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飛竜探しの旅
アデルの兄とハンクの復活
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民家の中に足を運ぶと、アデルと別のエルフが会話中だった。
彼女にしては珍しく、感情を露わにした表情が垣間見えた。
アデルは俺たちの存在に気づいた後、ハッとしたようにいつもの顔に戻った。
「彼は兄のソラル。エルフの中でも治癒能力に長けているから、ハンクが受けてしまった呪詛の力も治すことができるわ」
「話はアデルから聞かせてもらったよ。そこの彼、呪詛にやられたんだって?」
ソラルは俺たちに質問を向けながら、ハンクの姿をじっと見ていた。
長い金色の髪と貫禄のある顔つきがアデルやエステルとは異なる雰囲気を感じさせる。
彼の口ぶりは穏やかで、人である俺やハンクを拒絶するような態度は見られなかった。
「兄さんなら見ればわかるでしょ」
「確認のためにたずねただけだよ。やれやれ」
ソラルはうんざりしたように両手を広げて見せた。
彼はアデルと仲がいいようには見えなかった。
ただ、今はそんなことよりもハンクを治してもらう必要がある。
「自分じゃどうにもならねえ……よろしく頼むぜ」
「心配しなくていい。わたしは別に人嫌いではない。そこの君、彼をそこのベッドに横たえてくれるかい」
「あっ、はい」
ソラルに指示されて、医者が診察に使うようなベッドにハンクを寝かせた。
だいぶ苦しいようで、ハンクは荒く息を漏らした。
額からは汗がにじんでいる。
「生半可な事態では呪詛など使わない。何か恨みを買うようなことが?」
ソラルはハンクに近づいて、ゆっくりと手を伸ばした。
何かを探るような手つきだった。
質問自体は治療の目的というよりも、単なる好奇心のように聞こえた。
「……それはねえな。事情は回復したら話すさ」
「まあ、それで構わない」
アデルの兄にしては、性格があまり似ていない。
彼女も人情味のある性格ではないが、そこまでドライというわけでもなかった。
しかし、ソラルの態度はさっぱりしすぎている。
「普段、人間と関わることは少なくてね。距離感というものが分からないんだ」
こちらの心を読んだわけではないと思うが、アデルの兄はそんなことを口にした。
もしかしたら、俺の顔に出てしまっていたのかもしれない。
「自力でうつぶせになれるかい?」
そう問いかけられると、ハンクは返事の代わりに身体の向きを変えて示した。
ソラルはハンクの衣服を脱がして、背中が見える状態にした。
「……うっ、これは」
自らの想像を超えたことで思わず声が漏れた。
鍛えられた背中には痣(あざ)のようなものがいくつも浮かんでいた。
打撲で起きるようなものではないことは一目瞭然。
あまりに痛ましい光景だった。
「これは……よく無事だったね」
「アデルが応急処置をしてくれました」
「へえ、アデルが? 妹にも優しさというものがあったんだな」
ソラルは皮肉混じりに言いながら、ハンクの背中に手をかざしていく。
先ほどと同じように、何かを確かめているように見えた。
「あの……、エルフには人間の呪詛が効かないんですか?」
俺はためらいながらソラルにたずねた。
アデルは効果が薄いと言っていたが、ソラルからも聞いておきたいと思った。
初対面とはいえ、彼に呪詛の影響が及ぶのは胸が痛む。
「例えば、スライムが君を恨んだとして、何か影響があると思うかな?」
「……あるとは思えません」
「例えがよくなかったかもしれないが、そんなところだ。同じ種族ならともかく、違う種族に負の感情をぶつけるのは難しい。それを形にして呪詛を扱うことができる人間がいるという点は別にしてね」
「それに元々の耐性が人とエルフでは全然違うのよ」
アデルが付け加えるように教えてくれた。
たしかに魔法の耐性一つ取っても、エルフの方が圧倒的に高い。
そんなエルフに呪詛の類が効果的に働くことはないということか。
「君の質問はいいところを突いているよ。耐性があるからこそ、こうやって呪詛を治療しても大した影響は受けない」
ソラルがハンクの上にかざした手を少し持ち上げた。
彼の手の平からは光のようなものが溢れている。
それは神秘的な光景だった。
