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新たな始まり
ギルドからの依頼
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「――おーい、お前ら。いつまで食べてんだ。日が暮れちまうぞ」
「……あれっ」
ハンクののんびりした声で、我に返った。
ふと手を見ると、七色ブドウの房を手にしていた。
不思議に思って周りを確かめると、アデルやフランと目が合った。
「おれの時は一人で食べ始めたら、気づけば夜中だった。まあ、そんなもんだ」
「ハンク、ワインにするには未熟なものを持ち帰るのよね?」
アデルが何事もなかったかのように話題を変えた。
「そうだな、熟してると潰れちまうからな。帰りを考えたらそうした方がいい」
アデルはハンクに確認した後、ブドウを見繕うように動き出した。
何かの用途に使えるかもしれないので、俺も少し持って帰ることにした。
「……それで、アデルは欲張りすぎじゃないか」
それぞれに採集を終えた後、俺たちは集まった。
ハンクが運んでくれるというので、俺とアデル、フランが七色ブドウを差し出したのだが、アデルの分だけは一際多かった。
「なかなか、来れない場所だから……ね」
「お姉さまの意外な一面が見れましたわ」
「まあ、運べない量ではないから任せてくれ」
ハンクは運搬用の袋を持ってきていたようで、三人分の七色ブドウを入れると、いつものバックパックに収めた。
それから、俺たちは来た道を引き返した。
町までの道のりにモンスターが出ないか緊張もあったが、特に何事もなく戻ることができた。
無事に到着してからは自由行動になり、俺は遅い昼食を済ませて、カフェテリアでゆったりとすごした。
翌日。昨日と同じ宿屋で朝を迎えた。
復路の馬車は予約済みなので、予定の時間にはアルダンを出る。
最後に武器屋の店主に挨拶をして、馬車の待つ場所へ向かった。
すでに馬車は来ていて、アデルたちが乗りこむところだった。
「お待たせしました」
「馬車は来たばかりだから、問題ないわよ」
アデルが気遣うような声をかけてくれた。
俺が客車に乗りこんでしばらくすると、馬車はアルダンの町を出発した。
今回は色んな経験ができたこともあり、名残惜しいような気分だった。
バラムの町に到着したところで、フランがおとなしくなっていた。
ハンクが事情をたずねると、フランは所属するギルドに引っ張りだこで帰らなければならないということだった。
彼女は俺たちに別れを告げると、切ない表情で去っていった。
少々しんみりしたところで、ハンクが人の集まらない場所でワインのことを話したいとなり、俺の店に移動することになった。
店の敷地に着いたところで、ハンクが説明を始めた。
「七色ブドウのワインだが、まずは仕込みを始めるぞ」
「他にも準備が必要だから、そこまでしかできないのね」
「作業工程はともかく、どこに保管するんですか?」
「うんまあ、ここしかないよな」
ハンクは店の方をちらりと見た。
「ですね、他にないですもんね」
「おれとアデルはこの辺りに詳しくないからな。どこかありそうか?」
「なくはないんですけど……秘密にしたいなら、うちの店にしましょうか」
「そうか、それでいいなら」
「マルク、助かるわ」
アデルの言葉に照れくさい気持ちになった。
「そういえば、昼食がまだでしたね。簡単な料理でよければ用意します」
「ああっ、よろしく頼む」
「それじゃあ、私も頂こうかしら」
二人が気持ちのいい返事をしてくれた。
やる気が出てきた俺は、足早に店の中に向かった。
今ある材料で気の利いた料理はできないが、味に妥協するつもりはない。
自分の主食として常備してあるジャガイモ、保存食の腸詰めを手に取った。
それらを調理場の包丁で、下ごしらえする。
かまどに火を入れて使える状態にしてから、フライパンを乗せて油を引いた。
