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王都出立編
騒乱の収束
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白く染まった髪とは不釣り合いに男の顔は若く見えた。
二十代、あるいは三十代辺りだろうか。
俺は男と顔を見合わせていたが、どちらともなく視線を外した。
「あなたは一体……」
彼の風貌から日本人に近いものを感じていた。
まさか、いるはずはないのだが……。
「カタリナに魔法を教えたことがあって、それ以上でもそれ以下でもありません」
男はそう返した後、カタリナに別れの挨拶をして離れていった。
もしも、日本とつながりがあるのなら、情報交換をしたいと思った。
少し前までカタリナは膝を抱えるような状態だったが、師匠の言葉が効いたようで立ち上がっていた。
「まずはここにいる者たちを拘束するのじゃ」
カタリナは髪を留めるリボンを解いて、一人の侵入者を押さえていた兵士に渡した。
それから、倒れたままの三人の侵入者へと近づいた。
そのうちの一人が動けるようになったようで、カタリナに襲いかかろうとしたことに気づいた。
「あ、危ない!」
「心配するな、大事(だいじ)ない」
カタリナの手の平の先から氷魔法が発せられて、氷の盾が完成した。
彼女に襲いかかろうとした者はそれに顔をぶつけて、そのまま倒れこんだ。
とそこへ、数人の兵士が駆けてきた。
「カタリナ様、ご状況は!?」
「全員、無事じゃ。この者たちを捕縛してくれんか」
「はっ!」
一人の兵士が金属製の手枷(てかせ)のような道具を手にしており、侵入者たちはそれで拘束された。
「何とか守りきれたようだな」
俺が周囲の光景に目を奪われていると、ブルームが声をかけてきた。
「傷は大丈夫ですか?」
「ああっ、カタリナ様の師匠なる魔法使いが癒してくれた」
たしかに剣で斬られた傷は回復しているようだった。
少し前まで動けるようには見えなかったが、ブルームは立って会話をしている。
「あの人は何者だったんでしょう?」
「さあ、わしにも分からん」
ブルームはそれどころではないというふうに見えた。
それもそのはずで、事態の全容が分かったわけではない。
外庭の状況を見守っていると、リリアが小走りでやってきた。
防具には傷が目立ち、激戦があったであろうことは容易に想像できた。
「皆様、ご無事ですか!」
「みんなの活躍で耐えきりました。リリアも無事なようでよかった」
「こちらへ向かいたかったのですが、城門付近は乱戦で離れることができませんでした」
リリアは悔しさをにじませるように、唇を嚙みしめていた。
二人で話していると、近くにいたブルームも会話に加わってきた。
「乱戦とは、ここよりも敵の数が多かったのか?」
「六、七人……いえ、それ以上の侵入者が攻めてきました。仲間の兵たちと協力して返り討ちにできたものの、数名の負傷者が出ました」
「そうか、命を絶たれる者が出なかったのは幸いだったな」
「はい、その通りです」
「城門を陥落するつもりだったということですか?」
俺は率直な疑問を口にした。
リリアは少しだけ考えた後、口を開いた。
「……おそらく。城の警護が手薄になるところを狙って、王族の方たちの居所を見つけるつもりだったのでしょう」
彼女が言い終えた後、離れたところにいたカタリナが歩いてきた。
「リリア、よくぞ戻った」
「お待たせしてしまいました」
「……本当に危ないところだったのじゃ」
動揺が続いているはずなのだが、カタリナは気丈に振る舞おうとしていた。
それをいたわるようにリリアが抱き寄せると、カタリナは安堵するような表情を見せた。
俺とブルームはその様子を見守っていた。
ブルームはしばらく口を閉じていたが、かしこまった様子で話しかけてきた。
「マルクよ、すまぬな。おぬしを巻きこんでしまった」
「いえ、気にしないでください」
「この後、カタリナ様とわしを含めた重臣が集められて、話し合いになるはずだ。焼肉の礼をしたかったが、そこまで時間の余裕がないかもしれん」
「差し迫った状況だと思うので、そちらを優先してください」
ブルームにそう伝えると、彼はしっかりと頷いた。
「身の回りの世話は引き続き、アンが担当するように申し伝えておく」
「彼女に慣れたところなので、その方が安心です」
「うむ、分かった。それでは、わしは席を外させてもらう」
ブルームはカタリナの方を振り返った後、どこかへ歩いていった。
「カタリナ様、私たちも向かいましょう」
「そうじゃな。責務を果たさねばならん」
カタリナはかすれ気味な声で言った。
リリアは姉のように、カタリナをいたわる様子が垣間見られた。
「私はカタリナ様をお連れします。城の警護が厳戒態勢になるので、危険は少ないと思いますが、注意を怠らないようにしてください」
「はい、もちろん。リリアも気をつけて」
「ええ、ありがとうございます」
リリアは美しい微笑みを見せた。
その様子に胸が打たれるような感覚があった。
リリアはカタリナに寄り添いながら、ブルームが向かったのと同じ方向に歩いていった。
具体的な場所は告げなかったが、どこかに約束された場所があるのだろう。
俺は外から来た人間であり、戦いが専門ではないので、この先のことは城の関係者に任せるだけだった。
二十代、あるいは三十代辺りだろうか。
俺は男と顔を見合わせていたが、どちらともなく視線を外した。
「あなたは一体……」
彼の風貌から日本人に近いものを感じていた。
まさか、いるはずはないのだが……。
「カタリナに魔法を教えたことがあって、それ以上でもそれ以下でもありません」
男はそう返した後、カタリナに別れの挨拶をして離れていった。
もしも、日本とつながりがあるのなら、情報交換をしたいと思った。
少し前までカタリナは膝を抱えるような状態だったが、師匠の言葉が効いたようで立ち上がっていた。
「まずはここにいる者たちを拘束するのじゃ」
カタリナは髪を留めるリボンを解いて、一人の侵入者を押さえていた兵士に渡した。
それから、倒れたままの三人の侵入者へと近づいた。
そのうちの一人が動けるようになったようで、カタリナに襲いかかろうとしたことに気づいた。
「あ、危ない!」
「心配するな、大事(だいじ)ない」
カタリナの手の平の先から氷魔法が発せられて、氷の盾が完成した。
彼女に襲いかかろうとした者はそれに顔をぶつけて、そのまま倒れこんだ。
とそこへ、数人の兵士が駆けてきた。
「カタリナ様、ご状況は!?」
「全員、無事じゃ。この者たちを捕縛してくれんか」
「はっ!」
一人の兵士が金属製の手枷(てかせ)のような道具を手にしており、侵入者たちはそれで拘束された。
「何とか守りきれたようだな」
俺が周囲の光景に目を奪われていると、ブルームが声をかけてきた。
「傷は大丈夫ですか?」
「ああっ、カタリナ様の師匠なる魔法使いが癒してくれた」
たしかに剣で斬られた傷は回復しているようだった。
少し前まで動けるようには見えなかったが、ブルームは立って会話をしている。
「あの人は何者だったんでしょう?」
「さあ、わしにも分からん」
ブルームはそれどころではないというふうに見えた。
それもそのはずで、事態の全容が分かったわけではない。
外庭の状況を見守っていると、リリアが小走りでやってきた。
防具には傷が目立ち、激戦があったであろうことは容易に想像できた。
「皆様、ご無事ですか!」
「みんなの活躍で耐えきりました。リリアも無事なようでよかった」
「こちらへ向かいたかったのですが、城門付近は乱戦で離れることができませんでした」
リリアは悔しさをにじませるように、唇を嚙みしめていた。
二人で話していると、近くにいたブルームも会話に加わってきた。
「乱戦とは、ここよりも敵の数が多かったのか?」
「六、七人……いえ、それ以上の侵入者が攻めてきました。仲間の兵たちと協力して返り討ちにできたものの、数名の負傷者が出ました」
「そうか、命を絶たれる者が出なかったのは幸いだったな」
「はい、その通りです」
「城門を陥落するつもりだったということですか?」
俺は率直な疑問を口にした。
リリアは少しだけ考えた後、口を開いた。
「……おそらく。城の警護が手薄になるところを狙って、王族の方たちの居所を見つけるつもりだったのでしょう」
彼女が言い終えた後、離れたところにいたカタリナが歩いてきた。
「リリア、よくぞ戻った」
「お待たせしてしまいました」
「……本当に危ないところだったのじゃ」
動揺が続いているはずなのだが、カタリナは気丈に振る舞おうとしていた。
それをいたわるようにリリアが抱き寄せると、カタリナは安堵するような表情を見せた。
俺とブルームはその様子を見守っていた。
ブルームはしばらく口を閉じていたが、かしこまった様子で話しかけてきた。
「マルクよ、すまぬな。おぬしを巻きこんでしまった」
「いえ、気にしないでください」
「この後、カタリナ様とわしを含めた重臣が集められて、話し合いになるはずだ。焼肉の礼をしたかったが、そこまで時間の余裕がないかもしれん」
「差し迫った状況だと思うので、そちらを優先してください」
ブルームにそう伝えると、彼はしっかりと頷いた。
「身の回りの世話は引き続き、アンが担当するように申し伝えておく」
「彼女に慣れたところなので、その方が安心です」
「うむ、分かった。それでは、わしは席を外させてもらう」
ブルームはカタリナの方を振り返った後、どこかへ歩いていった。
「カタリナ様、私たちも向かいましょう」
「そうじゃな。責務を果たさねばならん」
カタリナはかすれ気味な声で言った。
リリアは姉のように、カタリナをいたわる様子が垣間見られた。
「私はカタリナ様をお連れします。城の警護が厳戒態勢になるので、危険は少ないと思いますが、注意を怠らないようにしてください」
「はい、もちろん。リリアも気をつけて」
「ええ、ありがとうございます」
リリアは美しい微笑みを見せた。
その様子に胸が打たれるような感覚があった。
リリアはカタリナに寄り添いながら、ブルームが向かったのと同じ方向に歩いていった。
具体的な場所は告げなかったが、どこかに約束された場所があるのだろう。
俺は外から来た人間であり、戦いが専門ではないので、この先のことは城の関係者に任せるだけだった。
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