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第四章
行方知れずの友
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「私が話を引き継ぎましょう」
気持ちの整理ができないでいると、サリオンが会話に加わろうとした。
いつになく神妙な面持ちで口を開く。
「最初は散歩に行っているだけかと思いましたが、胸騒ぎを覚えて町の人に聞いたところ、早朝に牧場を見に行った人がジンタらしき人影を見たようです」
「その後は?」
「情報が得られたのはそこまでです。彼が離れたいのなら、その意思を尊重してもいいと思っています」
サリオンの言葉に冷淡な気配はなく、言葉通りに気遣いが感じられた。
ウィニーは何も言わないでいるが、彼も同じような考えだと察することができた。
「名前はカイトくんでしたか? 友のことが気がかりでは注意が散漫になりかねない。私でよければ、馬を走らせて探せますが?」
「……お願いします。俺も一緒に行っても?」
どうにか言葉をしぼり出せたが、クラウスは首を横に振った。
「私やウィニコットの感覚では、旅団は半ば部隊のようなものです。それを個人の意思で離反したのなら、本来は裏切りと取られてもおかしくない」
「……裏切り」
クラウスの言葉が重くのしかかる。
内川に裏切るつもりはなかったとしても、ここしばらくの彼の態度は傲慢と言われてもしょうがないだろう。
それでも、探しに行こうと言ってくれるのは恩情にすぎない。
ウィニーたちに比べたら、クラウスのことはまだよく分からない。
余計なことを言って彼の気が変わることは避けたかった。
ここは申し出を受ける方が得策だろう。
「それじゃあ、仁太のことお願いします」
「うん、それじゃあ行ってきます」
クラウスは足早に玄関から出ていった。
内川が見つかることを願うばかりだった。
彼が内川を探しに出てから、落ちつかない気持ちだった。
内川を指導していたルチアの表情は晴れず、彼女も心配しているように見えた。
沈んだ気分でいるとダニエラが温かいお茶を出してくれて、彼女の優しさでいくらか動揺が和らいだ気がした。
高校からの友である内川は何を考えていたのか。
彼が評価されない一方で、俺が評価されたことが影響したことは間違いないと思っている。
勇者召喚されてからの短い期間で、この世界に順応するのは間違いなく難しい。
俺自身もまだまだ戸惑うことばかりだ。
そのように理解できる反面、内川の態度に問題がなかったわけでもないと思う。
もう少し柔軟になるとか、ルチアの指導に応えようとする姿勢はあってもいい気がした。
お茶を飲みながら待っていると、しばらくしてクラウスが戻ってきた。
「戻りました」
「クラウス、どうだった?」
「残念ながら、アルカベルク周辺に気配はありませんでした。そこまで機敏ではないと聞き及んでいたので、痕跡を捕捉することぐらいはできるはずなのですが」
「この際、仕方ないな。これ以上、ジンタに時間をかけるはできない。……カイト、いいな?」
「もうどうにもならないから、そうするしかないね」
「悪いな、恩に着る」
内川不在のまま、この後のことについて話が進むことになった。
クラウスの反応からして、内川が絶対領域を使って隠れている可能性も考えられたが、スキルの話をすれば魔眼に言及しそうで控えておいた。
ルチアはさっきまで浮かない顔をしていたが、気持ちを切り替えたようで引き締まった表情に変わっている。
「それじゃあ、もう一度集まってくれ」
ウィニーの呼びかけで、ダニエラ以外の全員が椅子に腰を下ろした。
彼女はこれまでと同じように席を外す。
「ここから先、おれとエリーは有名人だ。迂闊に顔を出すことができない。移動中は馬車に隠れることが多くなるだろう。いつでも助けられるわけじゃないから、クラウスと協力して乗り切ってくれ」
「ふっ、分かりました。あなたの無茶ぶりは今に始まったことではないですから」
「サリオン、頼んだぜ。風の森のエルフとあれば、早々無下にされることはない。お前の顔で不問に付されることだってあるはずだ」
「まあ、いいでしょう。ガスパールでは楽しめましたから」
「あんたは馬毛亭で酒ばっかり飲んでたじゃないっすか」
「むむっ、それは耳が痛い」
ルチアのツッコミに皆が笑い声を上げた。
緊張した空気が少し緩んだ気がする。
気休めでもいいから、場が和むのはありがたかった。
「あと、馬車の人員配置はこんな感じでどうだ」
ウィニーはテーブルの上に二つの馬車とそれぞれの名前が書き分けられたものを置いた。
馬車A:エリーとウィニー クラウス、ルチア、サリオン
馬車B:ミレーナ カイト
ガスパール王国からアルカベルクまでの配置から、内川とクラウスが入れ替わったかたちだった。
やはり、重要な二人を離すことはしないみたいだ。
「ウィニコット、妻と別れを済ませておきたい。この先はどんな危険があるか分かりませんから」
「もちろんだ。おれたちは馬車の準備をしておく」
「ありがとう」
クラウスは席を外して、ダニエラに会いに行った。