温度が高くなったところで、細長く切ったじゃがいもをサッと炒める。
その後に薄切りの腸詰めにも火を通す。
腸詰めに塩分があるので、塩は味の調整程度にしか使わない。
仕上げにハーブと香辛料を混ぜた調味料を振りかけると、香ばしい匂いに食欲がそそられた。
シンプルな焼き物を取り皿に乗せて、人数分用意した。
料理を手早く運んで、ナイフとフォークをアデルたちに出す。
二人はずいぶんお腹が空いていたようで、すぐに食べ始めた。
「いやー、簡単な料理なのに美味かったぜ」
「腸詰めはこうやって食べると、臭みが少ないのね」
アデルたちが満足したようでうれしかった。
俺も同じものを食べてみたが、まずまずの仕上がりだと感じた。
それから、食器の片づけが済んだところで、見覚えのある人物が訪ねてきた。
「おやっ、マルクか。店を始めたとは聞いていたが」
ギルド長が気さくな態度で話しかけてきた。
彼は責任ある立場なので、折り目正しい服装をしている。
「ああっ、どうも。仕事中に出歩くなんて珍しいですね」
「この辺りで無双のハンクを見かけたと聞いて、彼を探している」
「おっ? おれに何か用事か?」
「こ、これは……本当に」
ギルド長は息を呑むような様子で、ハンクをじっと見た。
「あんまり見つめんなよ。そういう趣味はねえ」
「失礼した。噂は聞いていたが、まさか本当にいるとは」
「用件はなんだ? これからやることがあるんだが」
ハンクはギルド長の話よりも、ワイン作りを優先しているようだ。
「バラムのギルド長として、恥を承知で申し上げる。冒険者たちがゴブリンの討伐に向かったものの、ずいぶん苦戦している。どうか、力を貸してはくれまいか」
ギルド長は深々と頭を下げた。
そんな姿を一度も見たことがなかったので、ハンクの凄さを改めて実感した。
「なあ、こいつはもしかして」
「ギルド長、そこにはエスカも?」
「そうだ。エスカも遠征の人員に含まれている」
ギルド長の言葉が重々しく感じられた。
「……そうか、力を貸してやる」
ハンクはしっかりとした声で言った。
「……あれっ」
ハンクののんびりした声で、我に返った。
ふと手を見ると、七色ブドウの房を手にしていた。
不思議に思って周りを確かめると、アデルやフランと目が合った。
「おれの時は一人で食べ始めたら、気づけば夜中だった。まあ、そんなもんだ」
「ハンク、ワインにするには未熟なものを持ち帰るのよね?」
アデルが何事もなかったかのように話題を変えた。
「そうだな、熟してると潰れちまうからな。帰りを考えたらそうした方がいい」
アデルはハンクに確認した後、ブドウを見繕うように動き出した。
何かの用途に使えるかもしれないので、俺も少し持って帰ることにした。
「……それで、アデルは欲張りすぎじゃないか」
それぞれに採集を終えた後、俺たちは集まった。
ハンクが運んでくれるというので、俺とアデル、フランが七色ブドウを差し出したのだが、アデルの分だけは一際多かった。
「なかなか、来れない場所だから……ね」
「お姉さまの意外な一面が見れましたわ」
「まあ、運べない量ではないから任せてくれ」
ハンクは運搬用の袋を持ってきていたようで、三人分の七色ブドウを入れると、いつものバックパックに収めた。
それから、俺たちは来た道を引き返した。
町までの道のりにモンスターが出ないか緊張もあったが、特に何事もなく戻ることができた。
無事に到着してからは自由行動になり、俺は遅い昼食を済ませて、カフェテリアでゆったりとすごした。
翌日。昨日と同じ宿屋で朝を迎えた。
復路の馬車は予約済みなので、予定の時間にはアルダンを出る。
最後に武器屋の店主に挨拶をして、馬車の待つ場所へ向かった。
すでに馬車は来ていて、アデルたちが乗りこむところだった。
「お待たせしました」
「馬車は来たばかりだから、問題ないわよ」
アデルが気遣うような声をかけてくれた。
