異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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アデルとハンクのグルメ対決

罠にかかった仔ウルフ

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「向こうへ行くのに、一人の方がいいですか?」

「ああっ、そうだな」

「途中で何かあった時は、マーカーを焚いてくださる?」

「おう、それじゃあ行ってくる。この森は危険が少ないと思うが、先に出てくれ」

 ハンクはホワイトウルフのところに向かった。
 光のない森の中を野生動物のように、軽やかに動いていった。

「ホワイトウルフを警戒させない方がいいですわね。少し離れましょう」

「はい」

 フランは姿勢を低くして、来た道を引き返した。
 俺も同じ体勢で彼女に続いた。

 ホワイトウルフを確認した場所から十分に離れたところで、ホーリーライトを唱えた。
 暗闇で足元がおぼつかなかったが、今度は明かりを頼りにすることができる。

「ハンクはさすがですわね」

「存在自体がでたらめですよ。剣術と魔法が抜群で、その上何でもできるなんて」

「かなりの経験を積んでいるはずだから、実は高齢なのかしら」

「あぁー、年齢は聞いたことないですね」

 フランの視点は盲点だった。
 あの領域に達するには三十代でも若すぎる気がする。

「ところで、その格好だと寒くありませんの?」

「いやー、ハンクに借りたマントのおかげでマシですけど、ちょっと冷えますね」

「そうですわよね。よろしかったら、わたくしの魔鉱石を差し上げますわ」

 フランは懐から薄い板状の石を取り出した。
 ちょうど手で掴める大きさだった。

「何だか高そうですけど、いいんですか?」

「風邪を引くのは気の毒ですもの。それにこの外套があれば、問題ありませんわ」

「それじゃあ、ありがたく」

 フランから魔鉱石を受け取ると、ほんのり温かかった。

「火の魔法のエネルギーで熱が発生していますの」

「なるほど、すごい仕組みですね」

 俺は手の中の魔鉱石をじっと眺めた。
 こんなものが存在するなんて、世界は広いと思ってしまった。

「ハンクが戻るまで、ここで待ちましょう」 

「はい、そうしますかね」

 フランが近くに腰かけたので、俺も座りやすそうなところに腰を下ろした。
 時折、ホワイトウルフの遠吠えが聞こえてくる程度で、森の周りは静かだった。



 森を出たところでしばらく待っていると、先ほどまでいた方向から、ホーリーライトの光が近づいてきた。

「おーい、戻ったぞ」

「おかえりなさい。首尾はどうでした?」

「遠吠えしていたホワイトウルフなんだが、仔ウルフが猟師の罠にかかっていた」

「それは気の毒に。そのウルフのケガは大丈夫だったんですか」

「縄に捕まっていただけだから、外すだけで問題なかったな」
 
「よかったですね」

 ハンクの言葉を聞いて安心した。

「親の方のホワイトウルフはどのような感じでしたの?」

「子どもを返しに行ったら、逃げずに受け取った。おそらく、子どもが罠にかかっているから、外してほしかったんだろうな」

「「……えっ!?」」

 俺とフランはほぼ同時に声を上げていた。

「ホワイトウルフが逃げなかったって」

「そんなこと可能ですの?」

「そこはまあ……あれだな、無害な感じで近づいてだな」

 ハンクは答えに困っているように見えた。

 詳細はともかく、無事に解決したのならそれに越したことはない。
 ただ、何かすごい能力を使ったのなら、どんなものか気になる気持ちもある。

「冒険者同士で手の内を隠すのは自然なことですもの。わたくしも槍術のことを他人にひけらかすことはありませんから」

 フランの言葉を聞いた後、素朴な疑問が浮かんだ。
 いつもあるはずのものが今日はない。

「そういえば、槍はどうしたんですか?」

「宿に置いてきましたの。森の中で扱うには長すぎますわ」

 たしかにミドルソードぐらいまでの長さならともかく、ロングソードや長槍は相性が悪いように思った。

「これにて一件落着だろうから、アデルが先に向かった宿に行こうぜ」

「そういえば、場所はどの辺りでしたっけ」

「わたくしが案内しますわ。レンソール高原でお姉さまが泊まりそうな宿は一軒しかありませんもの」

「もしかして、フランも同じ宿ですか」

 セレブという共通点があるため、二人の選ぶ宿は同じところだと直感した。

「ええ、そうですわ。すぐに向かいますわよ」

「ギルドへの報告をまとめなくても大丈夫です?」

「それは後で部屋でしますわ。お構いなく」

 ホワイトウルフの件が解決したこともあると思うが、それ以上にアデルと会えることへの喜びがあるようで、フランは今にも走り出しそうな勢いだった。
 彼女はお嬢様気質もありつつ、活動的な面があるところが印象的だと思う。

「よしっ、フランに案内を任せるか」

「それでは、お願いします」

 フランはその場から動き出すと、すたすたと歩いていった。

「森を調べていたはずなのに元気ですね」

「マルク、タフじゃないとBランク冒険者にはなれないぜ」

「ははっ、それはそうですね」

 ホワイトウルフの件は解決したみたいなので、無事にモルトのチーズが食べられたらと思った。


 あとがき
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