ハンクの背中に視線を移すと、斑点のように散らばっていた痣が薄くなっていく。
ただただその様子を見ていることしかできなかった。
やがて光が収まると、痣は消えてなくなっていた。
「こんなところかな。しばらくは休んだ方がいいだろうね」
「……すげえな、身体が軽くなった!」
ハンクが身体を起こして、元気そうに言った。
状態を確かめるように上半身を左右に動かしている。
「ありがとうございましたっ」
思わず感謝の言葉を口にしていた。
俺には何もできなかったのに、アデルの兄はイヤな顔一つせずに治してくれた。
「今回は僕がいたから治せたものの、次からは気をつけた方がいい。後ろ暗い性質を持つ者とは関わらないようにすることだね」
「はいはい、次からは気をつけるわ」
「それと報酬はなくていいよ」
「いくら兄妹でも、そういうわけにはいかないでしょ」
アデルとソラルのやりとりが続いた。
仲がいいとは言い難いようだが、アデルなりに筋は通したいみたいだ。
「マルク、ベヒーモスの時の魔石はまだあるわよね」
「はい、黒い犬が残した小さいやつがあります」
「必ず埋め合わせをするから、少し分けてもらえるかしら?」
「もちろんです」
俺はソラルの家を出て、馬のところへ足早に向かった。
三頭の馬は並ぶような状態で、近くにはエルフが一人いた。
「ねえ、これは君の馬? 縄が緩んでいたから、縛り直しておいた」
「はい、ありがとうございます」
「何だか急いでいるみたいだね」
「すいません、そうなんです」
アデル以外のエルフに興味が湧いたが、今は魔石を取りに来たのだ。
自分の荷物に手を伸ばして、その中から数個の魔石を取り出した。
それからエルフに会釈をして、ソラルの家に引き返した。
「お待たせしました。これで大丈夫ですか?」
「ベヒーモスの魔石は使ってしまったから、しょうがないわね」
アデルは俺から受け取った魔石をソラルに差し出した。
「金貨を渡しても使い道はないでしょ。よかったら、これをどうぞ」
「これはどうも」
ソラルは渋々といった様子で魔石を手に取った。
数個ある中の一つをつまんで持ち上げた。
「魔石を落とすようなモンスターがよくいたもんだ」
「ベヒーモスの封印を解いたやつがいたのよ」
「ほほう、それはまた」
この中でソラルが最年長なわけだが、そんな彼でさえも驚いていた。
彼女にしては珍しく、感情を露わにした表情が垣間見えた。
アデルは俺たちの存在に気づいた後、ハッとしたようにいつもの顔に戻った。
「彼は兄のソラル。エルフの中でも治癒能力に長けているから、ハンクが受けてしまった呪詛の力も治すことができるわ」
「話はアデルから聞かせてもらったよ。そこの彼、呪詛にやられたんだって?」
ソラルは俺たちに質問を向けながら、ハンクの姿をじっと見ていた。
長い金色の髪と貫禄のある顔つきがアデルやエステルとは異なる雰囲気を感じさせる。
彼の口ぶりは穏やかで、人である俺やハンクを拒絶するような態度は見られなかった。
「兄さんなら見ればわかるでしょ」
「確認のためにたずねただけだよ。やれやれ」
ソラルはうんざりしたように両手を広げて見せた。
彼はアデルと仲がいいようには見えなかった。
ただ、今はそんなことよりもハンクを治してもらう必要がある。
「自分じゃどうにもならねえ……よろしく頼むぜ」
「心配しなくていい。わたしは別に人嫌いではない。そこの君、彼をそこのベッドに横たえてくれるかい」
「あっ、はい」
ソラルに指示されて、医者が診察に使うようなベッドにハンクを寝かせた。
だいぶ苦しいようで、ハンクは荒く息を漏らした。
額からは汗がにじんでいる。
「生半可な事態では呪詛など使わない。何か恨みを買うようなことが?」
ソラルはハンクに近づいて、ゆっくりと手を伸ばした。
何かを探るような手つきだった。
質問自体は治療の目的というよりも、単なる好奇心のように聞こえた。
「……それはねえな。事情は回復したら話すさ」
「まあ、それで構わない」
アデルの兄にしては、性格があまり似ていない。
彼女も人情味のある性格ではないが、そこまでドライというわけでもなかった。
しかし、ソラルの態度はさっぱりしすぎている。
「普段、人間と関わることは少なくてね。距離感というものが分からないんだ」
こちらの心を読んだわけではないと思うが、アデルの兄はそんなことを口にした。
