異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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王都出立編

カタリナからの贈りもの

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 ブルームを見送った後、俺は椅子に腰かけて考えた。
 この状況ではまだバラムに帰ることは難しいだろう。

 誰かに頼めば馬車を出してもらうことは可能かもしれないが、暗殺機構の者がどこをうろついているのか分からない状況では危険が伴う行動だと思われた。
 
「……ジェイクに任せた店は大丈夫で、他に気がかりはないか」

 自分一人では対処しきれない状況なので、城の人たちの状況が落ちつくのを待つことにした。 



 城への侵入者の件がきっかけで、客間で生活する日々が続くことになった。
 活動範囲が限られる間、城内を歩いたり、外庭を散歩したりしてすごした。

 そのうちに王都へも出られるようになり、市場を散策することで気分転換を図った。
 朝食と夕食は城内で食べて、昼食は王都の飲食店で済ませることが多かった。
 市場で食材を買い揃えれば焼肉を作ることは可能だったが、状況が状況だけにそうしようという気持ちにはならなかった。

 そんな日々が続いたある日、一人の兵士が客間を訪れた。
 カタリナから本人のところへ案内するように指示を受けたと伝達があった。
 俺は城外で昼食を終えて、部屋で休んでいるところだった。
 
「カタリナ様は先日のお礼がしたいとのことでした」

「ああっ、焼肉のことかな」

 俺は椅子から立ち上がり、扉のところにいる兵士に近づいた。
 威圧感はなく、使用人のように丁寧な物腰だった。
 
「それでは、ご案内します」

「はい、お願いします」

 兵士はこちらを先導するように歩き出した。
 城内の構造はだいたい記憶しているが、カタリナの部屋には用事がなかったので、道順を覚えていなかった。

 二人で廊下を歩くうちに、一つの部屋の前で兵士が立ち止まった。
 そこは城に来た最初の頃に訪れた部屋であることを思い出した。

「(コンコン)――失礼します。マルク様をお連れしました」

 ゆっくりと扉が開いて、扉の向こうから一人のメイドが顔を出した。
 彼女はこちらに一礼した後、部屋に入るように促した。

 俺はメイドにペコリと頭を下げて、部屋の中に足を運んだ。
 正面を見ると、カタリナがきれいな装飾の施された椅子に座っていた。

「マルク、久しぶりじゃな」 
  
「けっこう経った気がします。何日ぶりですかね」

 俺が立ったまま話していると、先ほどのメイドがさりげなく椅子を運んでくれた。
 気遣いに感謝しつつ、その椅子に腰を下ろした。

「侵入者の件で落ちつかぬ状況だったからのう。元気にしておったか?」

「俺は元気です。そちらは?」

「余も問題ない。戦闘で負傷した者たちの治療も順調だと聞いている。城内も普段の様子に近づいてきた」

 カタリナの言うように、騒乱直後の城内の様子は物々しい感じもあった。
 しかし、最近では元通りに戻った感じがしている。

「兵士の人からお礼と聞いたんですけど、焼肉の件でしたか?」

「うむ、そうじゃ。バラムから王都まで遠路はるばるやってきて、料理の腕を振るってくれたからのう。余からの感謝の気持ちなのだ」

 カタリナはメイドに指示を出して、何かをこの部屋に運ばせた。
 メイドは布に包まれたものをカタリナに手渡した。

「余の所持品の中ではそれなりに価値があるものじゃ。遠慮せずに受け取ってほしい」

 カタリナが布を解くと、黄金の腕輪が現れた。
 その輝きにたじろいでしまいそうだった。

「わりと高そうですけど、本当にもらっちゃっていいんですか?」

「焼肉のこともそうなのだが、衛兵でもないのに命がけで戦ってくれたこともあるからのう。それに見合った働きはしたと思うのだ」  

 カタリナは椅子から立ち上がって、こちらに近づいてきた。
 すると、俺の腕を持ち上げて腕輪をつけてくれた。

「……ありがとうございます」

 黄金の腕輪は細い幅で、見栄えがよくなるような加工が施されていた。
 この世界では純金製の加工品を見ることが少ないので、この腕輪も希少価値が高いと思った。

 カタリナは椅子に戻ると、再び口を開いた。

「どうじゃ、気に入ったかのう?」

「それはもちろん。大事にします」

「そうか、それはよかった」

 カタリナはうれしそうに笑みを浮かべた。
 彼女の様子を見て、温かい気持ちになった。

「ところで、ブルームがそなたを呼び寄せたことで城に留めすぎてしまったが、近いうちにバラムへ帰れるようになるらしい」

「えつ、本当ですか?」

 急な朗報に驚きを隠せなかった。
 俺のために手配を進めてくれていたのかもしれない。
 
「具体的にはブルームから話があると思うが、この調子で状況が落ちつけばバラムへの馬車も出せるはずじゃ」

「そういえば、王都に来る途中で大岩が街道をふさいだことがあって、暗殺機構の仕業だったかもしれません。今は通れるようになったのかな」

「ふむ、そうか。暗殺機構の包囲は進んでいるようだから、今後はそういったこともなくなる気がするのう」

 初めて聞いた話だが、カタリナのところには新しい情報が届いているのだろう。
 バラムに向けて出発できるかどうかは戦況に左右されるはずで、リリアたちの作戦が成功することを願うばかりだ。
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