上 下
174 / 449
飛竜探しの旅

老人と魔道具ふたたび

しおりを挟む
 こちらが前を進み、アデルが後ろを歩くという順番で獣道の中を歩き始めた。
 以前は剣で草木を払う必要があったが、今回はそこまでしなくても進むことができる。
 
 危険が少ないとはいえ、周囲に異変がないか警戒してしまうのは元冒険者としての気質みたいなものだろうか。
 見たところそういった形跡はないので、安心して進んでよさそうだった。
 
 順調に道を進んでいくと、記憶と一致するようにドーム型のテントのような建物が目に入った。
 周囲に生えていた雑草などは取り去られていて、老人がこまめに草刈りをしている様子がありありと浮かぶようだった。

「まだありましたね。よそへ移った可能性もあると思ったんですけど」

「とりあえず、留守かどうかを確認するわよ」

「はい、そうしましょう」

 俺はテントの玄関に近づいて、ドアをノックした。
 すると、少し時間をおいてゆっくりと開いた。

「――うん? 何の用じゃ?」

 あの時の老人が玄関に姿を現した。
 急な来客に戸惑っているように見える。

「どうも、こんにちは」

「おおっ、おぬしか。ギルドの件は上手く報告してくれたようじゃな」

「ああっ、まぁ……」

 ギルド長に報告する際、老人を助けるような説明をしたことを思い出す。
 こちらの意図が露見することはなかったものの、あの時は肝を冷やした。

「今日はちょっとお願いがあるんですよ」

 俺は気を取り直して老人に切り出した。
 突然押しかけたにもかかわらず、さほど不快そうな反応はなかった。

「そうか、まずは中に入るといい」
 
「では、お邪魔します」

 俺とアデルは老人に招かれて、テントの中へを足を踏み入れた。
 二度目ではあるものの、中が思ったよりも広いことに改めて驚いた。

「ほれ、こっちじゃ」

 老人に案内されるままに中を進む。
 少し奥へと歩いたところで、見覚えのあるリビングのような場所に通された。
 前もここで話したことを思い出す。

「そこに座っておれ。わしはお茶を用意する」

「ありがとうございます」

 俺とアデルが椅子に腰かけて待っていると、老人が二つのカップをトレーに乗せて持ってきた。
 中身は温かいようで、うっすらと湯気が漂っている。

「町へ買い出しに行った時、ついでに買った紅茶じゃ。よかったら、飲むといい」

 今回は二度目の訪問なのだが、老人は以前から知り合いだったかのように気さくな振る舞いだった。
 山中の生活では人恋しくて、相手の態度が軟化しているのだと悟った。

「さてと、何かお願いがあるんだったかのう」 

 老人は紅茶を出し終えると、トレーをテーブルの脇に置いて口を開いた。

「実は魔道具についてのこと何ですけど――」

「何じゃと!? わしはもう町で売ったりはしておらんぞ」

「あっ、違います。最後まで聞いてください」

「そうか、すまん。それでは続きを」

 仕切り直すように咳ばらいをして、話の続きを始めた。

「特殊な効果になってしまうんですけど、作ってほしい魔道具があります」

「ほう、わしに頼みに来るとはのう。おぬしは目が肥えておる。具体的にはどういう機能が欲しいのじゃ?」

 老人は頼りにされたことがずいぶんうれしいようだった。
 誰が見ても明らかなほど、にやにやしている。

「結界のように認識を阻害したり、かく乱したりする効果、もしくは透明にして特定の対象から見えなくするみたいな……。自分で言っていて無茶なお願いだと思います」

「うーん、そうでもないぞ……」

 老人は腕組みをして、何やら考え始めた。
 ちなみにアデルは直接関係がないので、ほとんど会話に参加していない。
 出された紅茶を上品かつ美味しそうに飲んでいる。

「さあ、若者、ちょっとついてくるんじゃ」

 老人は何かを思いついた様子で立ち上がった。
 どこかへ歩いていくので後に続くと玄関から外に出た。
 
「おぬしに話した機能じゃが、すでに完成しておる」

「……それと外に出たのは何の関係が?」

「立ち退きから逃れるためにテントごと隠れるよう、特別に設置した装置がある。それを起動して、効果のほどを見せてやろうという話じゃな」

「ああっ、なるほど」

 実物がイメージしやすいようにという本人なりの親切なのだと捉えた。
 何というか、この老人は魔法使いというより研究者みたいな感じだな。
 出会った時から魔道具にご執心だった。
   
「それでは、起動するぞ」

 老人はリモコンめいた小さな装置を手にしている。
 それが操作されると、テントのシルエットがそのまま消えていった。

「あれっ、どういう仕組みですか!? ……ていうか、中にいるアデルは?」

「テントに魔道具が設置されているが、周りにいる者から目を隠すだけだから、あのお嬢さんなら問題ない」

 老人はこちらの動揺を鎮めるように言った。
 もう一度、リモコンのようなものが操作されると、何ごともなかったようにテントが現れた。

「まさしく、こんなものを求めていたんです」 

 テントに設置された装置の効果が分かると、そんな言葉が口をついた。
 これなら、テオを隠すのに使えそうなアイテムだ。

「これはわしが緊急避難するために渡すことはできんが、時間をもらえたら同じようなものが作れるぞ」

「それは助かります。ところで完全に視界から消えてしまうと、見えなくした本人も見失いそうですけど、それはどうなってますか?」

 透明人間みたいになるのは優れものだが、テオがどこに行ったのか分からなくなったり、上空で乗っている人間だけが見えてしまえば、それはそれで問題がある。

「それなんじゃが、触れていると一緒に隠れた状態になる。おまけに触れている者からは一緒に見えない状態の者を見ることができる。そういう仕組みだのう」

「えっ、そんなことが可能なんですか?」

 幻覚魔法が見た者の認識を阻害するという効果は、魔法だから何でもありという認識だった。
 しかし、魔道具でそこまでの効果があるのなら、とんでもないものが完成したことになるのではないか。

