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王都出立編
エステルとの魔法対決
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アデルの発言をきっかけに思いもよらない事態になった。
エステルを落ちつかせるには要望に応じる以外にはなさそうだった。
実力的に止められないエスカはともかく、魔法に長けたハンクでさえもエルフの姉妹争いに戸惑っているように見えた。
念願の帰郷がとんでもない状況になってしまった。
俺は泣きそうな思いになりながらも、事態の収拾のために魔法対決に臨むことにした。
アデルの発言は根も葉もないことであると説得できそうな気もするが、エステルの頑(かたく)なな様子を前にしては自信がなかった。
「ねえ、ここじゃあ狭いから、どこか広い場所はない?」
俺がうなだれかけていると、エステルの淡々とした声が聞こえた。
「ここから少し歩いたところにある、河原の方まで行けば大丈夫です」
町の広場という選択肢もあったが、確実に通行人を巻き添えにしそうなので、即座に却下した。
「マルク、頑張って」
「ああっ、見ててくれ」
俺とアデルは苦し紛れの三文芝居を打った。
彼女が見目麗しい赤髪のエルフであることは間違いないが、恋愛対象として見ているかというと別の話になる。
「それじゃあ、日が沈む前に行こう」
「……はい」
俺とアデル、エステルが敷地の外に出ようとした時、ハンクとエスカがついてきそうな気配だった。
二人が一緒だとエステルには逆効果だと思われたので、ついてこないように手で制した。
それにしても、アデルとエステルは似ても似つかない姉妹だった。
アデルは燃えるような赤い髪、一方のエステルは天の衣のような美しい金色の髪。
わりと自由奔放なアデルと意外に頭の固そうなエステル。
再会した時の雰囲気からは仲が悪いようには見えなかった。
おそらく、連絡を放置されたことやバラムまで来ざるを得なくなったことがエステルを動揺させたのだと思った。
三人で町中を歩いて、誰もいない開けた河原にやってきた。
地面にはところどころ雑草が生えており、誤って巻きこみそうなものは見当たらない。
ここならちょうどいいのではないだろうか。
「わたしに勝てたら、二人のことを認めて村に帰る。そうじゃなかったら、姉さんは見合いに来てもらうから」
「……そうね、分かったわ」
先ほどまでエステルは静かだったが、河原に到着してすぐに口を開いた。
彼女の意思は固そうで、魔法対決は回避できそうにない。
「……あまり気が進まないんですけど、何をすれば?」
「わたしが火の魔法で防御壁を作るから、それをマルクが魔法で破ってみせて」
「そんなことして大丈夫ですか」
「仮に破れたとしても、その後に防御するから心配ない」
エステルは自信があるように見えた。
街道脇で男たちを撃退した時を思えば、当然のことではあった。
アデルの妹ということもあってか魔法が得意なのだ。
「じゃあ始めるよ。――フレイム・ウォール」
エステルの周囲に炎の渦が巻き起こる。
炎の温度が想像以上に強烈で、慌てて距離を取った。
その拍子にアデルと並んだ状態になり、エステルと離れたのを見計らって小声で話しかけた。
「これ、どうすればいいんですか」
「エスがこうなったら、ややこしいのよね。あの子が納得するまで付き合ってあげて」
アデルはやらかしたことを反省するような様子だったが、エステルを止めようとは思っていないようだ。
「……それしかないんですか」
「そうね、残念なことに」
アデルの言葉を聞いて、腹を括るしかないと悟った。
エステルに魔法を向けるのは気が進まないが、彼女が気の済むまで付き合うしか選択肢はないのかもしれない。
俺はエステルが魔法を展開したままであることを確認してから、手の平を正面に向けた。
「――ファイア・ボール」
五割程度の威力で火球を放つ。
勢いのついたそれは炎の渦に吸いこまれるように直撃すると、何もなかったかのように消えていった。
「そんなのじゃ、全然足りない。本気で撃ってきてよ」
エステルは物足りないと言いたげな声音だった。
初撃が跡形もなく消えたことを思えば、もっと強力でも問題ない気がした。
このままではエステルが納得しそうにないので、威力を上げて撃たなければ。
「ファイア・ボール」
今度は八割ほどの威力で放った。
一度目よりも大きな火球がエステルに向けて飛んでいく。
出力を上げるほど制御が難しくなるので、ここまで魔力をこめたことは数える程度しか経験がない。
俺としては渾身の一撃だったが、炎の渦に吸収されて消えてしまった。
実力の差は自覚していたものの、ここまで通用しないとは予想外だった。
「まだまだ、その程度じゃ足りないよ」
エステルは平然とした様子で言った。
さらに威力を強めることは可能であったが、これ以上は制御が困難で危険が伴う。
自分自身に負担があるのはもちろんのこと、発動した魔法があらぬ方向へ放たれてしまうことも起こりうる。
氷魔法をぶつけても蒸発するだけで、それ以外の魔法はそこまで経験がない。
「――降参です」
エステルに聞こえるように伝えると炎の渦が収まった。
それと同時に河原に浮かんでいた陽炎(かげろう)も消え去った。
「それじゃあ、わたしの勝ちでいいでしょ」
こちらに歩み寄ってきたエステルは明るい表情を見せている。
唐突な変化に理解が追いつかなった。
「……あれ、アデルが見合いに行くってことですか?」
「姉さんがバレバレな嘘をつくから、安い芝居に乗ってあげただけ」
「えっ、気づいてたの」
「こういうの初めてじゃないから、そう何度もだまされないよ」
エステルの発言を受けてアデルを見ると、気まずそうに顔を逸らした。
ひとまず一件落着というわけだが、アデルには反省してもらわなければならないようだ。
エステルを落ちつかせるには要望に応じる以外にはなさそうだった。
実力的に止められないエスカはともかく、魔法に長けたハンクでさえもエルフの姉妹争いに戸惑っているように見えた。
念願の帰郷がとんでもない状況になってしまった。
俺は泣きそうな思いになりながらも、事態の収拾のために魔法対決に臨むことにした。
アデルの発言は根も葉もないことであると説得できそうな気もするが、エステルの頑(かたく)なな様子を前にしては自信がなかった。
「ねえ、ここじゃあ狭いから、どこか広い場所はない?」
俺がうなだれかけていると、エステルの淡々とした声が聞こえた。
「ここから少し歩いたところにある、河原の方まで行けば大丈夫です」
町の広場という選択肢もあったが、確実に通行人を巻き添えにしそうなので、即座に却下した。
「マルク、頑張って」
「ああっ、見ててくれ」
俺とアデルは苦し紛れの三文芝居を打った。
彼女が見目麗しい赤髪のエルフであることは間違いないが、恋愛対象として見ているかというと別の話になる。
「それじゃあ、日が沈む前に行こう」
「……はい」
俺とアデル、エステルが敷地の外に出ようとした時、ハンクとエスカがついてきそうな気配だった。
二人が一緒だとエステルには逆効果だと思われたので、ついてこないように手で制した。
それにしても、アデルとエステルは似ても似つかない姉妹だった。
アデルは燃えるような赤い髪、一方のエステルは天の衣のような美しい金色の髪。
わりと自由奔放なアデルと意外に頭の固そうなエステル。
再会した時の雰囲気からは仲が悪いようには見えなかった。
おそらく、連絡を放置されたことやバラムまで来ざるを得なくなったことがエステルを動揺させたのだと思った。
三人で町中を歩いて、誰もいない開けた河原にやってきた。
地面にはところどころ雑草が生えており、誤って巻きこみそうなものは見当たらない。
ここならちょうどいいのではないだろうか。
「わたしに勝てたら、二人のことを認めて村に帰る。そうじゃなかったら、姉さんは見合いに来てもらうから」
「……そうね、分かったわ」
先ほどまでエステルは静かだったが、河原に到着してすぐに口を開いた。
彼女の意思は固そうで、魔法対決は回避できそうにない。
「……あまり気が進まないんですけど、何をすれば?」
「わたしが火の魔法で防御壁を作るから、それをマルクが魔法で破ってみせて」
「そんなことして大丈夫ですか」
「仮に破れたとしても、その後に防御するから心配ない」
エステルは自信があるように見えた。
街道脇で男たちを撃退した時を思えば、当然のことではあった。
アデルの妹ということもあってか魔法が得意なのだ。
「じゃあ始めるよ。――フレイム・ウォール」
エステルの周囲に炎の渦が巻き起こる。
炎の温度が想像以上に強烈で、慌てて距離を取った。
その拍子にアデルと並んだ状態になり、エステルと離れたのを見計らって小声で話しかけた。
「これ、どうすればいいんですか」
「エスがこうなったら、ややこしいのよね。あの子が納得するまで付き合ってあげて」
アデルはやらかしたことを反省するような様子だったが、エステルを止めようとは思っていないようだ。
「……それしかないんですか」
「そうね、残念なことに」
アデルの言葉を聞いて、腹を括るしかないと悟った。
エステルに魔法を向けるのは気が進まないが、彼女が気の済むまで付き合うしか選択肢はないのかもしれない。
俺はエステルが魔法を展開したままであることを確認してから、手の平を正面に向けた。
「――ファイア・ボール」
五割程度の威力で火球を放つ。
勢いのついたそれは炎の渦に吸いこまれるように直撃すると、何もなかったかのように消えていった。
「そんなのじゃ、全然足りない。本気で撃ってきてよ」
エステルは物足りないと言いたげな声音だった。
初撃が跡形もなく消えたことを思えば、もっと強力でも問題ない気がした。
このままではエステルが納得しそうにないので、威力を上げて撃たなければ。
「ファイア・ボール」
今度は八割ほどの威力で放った。
一度目よりも大きな火球がエステルに向けて飛んでいく。
出力を上げるほど制御が難しくなるので、ここまで魔力をこめたことは数える程度しか経験がない。
俺としては渾身の一撃だったが、炎の渦に吸収されて消えてしまった。
実力の差は自覚していたものの、ここまで通用しないとは予想外だった。
「まだまだ、その程度じゃ足りないよ」
エステルは平然とした様子で言った。
さらに威力を強めることは可能であったが、これ以上は制御が困難で危険が伴う。
自分自身に負担があるのはもちろんのこと、発動した魔法があらぬ方向へ放たれてしまうことも起こりうる。
氷魔法をぶつけても蒸発するだけで、それ以外の魔法はそこまで経験がない。
「――降参です」
エステルに聞こえるように伝えると炎の渦が収まった。
それと同時に河原に浮かんでいた陽炎(かげろう)も消え去った。
「それじゃあ、わたしの勝ちでいいでしょ」
こちらに歩み寄ってきたエステルは明るい表情を見せている。
唐突な変化に理解が追いつかなった。
「……あれ、アデルが見合いに行くってことですか?」
「姉さんがバレバレな嘘をつくから、安い芝居に乗ってあげただけ」
「えっ、気づいてたの」
「こういうの初めてじゃないから、そう何度もだまされないよ」
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