これはすごい!」
開口一番、思わずそんな言葉が飛び出した。
市場の規模が想像していたよりも大きかった。
それに鮮魚だけでなく、色んな種類の店があるみたいだ。
「わたし、こんなにたくさんお店が並ぶの初めて」
「色んな場所に行ったけれど、これは指折りの広さね」
アデルとエステルもいい反応だった。
回ってみるだけの価値がありそうなので、閉店まで時間が残っていてよかった。
「さあ、行きましょう」
「行こう行こう」
大きな門のような入り口をくぐって、広い建物に入る。
バラムでは露店が中心なのに対して、ここは屋内に店が並んでいた。
管理組合があることもそうだが、市場に力を入れていることが分かる。
中に入ってすぐに、どこからともなくスパイシーな匂いが漂ってきた。
出所を探ってみると、軒先に色んな材料が並べられた店が目に入った。
「種類が多そうなので、入ってみてもいいですか?」
「うん、入ろう」
「ええ、面白そうね」
いくつもの店が立ち並ぶことで入り口はそこまで広くはない。
俺たちは順番に店内へと足を踏み入れた。
「いらっしゃい!」
「品揃えがすごいですね」
「そうかい、そいつはありがとう。好きなだけ見てくんなよ」
「ではでは、お言葉に甘えて」
バラムでは唐辛子は希少価値高めなのだが、ここでは山盛りに積まれている。
単価はお値打ちなので、馬車で来ていれば買ってもいいと思った。
「すいません、この木の枝みたいなものは? とてもいい香りですけど」
「そいつはシナモンだね。うちのは品質がいいから、唐辛子みたいに安くはできないんだ。なかなかお目が高い、へへへっ」
店主は愛想よく教えてくれた。
転生前からシナモンは知っていたが、加工前の現物は初めて見た。
このかぐわしい香りはデザートにもいけそうだし、焼肉のタレに合わせるのも面白いだろう。
店内を物色していると、次から次へと気になる香辛料が出てきた。
今回は荷物がたくさんになると困るので、店主にまた次回寄らせてもらうと言って、その店を後にした。
「黒胡椒の品質がピカイチだったので、次回は買いたいです」
「あれはなかなかのものだったわね。コスタの物流は侮れないみたい」
俺たちは市場巡りを再開した。
他にはどんな店が出てくるのか期待に胸が躍った。
しばらく、同じように香辛料を扱う店と日用品店が続いて興味は惹かれなかったが、途中から野菜や果物を扱う店が中心になった。
「場所が変わると、扱う種類も変わるんですね」
「すごーい、見たことない野菜ばっかりだよ」
「俺も初めて見るものがたくさんです」
歩きながら眺めているだけでも飽きがこない。
同じように果物も珍しいものが並んでいる。
「マルク、向こうに精肉店があるみたいよ」
「……そうですか」
見たら見たで楽しめると思うが、どのみちコスタでは魚介類を仕入れることになる。
今回は精肉店よりも鮮魚店を見ておいた方がいいと判断した。
「とりあえず、鮮魚店を優先します」
「精肉ならバラムで仕入れた方が新鮮ね。異論ないわ」
「ランス城の料理人だったジェイクの話でも、バラムの牛肉は品質がいいみたいなので、わざわざここで買う必要はなさそうです」
アデルと話していると、ふいに殺気のようなものを感じた。
周囲を見渡してみるが、不審な人影は目に入らなかった。
密集するほどの人通りではないので、何かあれば見逃す可能性は低い。
「マルク、何かあった?」
「……あっ、いえ、何でもありません」
「それじゃあ、鮮魚を見に行くわよ」
「はい」
精肉店のある一角には向かわず、鮮魚店の集まる方へ向かった。
通路を歩いて進んでいくと、前方に活気のある店が並んでいた。
海産物の流通が盛んな土地柄ということもあり、他のところ以上に賑わっている。
きっと、俺たちと同じように周辺の各地から訪れる買いもの客もいるのだろう。
「これはわざわざ来た甲斐がありますね」
「海が近いと新鮮みたい。どれも美味しそうだわ」
「こんなに魚だらけなのも初めて」
三人で目を輝かせながら店先を覗いていった。
鮮度のよさそうな魚があちらこちらの店に並んでいる。
「サンドロと話したように、持ち帰るのは最短ルートが復旧してからですね」
「バラムからなら来やすいし、無理に買う必要もないと思うわ」
「当初は持って帰るつもりだったんですけど、傷んだりしたら勿体ないですから」
馬車で戻るだけならいけると思うが、つまらない賭けのために食材を無駄にしたくはない。
今回はできるだけ情報を集められたら、それで十分だと切り替えた。
うちの店で一緒に出すことを考えたら、鉄板焼き向きな素材の方が適している。
そう考えると、エビか貝の仲間がちょうどいいだろうか。
魚は切り身を買ったとして、肉と一緒に出してしまうと、両方がメインになってしまう可能性がある。そうなってはどこかアンバラスな気がした。
それも踏まえつつ、サンドロは優先して何回か仕入れをさせてくれるみたいなので、こちらで固めすぎても変更が出てくる可能性もある。
「……あなたなら大丈夫だと思うけれど、基本的に焼肉と魚はミスマッチよ」
「はい、同じことを考えてました」
「魚のグリルは焼肉とは別の料理だし、鉄板が生臭いと牛肉の味が落ちるわ」
「教えてもらって助かります。やっぱり、そうですよね」
サンドロに食材を卸してもらう際には、なるべく魚以外で頼むことにしよう。
特にエビはけっこう絵になるので、生臭さの対策をしながら導入したいところだ。
その場合、鉄板やお客用の焼き場の拡張も考えた方がいいかもしれない。
焼く時の面積が広ければ広いほど、同時に焼くことも可能になると考えた。
「……これは壮大な話になってきたぞ」
開店当初は焼肉がここまで上手くいくと予想しなかったのが、今では食材の充実に設備の拡張。
自分の店を経営しているという実感が高まり、これまでになく充実した気持ちだった。
同行してくれたアデルやエステルはもちろんのこと、食材を融通してくれる予定のサンドロにも感謝したいと思った。
日の入りまでもうしばらく時間があり、中の店は開いているそうだ。
サンドロと話した場所は管理組合の事務所だったようで、市場まではそこから少し歩く必要があった。
ロゼル領内の港町ということもあり、異国情緒を感じる町の中を移動して三人で市場に向かった。
「おおっ、これはすごい!」
開口一番、思わずそんな言葉が飛び出した。
市場の規模が想像していたよりも大きかった。
それに鮮魚だけでなく、色んな種類の店があるみたいだ。
「わたし、こんなにたくさんお店が並ぶの初めて」
「色んな場所に行ったけれど、これは指折りの広さね」
アデルとエステルもいい反応だった。
回ってみるだけの価値がありそうなので、閉店まで時間が残っていてよかった。
「さあ、行きましょう」
「行こう行こう」
大きな門のような入り口をくぐって、広い建物に入る。
バラムでは露店が中心なのに対して、ここは屋内に店が並んでいた。
管理組合があることもそうだが、市場に力を入れていることが分かる。
中に入ってすぐに、どこからともなくスパイシーな匂いが漂ってきた。
出所を探ってみると、軒先に色んな材料が並べられた店が目に入った。
「種類が多そうなので、入ってみてもいいですか?」
「うん、入ろう」
「ええ、面白そうね」
いくつもの店が立ち並ぶことで入り口はそこまで広くはない。
俺たちは順番に店内へと足を踏み入れた。
「いらっしゃい!」
「品揃えがすごいですね」
「そうかい、そいつはありがとう。好きなだけ見てくんなよ」
「ではでは、お言葉に甘えて」
バラムでは唐辛子は希少価値高めなのだが、ここでは山盛りに積まれている。
単価はお値打ちなので、馬車で来ていれば買ってもいいと思った。
「すいません、この木の枝みたいなものは? とてもいい香りですけど」
「そいつはシナモンだね。うちのは品質がいいから、唐辛子みたいに安くはできないんだ。なかなかお目が高い、へへへっ」
店主は愛想よく教えてくれた。
転生前からシナモンは知っていたが、加工前の現物は初めて見た。
このかぐわしい香りはデザートにもいけそうだし、焼肉のタレに合わせるのも面白いだろう。
店内を物色していると、次から次へと気になる香辛料が出てきた。