深紅の旅団の面々も立ち上がり、これから出発に向けた準備をするようだ。
気持ちの整理ができないでいると、サリオンが会話に加わろうとした。
いつになく神妙な面持ちで口を開く。
「最初は散歩に行っているだけかと思いましたが、胸騒ぎを覚えて町の人に聞いたところ、早朝に牧場を見に行った人がジンタらしき人影を見たようです」
「その後は?」
「情報が得られたのはそこまでです。彼が離れたいのなら、その意思を尊重してもいいと思っています」
サリオンの言葉に冷淡な気配はなく、言葉通りに気遣いが感じられた。
ウィニーは何も言わないでいるが、彼も同じような考えだと察することができた。
「名前はカイトくんでしたか? 友のことが気がかりでは注意が散漫になりかねない。私でよければ、馬を走らせて探せますが?」
「……お願いします。俺も一緒に行っても?」
どうにか言葉をしぼり出せたが、クラウスは首を横に振った。
「私やウィニコットの感覚では、旅団は半ば部隊のようなものです。それを個人の意思で離反したのなら、本来は裏切りと取られてもおかしくない」
「……裏切り」
クラウスの言葉が重くのしかかる。
内川に裏切るつもりはなかったとしても、ここしばらくの彼の態度は傲慢と言われてもしょうがないだろう。
それでも、探しに行こうと言ってくれるのは恩情にすぎない。
ウィニーたちに比べたら、クラウスのことはまだよく分からない。
余計なことを言って彼の気が変わることは避けたかった。
ここは申し出を受ける方が得策だろう。
「それじゃあ、仁太のことお願いします」
「うん、それじゃあ行ってきます」
クラウスは足早に玄関から出ていった。
内川が見つかることを願うばかりだった。
彼が内川を探しに出てから、落ちつかない気持ちだった。
内川を指導していたルチアの表情は晴れず、彼女も心配しているように見えた。
沈んだ気分でいるとダニエラが温かいお茶を出してくれて、彼女の優しさでいくらか動揺が和らいだ気がした。
高校からの友である内川は何を考えていたのか。
彼が評価されない一方で、俺が評価されたことが影響したことは間違いないと思っている。
勇者召喚されてからの短い期間で、この世界に順応するのは間違いなく難しい。
俺自身もまだまだ戸惑うことばかりだ。
そのように理解できる反面、内川の態度に問題がなかったわけでもないと思う。
もう少し柔軟になるとか、ルチアの指導に応えようとする姿勢はあってもいい気がした。
お茶を飲みながら待っていると、しばらくしてクラウスが戻ってきた。
「戻りました」
「クラウス、どうだった?」
「残念ながら、アルカベルク周辺に気配はありませんでした。そこまで機敏ではないと聞き及んでいたので、痕跡を捕捉することぐらいはできるはずなのですが」
「この際、仕方ないな。これ以上、ジンタに時間をかけるはできない。……カイト、いいな?」
「もうどうにもならないから、そうするしかないね」
「悪いな、恩に着る」
内川不在のまま、この後のことについて話が進むことになった。
クラウスの反応からして、内川が絶対領域を使って隠れている可能性も考えられたが、スキルの話をすれば魔眼に言及しそうで控えておいた。
ルチアはさっきまで浮かない顔をしていたが、気持ちを切り替えたようで引き締まった表情に変わっている。
「それじゃあ、もう一度集まってくれ」
ウィニーの呼びかけで、ダニエラ以外の全員が椅子に腰を下ろした。
彼女はこれまでと同じように席を外す。
「ここから先、おれとエリーは有名人だ。迂闊に顔を出すことができない。移動中は馬車に隠れることが多くなるだろう。いつでも助けられるわけじゃないから、クラウスと協力して乗り切ってくれ」
「ふっ、分かりました。あなたの無茶ぶりは今に始まったことではないですから」
「サリオン、頼んだぜ。風の森のエルフとあれば、早々無下にされることはない。お前の顔で不問に付されることだってあるはずだ」
「まあ、いいでしょう。ガスパールでは楽しめましたから」
「あんたは馬毛亭で酒ばっかり飲んでたじゃないっすか」
「むむっ、それは耳が痛い」
ルチアのツッコミに皆が笑い声を上げた。
緊張した空気が少し緩んだ気がする。
気休めでもいいから、場が和むのはありがたかった。
「あと、馬車の人員配置はこんな感じでどうだ」
ウィニーはテーブルの上に二つの馬車とそれぞれの名前が書き分けられたものを置いた。
馬車A:エリーとウィニー クラウス、ルチア、サリオン
馬車B:ミレーナ カイト
ガスパール王国からアルカベルクまでの配置から、内川とクラウスが入れ替わったかたちだった。
やはり、重要な二人を離すことはしないみたいだ。
「ウィニコット、妻と別れを済ませておきたい。この先はどんな危険があるか分かりませんから」
「もちろんだ。おれたちは馬車の準備をしておく」
「ありがとう」
クラウスは席を外して、ダニエラに会いに行った。
深紅の旅団の面々も立ち上がり、これから出発に向けた準備をするようだ。
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