異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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飛竜探しの旅

アデルとハンクに相談

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「貴重なものを見せてもらって、ありがとうございました」

「今回は特別だ。いつもなら立ち寄った町を散策して、飛竜の存在がばれないうちに何食わぬ顔で立ち去る」

 ジョゼフは飛竜に視線を向けながら言った。
 昨日今日の付き合いではないようで、愛着が感じられるような眼差しだった。

「さっき書いてもらった地図の場所に行こうと思ったら、飛竜並みの機動力がないと難しそうですけど、どうしたら手に入りますかね」

「うーん、見せてやった立場で言うもんじゃないが、すぐに行けるような場所にはいないなあ。どうしても手に入れたいのなら、情報を集めてみるといい」

「やっぱり、バラム周辺では難しそうですね」

 質問する前に予想がついていたが、ランス王国全土に範囲を広げても飛竜は生息していない可能性が高い。
 色んなところを旅する中で、そのような痕跡は一度も目にしなかった。

「例外的にワイバーンを卵のうちから育てて、人に慣れさせたら乗れなくもないが……。そもそも、ワイバーンの巣から卵をかすめ取ることや巣を探す労力を考えたら、飛竜に指輪をはめる方が簡単だ」

 暗殺機構の者がワイバーンに乗っていたとハンクから聞いたことがあるが、あれは卵から育てたのかもしれない。

「ワイバーンは気性が荒いらしいですけど、指輪をつける前の飛竜はどうなんですか?」

「種類によって違いはあるはずだが、わしの知る限りではそこまで凶暴ではないよ。もちろん、草食動物のように人畜無害というわけにはいかないがね」

 ジョゼフの話を聞きながら、知性の指輪をくれた老人の話を思い出した。
 指輪を外した瞬間、モンスターが襲いかかることもありえると言っていた。
 ワイバーンに知性の指輪をはめたとしても、そこまで安心できないだろう。

「それなら、飛竜を探してみようと思います」

「それが賢明というやつだ。有力な情報や仲間が集まることを願っているよ」

 ジョゼフはだいたいのことを話し尽くしたようで、飛竜に乗ろうとしていた。

「色々とありがとうございました。初めて知ることばかりで新鮮でした」

「なるべく力になってやりたいが、一つのところに長居するのは性に合わないんだ。それじゃあ、達者でな」 

 ジョゼフは飛竜の背に設置された鞍に跨(またが)った状態で手綱を握ると、馬を操るように従わせた。
 飛竜は両翼をはためかせて、ゆっくりと地面から飛び立っていった。
 


 ジョゼフと出会った日から数日後。
 俺は閉店後の店にアデルとハンクを呼び出していた。
 バラムという辺境で広範囲の情報を集めようとするならば、この二人が適任だと考えた。

 最初に俺はジョゼフとの出会いについて話した。
 その後、飛竜を手に入れるにはどうすればいいかを二人にたずねた。
 目的の一つであるドラゴンの肉を仕入れることについても。

「ドラゴンは何度か遭遇したことがあるが、飛竜は見たことねえな。もし、移動手段が何とかなるなら、ドラゴンを倒すのは手伝うぜ」

「それは助かります」

 飛竜のことはともかく、ドラゴンをどうにかしようと思うなら、ハンクの力を借りるつもりだった。
 ハンクが話し終えると、今度はアデルが話し始めた。

「まさかこんな話になるとは思わなかったけれど、飛竜なら私の故郷の近くで見かけることがあるのよ」

「えっ、本当ですか!?」

「この前の知性の指輪を使えば、乗れるようになるわね」

 アデルの話す内容は歓迎できるものなのだが、本人は控えめな口ぶりだった。

「何か問題がありますか?」

「私の故郷はとても遠い場所にあるから、帰りは飛竜に乗るとしても、行きは時間がかかるわ。そうなると、店をしばらく閉めることになるわよね」

「そうですね。今はジェイクがいませんし」

 飛竜もドラゴンも近くにいないと知ってから、店の今後が脳裏にちらついていた。
 アデルとハンクは開店当初から訪れてくれただけでなく、旅や冒険を通じて時間を共にした間柄だった。
 そのため、二人には自分の考えを話しておいた方がいいと思った。

「……俺はこの店で成功を収めたいと思っていました。そして、それはすでに十分達成できました。今では常連だけでなく、店の評判を聞きつけた人も足を運んでくれます」

「バラムの規模を考えれば成功したと言ってもいいんじゃないかしら」

「はい、俺自身もそう考えています」

 真剣に話していることが伝わったようで、二人とも真面目な表情で話を聞いている。

「少し前から食材について考えていたところ、ジョゼフという行商人に出会ったことで、色んな食材を扱ってみたい気持ちが強くなりました」
 
「たしかにドラゴンの話とつながるな」

「前置きが長くなりましたけど、将来的に店の営業日を減らす代わりに、色んな食材を仕入れてきて、幅広く鉄板で焼いて食べられるようにしたいと考えています」

 アデルは深々と頷き、ハンクは明るい表情を見せていた。
 自分にとって重要な存在の二人に話せたことで、肩の荷が下りたような気がした。

「私はそれでいいと思うわ。食材が豊富な方が食べる楽しみが広がるもの。それに店としての魅力につながるんじゃないかしら」

「やっぱり、マルクは冒険が好きだと分かってうれしいぜ。仕入れも理由だが、色んなところに行ってみたいんだよな」

「二人ともありがとうございます。ハンクの言う通り、自分が色んなところへ行ったみたい気持ちもあります。飛竜があれば遠くへ行けそうですから」

 転生前の記憶では孤立無援で、何もかも裏目に出るような環境にあった。
 だが、今では頼もしい味方がいると思うと心が温かくなるような気持ちだった。
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