「それはあれじゃ、ここが静かで集中しやすいのと地脈を流れる魔力が豊富で、試作品を作り放題だったのが大きいな」

「個人的な感想ですけど、高性能な魔道具がやたらに出回ると戦乱の種になりかねないと思うので、注意した方がいい気がします」

「心配いらん。やたらに他人に譲るようなことはないぞ。おぬしがギルドからの立ち退き勧告を防いだ礼に分けるだけだからのう」

「……おじいさん」

 老人は気難しいとばかり思っていたが、意外と義理深い一面を知った瞬間だった。
 俺たちはがっちりと握手をかわした。


 あとがき
 お読みいただき、ありがとうございます。
 最新話をチェックしてくださることで、活動の励みになっています。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小型オンリーテイマーの辺境開拓スローライフ~小さいからって何もできないわけじゃない!~

渡琉兎
ファンタジー
◆『第4回次世代ファンタジーカップ』にて優秀賞受賞! ◆05/22 18:00 ~ 05/28 09:00 HOTランキングで1位になりました!5日間と15時間の維持、皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!! 誰もが神から授かったスキルを活かして生活する世界。 スキルを尊重する、という教えなのだが、年々その教えは損なわれていき、いつしかスキルの強弱でその人を判断する者が多くなってきた。 テイマー一家のリドル・ブリードに転生した元日本人の六井吾郎(むついごろう)は、領主として名を馳せているブリード家の嫡男だった。 リドルもブリード家の例に漏れることなくテイマーのスキルを授かったのだが、その特性に問題があった。 小型オンリーテイム。 大型の魔獣が強い、役に立つと言われる時代となり、小型魔獣しかテイムできないリドルは、家族からも、領民からも、侮られる存在になってしまう。 嫡男でありながら次期当主にはなれないと宣言されたリドルは、それだけではなくブリード家の領地の中でも開拓が進んでいない辺境の地を開拓するよう言い渡されてしまう。 しかしリドルに不安はなかった。 「いこうか。レオ、ルナ」 「ガウ!」 「ミー!」 アイスフェンリルの赤ちゃん、レオ。 フレイムパンサーの赤ちゃん、ルナ。 実は伝説級の存在である二匹の赤ちゃん魔獣と共に、リドルは様々な小型魔獣と、前世で得た知識を駆使して、辺境の地を開拓していく!

無人島Lv.9999 無人島開発スキルで最強の島国を作り上げてスローライフ

桜井正宗
ファンタジー
 帝国の第三皇子・ラスティは“無能”を宣告されドヴォルザーク帝国を追放される。しかし皇子が消えた途端、帝国がなぜか不思議な力によって破滅の道へ進む。周辺国や全世界を巻き込み次々と崩壊していく。  ラスティは“謎の声”により無人島へ飛ばされ定住。これまた不思議な能力【無人島開発】で無人島のレベルをアップ。世界最強の国に変えていく。その噂が広がると世界の国々から同盟要請や援助が殺到するも、もう遅かった。ラスティは、信頼できる仲間を手に入れていたのだ。彼らと共にスローライフを送るのであった。

自重知らずの転生貴族は、現在知識チートでどんどん商品を開発していきます!!

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
無限の時空間の中、いきなり意識が覚醒した。 女神の話によれば、異世界に転生できるという。 ディルメス侯爵家の次男、シオン・ディルメスに転生してから九年が経ったある日、邸の執務室へ行くと、対立国の情報が飛び込んできた。 父であるディルメス侯爵は敵軍を迎撃するため、国境にあるロンメル砦へと出発していく。 その間に執務長が領地の資金繰りに困っていたため、シオンは女神様から授かったスキル『創造魔法陣』を用いて、骨から作った『ボーン食器』を発明する。 食器は大ヒットとなり、侯爵領全域へと広がっていった。 そして噂は王国内の貴族達から王宮にまで届き、シオンは父と一緒に王城へ向かうことに……『ボーン食器』は、シオンの予想を遥かに超えて、大事へと発展していくのだった……

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

アラフォー料理人が始める異世界スローライフ

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。 わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。 それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。 男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。 いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。 そこはど田舎だった。 住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。 レコンティーニ王国は猫に優しい国です。 小説家になろう様にも掲載してます。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

自由を求めた第二王子の勝手気ままな辺境ライフ

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
旧題:追放王子の辺境開拓記~これからは自由に好き勝手に生きます~ ある日、主人公であるクレス-シュバルツは国王である父から辺境へ追放される。 しかし、それは彼の狙い通りだった。 自由を手に入れた彼は従者である黒狼族のクオンを連れ、辺境でのんびりに過ごそうとするが……そうはいかないのがスローライフを目指す者の宿命である。 彼は無自覚に人々を幸せにしたり、自分が好き勝手にやったことが評価されたりしながら、周りの評価を覆していく。

処理中です...