上 下
67 / 465
王都出立編

魚料理と旅立ち

しおりを挟む
 岸壁には新鮮な魚が入った木箱が並び、漁師たちの活気のある声が響いていた。
 しばらくして、魚の水揚げが落ちついたところで、ランパードが声をかけてきた。
 
「あんたたちのために獲れたての魚を選んできた。これをあそこの店に持っていけば、美味しく料理してくれる」

「ありがとうございます。おおっ、すごい! 立派なタイとヒラメ、青物まである」

 ランパードに差し出された箱の中には、活きのいい魚が入っていた。
 俺とランパードが話していると、リリアが近づいてきた。

「こんなに新鮮な魚を見るのは初めてです」

「これぐらいしかお礼ができないから、よかったら受け取ってくれ」

「ええ、もちろん」

「それじゃあ、おれは作業が残っているから、失礼するぜ」

 ランパードは漁船のある方へ戻っていった。
 海の男の背中はたくましく見えた。

「それじゃあ、ランパードに聞いた店に魚を持っていきますか」

 俺たちは紹介された店へと移動した。

 二階建てで年季の入った雰囲気の外観だった。
 夕食時には早い時間だが、すでに店はオープンしていた。

 まずは先頭のブルームが店の扉を開けて中に入った。
 続いて、リリア、俺の順番で店に入る。

「いらっしゃい! その魚はどうしたんだい?」

 リリアが手に持った木箱を見て、店主と思しき男が驚いた様子を見せた。

「漁師のランパードさんから頂きまして」

「そうか、漁ができなくなったと聞いたけれど、再開されたのか」

「ええ、そうです」

「そいつはよかった。その魚は美味しく料理するから、ちょっと待っておくれ」

「はい、お願いします」

 男はリリアから木箱を受け取ると、調理場の方へ向かった。
 他のお客は見当たらず、俺たちは空いていた席に腰かけた。 

「まさか、こんなことになるなんて、思わなかったですよ。無事に解決してよかったです」

「その通りだな。ジャレスという名は初めて聞いた。この島に留(とど)まっているようだから、他の地域で知られることはなかったと」

 ブルームはそこまで言い終えたところで、気を取り直したように口を開いた。

「王都で高位の魔法使いを探すのはそこまで難しくはない。そこまで深刻に考える必要もないだろう。せっかくの機会だ、レアレス島の魚料理を楽しもう」

 俺たちが雑談をして待っていると、料理の乗った皿が運ばれてきた。

「お待たせ。まずはヒラメのカルパッチョだ。魚が新鮮だから、絶対に美味いよ」

「すごーい、身が輝いていますね」

「おおっ、盛りつけがきれい」

「ふむっ、これはなかなか」

 俺たちはそれぞれに感嘆の声を上げた。

「まだ、他にもあるから、楽しみにしててな」

 男は再び調理場に戻っていった。

「それじゃあ、食べるとしますか」

「はい!」

「こんなに元気なリリアを見たのは初めてだ」

 俺たちはナイフとフォーク、取り皿を手にして、カルパッチョを取った。
 フォークに刺したヒラメの身は弾力があって、新鮮さを感じた。
 ゆっくりと口の中に運ぶと、ソースのさわやかな酸味の後に白身の甘みがした。

「これはおいしい!」

「新鮮な魚って、こんなにも美味しいのですね」

「レアレス島の魚がここまでとは、ううむ……」 

 俺たちがじっくり味わっていると、次の料理が運ばれてきた。
 温かい料理のようで、湯気と匂いが漂ってくる。

「ははっ、美味いのは魚だけじゃなくて、オレの腕もあるんだぜ。次はタイのアクアパッツァだ」

「これまたすごい料理が……」

「カルパッチョに感動していたのに」

「まだ始まったばかりだというのか」

 レアレス島の魚料理の洗礼を受けたような心境だった。
 美味しい食事を味わう夜はまだまだ続きそうだ。



 翌朝。俺は領主に用意された宿で目を覚ました。
 庶民的な民宿のようなところだった。

 身支度を整えて、食堂で朝食を済ませた後、宿を出た。

 宿は港のすぐ近くにあるため、目の前にはいくつか船が停泊していた。
 時折吹くそよ風が潮の香りを運んでくる。   
 周りの景色を眺めていると、ブルームがやってきた。

「マルクよ、昨日の料理は盛大だったな」

「おはようございます。たしかにそうですね。なかなか食べられない量でした」

「ところで、ジャレスの件で気になったんですけど、他の地域で同じようなことはあるんですかね」

「ふむ、どうだろうな。村長や領主を操るような悪魔がいるなどということは、この島に来て初めて知った。とはいえ、わしの知る全てが世界の全てではない。ランス王国以外も含めれば、同じようなことはあるかもしれんな」

 ブルームは言葉を選びながら話しているようだった。
 彼の言うように、広大な世界に同じような存在がいてもおかしくないと思った。

「――お二人とも元気ですね」

 ブルームに続いて、リリアがやってきた。
 気のせいかもしれないが、いつもと様子が違うように見える。

「おはようございます。なんだか、昨日と雰囲気が違いますね」

「ええ、昨日は魚料理を食べすぎました」

「ああっ、それで」

 リリアは少しテンションが低かった。
 昨日、最も多い量を食べたのは彼女だったので、そうなってもおかしくはない。

「リリアよ、気の毒にな。ところで、定期船はそろそろ出る時間だったか」

「昨日、聞いた感じではそうですね。船着き場まで移動しておきますか」

 俺たちは定期船に乗り降りする場所へと歩き出した。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

異世界転移の……説明なし!

サイカ
ファンタジー
 神木冬華(かみきとうか)28才OL。動物大好き、ネコ大好き。 仕事帰りいつもの道を歩いているといつの間にか周りが真っ暗闇。 しばらくすると突然視界が開け辺りを見渡すとそこはお城の屋根の上!? 無慈悲にも頭からまっ逆さまに落ちていく。 落ちていく途中で王子っぽいイケメンと目が合ったけれど落ちていく。そして………… 聞いたことのない国の名前に見たこともない草花。そして魔獣化してしまう動物達。 ここは異世界かな? 異世界だと思うけれど……どうやってここにきたのかわからない。 召喚されたわけでもないみたいだし、神様にも会っていない。元の世界で私がどうなっているのかもわからない。 私も異世界モノは好きでいろいろ読んできたから多少の知識はあると思い目立たないように慎重に行動していたつもりなのに……王族やら騎士団長やら関わらない方がよさそうな人達とばかりそうとは知らずに知り合ってしまう。 ピンチになったら大剣の勇者が現れ…………ない! 教会に行って祈ると神様と話せたり…………しない! 森で一緒になった相棒の三毛猫さんと共に、何の説明もなく異世界での生活を始めることになったお話。 ※小説家になろうでも投稿しています。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

転生してしまったので服チートを駆使してこの世界で得た家族と一緒に旅をしようと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
俺はクギミヤ タツミ。 今年で33歳の社畜でございます 俺はとても運がない人間だったがこの日をもって異世界に転生しました しかし、そこは牢屋で見事にくそまみれになってしまう 汚れた囚人服に嫌気がさして、母さんの服を思い出していたのだが、現実を受け止めて抗ってみた。 すると、ステータスウィンドウが開けることに気づく。 そして、チートに気付いて無事にこの世界を気ままに旅することとなる。楽しい旅にしなくちゃな

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...