異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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魔道具とエスカ

アスタール山を調査

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 その日の帰宅後、明日のアスタール山を調査するための装備を揃えた。
 いつかロゼルの町、アルダンで譲り受けた刀は長さがある分だけ取り回しに不安が残るため、使い慣れたショートソードを携帯することにした。
 徒歩かつ比較的短時間で戻ってこれるということもあり、最低限の荷物になった。

 魔道具を扱う魔法使いがどれほどのものかは分からないものの、俺の知る限りでは最強の魔法使いアデルが同行するのだから、そこまで心配はなかった。
 あるいは単独で向かわなければいけない状況であれば、入山を断念した可能性もなくはない。
 


 翌日の午後。前日と同じように店でジェイクの補助をしていた。
 朝の仕込みの段階でジェイクには閉店後の片づけが終わったら、アスタール山に向かうことを伝えておいた。
 一通り作業が完了して、今はすっかり片づいている。

「お待たせしました。それじゃあ、行きましょうか」

 アデルは営業時間の途中で店に来て、飲みものを口にしながら待っていた。
 最近、彼女は焼肉を注文しないことが多かった。

 その理由は見合い話に乗っかるつもりはないものの、外見を気にして肥満防止のために控えているようだというのはエステル談である。
 
「最近、身体が鈍(なま)っていたから、いい運動になりそうね」

「ああっ、ダイエットにいいかもしれません……しまっ――」

「んっ、どうかした?」

 不用意な発言だったかと思ったが、アデルは気に留める様子は見られなかった。
 エステルの話はどこまで本当だったのだろう。

 アデルの反応に肝を冷やしつつ、二人で店を離れて町の中を歩いた。
 途中で町を出て街道をしばらく移動した後、アスタール山に続く山道に入った。

 その入り口には「入山には許可が必要です。詳しくはギルドまで」と書かれた看板が立っていた。
 すでにギルド長に話を通してあるので、そのまま通過する。

「何の変哲もない山なのに許可がいるのね」

 アデルが周りの景色に目を向けながら言った。

「イノシシやモンスターに襲われて動けなくなったとしても、ギルドに届けを出していれば助けに来てもらえますから」

「ギルドがそういう活動をするとは知らなかったわ」

 エルフで様々な知識が豊富だとしても、彼女は冒険者ではない。
 そのため、ギルドに関することを知らなくても不思議ではなかった。

「町の何でも屋みたいなところはありますよ。ハチの巣の駆除とか草刈りとか」

「ふーん、冒険者も大変ね」

 俺とアデルは世間話をしながら、緩やかな傾斜を上がっていった。
 周囲は緑が豊かで様々な種類の木々や草花が見て取れる。

「王都はすごく栄えていましたけど、市街地は自然が少なかったです」

「気にしたことはないけれど、バラムのような辺境と比べたらそうなるかしら」 

「外に出てみないと分からないことは多いです」

 二人で並んだ状態で歩き、周囲に注意を向けていたが、今のところは目立つ痕跡は見当たらなかった。
 道は思っていたよりも歩きやすく、想像以上に通る人が多いようで地面は踏み固められている。

「ところどころ、栗の木が見え始めたわね」

「ははっ、忘れずにに採って帰りましょう」

 アデルの言うように木々の中に栗の木が混ざっている。
 俺はそこまで詳しくないのだが、木の枝に実がついていることで判別できた。
 ここまで道が歩きやすいのは、山で栗などを採取する人がいるからかもしれないと気づいた。

 入山してしばらく経った後、俺とアデルは休憩のために立ち止まった。
 少し先には山の頂上が見えており、今いる場所は周囲が開けている。

「すぐに見つかると思ったんですけど」

「本当にテントの中を工房代わりにしているのなら、道のど真ん中に立てたりはしないわよ」

 アデルは苦笑がちに言った。
 
「もう少し調べる範囲を広げた方がいいですかね?」

「ちょっと待って、試しに魔力を探知してみるわ」    

「あっ、はい。お願いします」

 魔力探知はハイレベルな能力なのだが、さすがアデルといったところだろうか。
 しかも、それなりに広い範囲を探れるようだ。
 彼女は集中を深めるように静かに目を閉じた。

「う、うーん、近くにはいないみたいね」

「……ここから移動してみますか?」  

「もう少し探ってみるわ……あっ――」

「何か分かりましたか!?」

 アデルは目を閉じたまま、手を動かして方向を示そうとしている。

「――だいたい向こうの方角。離れていて大まかな距離しか分からないけれど、強い魔力を感じたから間違いないわ」

「よしっ、向こうですね」

 俺はアデルが指さす方向を確認した。
 彼女はゆっくりと目を開き、自分で示した方向に顔を向けると、自信のなさをわずかに感じさせる様子で口を開いた。
 
「……ええと、向こうよね?」

「はい、そっちです」

「久しぶりに集中したら肩が凝ったわ。エスに肩をもんでもらわないと」 

 何んだかんだ言っても、仲がいいんだなと思わされる発言だった。
 もっとも、実際にエステルが肩をもむのかについては疑問が残る。

「それじゃあ、アデルが見つけてくれた痕跡を追いかけるとしますか」

「感触としてはそう遠くはないはずよ。おそらく、あそこの獣道を通れば近づけそうじゃないかしら」

 アデルは本筋から逸れるように伸びる道を視線で示した。
 木々の間を歩かなければ通れないような道だった。

 俺たちは移動を再開して、山中の獣道へと踏み入った。
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