異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
上 下
23 / 473
新たな始まり

海辺の町への招待

しおりを挟む
 俺とエスカは長老の頼みを受けて、それぞれの役割をこなすことになった。

 焼肉に近い調理法については、エスカが解体した残りの豚肉を使いながら、簡単で再現しやすい料理を教えた。
 長老の要望ということもあってか、料理番のゴブリンは素直に覚えてくれた。

 ゴブリンに調理法を教えてからキャンプの中心に戻ると、解体の仕方を教え終えたエスカも戻ってきたところだった。

「そっちの望みは叶えたから、元いた場所に帰ってくれよ」

「うむっ、承知した。数日もあれば、撤収は完了するじゃろう」

 長老はハンクの呼びかけを受け入れた。
 これで、今回の件は解決するだろう。

 俺たちは荷物を撤収して、シルバーゴブリンのキャンプを後にした。
 
 帰り道はハンクに先導してもらいつつ、各々でホーリーライトを唱えた。
 もう、シルバーゴブリンは敵ではないので、夜の森を明るくしても危険ではない。

 野営地に到着すると篝火が立てられて、冒険者たちは警戒態勢だった。

「エスカ、無事だったのね」

 エリルはエスカに駆け寄ると、がっちりと抱きしめた。
 それに続いて、他の冒険者たちも集まった。

「……逃げてしまって、ごめんなさい」

 冒険者の一人が申し訳なさそうに頭を下げた。
 その言葉から、エスカと偵察をしていた冒険者だろう。

「ううん、わたしは大丈夫だから、気にしないで――」

「仲間を置いてくのは冒険者失格だ。二度とすんなよ」

 エスカは明るく振る舞っていたが、ハンクが真面目な様子で言った。
 
「は、はい。もうしません……」

「シルバーゴブリンを侮らなかった点は将来性がある。まあ、頑張れよ」

 ハンクは少年のように見える冒険者の頭をそっと撫でた。
 その冒険者は、無双のハンクと話せて光栄ですと言って、その場を離れた。

 冒険者を引退した俺が見ても、微笑ましい光景だった。
 そんなこともありながら、野営地の夜は更けていった。



 翌日。近くの沢で顔を洗い、朝食は冒険者たちに分けてもらった。
 森がすぐ側にあることもあり、すがすがしい朝だった。

 俺とハンクは乗ってきた馬で戻り、エスカはギルドの馬車で戻ることになった。
 冒険者たちに別れを告げて、二人で来た道を引き返した。

 野営地を離れてしばらくすると、目の前には広大な草原が広がっていた。
 来た時は必死で気づかなかったものの、大地に抱かれるように壮大な光景で、空の青と草原の緑のコントラストが美しい。

 俺たちの馬は草原の間を伸びる街道を走り続けた。
 馬を休ませながら移動するうちに、昼過ぎにはバラムの町に着いた。
 
 ギルドの係留場で職員に馬を返してから、ハンクと二人で俺の店に向かった。

「……あれっ、誰もいない」

 丸一日近く経過しているわけだが、アデルの姿はなかった。

「七色ブドウの仕分けは済んでるみたいだな」

 ハンクが示した容器を見ると、七色ブドウが色別に分けられて、余分な枝やゴミが取り除かれていた。 

「どこに行ったんですかね」

「おれもよく分からんが……」

 二人で探すうちに店の机の上に何かが置かれているのを発見した。

「これは……」

 普通の封筒のように見えるが、備えつけられた宝石から魔力の気配を感じる。

「こいつはコードだな。魔法を暗号化した鍵みたいなものだ」

 ハンクはそう言った後、封筒を手に取った。
 封筒の宝石はアデルの髪のような赤い輝きだったが、彼が触れてしばらくすると、その光が失われた。

「――よしっ、解錠成功」

「なんか、すごい仕組みですね」  

「高位の魔法使いが秘伝を守るのに使ったりするもんだ。アデルはおれに開けさせるつもりだったんだろうな」

 ハンクが封を開けると、中から一枚の便箋が出てきた。

「なになに……海鮮料理が食べたくなったので、ガルフールに行きます。よかったら、皆さんも来てください」

「この流れで、ずいぶん大胆な行動ですね」

「まだ、ワインの工程は残ってるよな」

 俺とハンクは互いの顔を見合わせて笑った。

 興味本位で封筒を手に取ると、思いのほか重みを感じた。
 その中身を机に広げてみたら、金貨が十枚ほど出てきた。

「さらっと大金を置いてきましたね」

「そうか、これが鍵をかけた理由か」
 
 俺は金貨にドキドキしたが、現金持たない派のハンクは興味なさげだった。

「おれは行ったことがあるから、ワイン作りを進めるぞ」

「一人で行くのもなんだし、エスカ辺りを誘いましょうかね」

「いいんじゃないか。海鮮が美味いから、何か土産を頼む」

 ハンクは親指を立てて、満面の笑みを浮かべていた。


 
 急遽決まったガルフール行きだが、店を連日閉めていたので、数日間は営業してから行くことにした。
 次の定休日が来るまでの間、ハンクは店の奥でワイン作りを進めていた。

 色々な準備が整った後、ガルフールへ行く日を迎えた。
 野営地からバラムに戻ったエスカには声をかけてあり、馬車乗り場で待ち合わせることになっている。

 出発前に店の様子を確認して、ワイン職人なりかけのハンクに挨拶を済ませると、その場を後にした。
 店を離れて少し歩いたところで、見覚えのある人影が道の向こうから歩いてきた。

 水色の長い髪と軽やかな身のこなし、携えた長槍――Bランク冒険者のフランだ。 

「あら、店主。お姉さまはどこですの?」

「もしかして、アデルに会いに」

「ギルドの休みができたところで、会いにきましたの」
 
「アデルはガルフールにいるみたいで、今から行きますけど、一緒に行きますか?」

「ええ、もちろん!」

「これから馬車に乗るので、ついてきてください」

 予定にはなかったものの、フランが合流した。
 俺は彼女と共に馬車乗り場へ向かった。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

処理中です...