もしかしたら、俺の顔に出てしまっていたのかもしれない。
「自力でうつぶせになれるかい?」
そう問いかけられると、ハンクは返事の代わりに身体の向きを変えて示した。
ソラルはハンクの衣服を脱がして、背中が見える状態にした。
「……うっ、これは」
自らの想像を超えたことで思わず声が漏れた。
鍛えられた背中には痣(あざ)のようなものがいくつも浮かんでいた。
打撲で起きるようなものではないことは一目瞭然。
あまりに痛ましい光景だった。
「これは……よく無事だったね」
「アデルが応急処置をしてくれました」
「へえ、アデルが? 妹にも優しさというものがあったんだな」
ソラルは皮肉混じりに言いながら、ハンクの背中に手をかざしていく。
先ほどと同じように、何かを確かめているように見えた。
「あの……、エルフには人間の呪詛が効かないんですか?」
俺はためらいながらソラルにたずねた。
アデルは効果が薄いと言っていたが、ソラルからも聞いておきたいと思った。
初対面とはいえ、彼に呪詛の影響が及ぶのは胸が痛む。
「例えば、スライムが君を恨んだとして、何か影響があると思うかな?」
「……あるとは思えません」
「例えがよくなかったかもしれないが、そんなところだ。同じ種族ならともかく、違う種族に負の感情をぶつけるのは難しい。それを形にして呪詛を扱うことができる人間がいるという点は別にしてね」
「それに元々の耐性が人とエルフでは全然違うのよ」
アデルが付け加えるように教えてくれた。
たしかに魔法の耐性一つ取っても、エルフの方が圧倒的に高い。
そんなエルフに呪詛の類が効果的に働くことはないということか。
「君の質問はいいところを突いているよ。耐性があるからこそ、こうやって呪詛を治療しても大した影響は受けない」
ソラルがハンクの上にかざした手を少し持ち上げた。
彼の手の平からは光のようなものが溢れている。
それは神秘的な光景だった。
ハンクの背中に視線を移すと、斑点のように散らばっていた痣が薄くなっていく。
ただただその様子を見ていることしかできなかった。
やがて光が収まると、痣は消えてなくなっていた。
「こんなところかな。しばらくは休んだ方がいいだろうね」
「……すげえな、身体が軽くなった!」
ハンクが身体を起こして、元気そうに言った。
状態を確かめるように上半身を左右に動かしている。
「ありがとうございましたっ」
思わず感謝の言葉を口にしていた。
俺には何もできなかったのに、アデルの兄はイヤな顔一つせずに治してくれた。
「今回は僕がいたから治せたものの、次からは気をつけた方がいい。後ろ暗い性質を持つ者とは関わらないようにすることだね」
「はいはい、次からは気をつけるわ」
「それと報酬はなくていいよ」
「いくら兄妹でも、そういうわけにはいかないでしょ」
アデルとソラルのやりとりが続いた。
仲がいいとは言い難いようだが、アデルなりに筋は通したいみたいだ。
「マルク、ベヒーモスの時の魔石はまだあるわよね」
「はい、黒い犬が残した小さいやつがあります」
「必ず埋め合わせをするから、少し分けてもらえるかしら?」
「もちろんです」
俺はソラルの家を出て、馬のところへ足早に向かった。
三頭の馬は並ぶような状態で、近くにはエルフが一人いた。
「ねえ、これは君の馬? 縄が緩んでいたから、縛り直しておいた」
「はい、ありがとうございます」
「何だか急いでいるみたいだね」
「すいません、そうなんです」
アデル以外のエルフに興味が湧いたが、今は魔石を取りに来たのだ。
自分の荷物に手を伸ばして、その中から数個の魔石を取り出した。
それからエルフに会釈をして、ソラルの家に引き返した。
「お待たせしました。これで大丈夫ですか?」
「ベヒーモスの魔石は使ってしまったから、しょうがないわね」
アデルは俺から受け取った魔石をソラルに差し出した。
「金貨を渡しても使い道はないでしょ。よかったら、これをどうぞ」
「これはどうも」
ソラルは渋々といった様子で魔石を手に取った。
数個ある中の一つをつまんで持ち上げた。
「魔石を落とすようなモンスターがよくいたもんだ」
「ベヒーモスの封印を解いたやつがいたのよ」
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