181 / 473
高級キノコを求めて
公都イクセルへの道のり
しおりを挟む
テオにもう少しいい気分を味わわせてもよかったが、茶番であることが露見すると色々とまずいので、俺とハンクは目配せをして守衛たちの前から立ち去った。
門の前を離れたところで抜け道などがないかを確かめてみたものの、左右に背の高い鉄柵が続いて通り抜けるのは難しそうだった。
さらに歩いてから後ろを振り向くと、守衛たちの姿は小さくなっていた。
同じことを考えていたのか、ハンクも後ろを振り返ったところだった。
それから正面に向き直った俺たちはどちらともなく笑い出した。
「いやー、傑作だった。あんな簡単にだまされて、デュラスの守衛はあれでいいのか。はははっ」
「なかなかの機転でしたね。これからどうしましょう」
「ほとんど思いつきだからな。あんまり先のことまでは考えてねえ」
「おっ、それは困りましたね。デュラスといえば、フランがいると思いますけど、そう上手いこと見つかるかどうか」
貴族の令嬢かつハンクを尊敬しているようなので、彼の口添えがあれば書状なり同行なりを引き受けてくれる可能性は高いような気もする。
ハンクが俺の話を聞いた後、何かを考えるような表情を見せながら口を開いた。
「そうか、フランがいたか。ただまあ、デュラスといっても広いからな」
「案外、Sランク冒険者であることを打ち明ければ、貴族の中の一人ぐらいは協力してくれそうな気もしますけど」
デュラスの貴族たちがどんな人たちかは想像できないが、ランスの貴族たちと同じような雰囲気なら、威張りくさるような下衆ではないはず。
個人的にそうであってほしいという願望も含まれるが――いわゆる希望的観測というやつだ。
「どうだろうな。デュラスには何度か行ったことがあるが、残念なことに貴族の知り合いはいねえんだ」
「それで、次の目的地はどうしましょう」
「貴族探しなら、公都イクセル一択だろ。この国で一番大きな都市だし、人も情報も何でも豊富にある」
「それで構いません。テオへの案内はどうします? 俺は距離とか方角が分からないので、ハンクから教えてほしいですけど」
「それなら問題ねえ。おれに任せてくれ」
肝心のテオの様子に目を向ける。
守衛たちの持ち上げるような応対の余韻があるようで、涼しげな顔つきで足取りは軽やかに見える。
「次の目的地まで乗せてほしいんですけど、お願いできますか?」
俺が話しかけると、テオは今までの中で一番反応がよかった。
無表情なことが多い彼だが、少しばかりにんまりとした表情が窺える。
「よかろう。この国の公都までだな」
「方向とかはハンクから聞いてください」
「うむ」
テオはわずかに頷いて、こちらからの申し出を了承した。
ここから麓までとなると距離がありそうで、その上にそこから公都までとなると、移動時間が長くなりすぎてしまう。
考えるまでもなく、テオに乗せてもらうことが最短ルートだろう。
それから来た道を引き返して頭上が開けた場所に戻ると、俺とハンクは飛竜の姿になったテオの背中に乗った。
今回は飛行中にハンクが行き先を指示するため、ハンクが前に俺が後ろにという並びになっていた。
もちろん、魔道具を操作して透明になることも忘れずに。
テオが浮上を開始して十分な高さになったところで、ハンクが大まかな指示を出しているのが聞こえた。
こちらに話していたのと同じように、方向さえ間違えなければ問題ないと伝えている様子だ。
二人のやりとりが終わったようで、少ししてテオが移動を開始した。
ご機嫌だったようなので少し速すぎる気もするが、鞍の取っ手を握っていれば振り落とされそうになるほどではなかった。
眼下の景色はしばらくの間、森林が続いた後、少しずつ開けた土地になった。
木々が生い茂っていたのが草原に変わり、視界に入る建物の数が増えていった。
牧畜が活発なようで何度か牧場の上を通過して、牛や羊が飼われている様子を捉えることができた。
ハンクとテオは途中途中に飛行の微調整をしているようで、思い出したように会話を続けていた。
テオは飛竜になった時にテレパシーみたいな能力で話すため、こちらにはハンクの声だけが聞こえる状態になっている。
少しばかり飛行時間を長く感じるようになった頃、前方の景色に変化が見られた。
街道が十分に整備されたものに変わり、関所や砦らしきものが目に入った。
するとそこで、前に座るハンクから声をかけられた。
「もう少し先にイクセルがあるんだが、目立たなくするために、テオには手前の人の気配が少ない場所に下りてもらう」