今回は荷物がたくさんになると困るので、店主にまた次回寄らせてもらうと言って、その店を後にした。
「黒胡椒の品質がピカイチだったので、次回は買いたいです」
「あれはなかなかのものだったわね。コスタの物流は侮れないみたい」
俺たちは市場巡りを再開した。
他にはどんな店が出てくるのか期待に胸が躍った。
しばらく、同じように香辛料を扱う店と日用品店が続いて興味は惹かれなかったが、途中から野菜や果物を扱う店が中心になった。
「場所が変わると、扱う種類も変わるんですね」
「すごーい、見たことない野菜ばっかりだよ」
「俺も初めて見るものがたくさんです」
歩きながら眺めているだけでも飽きがこない。
同じように果物も珍しいものが並んでいる。
「マルク、向こうに精肉店があるみたいよ」
「……そうですか」
見たら見たで楽しめると思うが、どのみちコスタでは魚介類を仕入れることになる。
今回は精肉店よりも鮮魚店を見ておいた方がいいと判断した。
「とりあえず、鮮魚店を優先します」
「精肉ならバラムで仕入れた方が新鮮ね。異論ないわ」
「ランス城の料理人だったジェイクの話でも、バラムの牛肉は品質がいいみたいなので、わざわざここで買う必要はなさそうです」
アデルと話していると、ふいに殺気のようなものを感じた。
周囲を見渡してみるが、不審な人影は目に入らなかった。
密集するほどの人通りではないので、何かあれば見逃す可能性は低い。
「マルク、何かあった?」
「……あっ、いえ、何でもありません」
「それじゃあ、鮮魚を見に行くわよ」
「はい」
精肉店のある一角には向かわず、鮮魚店の集まる方へ向かった。
通路を歩いて進んでいくと、前方に活気のある店が並んでいた。
海産物の流通が盛んな土地柄ということもあり、他のところ以上に賑わっている。
きっと、俺たちと同じように周辺の各地から訪れる買いもの客もいるのだろう。
「これはわざわざ来た甲斐がありますね」
「海が近いと新鮮みたい。どれも美味しそうだわ」
「こんなに魚だらけなのも初めて」
三人で目を輝かせながら店先を覗いていった。
鮮度のよさそうな魚があちらこちらの店に並んでいる。
「サンドロと話したように、持ち帰るのは最短ルートが復旧してからですね」
「バラムからなら来やすいし、無理に買う必要もないと思うわ」
「当初は持って帰るつもりだったんですけど、傷んだりしたら勿体ないですから」
馬車で戻るだけならいけると思うが、つまらない賭けのために食材を無駄にしたくはない。
今回はできるだけ情報を集められたら、それで十分だと切り替えた。
うちの店で一緒に出すことを考えたら、鉄板焼き向きな素材の方が適している。
そう考えると、エビか貝の仲間がちょうどいいだろうか。
魚は切り身を買ったとして、肉と一緒に出してしまうと、両方がメインになってしまう可能性がある。そうなってはどこかアンバラスな気がした。
それも踏まえつつ、サンドロは優先して何回か仕入れをさせてくれるみたいなので、こちらで固めすぎても変更が出てくる可能性もある。
「……あなたなら大丈夫だと思うけれど、基本的に焼肉と魚はミスマッチよ」
「はい、同じことを考えてました」
「魚のグリルは焼肉とは別の料理だし、鉄板が生臭いと牛肉の味が落ちるわ」
「教えてもらって助かります。やっぱり、そうですよね」
サンドロに食材を卸してもらう際には、なるべく魚以外で頼むことにしよう。
特にエビはけっこう絵になるので、生臭さの対策をしながら導入したいところだ。
その場合、鉄板やお客用の焼き場の拡張も考えた方がいいかもしれない。
焼く時の面積が広ければ広いほど、同時に焼くことも可能になると考えた。
「……これは壮大な話になってきたぞ」
開店当初は焼肉がここまで上手くいくと予想しなかったのが、今では食材の充実に設備の拡張。
自分の店を経営しているという実感が高まり、これまでになく充実した気持ちだった。
同行してくれたアデルやエステルはもちろんのこと、食材を融通してくれる予定のサンドロにも感謝したいと思った。
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