異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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高級キノコを求めて

コショネ茸の試食と新たな方針

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 コショネ茸のソテーが完成した後、厨房から外に出てハンクを待つことにした。
 屋外のテーブル席には煌めく陽光とさわやかな風が当たっている。
 空には薄い雲がいくつか浮かび、まずまずの晴天だった。
 
「……あれ、おかしいな? 朝食の時間に来るって言っていたような」

 しばらく待っていても、彼の姿は現れなかった。
 ハンクは細かいことは気にしないものの、基本的に約束を守るような性格だ。
 何か来れなくなることがあったのかと思うと、少し心配になってきた。

「どうする、探しに行くか……」

 バラムの町はそこまで狭いわけではない。
 探し回るうちに入れ違いになる可能性もある。
 
「まあ、こんなこともあるか」

 俺はもう少し待つことにして、コショネ茸のソテーをフォークに刺して食べた。
 店の前を歩く人はまばらで、ここはのどかで落ち着く雰囲気だった。
 時折、街路樹に小鳥が飛んできて、ピーピーと鳴いては去っていく。
 
「ひとまず、明日の営業の準備はしておいた方がいいか」

 急ぎの予定はなく、今日中に肉の仕入れや敷地内の手入れは済ませておきたい。  
 それ以外は自堕落にすごしたところで、何の問題もないだろう。
 しかし、日々活動で動き回っているせいか、何もしないのもソワソワする。

「……ハンクじゃなくてもいいから、誰かに食べてもらうのもいいか」

 そんなことを考えていると、誰かが店の敷地に入ってきた。
 気配のする方へ目を向けたところで、見慣れた人物が近づいていた。
 
「――マルクさん、おはようございます」
 
「あれっ、エスカ? 今日はどうしたの?」

 ハンクが来たと思ったので、何だか間の抜けた反応になってしまった。
 エスカはこちらを向いたまま、質問に答えようとしている。

「ええと、ハンクさんは町の人のお手伝いが急に入ってしまったみたいで、ここには来れないみたいです」

「……ああっ、なるほど」

 ハンクが来なかった理由が分かり、すっきりする気持ちだった。
 そういった事情があるのなら、仕方がないことだと思った。

「たまたま、近くをわたしが通りがかって、マルクさんに行けそうにないことを伝えてほしいと頼まれました。大工仕事をしてたみたいなんですけど、ハンクさんは何でもできてすごいです」

「それで来てくれたのか、わざわざありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」

 エスカはにっこりときれいな笑顔を見せた。
 冒険者仲間だった頃から、異性として意識しないようにしているが、愛くるしいところはあると思う。

「そういえば、ハンクに食べてもらうつもりで作った料理があるけど、よかったら食べる?」

「えっ、いいんですか?」 
 
「材料はまだ残ってるし、全然気にしなくていいよ」

「それじゃあ、お願いします」

「今から用意するから、座って待ってて」

 テーブルの上にあるものは冷めている上に、少しつまんだ残りだった。
 俺は厨房に戻り、フライパンに残してあった分を新しい皿に盛りつけた。
 余熱で温かさが残っていたので、加熱する必要はないようだった。

「はい、お待たせ」

「うわぁ、いい匂い」

 エスカの前に皿を差し出すと、彼女は目を輝かせた。
 バラムではコショネ茸は手に入らないと思うので、エスカがこれを食べるのは初めてかもしれない。

「コショネ茸って知ってる?」

「うーん、名前ぐらいは聞いたことあるかなって感じです」

「これはそのコショネ茸なんだ。デュラスに行くと流通してるみたいで、けっこう高級らしい。説明はこれぐらいにして、食べてもらおうか」

 自分の手に持ったままだったフォークをエスカに手渡す。
 彼女はしっかりと受け取ると、待ち遠しいと言わんばかりの表情で皿をじっと見た。

「いただきまーす」

「どうぞ、召し上がれ」

 エスカは慎ましい所作で香りを堪能した後、皿の上のコショネ茸をフォークに刺した。
 うっとりするような表情に、彼女の期待値の高さが窺えた。
 
「うん、すごい美味しい!」

 エスカは料理を口に運んだ後、満足そうに言葉を紡いだ。
 今までに見た中で指折りの好感触だった。

「気に入ってもらえたみたいでよかった」

「すごいなー。こんなキノコが存在するんだ」   

「これはデュラスの山の方で採ってきた」

 俺が説明すると、エスカは疑問が浮かんだかのように首を傾けた。

「あれれ、デュラスってそんな近かったですか?」

「そういえば、まだ話してなかったな……」      

 俺はデュラスまでの往復が短かった理由とテオについてざっくり説明した。
 エスカに隠すほどでないと判断して、信頼していることが大きな理由だった。

「――えぇっ!? 飛竜に乗れるんですか!」

「向こうが協力的なところが大きいけどな」

「何も知らない人に見られたら大騒ぎになるので、たしかに目立たない方がいいと思います」

 エスカは驚いたような反応を見せた後、納得したように頷いた。
 今までの関係性も大きいと思うが、予想通りで安心した。

「テオ……飛竜の話はこの辺にして、キノコのことをもう少し話せるか?」

「ええ、いいですよ」

 コショネ茸を提供する場合、食べたことのないバラムの人たちが対象になる。
 エスカの意見はある程度参考になるはずだと考えていた。

「試食で出すのは大丈夫そうだけど、お金をもらうのはどうか気になるんだ」

「あの、マルクさんが気にしてるのは金額ですか? それとも量のバランスとか?」

「常連の人が多いとはいえ、いい加減な値付けはできないと思っていて。採ってきた量は少なくないんだけど、一時的な提供だと定着しないよな」

 エスカは大らかな雰囲気ではあるものの、頭はそれなりに切れる。
 いい質問を返してくれたおかげで、考えが深まった気がした。

「試食として出してみたり、付け合わせ的に出したりすれば、しばらくは足りると思いますよ。でも、鮮度とかも気にしないといけませんよね」

「そうなんだよ。コショネ茸は長持ちしやすいとはいえ、限度があるんだよな」

 レア食材商人のジョゼフに触発されて、まずはコショネ茸導入に着手した。
 現物を手に入れられたところまではよかったが、一時的な取り組みで終わってしまいそうだった。

「うーん、ハンクさんなら詳しそうですよね。それにアデルさんも。二人に協力してもらったらいいじゃないですか?」

 エスカはあっけらかんとした様子で言った。
 俺自身も気づいていたことだが、二人が協力してくれれば、どうにかなりそうな気がしていた。

「……ふうっ、悩んでもしょうがないな。コショネ茸はお客に出すのはやめて、自分たちで食べるか。それなら、量を気にしなくて済むし」

 頭にまとわりつくような霧が晴れる感覚がした。
 せっかく手に入ったのだから、コショネ茸は自分や仲間と堪能するとしよう。

「エスカ、ありがとう。次の食材はまた探すとするよ。ところで、おかわりはいるか?」

「ええ、ぜひ!」

 エスカの晴れやかな笑顔をみると、これでよいのだと思えた。
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