「分かりました。いよいよですね」
「そういえば、イクセルは初めてだったか?」
「はい、今回が初めてです」
ハンクはこちらの言葉に頷いた後、急に静かになった。
そして、短く返事をするように言った後、こちらを向いた。
「マルク、テオがこれから下降するってよ」
「分かりました」
途中まで水平だったテオの背中が徐々に傾いていった。
そのまま高度が下がっていった後、周りを草むらに囲まれた場所に着陸した。
「……ええと、周りに人影はなしっと」
テオの背中から下りた後、周囲を確かめてから透明な状態を解除した。
目の前に飛竜の姿が見えたのも束の間で、すぐに人の姿になった。
「さあ、イクセルまであと少しだ」
「はい」
ハンクが先導するように道の方に歩き出した。
俺とテオはそれに続くように足を運んだ。
人気がなかったのもわずかな時間で、街道に出ると通行人の数が多くなった。
さすがにこれだけの人がいるところで、飛竜が飛んでいたらら大パニックになることは想像するまでもない。
そのまま進み続けると、前方に左右に広がる立派な城壁が見えてきた。
ランス王国では王都にしかないような規模のものだ。
やはり、公都イクセルは相当なものだということだ。
ふと、重要なことに気づいてハンクに声をかける。
「城壁の内側へ入るのに手続きはいりますか? テオの身分は証明できないので、それが必要となると困りそうですけど」
「心配いらねえ。門には警備の兵がいるにはいるが、よほど怪しい身なりでもない限りは呼び止られることはないぞ」
「それなら安心です」
ハンクの答えを聞いてから、そのまま城壁の方へと進んだ。
彼の言う通り、防具に身を包んだ兵士が一定の距離を保った状態で、周囲に目を光らせていた。
イヤな汗が吹き出しそうだったが、何ごともなく通過することができた。
城壁の下をくぐった先には、初めて目にするイクセルの街並みが広がっていた。
門の前を離れたところで抜け道などがないかを確かめてみたものの、左右に背の高い鉄柵が続いて通り抜けるのは難しそうだった。
さらに歩いてから後ろを振り向くと、守衛たちの姿は小さくなっていた。
同じことを考えていたのか、ハンクも後ろを振り返ったところだった。
それから正面に向き直った俺たちはどちらともなく笑い出した。
「いやー、傑作だった。あんな簡単にだまされて、デュラスの守衛はあれでいいのか。はははっ」
「なかなかの機転でしたね。これからどうしましょう」
「ほとんど思いつきだからな。あんまり先のことまでは考えてねえ」
「おっ、それは困りましたね。デュラスといえば、フランがいると思いますけど、そう上手いこと見つかるかどうか」
貴族の令嬢かつハンクを尊敬しているようなので、彼の口添えがあれば書状なり同行なりを引き受けてくれる可能性は高いような気もする。
ハンクが俺の話を聞いた後、何かを考えるような表情を見せながら口を開いた。
「そうか、フランがいたか。ただまあ、デュラスといっても広いからな」
「案外、Sランク冒険者であることを打ち明ければ、貴族の中の一人ぐらいは協力してくれそうな気もしますけど」
デュラスの貴族たちがどんな人たちかは想像できないが、ランスの貴族たちと同じような雰囲気なら、威張りくさるような下衆ではないはず。
個人的にそうであってほしいという願望も含まれるが――いわゆる希望的観測というやつだ。
「どうだろうな。デュラスには何度か行ったことがあるが、残念なことに貴族の知り合いはいねえんだ」
「それで、次の目的地はどうしましょう」
「貴族探しなら、公都イクセル一択だろ。この国で一番大きな都市だし、人も情報も何でも豊富にある」
「それで構いません。テオへの案内はどうします? 俺は距離とか方角が分からないので、ハンクから教えてほしいですけど」
「それなら問題ねえ。おれに任せてくれ」
肝心のテオの様子に目を向ける。
守衛たちの持ち上げるような応対の余韻があるようで、涼しげな顔つきで足取りは軽やかに見える。
「次の目的地まで乗せてほしいんですけど、お願いできますか?」
俺が話しかけると、テオは今までの中で一番反応がよかった。
無表情なことが多い彼だが、少しばかりにんまりとした表情が窺える。
「よかろう。この国の公都までだな」
「方向とかはハンクから聞いてください」
「うむ」
テオはわずかに頷いて、こちらからの申し出を了承した。
ここから麓までとなると距離がありそうで、その上にそこから公都までとなると、移動時間が長くなりすぎてしまう。
