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王都出立編
彼女が旅をする目的
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「わたしの名前はエステル。お兄さんの名前は?」
「俺はマルク、たまたま声が聞こえたので近くにきました」
エステルは切れ長の耳などの外見の様子から、エルフであると判断した。
金色の髪を短めのツインテールにまとめている。
白いシャツの上にベスト、ショートパンツを身につけており、活発そうな印象を受けた。
「あれぐらいの相手なら、わたし一人で全然大丈夫だったから」
「ところで、こんなところに用事が?」
「明るいうちに町にたどり着けるか分からなくて、野営にちょうどいい場所を探してたところ」
俺とエステルが話していると、エドワルドが会話に加わってきた。
「彼らの所属は分かりませんが、暗殺機構の残党を追っている冒険者がこの辺りを拠点にしているようです。面倒に巻きこまれないよう、早く離れましょう」
「そうですね」
俺はエドワルドに答えた後、エステルの方を見た。
彼女はやれやれといった感じで、両腕を伸ばして手の平を揺らした。
「野営は無理そうだし、あなたたちについていくわ」
「どうぞ、ご自由に」
エドワルドは紳士的な言い方をして、いかにも衛兵のような振る舞いに見えた。
俺たちは周囲に家屋のある場所を後にして、ピートのいる馬車に戻った。
「何が起きてましたか?」
ピートは馬の近くに立っており、心配そうな表情でこちらを見ていた。
「とりあえず、大丈夫でした」
「お二人ともご無事で何よりです。ところで、そちらの女性は?」
ピートはエステルに興味を示した。
彼女は馬車をじっと見つめているところだった。
「ねえ、あなたたちの目的地は?」
俺とエドワルド、ピートの三人は顔を見合わせた。
少しの間をおいて、ピートが代表するように答えた。
「バラムです」
「えっ、ホント!?」
「はい、間違いありません」
少し取っつきにくい感じのエステルだったが、思いもよらない反応を見せた。
俺はピートの補足をするように口を開いた。
「帰郷のために馬車で送ってもらっているところです。そこの御者がピートで、護衛の兵士がエドワルド」
「そんなふうには見えないけど、あなたは貴族か何か?」
エステルの言葉に少し動揺したが、気にせず会話を続けることにした。
「いえ、料理店の店主です」
「ふーん、そうなの。わたしもバラムを目指してるんだけど、よかったら同乗させてもらえる?」
「……どうして、バラムに?」
「姉がバラムにいるんだけど、ちょっと用があって」
エステルはやや言葉を濁したものの、嘘を言っているようには見えなかった。
荷台は四人乗りなので、もう一人乗る分には問題ない。
バラムにいるエルフといえば、アデルのような気もしたが、彼女の髪の毛は赤色に対して、エステルの髪の毛は金色だった。
「ピートとエドワルドはどうです?」
「マルク様がよろしければ問題ありません」
「私も同じく。ここから一人歩きさせるのも気が進みませんな」
二人の回答は肯定的なものだった。
俺としても、エステルが同乗するのに反対する気持ちはない。
「それじゃあ、どうぞ」
「やった! ありがとう」
エステルは明るい笑顔を見せた。
面影がアデルに似ているような気もしたが、エルフということでそんなふうに見えるだけな気もした。
彼女は足早に荷台へ乗りこむと、そこから顔を出した。
「さあさあ、早く出発するわよ」
エステルの勢いに戸惑いつつ、エドワルドと順番に馬車へと乗りこんだ。
「ピート、馬の休憩は十分ですか?」
「もう少し時間があるとベストなのですが、すぐに出発しても問題ありません。人数が増える分だけ速度が下がるので、馬たちの足並みが落ちつくと思います」
ピートは通常よりも急いだ動きで、早々と馬車を出発させた。
俺は荷台から周囲を確認していたが、誰かが追ってくる様子はなかった。
「ふぅ、これで安心だ」
「ああいった手合いが集まった要因は、ランス、ロゼル、デュラスの三つの国で、残党を捕らえた冒険者に報奨金を支払うと決めたことが影響していそうです」
「その件はそんなふうになってたんですね」
「危険が伴うことなので、無報酬というわけにはいかないと思いますが……」
エドワルドはならず者たちが集まった場所を目にしたことで、よくない印象を抱いたように見えた。
「さっきの人たちを擁護するつもりはないですけど、全ての冒険者があんな感じではないですよ」
「もちろん、理解しています。それに服装や言葉の雰囲気に違和感があったので、他国の冒険者だったかもしれません」
エドワルドはこちらの説明に理解を示した。
その反応にホッとするような気持ちだった。
「ところで、エステルは歩いてバラムまで? だいぶ距離がありますけど」
「ああっ、その話? あなたたちが話していたみたいに、なんかきな臭い騒動があったんでしょ? その影響でエルフを乗せるのはちょっと……みたいな馬車がほとんどで、途中までしか乗れなかったのよ」
エステルはうんざりしたような表情を見せた。
どこから来たのか気になるところだが、詮索しすぎるのはやめておこう。
「まあ、ピートはそんな御者ではないから、そんな理由で断りはしませんよ」
「特に人族を嫌うことはないけど、人間不信になるところだったわ」
「それじゃあ、そうならなくてよかった」
「野営も楽じゃないから、乗せてくれて助かったわ」
「御者のピートが承諾しないと乗れなかったので、彼に感謝してもらえたら」
「御者の人、ありがとう」
「どういたしまして」
