上 下
173 / 456
飛竜探しの旅

アデルと二人で探索

しおりを挟む
 一通り準備を終えたところで、少し前にアデルと行った時のことを思い出した。
 日帰りで行ける場所であるため、今回も少ない荷物で問題ないだろう。 
  
「話を通すのに酒を渡すとして、それと何か……あっ、あれだ!」

 俺は遠征用の荷物に入れたままだった魔石を取り出した。
 ベヒーモスのものはアデルがハンクの応急処置をした時に使用済みであり、その子分であったような黒い犬のものが少しだけ残っている。
 これを老人に渡してしまえば、残数はゼロになってしまう。

「そんなに使い道はないし、また探せばいいか」

 実際のところ、自分はいまいち使いこなせていなかった。
 上手に活用できなければ、神秘的な輝きのきれいな石ころでしかない。

 遠征用のものよりも小ぶりなカバンを背負い、魔石はポケットにしまった。
 先にアデルが待っていることもありえるので、そろそろ出発しよう。
 最後に装備を確認してから、足早に自宅を出た。
 
 リムザンやエルフの村ほど田舎ではないので、通りには一定の人通りがある。
 ふと、人の気配が少なすぎても落ちつかないような気がした。
 人間というものは、慣れ親しんだ環境の方がすごしやすいのだろうか。

 そんなことを思いつつ、目的地へと足を伸ばした。
 集合場所は町外れにあるので、自宅の近くから少し歩かなければならない。

 町の中を移動してアスタール山方面の入口付近に着くと、ちょうどアデルがこちらにやってくるのが目に入った。
 俺と同じように長旅に用いるような荷物ではなく、日帰り仕様の装いだった。

「同じ時間に着いたわね」

 アデルはこちらを向いて微笑んでいる。
 長旅の疲れを感じさせないような、明るい表情が印象に残った。
 周りに細やかな気配りをするタイプには見えないものの、一緒に旅をしていて不満を見せることは多くない。その点は彼女の美点の一つだと思った。
  
「では早速、アスタール山に向かいますか」

「ええ、行きましょう」

 二人で町の入口から移動して街道につながる道を進んだ。
 街道に入ってしばらく歩いた先に、アスタール山に続く道が脇に伸びていた。
 俺たちは迷いのない足取りで、街道からそちらの道へと進入した。
 
 山の入り口に差しかかったところで、見覚えのある看板が立っていた。
 そこには、「入山には許可が必要です。詳しくはギルドまで」と書かれている。
 以前、ギルド長に報告したことで冒険者がやってきたようで、内容は同じであっても看板そのものが新調された形跡があった。

「この看板、わりと古かったんですよ。アスタール山は地元民のハイキングコース程度にしか認識されてなくて。あんまり人が来ないことも、あの老人が居心地よくなった理由の一つかもしれませんね。最終的には立ち退き手前までいきましたけど」

 俺は表情をしかめながら言った。
 隣を歩くアデルはそれを聞いて頷いた。

「どこの町も一緒よね。やっぱり重要視されるのは価値が高いことや特別な意味があることが中心だから。エルフの村に行ったばかりだからこそ、こういう自然が大事だと考えさせられるわ」

「王都に近い方のエルフの村を出て、美食の旅を続けていたと思うんですけど、自然を大事に思ったりするんですね」

「まあ、一応はエルフだし」

 アデルは少し照れたような仕草を見せた。
 コレットやソラルがそうだったように、彼女も自然への意識が高い側面があるようで、それはエルフという種族に由来するものだと知った。

 二人で会話をしながら、麓から山頂に続く緩やか傾斜を上がっていった。
 山の中は緑が豊かで色々な種類の木々や草花が見て取れる。
 バラム周辺は季節の変化が少ないものの、前に来た時とは植物の色合いや雰囲気が変化していることが感じられた。

「そういえば、前回は栗を集めるという目的も兼ねてましたけど、もう時期がすぎたと思います」

「あら、残念。すっかり忘れていたけれど、来たついでに持って帰ってもいいのに」

 アデルはそう言って、辺りに茂る木々に目を向けていた。
 旬になると山に入って採取する人がやってくるため、近くの足元や栗の木の根元には茶色のいがいがは落ちていないようだ。
 
 俺たちはのんびりと話しながらも、周囲に注意を向けていた。
 たしか、もう少し進んだ先に老人の工房まで抜ける獣道があったはずだ。

「どうします、今回も魔力探知やってみますか?」

「うーん、今日はやめとくわ。多少は旅の疲れもあるし、前と同じところへ出られたら、いるかどうかは肉眼で確認できるわね」

「うんまあ、それはもっともです」

 遠征帰りにわざわざ付き合ってもらっているので、アデルに無理を言うつもりはなかった。

 さらに進んだところで、明らかに人が出入りしているような痕跡があった。
 獣道というには幅が広く、人が通る大きさに植物が払われていた。
 おそらくこの辺りだった気がする上に、老人が通行を続けたことでできたものである可能性も考えられる。

