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王都出立編
カタリナの魔法練習
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翌朝。目が覚めるとすがすがしい気分だった。
上半身を起こしてから、ランス城の客間で眠ったことを思い出した。
洗練された内装に目を向けると、自分が高貴な身分になったような感覚になる。
ベッドから起き上がって靴を履くと、室内の洗面台へ向かった
用意された水で顔を洗い、口をすすいで、用意されたタオルで水気を拭いた。
眠気の残る状態で外の様子を眺めると、まだ早朝であることに気づいた。
「ふわぁ、まだ眠いな。いいベッドだし、寝直すのもいいけど」
軽く伸びをして、近くにあった椅子に腰かける。
朝食の時間を確認していなかったが、もう少し先のはずだ。
椅子から立ち上がって、もう一度窓の外を見ると、外庭に誰かがいるのを発見した。
「……んっ? あれはカタリナか」
盗み見るつもりはなかったが、彼女が何かをしているようで注目した。
どうやら、魔法の練習をしているようだった。
「二度寝すると起きるのが面倒だし、カタリナと話してみるか」
寝間着から外出用の衣服に着替えて、身支度を整えた。
持ち物は手にしないまま、手ぶらでカタリナのところに向かう。
客間を出て廊下を歩いていると、出入り口を見つけた。
そこから外に出ると外庭に出られた。
俺は窓から見えた方向に向かって歩いていった。
やがて、カタリナの姿を見つけることができた。
彼女は魔法の練習を続けているところだった。
この前のようなドレスではなく、動きやすそうな格好をしていた。
「おはようございます」
「……おやっ、マルクではないか」
「魔法の練習ですか?」
「こうしておらんと、腕が鈍(にぶ)りそうでな。日々の鍛錬は師匠の教えでもある」
「師匠はまじめな方なんですね」
「うむっ、立派な方なのじゃ」
カタリナは誇らしげに言った。
彼女は会話をしながら、次の魔法を放とうとしていた。
俺に魔力探知の能力はないが、大まかに気配を感じるぐらいのことは可能だった。
少し離れた位置でカタリナの様子を見守っていると、彼女の右手から雷光が迸(ほとばし)り、用意された的に直撃した。
精度の高さを感じる一方で、一つの疑問が浮かんだ。
「……あれっ、詠唱なしで魔法を使いました?」
「何かおかしいか? 余の師匠は詠唱などせんぞ」
「……んっ、どういうことだろう」
俺が魔法を教わった時、「魔力を身体のどこかに一極集中させて、詠唱と共に放つ」というものだった。
カタリナの師匠なる人物は、何か違う体系で魔法を解釈しているということなのだろうか。
「ところで、マルクよ」
「はい、何か?」
「もう少しこちらに来るのじゃ」
カタリナに手招きされて、離れていた距離を縮めた。
彼女はこちらをじっと見つめており、澄んだ美しい瞳に吸いこまれそうな感覚を覚える。
「……そなたは亡くなった兄様によく似ておるのう」
「カタリナ様はお兄さんがいたんですか」
「様はいらん。カタリナと呼ぶといい」
「あっ、分かりました」
「本来は兄様が大臣になる予定だったが、病気で亡くなってしまった。それで余が大臣になったのじゃ」
カタリナは寂しそうな声音で言った。
二人きりということも影響しているのか、彼女は初対面の時とはだいぶ印象が違った。
「……んっ? そういえば、護衛はいないんですか?」
「魔法に巻きこまぬように、離れたところで待機しておる」
「さすがにそうですよね」
前言撤回。近くに見えないだけで、完全に二人きりというわけではないようだ。
最近の情勢を考えれば、当然のことではある。
「……少し話しすぎたな。余はもう少し魔法の鍛錬を続ける。そなたの焼肉、楽しみにしておる」
「ありがとうございます。それでは、失礼します」
俺はカタリナのところから立ち去った。
外庭の様子を少し眺めてから、来た道を引き返して城の中に戻った。
何度か通ったことで、城内の様子を覚えられた気がする。
誰の案内もなしで廊下を歩き始めた。
早朝の時間帯ということもあるのか、人の気配はなかった。
ここまでの記憶を頼りに客間へ向かう。
途中で分岐が何度かあったが、迷わずに戻ってこれた。
俺は部屋の扉を開けて中に入った。
「――おはようございます」
「あっ、おはようございます」
部屋にはアンがいた。
ベッドの上の布団を整えてくれているようだった。
「朝食のご案内に伺ったのですが、勝手に上がってしまい、失礼しました」
「いやいや、全然大丈夫ですから」
アンとの距離は近づきつつあると思ったが、あくまで彼女は客人と使用人のような間柄を保とうとしているように見えた。
まだ若いはずなのに、まじめな性格をしていると思った。
「もう少ししたら、朝食が用意できますので、昨日の食堂へいらしてください」
「ありがとうございます」
アンは一礼して、部屋を出ていった。
俺は椅子に座って一休みした後、食堂に向かった。
食堂に入ると、すでに長い机の上に食事が用意されていた。
机の広いスペースにちょこんと、一人分の料理が置いてある。
「おおっ、朝からすごいですね」