エルフといえばアデルの印象が強かったが、エステルは若い分だけ素直なようで少し安心した。
あとがき
お読みいただき、ありがとうございます。
エールやお気に入り登録など励みになっています。
「俺はマルク、たまたま声が聞こえたので近くにきました」
エステルは切れ長の耳などの外見の様子から、エルフであると判断した。
金色の髪を短めのツインテールにまとめている。
白いシャツの上にベスト、ショートパンツを身につけており、活発そうな印象を受けた。
「あれぐらいの相手なら、わたし一人で全然大丈夫だったから」
「ところで、こんなところに用事が?」
「明るいうちに町にたどり着けるか分からなくて、野営にちょうどいい場所を探してたところ」
俺とエステルが話していると、エドワルドが会話に加わってきた。
「彼らの所属は分かりませんが、暗殺機構の残党を追っている冒険者がこの辺りを拠点にしているようです。面倒に巻きこまれないよう、早く離れましょう」
「そうですね」
俺はエドワルドに答えた後、エステルの方を見た。
彼女はやれやれといった感じで、両腕を伸ばして手の平を揺らした。
「野営は無理そうだし、あなたたちについていくわ」
「どうぞ、ご自由に」
エドワルドは紳士的な言い方をして、いかにも衛兵のような振る舞いに見えた。
俺たちは周囲に家屋のある場所を後にして、ピートのいる馬車に戻った。
「何が起きてましたか?」
ピートは馬の近くに立っており、心配そうな表情でこちらを見ていた。
「とりあえず、大丈夫でした」
「お二人ともご無事で何よりです。ところで、そちらの女性は?」
ピートはエステルに興味を示した。
彼女は馬車をじっと見つめているところだった。
「ねえ、あなたたちの目的地は?」
俺とエドワルド、ピートの三人は顔を見合わせた。
少しの間をおいて、ピートが代表するように答えた。
「バラムです」
「えっ、ホント!?」
「はい、間違いありません」
少し取っつきにくい感じのエステルだったが、思いもよらない反応を見せた。
俺はピートの補足をするように口を開いた。
「帰郷のために馬車で送ってもらっているところです。そこの御者がピートで、護衛の兵士がエドワルド」
「そんなふうには見えないけど、あなたは貴族か何か?」
エステルの言葉に少し動揺したが、気にせず会話を続けることにした。
「いえ、料理店の店主です」
「ふーん、そうなの。わたしもバラムを目指してるんだけど、よかったら同乗させてもらえる?」
「……どうして、バラムに?」
「姉がバラムにいるんだけど、ちょっと用があって」
エステルはやや言葉を濁したものの、嘘を言っているようには見えなかった。
荷台は四人乗りなので、もう一人乗る分には問題ない。
バラムにいるエルフといえば、アデルのような気もしたが、彼女の髪の毛は赤色に対して、エステルの髪の毛は金色だった。
「ピートとエドワルドはどうです?」
「マルク様がよろしければ問題ありません」
「私も同じく。ここから一人歩きさせるのも気が進みませんな」
二人の回答は肯定的なものだった。
俺としても、エステルが同乗するのに反対する気持ちはない。
「それじゃあ、どうぞ」
「やった! ありがとう」
エステルは明るい笑顔を見せた。
面影がアデルに似ているような気もしたが、エルフということでそんなふうに見えるだけな気もした。
彼女は足早に荷台へ乗りこむと、そこから顔を出した。
「さあさあ、早く出発するわよ」
エステルの勢いに戸惑いつつ、エドワルドと順番に馬車へと乗りこんだ。
「ピート、馬の休憩は十分ですか?」
「もう少し時間があるとベストなのですが、すぐに出発しても問題ありません。人数が増える分だけ速度が下がるので、馬たちの足並みが落ちつくと思います」
ピートは通常よりも急いだ動きで、早々と馬車を出発させた。
俺は荷台から周囲を確認していたが、誰かが追ってくる様子はなかった。
「ふぅ、これで安心だ」
「ああいった手合いが集まった要因は、ランス、ロゼル、デュラスの三つの国で、残党を捕らえた冒険者に報奨金を支払うと決めたことが影響していそうです」
「その件はそんなふうになってたんですね」
「危険が伴うことなので、無報酬というわけにはいかないと思いますが……」
エドワルドはならず者たちが集まった場所を目にしたことで、よくない印象を抱いたように見えた。
「さっきの人たちを擁護するつもりはないですけど、全ての冒険者があんな感じではないですよ」
「もちろん、理解しています。それに服装や言葉の雰囲気に違和感があったので、他国の冒険者だったかもしれません」
エドワルドはこちらの説明に理解を示した。
その反応にホッとするような気持ちだった。
「ところで、エステルは歩いてバラムまで? だいぶ距離がありますけど」
「ああっ、その話? あなたたちが話していたみたいに、なんかきな臭い騒動があったんでしょ? その影響でエルフを乗せるのはちょっと……みたいな馬車がほとんどで、途中までしか乗れなかったのよ」
エステルはうんざりしたような表情を見せた。
どこから来たのか気になるところだが、詮索しすぎるのはやめておこう。
「まあ、ピートはそんな御者ではないから、そんな理由で断りはしませんよ」
「特に人族を嫌うことはないけど、人間不信になるところだったわ」
「それじゃあ、そうならなくてよかった」
「野営も楽じゃないから、乗せてくれて助かったわ」
「御者のピートが承諾しないと乗れなかったので、彼に感謝してもらえたら」
「御者の人、ありがとう」
「どういたしまして」
エルフといえばアデルの印象が強かったが、エステルは若い分だけ素直なようで少し安心した。
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