「多分、ここがそうですよね」

 俺はアデルにたずねた。
 二人の意見が一致すれば、ほぼ間違いないと思った。

「記憶力がいいわね。かすかだけれど、この先に魔力が強まるのを感じるわ。まだいるみたいだし、方向も間違っていないみたい」

「ふぅっ、よかったです。老人がいなかったら途方に暮れるところだったので」

「ちょっと大げさよ。どうしてもとなったら、私がついていくから。まずはちょうどいい魔道具が見つかるといいわね」

 アデルが同行するならば、幻覚魔法のような効果を発揮する魔道具は必要ない。
 とはいえ、その効果がなければテオの存在が露見してしまう。

 一般的にドラゴンを始めとする竜種は恐れられており、飛龍であったとしても、町を混乱に陥れる可能性が高い。
 それを防ぐにはアデルに魔法を使ってもらうか、同じ効果の魔道具が必要なのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無属性魔法って地味ですか? 「派手さがない」と見捨てられた少年は最果ての領地で自由に暮らす

鈴木竜一
ファンタジー
《本作のコミカライズ企画が進行中! 詳細はもうしばらくお待ちください!》  社畜リーマンの俺は、歩道橋から転げ落ちて意識を失い、気がつくとアインレット家の末っ子でロイスという少年に転生していた。アルヴァロ王国魔法兵団の幹部を務めてきた名門アインレット家――だが、それも過去の栄光。今は爵位剥奪寸前まで落ちぶれてしまっていた。そんなアインレット家だが、兄が炎属性の、姉が水属性の優れた魔法使いになれる資質を持っていることが発覚し、両親は大喜び。これで再興できると喜ぶのだが、末っ子の俺は無属性魔法という地味で見栄えのしない属性であると診断されてしまい、その結果、父は政略結婚を画策し、俺の人生を自身の野望のために利用しようと目論む。  このまま利用され続けてたまるか、と思う俺は父のあてがった婚約者と信頼関係を築き、さらにそれまで見向きもしなかった自分の持つ無属性魔法を極め、父を言いくるめて辺境の地を領主として任命してもらうことに。そして、大陸の片隅にある辺境領地で、俺は万能な無属性魔法の力を駆使し、気ままな領地運営に挑む。――意気投合した、可愛い婚約者と一緒に。

小型オンリーテイマーの辺境開拓スローライフ~小さいからって何もできないわけじゃない!~

渡琉兎
ファンタジー
◆『第4回次世代ファンタジーカップ』にて優秀賞受賞! ◆05/22 18:00 ~ 05/28 09:00 HOTランキングで1位になりました!5日間と15時間の維持、皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!! 誰もが神から授かったスキルを活かして生活する世界。 スキルを尊重する、という教えなのだが、年々その教えは損なわれていき、いつしかスキルの強弱でその人を判断する者が多くなってきた。 テイマー一家のリドル・ブリードに転生した元日本人の六井吾郎(むついごろう)は、領主として名を馳せているブリード家の嫡男だった。 リドルもブリード家の例に漏れることなくテイマーのスキルを授かったのだが、その特性に問題があった。 小型オンリーテイム。 大型の魔獣が強い、役に立つと言われる時代となり、小型魔獣しかテイムできないリドルは、家族からも、領民からも、侮られる存在になってしまう。 嫡男でありながら次期当主にはなれないと宣言されたリドルは、それだけではなくブリード家の領地の中でも開拓が進んでいない辺境の地を開拓するよう言い渡されてしまう。 しかしリドルに不安はなかった。 「いこうか。レオ、ルナ」 「ガウ!」 「ミー!」 アイスフェンリルの赤ちゃん、レオ。 フレイムパンサーの赤ちゃん、ルナ。 実は伝説級の存在である二匹の赤ちゃん魔獣と共に、リドルは様々な小型魔獣と、前世で得た知識を駆使して、辺境の地を開拓していく!

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!

武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。

異世界に飛ばされたけど『ハコニワ』スキルで無双しながら帰還を目指す

かるぼな
ファンタジー
ある日、創造主と言われる存在に、理不尽にも異世界に飛ばされる。 魔獣に囲まれるも何とか生き延びて得たスキルは『ハコニワ』という、小人達の生活が見れる鑑賞用。 不遇スキルと嘆いていたそれは俺の能力を上げ、願いを叶えてくれるものだった。 俺は『ハコニワ』スキルで元の世界への帰還を目指す。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

ベテラン冒険者のおっさん、幼女を引き取り育てて暮らす

リズ
ファンタジー
 所属していた冒険者パーティが解散し、ソロ活動をする事になったあるベテラン冒険者。  別れた仲間達とは違い、帰る故郷はなく、彼バルト・ネールは拠点にしていた町で1人、これからの事を漠然と考えながら仕事に勤しんでいた。  そんなある日の事。  冒険者として依頼を受け、魔物を討伐したバルト・ネールは町への帰り道で襲われていた馬車を救う事になった。  奴隷搬送中の馬車を救ったバルトは、奴隷商からお礼がしたいが手持ちが無いのでと、まだ幼い少女を押し付けられる。  既に家族は他界し、恋人もいない独り身のバルトは幼女を見放さず、共に暮らす事を決意。  その日を期に、少々ガサツな冒険者のおっさんと、引き取られた元奴隷の幼女2人の生活が始まった。  バルトと幼女の日常や関係はどうなっていくのか。  異世界ほのぼの日常系スローライフファンタジー。  ちょっと覗いてみませんか?

処理中です...