「お客様用ですので、いつもこのような料理をお出ししています」
アンはこちらの言葉を聞いて、微笑んだ。
俺は料理の置かれた席の椅子に腰を下ろした。
上半身を起こしてから、ランス城の客間で眠ったことを思い出した。
洗練された内装に目を向けると、自分が高貴な身分になったような感覚になる。
ベッドから起き上がって靴を履くと、室内の洗面台へ向かった
用意された水で顔を洗い、口をすすいで、用意されたタオルで水気を拭いた。
眠気の残る状態で外の様子を眺めると、まだ早朝であることに気づいた。
「ふわぁ、まだ眠いな。いいベッドだし、寝直すのもいいけど」
軽く伸びをして、近くにあった椅子に腰かける。
朝食の時間を確認していなかったが、もう少し先のはずだ。
椅子から立ち上がって、もう一度窓の外を見ると、外庭に誰かがいるのを発見した。
「……んっ? あれはカタリナか」
盗み見るつもりはなかったが、彼女が何かをしているようで注目した。
どうやら、魔法の練習をしているようだった。
「二度寝すると起きるのが面倒だし、カタリナと話してみるか」
寝間着から外出用の衣服に着替えて、身支度を整えた。
持ち物は手にしないまま、手ぶらでカタリナのところに向かう。
客間を出て廊下を歩いていると、出入り口を見つけた。
そこから外に出ると外庭に出られた。
俺は窓から見えた方向に向かって歩いていった。
やがて、カタリナの姿を見つけることができた。
彼女は魔法の練習を続けているところだった。
この前のようなドレスではなく、動きやすそうな格好をしていた。
「おはようございます」
「……おやっ、マルクではないか」
「魔法の練習ですか?」
「こうしておらんと、腕が鈍(にぶ)りそうでな。日々の鍛錬は師匠の教えでもある」
「師匠はまじめな方なんですね」
「うむっ、立派な方なのじゃ」
カタリナは誇らしげに言った。
彼女は会話をしながら、次の魔法を放とうとしていた。
俺に魔力探知の能力はないが、大まかに気配を感じるぐらいのことは可能だった。
少し離れた位置でカタリナの様子を見守っていると、彼女の右手から雷光が迸(ほとばし)り、用意された的に直撃した。
精度の高さを感じる一方で、一つの疑問が浮かんだ。
「……あれっ、詠唱なしで魔法を使いました?」
「何かおかしいか? 余の師匠は詠唱などせんぞ」
「……んっ、どういうことだろう」
俺が魔法を教わった時、「魔力を身体のどこかに一極集中させて、詠唱と共に放つ」というものだった。
カタリナの師匠なる人物は、何か違う体系で魔法を解釈しているということなのだろうか。
「ところで、マルクよ」
「はい、何か?」
「もう少しこちらに来るのじゃ」
カタリナに手招きされて、離れていた距離を縮めた。
彼女はこちらをじっと見つめており、澄んだ美しい瞳に吸いこまれそうな感覚を覚える。
「……そなたは亡くなった兄様によく似ておるのう」
「カタリナ様はお兄さんがいたんですか」
「様はいらん。カタリナと呼ぶといい」
「あっ、分かりました」
「本来は兄様が大臣になる予定だったが、病気で亡くなってしまった。それで余が大臣になったのじゃ」
カタリナは寂しそうな声音で言った。
二人きりということも影響しているのか、彼女は初対面の時とはだいぶ印象が違った。
「……んっ? そういえば、護衛はいないんですか?」
「魔法に巻きこまぬように、離れたところで待機しておる」
「さすがにそうですよね」
前言撤回。近くに見えないだけで、完全に二人きりというわけではないようだ。
最近の情勢を考えれば、当然のことではある。
「……少し話しすぎたな。余はもう少し魔法の鍛錬を続ける。そなたの焼肉、楽しみにしておる」
「ありがとうございます。それでは、失礼します」
俺はカタリナのところから立ち去った。
外庭の様子を少し眺めてから、来た道を引き返して城の中に戻った。
何度か通ったことで、城内の様子を覚えられた気がする。
誰の案内もなしで廊下を歩き始めた。
早朝の時間帯ということもあるのか、人の気配はなかった。
ここまでの記憶を頼りに客間へ向かう。
途中で分岐が何度かあったが、迷わずに戻ってこれた。
俺は部屋の扉を開けて中に入った。
「――おはようございます」
「あっ、おはようございます」
部屋にはアンがいた。
ベッドの上の布団を整えてくれているようだった。
「朝食のご案内に伺ったのですが、勝手に上がってしまい、失礼しました」
「いやいや、全然大丈夫ですから」
アンとの距離は近づきつつあると思ったが、あくまで彼女は客人と使用人のような間柄を保とうとしているように見えた。
まだ若いはずなのに、まじめな性格をしていると思った。
「もう少ししたら、朝食が用意できますので、昨日の食堂へいらしてください」
「ありがとうございます」
アンは一礼して、部屋を出ていった。
俺は椅子に座って一休みした後、食堂に向かった。
食堂に入ると、すでに長い机の上に食事が用意されていた。
机の広いスペースにちょこんと、一人分の料理が置いてある。
「おおっ、朝からすごいですね」
「お客様用ですので、いつもこのような料理をお出ししています」
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