考えるまでもなく、テオに乗せてもらうことが最短ルートだろう。
それから来た道を引き返して頭上が開けた場所に戻ると、俺とハンクは飛竜の姿になったテオの背中に乗った。
今回は飛行中にハンクが行き先を指示するため、ハンクが前に俺が後ろにという並びになっていた。
もちろん、魔道具を操作して透明になることも忘れずに。
テオが浮上を開始して十分な高さになったところで、ハンクが大まかな指示を出しているのが聞こえた。
こちらに話していたのと同じように、方向さえ間違えなければ問題ないと伝えている様子だ。
二人のやりとりが終わったようで、少ししてテオが移動を開始した。
ご機嫌だったようなので少し速すぎる気もするが、鞍の取っ手を握っていれば振り落とされそうになるほどではなかった。
眼下の景色はしばらくの間、森林が続いた後、少しずつ開けた土地になった。
木々が生い茂っていたのが草原に変わり、視界に入る建物の数が増えていった。
牧畜が活発なようで何度か牧場の上を通過して、牛や羊が飼われている様子を捉えることができた。
ハンクとテオは途中途中に飛行の微調整をしているようで、思い出したように会話を続けていた。
テオは飛竜になった時にテレパシーみたいな能力で話すため、こちらにはハンクの声だけが聞こえる状態になっている。
少しばかり飛行時間を長く感じるようになった頃、前方の景色に変化が見られた。
街道が十分に整備されたものに変わり、関所や砦らしきものが目に入った。
するとそこで、前に座るハンクから声をかけられた。
「もう少し先にイクセルがあるんだが、目立たなくするために、テオには手前の人の気配が少ない場所に下りてもらう」
「分かりました。いよいよですね」
「そういえば、イクセルは初めてだったか?」
「はい、今回が初めてです」
ハンクはこちらの言葉に頷いた後、急に静かになった。
そして、短く返事をするように言った後、こちらを向いた。
「マルク、テオがこれから下降するってよ」
「分かりました」
途中まで水平だったテオの背中が徐々に傾いていった。
そのまま高度が下がっていった後、周りを草むらに囲まれた場所に着陸した。
「……ええと、周りに人影はなしっと」
テオの背中から下りた後、周囲を確かめてから透明な状態を解除した。
目の前に飛竜の姿が見えたのも束の間で、すぐに人の姿になった。
「さあ、イクセルまであと少しだ」
「はい」
ハンクが先導するように道の方に歩き出した。
俺とテオはそれに続くように足を運んだ。
人気がなかったのもわずかな時間で、街道に出ると通行人の数が多くなった。
さすがにこれだけの人がいるところで、飛竜が飛んでいたらら大パニックになることは想像するまでもない。
そのまま進み続けると、前方に左右に広がる立派な城壁が見えてきた。
ランス王国では王都にしかないような規模のものだ。
やはり、公都イクセルは相当なものだということだ。
ふと、重要なことに気づいてハンクに声をかける。
「城壁の内側へ入るのに手続きはいりますか? テオの身分は証明できないので、それが必要となると困りそうですけど」
「心配いらねえ。門には警備の兵がいるにはいるが、よほど怪しい身なりでもない限りは呼び止られることはないぞ」
「それなら安心です」
ハンクの答えを聞いてから、そのまま城壁の方へと進んだ。
彼の言う通り、防具に身を包んだ兵士が一定の距離を保った状態で、周囲に目を光らせていた。
イヤな汗が吹き出しそうだったが、何ごともなく通過することができた。
城壁の下をくぐった先には、初めて目にするイクセルの街並みが広がっていた。
39
お気に入りに追加
3,381
あなたにおすすめの小説

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!
報酬を踏み倒されたので、この国に用はありません。
白水緑
ファンタジー
魔王を倒して報酬をもらって冒険者を引退しようとしたところ、支払いを踏み倒されたリラたち。
国に見切りを付けて、当てつけのように今度は魔族の味方につくことにする。
そこで出会った魔王の右腕、シルヴェストロと交友を深めて、互いの価値観を知っていくうちに、惹かれ合っていく。
そんな中、追っ手が迫り、本当に魔族の味方につくのかの判断を迫られる。

異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる