異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
上 下
70 / 473
王都出立編

城下町の地図

しおりを挟む
「肉を焼くから焼肉というのはよいが、鉄板や材料はどうするつもりじゃ?」

「それでしたら、鉄板は街の鍛冶屋に、肉などは市場で購入可能かと」

「さすがじゃな、ブルーム。そこまで計算しておったのか」

「いえ、身に余るお言葉です」

 俺がカタリナの質問に答えるべきかと思ったが、ブルームが対応してくれた。
 事前に彼から、必要なものは王都の街で揃えられると聞かされていた。

 ただ、全て揃えるとなると、なかなかのコストになりそうだ。
 まさか、自腹ということはないだろうが、カタリナやブルームの意見を聞いた方がいいだろう。

「して、マルクとやら。その格好では一般人と見分けがつかぬ。城への出入りが許可されていると分かるように、あれをつけた方がよいのう」

「……あれとは何でしょう?」

「わしが持ってくる。少し待ってくれ」

「分かりました」

 ブルームは部屋を出てどこかに向かうと、足早に戻ってきた。
 その手には何かが握られている。

「カタリナ様が言われたのはこれだ。早速、身につけてもらえるか」

「あっ、はい」

 ブルームが腕章のようなものを差し出した。
 無地の布に紋章のような絵柄が紺色で描かれている。
 バラムの町では見かける機会が少なく、それがランス王国の紋章を意味することに気づくまで時間がかかった。

「それがあれば、ランス城が認めた者である証明になるからのう。仕入れにかかった費用は城に請求するように言うのじゃ」

「ありがとうございます」

 俺は装着した腕章をしげしげと眺めた。
 これがあるだけで、支払いフリーになるとは便利な代物だ。
 
「マルクよ、腕章は外さないようにな。わしがいなくても城を出入りできるぞ」

「なるほど、分かりました」

 ブルームの言うように、俺だけでは衛兵に呼び止められる気がした。
 暗殺機構の影響を考えれば、見ず知らずの人物が警戒されてもおかしくはない。

「その腕章は余の魔法の師匠の発案なのじゃ。師匠の名前はカタナ……、カタリナは余の名前だな。ブルーム、覚えておらんか?」

「聞いたことがありませんな。わしがカタリナ様に側仕えする前の話でしょう」

「そうか、師匠は元気にしておるかのう」

 カタリナはどこか遠くを見るような目をした。
 魔法の師匠がいたということは、彼女も魔法が使えるということか。

「さて、補助に付き人をつけることもできるが、どうする? どこで何が手に入るか分かるように地図を渡すから、一人でも問題ないはずだ。好きな方にするといい」

「うーん、そうですね……」

 ブルームの提案はありがたいものの、すぐに答えが出なかった。
 一人では荷物を運びきれないが、初対面の人間が仕入れに同行するとやりづらい気もする。    

「ちなみに市場で買ったものを、城へ配達してもらうことは可能ですか?」

「店にもよるだろうが、可能だと思うぞ」

「それでは一人で行きます。あと、地図をお願いします」

「よしっ、分かった。地図の場所は……どこだったか。すまぬが、街の地図を探してきてくれ」

 ブルームは部屋に控える兵士の一人に声をかけた。
 兵士は短く返事をして、そそくさとどこかに向かった。

「そのうちに戻ってくるだろう。あとは大丈夫そうか?」

「……あと、焼肉は火を使うので、屋外で料理できる場所を使わせてください」

「それなら問題ない。城内の庭園を使えるようにしておこう」

「ええと、あとは大丈夫か……これで、一通り確認できたと思います」

 俺とブルームが話していると、先ほどの兵士が折りたたまれた紙を持ってきた。

「ブルーム様、街の地図はこちらです」

「うむ、手間をかけたな」

 兵士はブルームに紙を手渡すと、元いた位置に戻った。

「この地図で迷うことなく、街を散策できるはずだ」

「ありがとうございます」

 俺はブルームから地図を受け取った。
 開いて中を見ると、街の様子が細かく書かれていた。

「早速、仕入れに向かってもいいですか?」

「余は構わぬ。焼肉を楽しみにしておる」

「貴女(あなた)のご期待に沿いたいと思います」

 俺は言葉を返してから、カタリナの部屋を後にした。

 少し進んだところで、城内が複雑な通路になっていることを思い出した。 
 誰かにたずねようと思ったところで、ブルームがやってきた。

「城を訪れるのが初めてならば城内で迷うだろう。わしが出口まで案内しよう。戻った時は兵士に案内を頼めばいい」

「お願いします」
 
 俺はブルームに先導してもらいながら、城の中を歩いて外に出た。
 前を歩いていたブルームは、城門の近くで立ち止まった。
 
「お主の故郷からここまで、強引に連れてきてしまったが、お主の気の向くままにやってくれ。わしが食べたのと同じ味なら、大臣はお気に召すはずだ」

「分かりました。食材さえ揃えば、やれると思います」

「その意気だ。では、頼んだ」

「はい」

 俺は城門を通過して、城の敷地を離れた。
 そこで一旦、城内でもらった地図を開いた。 

「……現在地がここで。ここからしばらく歩くと市場か」

 工房で鉄板と焼き台を用意したい気持ちもあるが、一番最初に肉のことを見ておきたい。
 王都の規模感からして、品揃えは充実しているだろう。
 あとは鮮度と肉の質が気になるところだ。
 
 立ち止まって必要なものを考えた後、地図を片手に歩き出した。
 城の前から少し離れたところに、レジナール通りがあった。
 この通りは民家らしき建物が中心で、店の類(たぐい)はほとんど見当たらない。
 
 レジナール通りを通過して直進を続けると、市場手前のモントレー通りに入った。
 街の中心部に近いため、通行人の数が徐々に増えていた。

 俺は道の脇に立って、地図を再確認した後、市場に向かって歩き出した。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...