俺が客車に乗りこんでしばらくすると、馬車はアルダンの町を出発した。
今回は色んな経験ができたこともあり、名残惜しいような気分だった。
バラムの町に到着したところで、フランがおとなしくなっていた。
ハンクが事情をたずねると、フランは所属するギルドに引っ張りだこで帰らなければならないということだった。
彼女は俺たちに別れを告げると、切ない表情で去っていった。
少々しんみりしたところで、ハンクが人の集まらない場所でワインのことを話したいとなり、俺の店に移動することになった。
店の敷地に着いたところで、ハンクが説明を始めた。
「七色ブドウのワインだが、まずは仕込みを始めるぞ」
「他にも準備が必要だから、そこまでしかできないのね」
「作業工程はともかく、どこに保管するんですか?」
「うんまあ、ここしかないよな」
ハンクは店の方をちらりと見た。
「ですね、他にないですもんね」
「おれとアデルはこの辺りに詳しくないからな。どこかありそうか?」
「なくはないんですけど……秘密にしたいなら、うちの店にしましょうか」
「そうか、それでいいなら」
「マルク、助かるわ」
アデルの言葉に照れくさい気持ちになった。
「そういえば、昼食がまだでしたね。簡単な料理でよければ用意します」
「ああっ、よろしく頼む」
「それじゃあ、私も頂こうかしら」
二人が気持ちのいい返事をしてくれた。
やる気が出てきた俺は、足早に店の中に向かった。
今ある材料で気の利いた料理はできないが、味に妥協するつもりはない。
自分の主食として常備してあるジャガイモ、保存食の腸詰めを手に取った。
それらを調理場の包丁で、下ごしらえする。
かまどに火を入れて使える状態にしてから、フライパンを乗せて油を引いた。
温度が高くなったところで、細長く切ったじゃがいもをサッと炒める。
その後に薄切りの腸詰めにも火を通す。
腸詰めに塩分があるので、塩は味の調整程度にしか使わない。
仕上げにハーブと香辛料を混ぜた調味料を振りかけると、香ばしい匂いに食欲がそそられた。
シンプルな焼き物を取り皿に乗せて、人数分用意した。
料理を手早く運んで、ナイフとフォークをアデルたちに出す。
二人はずいぶんお腹が空いていたようで、すぐに食べ始めた。
「いやー、簡単な料理なのに美味かったぜ」
「腸詰めはこうやって食べると、臭みが少ないのね」
アデルたちが満足したようでうれしかった。
俺も同じものを食べてみたが、まずまずの仕上がりだと感じた。
それから、食器の片づけが済んだところで、見覚えのある人物が訪ねてきた。
「おやっ、マルクか。店を始めたとは聞いていたが」
ギルド長が気さくな態度で話しかけてきた。
彼は責任ある立場なので、折り目正しい服装をしている。
「ああっ、どうも。仕事中に出歩くなんて珍しいですね」
「この辺りで無双のハンクを見かけたと聞いて、彼を探している」
「おっ? おれに何か用事か?」
「こ、これは……本当に」
ギルド長は息を呑むような様子で、ハンクをじっと見た。
「あんまり見つめんなよ。そういう趣味はねえ」
「失礼した。噂は聞いていたが、まさか本当にいるとは」
「用件はなんだ? これからやることがあるんだが」
ハンクはギルド長の話よりも、ワイン作りを優先しているようだ。
「バラムのギルド長として、恥を承知で申し上げる。冒険者たちがゴブリンの討伐に向かったものの、ずいぶん苦戦している。どうか、力を貸してはくれまいか」
ギルド長は深々と頭を下げた。
そんな姿を一度も見たことがなかったので、ハンクの凄さを改めて実感した。
「なあ、こいつはもしかして」
「ギルド長、そこにはエスカも?」
「そうだ。エスカも遠征の人員に含まれている」
ギルド長の言葉が重々しく感じられた。
「……そうか、力を貸してやる」
ハンクはしっかりとした声で言った。
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